安倍後の自民党は岸田安定政権へ

2022年7月28日

 本人達はまさに命がけで取り組んでいらっしゃるのでしょうけど、一歩引いたところから見れば政局っていうのもは面白いモノでして、やえも結構好きな方ですから、今日は政策ではなく今後の自民党政局について書いてみようと思います。
 むしろ命がけで戦っているからこそ面白いと言えるんでしょうね、戦国時代とか幕末と同じで。
 そんな無関係だからこそ楽しめる政局を、でも本気で分析して、解説してみたいと思います。

 右も左もイッてよし!
 バーチャルネット思想アイドルのやえです。
 おはろーございます。

 さて。
 これからマスコミは、安倍後のシナリオをこう「書いていく」と思われます。

 「党内の保守派を抑えていた安倍元総理が倒れたことで、岸田政権のバランスが崩れた。岸田総理は清和会をはじめとする保守派を抑えることができなくなり、政権は不安定になっていく」

 浅い論です。
 もっと言えば、結論を先に決め、後から理由を取って付けた論です。
 何が浅いか。
 色々ありますが、象徴的なのが「保守派」もしくは「清和会」の影響力です。

 バラバラになった清和会には、もはや岸田総理に対峙する力はありません。

 いま、清和政策研究会、いわゆる清和会(安倍派)は分裂の危機です、というか、実質分裂しています
 7人もの議員が寄り集まらないとバランスが取れないというのは、94人の規模の組織としてはかなり危機ですよね。
 なにしろ仮に単純に7等分したら、1人の頭には13人くらいの議員しかいないことになってしまい、この20人に満たないというコトは、自民党の総裁選の推薦人(20人)すら集められないという数字です。
 この数字は自民党内において、かなり「弱い」と言わざるを得ません。

 なぜこれで岸田政権が不安定化するのか、普通に理屈が立ちません。

 政治は「格」がモノを言う世界でもあります。
 一回生議員が吠えもあまり相手にされませんが、安倍総理が言えば影響は大きいワケ、もちろんその背景には自分に付く議員の人数や、政治経験など様々なものがありますが、では下村議員が言ったら、西村議員が言ったら、高市議員が言ったら、いま何が起こるというのでしょうか。

 マスコミが取り上げますので記事にはなりますが、議員の中でも影響力はほぼないでしょう。
 なにしろ、下村・西村議員に付いて行くっていう議員は多く見積もっても13人以下(実際は一桁ぐらいかと思われます)、高市議員に至っては無派閥です。
 この3人では、数を背景とした説得力を産むコトができません。

 また政治経験も岸田総理クラスには遠く及びません。
 派閥の領袖は、それだけの議員数をまとめてトップを張っているワケで、それ自体が議員の中で大きな説得力を産んでいるワケですが、下村・西村議員は全くそれが出来ていないコトが現在進行形で露呈していますし、高市議員はむしろ自己都合で派閥を抜けた経緯があるので、議員の中におけるリーダー評という意味においては全く評価されません。
 また、高市議員は自民党4役をいま経験していますが、財務・外務大臣や官房長官クラスは経験しておらず、他の二人に至ってはさらに役職経験が不足しています。

 総理大臣麻生太郎、幹事長二階俊博、そして総理大臣安倍晋三と、外務大臣・政調会長(共に戦後最長)岸田文雄。
 安倍政権下ではこれらの豊富な政治経験を持つ派閥領袖が、自らの派閥の数をバックにしのぎを削って権力闘争をしていた、その経験と実績と「格」の中にあって、いま清和会に残されたプレイヤーはあまりも迫力不足で、格不足です。
 常に一派閥だけでは政権を取るコトのできない自民党のパワーバランスの中にあって、自らの足下すら固められない議員を、どうして別派閥の議員が担ごうと思うでしょうか。
 いまの清和会所属議員は、全員明らかに「格」が不足しています。

 また「格」以外でも岸田内閣が安定するであろう要因はあります。
 岸田総理は清和会の中にも親岸田グループを形成しており、これらを積み上げれば、単純な足し算だけでも親岸田グループは最大派閥になると思われます。

 清和会の中だけを見ても、松野長官や福田総務会長などいわゆる福田系が親岸田派の中心で、福田系のその他にも、例えば森総理も岸田総理が総理大臣になる前から協力的だったと言われています。
 清和会は元々「岸(信介)系」と「福田(赳夫)系」に分かれていて、どちらかと言えばその福田系は親岸田派の傾向が強いようで、この他にも多くの福田系が親岸田派だと思われます。
 そもそも前の総裁選においては、安倍総理に近い人は高市議員を応援しましたが、福田系は岸田総理を応援して、その勝利に大きく貢献しました。
 このように岸田政権発足時から、すでに清和会の中にも親岸田派は少なくなかったワケです。

 一方、清和会の中で岸田総理から距離を取ろうとするグループも、いることはいます。
 下村議員や西村議員の「自分が総裁選に出たい派」です。
 また、特に岸田総理と近しいワケでもないけど、下村・西村議員を担ぎたいワケでもないという中間派も存在します。
 ただしこれは綺麗に3分割できるモノではありませんし、さらに言えば、おそらく中間派は岸田総理に近づくのではないかと予想されます。
 なぜなら、小選挙区制における政権執行部の強さは、それは安倍総理本人が見せつけてきたワケですから、その足下の清和会の議員こそが現総理の力を一番よく分かっているからです。
 今までは安倍総理の下に集っていた中間派も、バラバラな自派閥を目の当たりにしたとき、現政権に表立って半旗を翻すのは、明らかに悪手ですよね。
 このように、下村議員や西村議員に近いと言われる議員数を勘案しても、清和会の中で岸田総理と露骨に距離を取ろうとするグループは、人数としてはかなり少ないのではないかと思われます。

 複雑な事情を内在していた清和会を、今まで党内最大派閥として存在感を出していた、言い換えるなら「清和会を1枚岩」に見せることができていたのは、ひとえに安倍晋三総理の力によるモノでした。
 安倍総理がいる間は中間派も安倍総理の意向に従いますし、親岸田派だって同じ与党自民党として政権を支えている、まして安倍元総理は「岸田政権を支える」と公言していたのですから、親岸田派も岸田政権を支えつつも、やはり派閥に所属している以上は、ある程度は安倍会長の意向に従っていたワケです。
 そして「自分が出たい派」も、何度も安倍総理はそれを押さえ付けてきたというのは、これまで報道されてきた通りです。
 派内に新政権派と反政権派が存在していても、それを1つにまとめられる力が安倍総理にあったからこそ、清和会は政局の中心に存在するコトが出来ていたのです。

 言い換えるなら、安倍総理という存在は、「先鋭右派や自分が出たい派への抑え」であったと同時に、「派内親岸田派への抑え」でもあったと言えるでしょう。

 しかし、本当に残念なコトに安倍総理はこの世を去ってしまいました。
 「自分が出たい派」への抑えと同時に、「親岸田派」や「中間派」への抑えも効かなくなったコトにより、親岸田派はより親岸田に、中間派は「現体制派」になってしまい、清和会は全体としては「より親岸田色が強くなった」とすら言えます。
 安倍総理がいる時は、安倍総理一人の意向で親政権にも反政権にも転ぶコトが出来たからこそ強かったのであって、言わば「安倍総理の反逆」というジョーカーカードがあったからこそ強かったのです。
 しかし安倍総理が亡くなり、そのカードも共に消滅してしまいました。
 まして、残されたカードが全て「反岸田」であれば岸田総理は危機だったかもしれませんが、実態は逆で「親岸田派」カードの方が多い。
 こうやってよくよく見てみると、相対的に岸田総理の力はますます大きくなったと言った方が適切なのです。

 これが、安倍後の岸田政権の安定化の理由です。
 そもそもとして普通に考えて「ライバルの規模が小さくなる方がより不利になる」と言ってしまうのは、理屈として成り立たないんですよ。
 逆ですよね、普通。

 自民党内全体を見渡すと、今の主流派は『宏池会・志公会・平成研に、谷垣グループと清和会親岸田派と一部無派閥や開成閥』です。
 特に「宏池会・志公会・谷垣グループ」の大宏池会系の繋がりは強く、よほど岸田総理が下手を打たなければ結束は崩れないでしょう。
 これまでは、数から言っても格から言っても安倍総理一人でこの強固な繋がりを打破できる力を持っていましたが、それはまさに安倍晋三というパーソナルな力によるところの力であって、残念ながらいまの清和会にはこの力はありません。
 まして安倍総理がご存命の時からでも岸田総理は党内地盤を固め、衆議院選挙と参議院選挙の2つの国政選挙を勝ち抜いたという、安倍総理より前だと小泉純一郎総理までさかのぼるという偉業を成し遂げた総理大臣であるワケですから、もし安倍総理がご存命だったとしても、参議院選挙の勝利を前に岸田総理は普通に党内基盤を確立していたコトでしょう。
 その上での清和会の事実上の分裂ですから、これらを踏まえれば岸田政権はますます安定化すると考えるべきだと思うのです。

 政局の次の注目は9月に行われるとされている人事です。
 岸田総理はバランスの人なので、おそらくある程度のバランスは取ってくるのではないかと思いますが、一方岸田総理は人事は相当に巧いので、どんな手が飛び出してくるか分かりません。
 それこそ岸田政権発足当時は「安倍・麻生傀儡政権」とかマスコミは散々書き立てていましたが、時間が経つにつれて岸田総理の人事の妙にマスコミが気付き、いつの間にか傀儡政権なんて言わなくなるどころか、むしろマスコミは「岸田vs安倍」に180度シフトしていったワケです。
 評価をそこまで変えるのは「誤報」だと言うしかない、本当にマスコミっていうのはいつでも卑怯だなと思うしかないのですが、それはとにかく、このように岸田総理はこれまでと違う「人事の罠」を仕込んでくる可能性があるので、油断はできません。

 政局好きとしては、その罠を楽しみにしたいところですね。