プロレスファンは完成する

プロレスというものは、お客様第一であり、無用のリアリズムは排除して、ショー要素もある、ということは今まで説明してきた通りだ。
ということはつまりファンもそれが分かっているということである。
だから「完成されたプロレスファン」に向かって
「プロレスは八百長だ」とか「プロレスは見せ物だ」とか「プロレスはリアルファイトじゃない」
とか言っても全く怒らない。
全て当たっているからである。
八百長にしてみても、それは「八百長ではない=リアルファイト」という間違ったプロ感を持っている人間の考え方だから、たいして怒って反論することもないのだ。

オレはよく「完成された」プロレスファンという言葉を使う。
プロレスを見ている人の中にはプロレスを見始めの者もいるだろうし、そういう人間の中には「リアルファイト=プロスポーツ」という間違った考え方の人間も多い。
そのうちプロレスはリアルファイトではないと感じてプロレスを見限る者もいるが、そうでもない人間もいる。
また、単純にプロレスもリアルファイトで、勝つことが目的だと思いプロレスを見続けている人間もいる。
そういうファンはタチが悪い。
そういう輩は試合中意地汚い野次を飛ばしたり、試合に負けたからといって自宅に押し掛けたり、無礼な嫌がらせをしたりする。
本当の「完成されたファン」は、「何やってんだよお前、こんなヤツに負けんなよ」とは思っても、これからこの選手はどんな行動を取り、どんなプロセスを経て次に進むのだろうか、という楽しみ方をする。
「完成されたファン」は好きな選手が負けてもそれを楽しむことができるのだ。
一回負けたぐらいで見限るようでは本当のファンではないのだ。

また、ファンはプロレスをすることができる。
試合だけを取ってみても、一方の選手が押されているとその選手のコールが起きるし、良くやるようなシラジラしい反則でもブーイングをする。
まさにファンもプロレスというものを作っているのだ。
ファン無しではプロレスの試合というものは成立しないと言ってもいい。
だから選手も試合中にファンにアピールするし、それも大切なプレーなのである。
例えひいき選手の対戦相手だとしてもファンはコールしたりブーイングしたりするのである。
今、テレビ朝日の「スポコン」というプロレスもゴールデン時間に扱ってくれるという非常にうれしいテレビ番組があるのだが、その中で引退宣言してしまった新日本プロの橋本選手を復帰させようというコーナーがある。
そのコーナーでは、ある橋本の大ファンだという子供が復帰を願って100万羽の折り鶴を集めて橋本に送ろうというコーナーである。
オレはこれはものすごい画期的なことだと思う。
今まで引退をして復帰をするというプロレスラーはたくさんいて、最近でも長州力という一時代を築いたレスラーが復帰したのだが、その引退のストーリーも復帰までのストーリーもプロレスなのである。
今回の橋本復帰企画というのは、ファンが動いて復帰させようというのだから、つまりファンがプロレスをしているということなのだ。
さっきも言ったようにプロレスの試合部分はレスラーとファンとが作ることが普通だが、今回の企画は、多分プロレス史上初めてプロレスのストーリー部分をファンが作っているのである。
プロレスは引退も復帰もプレーの中の一つだし、何より勝った負けたがプロレスではないのだから、そんなことも分からないニワカファンなど無視して早く橋本は復帰するべきである。
そして宝くんと力くん(企画発案の子供)はまさにプロレスをしているのだ。

プロレスファンは完成する。
プロレスファンはどのスポーツファンより優れている。
プロというモノの本質を捉え、どうすれば一番楽しめるのかファンが知っているのである。
そして心の底から純粋にプロレスを信じ、愛し、楽しむのである。
2000/07/22

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