国家の“関与”とは?

 コメントいただきました。
 ありがとーございまーす。
 

 いつもブログ拝見させていただいてます。
 慰安婦問題の話題が出たついでに相談させていただいてもよろしいでしょうか?
 
 先日、慰安婦問題で吉見教授の語る「日本の慰安婦制度は特異」という点について、それを強く主張される方と議論(というよりは罵り合いでしたが…)になったのですが、その議論の中での相手の主張は、最終的に「ドイツの慰安システムに国家(ナチ)は関与していない。日本は国家が関与している」というものでした。
 私は「ドイツの慰安システムはナチの犯罪」と特に根拠もなく妄信してたために、「ドイツの慰安システムにナチが関与したという明確な証拠」の提示を求められても、それを提出することができず、議論は「私の勉強不足」という形で終わりました。
 私は、過去の吉見教授の「日本は特異」を支持する側も「ドイツの慰安システムは国家管理型」の前提でそれを主張していると思い込んでいたので、「日本は特異」の文脈が「ドイツは国家管理型ではない軍の勝手にやったこと、日本は国家管理型」だったとは思いもよらず、でも言われてみれば確かに私は「ナチの犯罪」を前提知識として、特に調べたことがなかったのは事実でした。
 一応、強制収容所内慰安所を考案したヒムラーが内務大臣だったことを挙げて国家の関与を証明しようとしましたが、「強制収容所内慰安所は軍の施設としての慰安所ではない」と言われました。これまた私は特に根拠もなく「日本の慰安問題の対比として挙げられるドイツの慰安問題はドイツの慰安システムの全て」として捉えてたため、「強制収容所内慰安所は別問題」についても反論する言葉がありませんでした。
 いざ議論を終えて勉強してみようと思いましたが、自分がそうであったよう「軍のやらかしたこと=ナチの命令」を前提とした記述しか見当たらず、慰安システム問題に限って軍が国家(ナチ)関与を離れて独自に動いていた資料を探そうにも、ドイツ自体が慰安婦問題を大きく取り扱ってこなかったこともあって、どこから手をつければいいのか検討もつかず、困っています。
 
 慰安婦問題にくわしいやえさんに、勉強のための何かアドバイスでもいただければ、と思い相談させていただきました。

 
 はい。
 いや、別に従軍慰安婦問題にそんなに詳しいワケではないのですが(笑)、でもやえに答えられる範囲でお答え致します。
 結局この問題というのは、国家の“関与”というモノをどう捉えるのかってお話になります。
 もしかしたらやえもここのところを曖昧なままに使っていたかもしれませんが、例えば昔の日本軍だって、慰安婦制度を「国営」として運営していたかどうかっていうのは、ちょっと疑問が残るところです。
 例の吉見教授という詐話師が出してきた「日本軍が関与した証拠だ」とか言ってきた文書は、実は「民間会社が慰安婦を集める際に暴力的な行為を行っている業者がいるという報告があるので違法行為の業者はキチンと取り締まるように」という、そういう内容に通達文書でした。
 ではこれをもって「国営」と果たして言えるでしょうか。
 
 もしこれをもって「国営」なんて言ってしまうと、現在の日本の全ての企業ですら「国営」になってしまうコトでしょう。
 どんな業種だって、なんらかの行政機関や法律からの規制や関与を受けています。
 例えば飲食業も、キチンとした免許がなければ店舗は構えられないワケで、これを無許可で始めていたら当然行政からの取り締りが行われるコトでしょう。
 もしある地域で無許可店舗が横行していようモノなら、厚労省か消費者庁あたりが「違法行為の業者はキチンと取り締まるように」と通達を出すコトもあり得るでしょう。
 しかしこれをもって「じゃあ飲食業は全て国営企業だ」なんて言いますか?
 もし本当に真顔でそんなコトを言われても、あまりにもバカバカしい論法としか言いようがないでしょう。
 
 この辺は以前にもお話ししましたように、「従軍記者」と同じように考えればわかりやすいと思います。
 従軍記者は決して軍が強制的に記者を拉致して連れてきて記事を書かせているワケではないワケで、記者は軍から独立した存在であって、この両者は別組織の人間です。
 その上で両者の利益が一致する部分があるからこそ、軍は記者の従軍を許し、記者は同行して記事を書いたり写真を撮ったりしているワケで、それぞれがそれぞれの利益のために動いているワケです。
 軍は軍の宣伝を、記者は最新の記事を書くコトによる販売部数のアップという利益です。
 それらと従軍慰安婦も同じように、軍は軍で慰安婦を必要とし、慰安婦は慰安婦でお金のために働いたワケで、両者の思惑が一致したからこその「従軍」なのです。
 それなのに思惑が一致しただけをもって「国営」と言ってしまうのは完全に間違いですよね。
 
 また例えばひとこと「軍の管理下」とか「軍施設の中」と言っても、例えば現在だって役所の中に民間企業が入っているコトなんて珍しいコトでもなんでもなく、先日も衆議院の中に吉野家が出店するなんてニュースが報道されていましたが、ではこれをもって「吉野家が国営企業になった」と言いますかってお話なんです。
 全然違いますよね。
 もちろん役所の中に出店する以上は役所が定める様々な規制を受けなければならないのでしょうけど、その規制を受けるコトと国営企業になるコトとは全く別次元のお話です。
 沖縄の米軍基地にも日本人がいっぱい働いていますが、これらの人達は全員「米軍職員」なのでしょうか。
 違いますよね。 
 まずここはキチンと思考的にハッキリとさせておくべきポイントです。
 
 まして当時の新聞に、「中国人に売り飛ばした朝鮮人の人身売買組織が日本政府によって検挙されたことを報じる1933年6月30日付東亜日報」や、「朝鮮半島で跋扈していた悪徳業者によって100名を超える婦女子が売り飛ばされた事件の捜査を報じる1939年8月31日付東亜日報」という記事も残っているワケで、仮にこれをもって「国営だ」なんて言いだしたら、現代の犯罪者全てすら国営企業になってしまいます。
 バカらしいと思いませんか。
 逆に言えば、これらは当時の法に則って、それに違反するような行為=強制的に婦女子が売り飛ばされるような行為は日本の警察によって逮捕され、日本の司法によって裁かれていたという証拠であるワケです。
 
 やえはドイツの慰安婦制度を詳しく調べたワケではありませんから、具体的にどういうレベルの慰安婦制度がドイツにあったのか、どこまで軍や政府が関与していたのか、国営レベルなのか衛生管理指導レベルなのかは分かりません。
 ただ、ウィキペディアによりますとドイツ軍でも慰安婦制度自体はあったようですから、よくよく調べればどういうレベルかが分かってくるかもしれません。
 そして仮にドイツ軍の慰安婦制度が“国営”でなくても、日本と同じような感じで“関与”はあったというのは間違いないでしょう。
 ソース先までは調べていませんが(もしソース先がウソデタラメだった場合はごめんなさい)ソース付きで
 

 ドイツ政府は、軍人の健康を守るために、街娼を禁止し、売春宿 (Bordell) は警察の管理下におかれ、衛生上の監督をうけ、さらに1940年7月にはブラウヒッチュ陸軍総司令官は、性病予防のためにドイツ兵士のための売春宿を指定し、それ以外の売春宿の利用を禁止した

 
 とあるのですから、少なくとも日本軍と同じレベルの“関与”はあったと考えるのが自然だとやえは思います。
 でもこれをもって「ドイツ国営慰安婦がいた」と言うには無理があるソースとも言えるでしょう。
 「慰安婦制度はドイツでも合法で軍隊にとっても必要だった、しかし無制限に野放しにしていると様々な面で不具合が出るので、政府や軍で一定のルールを作って統制していた」
 こういうところでしょう。
 そしてこのレベルであれば、日本と全く変わらないと言えるでしょう。
 
 この“関与”をどう評価するかというのは人それぞれだとは思います。
 中には身体を売るっていう女が存在するコト自体を否定したがる人もいるようですから、そういう人にとっては正視したくないお話かもしれません。
 ただし、そういう過去のコトを現代の常識で裁いてはいけません。
 それは事後法という重大な罪です。
 こんなコトをやっていては、ではいま正しいと思われている合法と思われているコトも、未来にとっては悪の行為と認定されて断罪されてしまうかもしれません。
 それはあまりにも理不尽でしょう。
 そんな「過去に唾を吐いて現在の自分を正当化しようとする行為」というのは、人間的に醜い行為だと断じざるを得ません。
 
 というワケで、お答えになっているかどうかアレですが、少なくとも「ドイツの慰安システムに国家(ナチ)は関与していない。日本は国家が関与している」というのは間違いでしょう。
 ドイツ軍も「なんらかの関与」はあったのです。
 ただしそれは、慰安婦を強制的に連れてきたという意味ではありませんし、国営で慰安所を運営していたという意味でもありません。
 そしてそれは日本もドイツもです。
 もっと言えば、詐話師の吉見教授はいまのところ「国家の関与」という部分についても「違法行為をやめさせるようにした」というモノしか出していないワケで、この程度の証拠では、日本語の問題として国営を想像するような「国家管理型」と表現するのはあまりにも不適切だと言わざるを得ません。
 確かに管理と言えば管理ですが、このような表現を敢えてするから、詐話師と言わざるを得ないのです。
 繰り返しますが、もしこれを「国家管理型」と言うのであれば、いまの日本の私企業全ても「国家管理型企業」と呼ぶしかなくなってしまうでしょう。
 しかしそれは日本語感覚的には不自然と言わざるを得ません。
 こういう言い方を敢えてして、ギリギリのところで逃げ道を作っているから詐話師なのです。
 むしろ慰安婦という存在に対して、軍隊という極限の精神状態になってしまう場所に赴く組織が何ら一切の関与もせず野放しにしているという方が無責任だと言えるでしょう。
 「軍の関与」は当然のコトだと思います。
 
 そしてやえはこれらの事実をもって、それを悪だと断じるのは醜い行為だと思います。
 国家管理型であったとしても国営であったとしても、それは悪ではありません。
 強制連行があれば別ですが、当時の常識をもってすれば、慰安婦制度も侵略も、例え奴隷制度だったとしても合法だった時代は合法だったワケで、多くの国で行われていたコトなのですからね。
 それを別の時代の常識で裁くという行為の方がよっぽど悪なのですから。