「河野官房長官談話」のその文章を読み直す (1)

 今日は、いわゆる「河野談話」と呼ばれるモノを取り上げたいと思います。
 
 まず先に言っておくコトがあります。
 今回の内容は、完全に「文章を日本語として読む」という部分だけに特化した内容です。
 つまり、河野談話が発表された背景とか、それを受け取った人がどう解釈しどう広めたのか、また河野洋平官房長官や河野洋平衆議院議員はどういう考えのもとにこの内容を考えたのか、こういう視点は今回は一切排除します。
 今回やっているコトは、昔人権擁護法案の法案文を解釈した時のような、かなり文章をしつこく咀嚼した上での解釈を行っています。
 もし「その解釈は拡大解釈過ぎる」とかありましたら、ぜひご指摘頂ければと思います。
 
 最近注目をされている河野談話ですが、ハッキリ言いまして、この全文をキチンと読んで中身をシッカリ理解して主張や批判している人っていうのは、けっこう少ないんじゃないでしょうか。
 「河野談話」って、わりとイメージだけが先行しているような気がしてなりません。
 でもこの談話はあくまで「官房長官談話」であり、それは「日本政府の公式見解」であって、日本国民代表の政府の公式見解であるワケですから、それを評価するためにはまずは中身をシッカリと理解してからでなければならないハズなのです。
 というかこんなコトは政府見解に限らないお話ですよね。
 やもすれば政治家の言葉というモノは切り取られたりトリミングされて拡散され、イメージだけで語られるコトが大きく、またそれが許されるような風潮がありますけど、それは本来は間違った風潮であるというコトは主権者たる国民として自覚してほしいなぁと思っています。
 
 というワケで、今日は、文章として日本語として、常識的にそれを読解したらどういう内容になるか、この視点に絞って「河野官房長官談話」を見てみたいと思います。
 まずは全文の引用です。
 外務省のサイトに載せられています
 

 慰安婦関係調査結果発表に関する
 河野内閣官房長官談話 平成5年8月4日

 いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。
 
 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。
 
 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。
 
 いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。
 
 われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。
 
 なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。

 
 前から順番にひとつひとつ丁寧に文章を見てみます。
 まず第一段落からです。
 

 いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。

 
 特にここは改めて述べる部分はないですね。
 普通に日本語を読めば、解釈が人によって変わるような気配もありません。
 政府が調査をまとめたのでそれを発表する、という意味ですね。
 
 
 では次に第二段落です。
 この「河野談話問題」においては、おそらくここが一番のメインとなる部分だと思われます。
 

 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。—1
 慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。—2
 慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。—3
 また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。—4

 
 分かりやすいように一センテンスごとに改行し、行番号を付けさせて頂きました。
 まず1センテンス目です。
 「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた」ですが、ここも文章としては特に解釈が変わるような部分もなく、そして普通に冷静に考えれば、これは否定出来ない事実でしょう。
 つまり第二次世界大戦中という結構長い期間にわたり、日本軍が活動する範囲内において「慰安所」と呼ばれる存在の施設が設置されていたというコトは紛れもない事実です。
 おそらくここを否定する人はいません。
 
 念のために言っておきますが、「慰安所は外国にもあっただろ」などという意見はこの文章を解釈する上では一切関係ないコトです。
 まずは文章を素直に解釈するコトが今回の趣旨であり、つまり「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され」という日本語はどういう意味なのか、そしてその結果としてそれが事実かどうか、というコトを考えて判断するのが今回の趣旨です。
 日本だけがとか外国が、という問題はこの文章の中に外国という概念が存在しない以上は、日本語を解釈するっていう部分において無意味です。
 そしてそう考えれば、ここは「日本の中に慰安所が設置された」というコトを言っている日本語だと解釈する他なく、そしてそれは事実だと認めるのが妥当だと考えられるワケです。
 
 ですから、「数多くの慰安婦が存在したことが認められた」も、これも事実でしょう。
 ここの部分の文章は、単に「慰安婦と呼ばれる人々が存在した」という文章となり、当時から存在していた「慰安婦」という単語において、これに該当する人々は、確かに当時存在していました。
 ここも事実だと認めるのが妥当でしょう。
 
 2センテンス目です。
 「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり」ですが、まずは文章を正確に分析してみましょう。
 ここでの主語は「慰安所」です。
 人間に対する呼称である「慰安婦」ではありません。
 「所」です。
 
 また注目すべき単語として、「軍当局」「要請」「設営」という3つがあります。
 まず「軍当局」ですが、これはいわゆる「旧日本軍」のコトですが、こう文章として明記する場合のその動きは「軍の正式な行動」と解釈するのが日本語として妥当です。
 例えば「河野談話」とは日本政府の官房長官という役職において発表されたモノであり、これは「日本政府としての行動」なワケですが、一方いま河野洋平さんが後援会などでしゃべっているという行動は、これは「個人河野洋平の行動」ですから「政府の動き」ではありません。
 つまりこの例で言えば前者は「政府当局」という主語でくくられる文章となり、後者の場合で「政府当局」と言ってしまうのは日本語として間違いというコトになります。
 すなわち「軍当局の要請」という言葉の意味は、日本軍としての公式な正式な要請であり、決してその場にいた軍人の思いつきの要請ではなく、そして軍とは国家組織の一部であり、これを「日本としての正式な行動」と読むコトも出来ます。
 よってここの文章とは、「日本政府が認める軍当局が要請して、慰安所を設営した」という文章になります。
 
 ここでもう一つの注意すべきところは、「設営」という単語です。
 念のため国語辞書で意味を調べておきましょう
 

 せつ‐えい【設営】
 [名](スル)施設・建物・会場などを前もって設備し、準備すること。「ベースキャンプを―する」

 
 設営という語幹から運営も含まれるのかと思ったら、この説明を読めば、含まれないと解釈するのが妥当ですね。
 しかも「前もって」という条件付きですから、ここは「建物の建設の依頼」と解釈するのが妥当ではないのでしょうか。
 国語辞書を読んでも、基本的には「設営」とはハコモノに対する単語のようですし。
 つまり、軍当局が正式に慰安所に対してなんらかの要請をしたっていうところまではハッキリ言っているワケですが、しかしそれはあくまで「設営の依頼」なんですよね、「軍は慰安所となるべく建物・ハコモノの設置だけを要請したに過ぎない」という解釈が一番自然と言えるでしょう。。
 
 なお、軍が要請した先についてその単語が明記されていませんが、これは常識的に考えれば「業者」でしょう。
 少なくとも「日本軍機関」ではありません、この場合は要請ではなく命令になりますから。
 となれば、かなりの確度で「民間業者」となるのでしょう。
 
 次に「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」です。
 ここで「慰安所の設置、管理」と明確に出てきますので、少なくともハコモノである慰安所の設置については、旧日本軍が直接関与したモノ(場所)もある、と解釈するコトが出来ます。
 また「管理」という言葉も出てきています。
 管理も解釈の幅が広い言葉ではありますが、意味をキチンと考えるなら、この言葉は「一段高い位置から見た目線の言葉」と言えるでしょう。
 管理下に置く、という言葉がありますように、実際の運営はその人に任せたとしても、その一段上からのチェックや審査などをするコトを「管理」と言います。
 まして戦場であれば軍としても不安定要素は出来るだけ排除しなければなりませんし、そもそも慰安婦や各種業者は民間人であるワケですから、当然かなりの部分を軍が「管理」する必要があるでしょう。
 敵は民間人であっても攻撃してくるワケですからね。
 そして軍としては慰安所が慰安所として機能するのが目的であって、その最低限の機能を守るためにはどうしてもある程度の管理は必要なコトでしょう。
 よってここで出てくる「管理」は、あくまで一段上からの管理であって、例えば「運営」とかそういうレベルのコトを指し示しているとは言えないと解釈するのが自然でしょう。
 日本語の言葉としても、管理と運営はかなり意味合いが違う単語です。
 それこそ日本軍が直営で、つまり「軍営慰安所」「官営慰安所」というモノがあったとするならば、そのまま「軍が運営していた慰安所があった」と表現すべきでしょう。
 しかし管理という言葉でここまでを指し示すのは日本語としては難しいです。
 つまり「慰安所の設置、管理は、旧日本軍が関与した」と言う場合は、「慰安所機能の保持に努めた」という意味だと解釈するのが自然だと考えます。
 
 そして「慰安婦の移送」ですが、これは読んだままですね。
 戦争中で、しかも兵士が直接出向くようなところに慰安所を建てる以上は、民間人たる慰安婦の移送についてある程度軍が関与するのは当然のコトでしょう。
 従軍カメラマンみたいなもんです。
 軍人ではないとは言え、いえ軍人出ないからこそ、その時刻の民間人の身は軍隊の責務として守らなければなりません。
 ですから民間人とは言え戦場に出る以上は、移動その他のある程度の部分については軍の管理下に置かれるのは当然かと思います。
 慰安婦の移送に軍が関与したというのは、当たり前と言えば当たり前のコトだと言えます。
 
 ここで気をつけるべき点は、「軍が直接関与したモノもある」としているその主語は「慰安所の設置」「慰安所の管理」「慰安婦の移送」の3点だけだ、というコトです。
 ここのセンテンスについて、これ以外の範囲については言及していません。
 そしてこれは事実から遠くない出来事だったかと思います。
 軍の近くに慰安所があるのが軍事の基本であればあるほど、間接的にせよ直接的にせよ、なんらかの形で慰安所や慰安婦を「戦火から守る」というコトも行わなければならないというのは、ちょっと考えれば分かるコトです。
 よってこの文章は、この3点のみにおける政府による事実の認定であり、それは歴史的事実としても大きく間違ってはいないと言えるでしょう。
 
 
(つづく)