観戦記in頂上決戦2

 20分程度の休憩後、ついに「新日vs全日」三回戦だ。
 第六試合、スティーブ・ウィリアムスvsスコット・ノートン。
 最強外国人決定戦と新日vs全日の代理戦争でもある。
 これはもう迫力という一言に尽きた。
 超巨体同士の真っ向からのぶつかり合い。
 会場も一気にヒートアップ。両選手の技一つ一つに一喜一憂する、まさに好試合。
 パワーはノートンに分があるものの、技のキレとテクニックはウィリアムスに分がある。
 また、ノートンは肩を痛めていたようで、ウィリアムスはそこに集中攻撃を加える。
 鉄柵、鉄柱攻撃、そして腕ひしぎ逆十字と、殺人医師ぶりを十二分に発揮。
 会場もかなり殺気立っていた。
 ウィリアムスの逆十字に対して「折ってしまえぇぇぇぇぇ」と絶叫するファンもいた。
 いつもならこのような声援はふさわしくないところなのだが、今日だけは違う。
 このファンの試合への思い入れ方、集中度は、今までの歴史を知っているコアなファンだからこそ、今日だけは結果にこだわる。
 これほど殺気立ち、ファンを完全に魅了した大会はもう無いだろう。
 ウィリアムスはトペ(場外ダイブ)まで敢行し、全日を守るという気迫の部分でウィリアムスの方が勝っていた。
 ウィリアムスはノートンのラリアットも何発か食らったが、最後は殺人バックドロップで勝利。
 両者とも精根尽きた試合だっだろうが、観客もものすごい声援だった。
 もうはっきりと会場が二分されていた。
 立ち上がり、両手を突き上げ喜ぶ全日ファンと、がっくりとうなだれる新日ファン。
 オレは外国人同士でこんなに盛り上がった試合は見たことがない。良い試合だった。

 第七試合、蝶野・Mr.Tvs渕・越中。
 結論から言うと、あまり面白くなかった。
 それはオレがリングから遠かったせいもあるだろうが、ちょっと中途半端だったような気がする。
 マシンのマスクをかぶったMr.Tも遠くからだと中に入っているのが誰なのかいまいち分からなかったし、試合もドタバタのまま終わったしまった。
 これはもう蝶野の一人勝ちだと言えるだろう。
 あくまでこれは蝶野の試合であって、「新日vs全日」とは違う試合だ、という印象が試合内容から見て取れた。
 この試合は蝶野のサイドストーリーのまだ途中という位置付けになるだろう。
 この試合はテレビで見ないと面白くない。
 蝶野も分かってやっているのだろう。まさにムービースターである。

 そして待ちに待ったメインイベント、歴史的一戦、佐々木健介vs川田利明。
 プロレスファンの長年の夢であった、全日・新日トップレスラーによる完全頂上決戦である。
 単純にどちらが強いのかそれだけを求めた、言うならばプロレス的ではあまりない試合だとも言える。
 オレも、試合内容ではなく結果に対して一喜一憂したプロレスを見たのは初めてだった。
 予想はしていたものの、川田のフォールに対しては決まれと念じ、健介のフォールには心臓がドキドキしていた。
 昔のサッカーワールドカップ予選の、いわゆる「ドーハの悲劇」より興奮していただろう。
 川田よ勝ってくれ。馬場さんと鶴田が築いた最強の遺伝子はお前に託されたのだ。
 内容も濃いものだった。
 はっきりいって健介はそんなに“良い試合”をする選手ではないのだが、見知らぬ人が電話で「健介のベストバウトだった」と言っていたように、まさにその通りの試合だった。
 あんなに会場が一体となって、技を出しては歓声と悲鳴が混じり合った声援は二度と聞くことはないだろう。
 健介のパンチにラリアットにサソリ固めにあんなに恐怖したのはオレだけでは無かっただろう。
 ラリアット合戦に会場が沸く。
 川田の方がパワーも少ないし体も小さい。分が悪い。
 会場からも「川田蹴れ」という声が挙がるが、川田はラリアットを続けた。
 ここで引くわけにはいかなかったのだろう。
 川田の両肩には全日の全てがかかっていた。
 川田は一歩も引かないまま、二回目の両者ラリアットで健介が勝ち、ラリアット合戦の幕を閉じる。
 続けざまにノードンライトボムの体制。
 ノーザンライトボムだけはさすがにやばかった。
 アレを食ったら終わりだと思った。
 健介がその体制に入ったとき、まさかという言葉が頭をよぎった。
 しかし川田は必死にこらえた。
 技が決まらないのに、体制に入るだけで一喜一憂できるのはプロレスの醍醐味だろう。
 この後川田の猛反撃、顔面キックの連発である。
 鶴田をハンセンを三沢を苦しめ沈めてきた、まさに川田の歴史である顔面キック。
 この一撃一撃が全身全霊川田の言葉だ。
 全日の全てを託した川田の右足。
 最後はラリアットを仕掛け突進してきた健介にカウンターでの顔面キックが決まる。
 這うように健介にフォールし、カウント3とゴングの音が会場に響く。
 得も言われぬ感動。
 オレは身を乗り出し、席を立ち、両手の拳を天に向け、力一杯声を出し叫び歓喜に酔いしれた。
 近くにいた見知らぬ全日ファンとハイタッチをかわす。
 全日ファンは一体となり、新日ファンは信じられない光景を目の当たりにすることになった。

 多分、もう二度と試合結果に対してこれだけ心躍る試合は見られないだろう。
 これから先、また川田は新日の選手と戦うだろうが、もちろん勝って欲しいが、必ずいつか負ける。
 次負ける可能性も十分にある。
 それは長い目で見たとき、プロレスという物語を続けていくためには必要なことであろう。
 だからこそこの一戦に川田が勝ったという事実は大きい。
 そしてこの歴史的決戦の生き証人になれたということは幸せである。
 これから全日と新日はどの方向に向かうのか分からないが、日本のプロレス界にとって一つの大きな歴史がここに幕を下ろしたと言えるだろう。
 一時代が終わったのである
2000/10/22

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