相撲最強論

 
 プロレスファンの多くが、プロレスこそが最強の格闘技だ、と思っている。
 だから、プロレスラーが他の格闘技の選手と試合をして負けようものならば、ものすごい批判が飛び交うことになる。
 最近はそのような傾向が小さくなりつつあるのだが、一昔前のPRIDE(*)の高田延彦など、マスコミやファンからボコボコに罵倒されたものだ。
 もちろんプロレスラーにも、プロレスこそが最強の格闘技だ、という自負とプライドがある。
 だからこそ負けたときマスコミやファンはものすごい批判をするし、レスラーもそれを甘んじて受けるのである。
 プロレスラーは他の格闘家と試合をするときは、それらを背負うのが宿命であり、さらにそれを力とするのである。
 ファンもレスラーも己の立場を理解しているからこその相互作用であり、他のスポーツの批判と違い、ファンからの一方通行、プロ側の逃げの一辺倒、とは違うのである。
 この辺でもプロレスがいかに素晴らしいスポーツかということが分かる。
 
 ところで、冒頭にも書いたがプロレスファンはプロレスが最強と思っている人が多い。
 しかし、実はオレはそう思っていないのである。
 プロレスファンは完成する、とかオレ自身もそう自負しているし、ここまでプロレス賛美一辺倒のオレがこんなこというと、他の完成されたプロレスファンに怒られそうだが、ごめんね(笑)
 但し先に断っておくが、プロレスが弱いと言っているのではない。
 プロレス以上に圧倒的な格闘技が存在していたから、それは認めないといけないと思っただけで、その格闘技を除けばプロレスは最強だとオレは思っている。
 ではその最強の格闘技は何かといえば「相撲」である。
 はっきり言って相撲・力士は強い。
 どこが強いかと言えば、もうパワーが圧倒的である。
 相撲以上のパワーがある格闘技は存在しない。
 もちろんプロレスラーだって力士のパワーだけには圧倒的にかなわない。
 よく力士は脂肪ばかりだと思っている人がいるがそれは誤りで、あの脂肪の下には信じられないほどの筋肉が締まっているのである。
 そしてあの脂肪も格闘技に欠かせない。
 筋肉だけだと打撃を“受ける”ことは出来るが“吸収”することはできない。
 そう、力士はまず脂肪でダメージを吸収し、吸収しきれなかったダメージを脂肪の下にある筋肉で受けているのである。
 防御力も最強。
 先にも言ったがパワーも最強。
 相撲はいわゆる「グーパンチ」は禁じ手だが、張り手だけで相当の衝撃がある。
 もしあのパワーでグーパンチをしたらどんなに恐ろしいことか。
 某番組で力士のパンチ力を測定していたが、張り手で300Kgぐらい出していた。
 しかし力士の真の武器は張り手ではない。
 力士の真の武器は「ぶちかまし」である。
 ぶちかましとは、相撲の立ち会いの時に頭を低く下げ全身を使って頭から突進していくやつである。
 相撲を見たことある人は分かると思うが、立ち会いで両者ぶちかまし同士が当たり合うと、テレビを通して“ゴツッ”という鈍い音が聞こえてくる。
 同じ番組でぶちかましの測定もしていたが、なんと1t(1000Kg)というとんでもない数値が出た。
 もちろんこれは試合での数値ではないし、計測器がパンチ用の高さなので、本当ならもっと高い数値が出るものと思われる。
 さらに、ぶちかまし同士がぶつかり合うと単純計算倍になるので、瞬間の衝撃力は2tにもなるのだ。
 それを受けてなお相撲をとり続ける力士のパワーとタフさ。
 こんな強烈な格闘技は他にはない。
 
 もちろん弱点もある。
 簡単に予想できるが、力士にはスタミナがない。
 5分のラウンド制にしても、ほとんど持たないだろう。
 この辺が相撲を最強だと思わない人が多い理由にもなっているだろう。
 また、力士からプロレスラーになった人もいるので、そう思わない人間がいるのだろう。
 しかしそれは違うのである。
 まず、力士からプロレスラーになった時のことなのだが、これはもう力士ではなくプロレスラーになるので話が全く変わってくる。
 プロレスは連日に及ぶ興行をしなければならないし、まずプロレスは試合を魅せなければならないので、力士のままではプロレスは出来ないのである。
 つまり力士がそのまま異種格闘技する場合、プロレス的面白さがさっぱり無くなってしまうのである。
 
 次に、スタミナの点だが、これは戦い方によるのである。
 スタミナが無ければ短期決戦、というのは常套手段だが、力士はそのまま相撲の戦い方をすればいいのである。
 ゴングが鳴ってから、相手に対しての間合いを徐々に詰めていき、出来ればコーナーに詰めて、自分の間合いを取ったら仕切ってぶちかますのだ。
 もしかしたら逃げられるかもしれないが、それでもいい。
 相手は逃げるのが精一杯(もちろんそれぐらいの間合いの取り方が大切)で、また力士は同じように間合いを詰めていけばいいのである。
 ぶちかましている時の力士は最強である。
 少々蹴られたところで相手の足が折れるだけである。
 頭から突進するのだから顔面には入らないし、もちろん頭が一番の武器だ。
 ぶちかましが決まればほぼそれで終わりだ。
 本当にその一撃で決まる可能性も十分あるし、そうできなけばそのまま相手の上に被さり潰す。
 何もしなくてもそれだけでかなりのダメージを受けることになるだろうし、それからの攻撃も相手がガードしようがなんだろうが、顔面に向かって張り手をすればいい。
 ガードしている腕ごとダメージが吸収できずに後は時間の問題である。
 力士はこれだけだ。これが最強。
 相手は3分も持つまい。
 
 PRIDEは頭突きが反則だったかな?
 それなら諸手付き(両手での突っ張り)でぶちかませばいいだろう。
 まぁあまり変わりはない。
 ただし、はっきりいって危険である。
 下手したら鍛え上げた格闘家でも死んでしまうかもしれない。
 だからほとんど相撲は禁じ手なのだろう。絶対に力士のまま他の格闘技に出ることは無い。
 長い歴史を持つ相撲協会も歴史の中で無意識ながらそういうことが分かっているのかもしれない。
 一度でいいから力士の異種格闘技を見てみたいが、果たせない夢であろう。
 また、あったとしても多分一度きりになるだろう。
 圧倒的強さの上に相手は再起不能になるかもしれないし、衝撃だけ残って面白いかどうかも疑問に残るであろう。
 色んな意味で「幻の最強格闘技相撲」なのである。
 
(*)リアルファイトの最強を追求する日本の総合格闘技の場


2000/06/20