日本の「制裁」

 昨日、いまの日本にとっての対ロシア政策は大変に繊細で難しい問題ですと言ったのですが、なんというか安倍内閣ってこの辺のバランス感覚がすごく優れているなぁと、それは安倍さん本人の手腕なのか岸田外相の手腕なのか分かりませんが、対ロシアへの「制裁」の中身を見てしみじみ思いました。
 日本の対ロシアへの制裁の中身はこれです。
 

 外相が談話、対ロシア制裁発表 クリミア住民投票受け
 
 岸田文雄外相は18日の閣議後の記者会見で、ウクライナからの分離・独立を決めたクリミアをロシアが承認したことを受け、対ロ制裁措置を盛り込んだ外相談話を発表した。
 ロシアとの間で査証(ビザ)発給緩和に向けた協議を停止する。
 新たな投資協定と宇宙協定、危険な軍事活動の防止に関する協定の締結交渉開始も凍結する。

 
 なにがすごいって、「ビザの発行」を停止なのではなく、「緩和に向けた協議」を停止するというところです。
 つまり「これから緩和に向けて話し合いましょうね」としていたモノを、一旦停止にするっていうだけであって、実際に緩和されていたモノをナシにするワケでも、ましてビザ自体を停止するワケでもないのです。
 よって実質的には対ロシアに対しては何も制裁になっていないんですね。
 だって言ってみれば「現状維持」なのですから。
 これって全然制裁になってないですよね。
 
 昨日言いましたように、日本は日本独自だけで動けるワケではありません。
 様々な要因から制約が加わり、例えば安倍さんや岸田さんの個人的思惑だけで外交を動かせるワケでは決してないワケです。
 そういう中で、ロシアとの関係を保ちつつ、欧米ともある程度歩調を合わせるとしたこの「バランス感覚」は、賞賛に値するとすら言えるのではないのでしょうか。
 第一手としてはこれ以上ない微妙で繊細な「制裁」だと思います。
 
 先日言い忘れていたコトがあるのですが、ひとつこれは「領土問題」として考えてもらいたいコトがあります。
 今回クリミアは独自に住民投票を行い、これをもってロシア編入の正当性を訴えていますが、しかしこれ法的にどうなのかというところは、極めて冷静に法的視点を持って考える必要があります。
 言ってみれば、「住民投票すれば全ての法を超えられるのか」という問題をはらんでいるワケです。
 やえもさすがに全ての国の憲法を網羅しているワケではありませんが、しかし憲法内に「住民投票の結果によっては独立できる/他国に編入出来る」なんて規定を入れている国なんてちょっと考えられないワケですよ。
 つまりウクライナ憲法や法律でもそんな規定はないハズですから、よっていくら住民投票をしても、それが正当性を担保するコトにはならないってコトは、繰り返しますが極めて冷静に法的視点をもって考えなければなりません。
 
 これは対岸の火事では済まないからです。
 国際社会が憲法を超えて住民投票だけで独立などを許してしまえば、では別の国で同様のコトがあった場合、日本で同様のコトがあった場合、それを否定出来なくなってしまいます。
 日本国民には居住の自由がありますから、日本から出て行き他国人になる権利は有していますから、ロシア人になりたければロシアに行って国籍を取ればいいワケです。
 しかしその土地自体は、いくら私有地でも他国に売り払う権利なんて国民にはないワケですから、土地ごと編入する権利は個人にはないワケです。
 しかしクリミアはこれをやってしまっているんですね。
 クリミア人がロシアに移入するっていうのなら欧米も止めようがないとは思いますが、土地ごと編入というのは認められるお話ではないんですよ。
 もし仮にその国の憲法にそういう規定があるなら別ですが、そうでないのであれば国債法秩序の観点から、いくら住民投票があったとしても認められるお話ではありません。
 ここはキチンと考えるべき点です。
 
 そもそも国家が簡単に独立や編入を認めたら大変なコトになってしまうでしょう。
 日本は島国で平和ですからなんとなく感覚が分からない人も多いと思いますが、独立運動の火種を抱えている国は少なくありません。
 イギリスでさえ独立運動問題というモノはあるワケで、こういう国からしたら、今回のクリミアの騒動は決して対岸の火事ではないワケです。
 さっきも言いましたが、これを簡単に許していては、自分の国の火種まで炎上してしまいかねないのです。
 先日言いましたように、歴史的な事実を積み上げて外から見てロシアの理があるとかEUがどうだとか言う人もいますが、それとはまた別の観点として、こういう「国家としての理屈」も考えなければなりません。
 ですから、こういうコトも含めて、やえは今回の騒動は、極めて日本の国益のみを考えた行動を取るべきだと主張しているのです。
 決して同情などの感情で動くべきではありません。
 
 岸田外務大臣も、追加の制裁もあり得ると発表しています。
 それはそうでしょう、これらの事情を鑑みて、ますます事態が悪化すれば、段階的に制裁の中身を強くしていく必要が、それは日本のためにもあるでしょう。
 ただロシアとの関係も重要です。
 結局これは大変に繊細な綱渡りが必要な作業になるのは間違いないワケですから、ぜひ安倍さんや岸田さんにおいては、これからも絶妙なバランス感覚で対応して欲しいと願うところです。