☆よく読めば分かる人権擁護法案☆
バーチャルネット思想アイドルやえ十四歳の考察・議論・自民党部会レポ〜



人権擁護法案に関する一問一答集

 人権擁護法案について、簡単に問題点と呼ばれている部分を書き出しました「一問一答集」を作るコトにしました。
 基本的には総論で書きましたコトの重複となるでしょうけど、こちらの方がよりわかりやすいと思いますので、少しでもご理解の手助けになればと思っています。
 ただし、普通Q&Aと言えば、簡単に一目で分かるというのがウリなのでしょうけど、やえの一問一答集は違います。
 一つの問いに対してジックリ詳しくやっていきます。
 ので、けっこうしつこいかもしれません(笑)
 ただ、最初に良く聞かれるような疑問を一覧で載せるコトによって、参照しやすくなるという利点はありますので、ご活用下さればと思います。
 また、疑問点などありましたら、おっしゃってください。
 やえとしましても、やえが気づいていない点もあるかもしれませんし、また更新のネタが助かりますのでよろしくお願いします。
 
 →人権擁護法案特設ページ「よく読めば分かる人権擁護法案」はこちら

 

Q1.「自分の信念があれば氏名公開されても問題が無い」と言うのは乱暴すぎる


Q2.表現の自由が侵される。拉致問題を言うと朝鮮人から人権侵害だと訴えられ、活動が出来なくなる。


Q3.人権擁護委員には外国人がなれる。外国人が司法に介入できるのは問題だ。外国人もなれる人権擁護委員の権限が大きすぎる。日本が乗っ取られてしまう。


Q4.魔女狩りが合法化されてしまう。人権擁護委員という秘密警察をつくり、国民を「人権」という言葉をこじつけて監視・取締がはじまる。これでは人権擁護委員による独裁になってしまう。


Q5.じゃあ結局どういう場面で「立ち入り調査」が行われるの?


Q6.人権委員会は三権分立から逸脱している。どこにも属していない


Q7.「特定の者」は法人も含むのではないか


Q8.「おそれ」だけで、立ち入り調査や過料が下されるなんてとんでもない


Q9.令状なしの家宅捜索や罰金30万円は礼状主義に反し違憲だ


Q10.国民に秘密で可決なんてとんでもない。マスコミ規制してまで通そうとするとは何事だ


Q11.政府や賛成者が積極的に説明をすべきで、それをしないのはこの法案議論を隠しているコトに他ならず、やましいコトがあるのではないか


Q12.ささいなコトを言っても、それが人権侵害と訴えられて、何も言えなくなる社会になる。

平成17年6月19日

 人権擁護法案一問一答集−氏名公開のプロセス−

 
 Q.「自分の信念があれば氏名公開されても問題が無い」と言うのは乱暴すぎる
 
 A.なぜか最近よく頂くご批判です。
 しかしですね、もうちょっと条文ややえの文章を読んでもらいたいと思いますし、センセーショナルな単語だけを切り出して批判するのはやめていただきたいと思います
 
 総論の該当場所を提示しておきますね。
 詳しくはこちらに書いてあります
 
 で、氏名等公開とは特別救済措置の1であるワケですが、実際ここに至るまでにはかなり長い手続きを経なければたどりつきません。
 条文的には第六十条第、六十一条に当たりますが、ここではこうなっています。

 (勧告)
 第六十条
 人権委員会は、特別人権侵害が現に行われ、又は行われたと認める場合において、当該特別人権侵害による被害の救済又は予防を図るため必要があると認めるときは、当該行為をした者に対し、理由を付して、当該行為をやめるべきこと又は当該行為若しくはこれと同様の行為を将来行わないことその他被害の救済又は予防に必要な措置を執るべきことを勧告することができる。
 2 人権委員会は、前項の規定による勧告をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告の対象となる者の意見を聴かなければならない。
 3 人権委員会は、第一項の規定による勧告をしたときは、速やかにその旨を当該勧告に係る特別人権侵害の被害者に通知しなければならない。
 4 第一項の規定による勧告を受けた者は、当該勧告に不服があるときは、当該勧告を受けた日から二週間以内に、人権委員会に対し、異議を述べることができる。
 5 前項の規定による異議の申述があったときは、人権委員会は、当該異議の申述の日から一ヶ月以内に当該異議について検討をし、当該異議の全部又は一部に理由があると認めるときは第一項の規定による勧告の全部又は一部を撤回しなければならない。
 6 人権委員会は、第四項の規定による異議の申述をした者に対し、前項の規定による検討の結果を通知しなければならない。
 7 第三項の規定は、第五項の規定により第一項の規定による勧告の全部又は一部を撤回した場合について準用する。


 (勧告)
 (勧告の公表)
 第六十一条
 人権委員会は、前条第一項の規定による勧告をした場合であって、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該勧告を受けた者がこれに従わないときは、その旨及び当該勧告の内容を公表することができる。この場合において、当該勧告について異議の申述がされたものであるときは、その旨及び当該異議の要旨をも公開しなければならない。
  一 当該勧告について異議の申述がされなかった場合
  二 当該勧告について異議の申述がされた場合であって、前条第五項の規定により当該勧告の全部の撤回をするに至らなかった場合
 2 人権委員会は、前項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ、当該勧告に係る特別人権侵害の被害者及び当該公表の対象となる者の意見を聴かなければならない。

 この部分は、自民党の法務部会を経て訂正がなされている部分です。
 で、手順をわかりやすく書き出してみましょうか。
 
  「人権侵害があったと報告される」
 →「人権委員会がそれはやめなさいと勧告するコトを決める(まだ勧告は出してない)(第六十条1項)」
 →「人権委員会が勧告対象者から意見を聴く(同条2項)」
 →「勧告すべきと委員会が判断したら勧告を出す」
 →「勧告対象者がそれに不服である場合委員会に異議を申し立てられる※(同条4項)」
 →「人権委員会は異議に対して検討をし、意義が正当と認められれば撤回しなればならない(同条5項)」
 →(正当と認められず勧告に従わない場合)
 →「被害者と勧告対象者の意見を聴く(第六十一条2項)」「その決定に従わなかった時氏名等の公開がなされる(第六十一条)」
 →「ただし異議申述の議論の内容もあわせて公開する必要がある(第六十一条)」
 
 こうなります。
 人権侵害をしたとされる人物にも、何度か意見を言う機会がちゃんと与えられています
 「勧告を出す前」「勧告を出した後」「異議申述で勧告が必要であると判断された後」そしてそれぞれの段階でもし人権侵害をやめると言えば氏名公開には至らないワケです。
 それは第六十一条に「当該勧告を受けた者がこれに従わないときは」とハッキリと明記されてありますね。
 それに従えば公開はされないのです。
 
 つまり、ここまで議論した上で、なお人権侵害をしたとされる人物がまだ自分の行為は正当であると主張しつづけるのであれば、それはかなり強い信念を持った人物だと言えるでしょう。
 自分が気づかずに相手の人権を侵害していたり、悪ふざけの延長でやってしまった場合というのは、勧告がなされた時点ですぐに「もうしない」と謝罪するハズです。
 謝罪すればそこで公開などされずに終了です。
 自分の主張に自信が持てないのなら、信念など無いのであれば、さっさと謝罪しましょう。
 しかしそうでないのであれば、最後まで戦うというのであれば、その主張も意見として尊重されるコトになっています。
 
 それが第六十一条の「当該勧告について異議の申述がされたものであるときは、その旨及び当該異議の要旨をも公開しなければならない」という部分です。
 ここまで信念をもって主張を続ける人物にとって、自分の主張も人権委員会が一緒に公開してくれるのですから、むしろ信念を持っている人物にとっては願ったりかなったりでしょう
 これで世に自分の考えが正しいかどうか問い直せるのですから。
 ただ人権委員会に「人権侵害するな」と一方的に言われるだけなら腑に落ちない点もあるでしょうが、自分の主張も公開してくれるのですから、こんなの逆に効果が上がるのか疑問にすら思ってしまいます。
 
 ただし、※の部分において、異議申述をしなかった場合、つまり勧告が来たのにも関わらずバッくれた場合というのは、氏名公開措置がなされます。
 これはバッくれる人が悪いのですから弁解の余地無しでしょう。
 
 公の場で何かを表現する、文章などを公開するのであるならば、それだけの責任が発生するのは当然の話です。
 それは匿名掲示板でも2chでも同じです。
 決して何を書いても許されるというモノなどありません
 許される場があるとしたら それは自分しか見ないチラシの裏とか鍵のかかった日記帳ぐらいなモノでしょう。
 覚悟が持てない人は公の場に文章などを載せるべきではありません
 載せてはなりません。
 もしその程度の覚悟しか持てないのであって、人権侵害をするような文章の載せてしまったら、すぐに謝罪して撤回し削除しなさいというコトです。
 
 これは何も人権法の制度だけの話ではありません。
 人権意識、という言葉はやえは本来は嫌いなのですが、自分が何を言っているのか、どう不特定に対して影響を与えるのか、そういう意識を持つことは最低限の義務です。
 プロだってアマチュアだって、公の場に文章を載せるという行為に対しては等しく責任を負わなければなりませんし、だからこそ人権意識が低いのであれば、文章を書くべきではありませんし、信念が無いのであれば、人に言われるままに撤回するのが妥当でしょう。
 この問題は、人権法が出来てから撤回しなければならなくなってしまったというコトなのではなく、今だってそれは変わらないのです。
 もし今でも“人権意識”が低い人が、無意識のまま人権侵害な文章を載せているのであれば、それはとても問題であり、早く指摘し撤回させなければならないでしょう。
 そして人権法は、その手段を整える法律なのです。
 やえは、こういう手順があり、人権侵害をしたとされる信念が何度も問えるようなシステムになっているからこそ、「信念があれば氏名公開をされても問題ない」と言ったのです
 
 
 これについて、ちょうどいい例となるメールを頂きました。
 この前やえとあまおちさんで、過去実際にあった差別の事例をいくつか挙げましたが、その中に、ハンセン病の元患者に対して宿泊拒否したホテルのオーナーについて触れました。
 これについてこのような意見を頂いたのです。

 思うに、実際にホテル支配人(が全面的に支持したという話でしたよね)が本当にハンセン氏病患者(元患者)を差別していたのかは、ちょっと微妙な気がします。
 というのは、確かにホテルのしたことは傍目から見れば差別に他なりませんが、ホテルとなると大浴場やらなんやらでその他のお客様の目に触れる可能性が高く、そうした場合ホテルとしては差別したくなくとも(この病気について理解していたとしても)、その他来られるお客様や常連客、常連企業などがどう思うのか、という大きな問題があります。
 
 ホテルの最大の収入は、企業客です。常連企業が年に数回、大人数で泊まりに来てくれることで収支をまかなっていることが多く、個人客とは比較にならない重要性を持ちます(これも差別かもしれませんが。)
 そうした企業団体客とブッキングする形でハンセン氏病患者を招き入れることに、企業側が納得してくれれば良いが、そうでない可能性は大きいです。
 それはホテルとしても何よりも避けるべき事態であったはずです。
 
 すなわち「自分たちが差別すべきではないと考えていても、他のお客様がどう思われるかわからない」というところで、サービス業としては死活問題になりかねない部分もあるのではないかということです。

 確かに、そのような考え方はあると思います。
 この前は差別の実例をわかりやすく示すのが目的でしたので、あまり中身に触れず簡単に説明したのですが、確かにもうちょっと配慮すべきだったかもしれません。
 
 でですね、例えばこの場合、現実にはこのホテルはどうなったでしょうか。
 確かやえの記憶が正しければ、廃業してしまいましたよね。
 まぁ半ば抗議の意味なのか、それとも自暴自棄になったのか、自らさっさと廃業してしまった感がありましたが。
 しかしこれを差別ではないという観点も確かにあるワケでして、だけど現行制度ではやっぱり「甚大な結果」を与えてしまっているんです。
 ホテルがつぶれてしまったのですから、ほとんどこれ以上ない、最悪の結果だったと言えるでしょう。
 
 では、人権擁護法案が試行された後だったらどうだったでしょうか。
 
 元患者が人権委員会に訴えて、その結果このホテルに対して人権委員会が勧告を出したとします。
 しかしまだこれだけでは最終的な結論は出せません。
 ホテル側には異議申し述べをする権利が存在しています。
 ですから、おそらくこのオーナーであれば、そして「経営のため」という信念を強く持っているのであれば、この異議申し述べの権利を行使して、自分の正当性を堂々と訴えるコトをしたのではないかと思うのです。
 この部分でまず現行制度より公平性が担保されています。
 
 それでも人権委員会はホテルが差別をしたと決定したとしましょう。
 しかしその場合でも、ホテル側が行った異議申し述べの内容も処分と同時に公開されるのです。
 ホテル側が主張する「経営のため」「他のお客のため」という主張がシッカリと国民に公開されるのです。
 確かに人権委員会は差別だと決定しましたが、しかしそれだけでない国民が判断する材料が提示されるワケでして、少なくとも一方的に断罪されるコトはなくなるのです。
 また、それでホテル側の主張が理解できる人であれば、いくら人権委員会が決定したとしても、ホテル側の言い分を理解するでしょう
 そしてそれを理解する人がとても多いのであれば、なにも廃業する必要性は無かったかもしれません。
 ここでもさらに公平性が担保されているんですね。
 
 現行制度のままでしたら、ただ「○○というホテルがハンセン病を理由とした差別を行った」という断片的な、かつ一方的な情報が出されるだけです。
 しかし新しい人権法の元でなら、国民ひとりひとりが主体的に考える材料ときっかけを提示されるようになるワケです。
 やえは常々「人権の定義というものは時と場所と場合によって変わってきます」と言っていますが、もし新しい人権法が存在しない場合というのは、この判例が元となって、どのような場合でもいかなる理由があろうとも、宿泊拒否は差別だとされてしまうコトになるワケですが、新しい人権法の元ならそれが一概に言えるモノではなくなるのです。
 ひいては国民の議論によっては、前例主義による紋切り型になるとは決して言えなくなるのです。
 定義は議論によってなされるべきとやえが主張するように、新しい人権法が出来れば、それが達成されるワケなのです。
 そして現行では、どんな事情があっても、前例主義によって、紋切り型に“差別”が決められていくコトでしょう。
 
 もちろん、差別された側にとっても裁判という重い決断をする前に、相談などができる窓口があるというのはプラスになるでしょう。
 つまり、人権問題をすくう網の目は出来るだけ細かい方がいいですし、窓口は多いにこしたコトはありません。
 それはそれとして整備し、その上で、その問題をどう判断するかは、できるだけ民主的に民意が反映させられるような形にするのが、人権という微妙な問題を扱う場合には、適切だと言えるでしょう。
 
 差別を受けたと訴える側に対してするコトは、窓口を広げるコトです。
 決して、自分の思い通りの結論を迅速に出させるコトではありません
 窓口が増えても、その中身については、それなりに慎重に出すべきです。
 一方訴えられた側に対してするコトは、その人の意見を十分に聞くコトです。
 さらに言えば、その結論には民意を十分に反映させるコトです。
 民主主義の社会においては、いくら自分の意見が正しいと信じていたとしても、結果としてシステムが判定する場合においては、民意の相違の方が正しいと“される”のです。
 こういうシステムがあってこそ、迅速かつ適切な処理の出来る人権法と言えるのではないでしょうか。
 
 そして、この新しい人権法の、氏名公開に至るまでの勧告制度は、それがかなり達成できている形になっていると言えるのではないかと思うのです。
 
 ハンセン病の件にしても、もしかしたら北海道のロシア人入湯拒否問題にしても、新しい人権法の元でなら、また違う、もしかしたらもっと適切な結果が待っていたかもしれません。
 少なくとも、例え結論が同じであったとしても、そのプロセスと、それによる議論のあり方としては、現行法の方が良いとはちょっと言えないんじゃないかと思います。
 

平成17年7月1日

 人権擁護法案一問一答集 −表現の自由−

 
 Q.表現の自由が侵される。
   拉致問題を言うと朝鮮人から人権侵害だと訴えられ、活動が出来なくなる。
 
 A.表現の自由が侵されるという根拠とされている条文はいくつか挙げられているワケですが、結論から言いいますと、まず表現の自由が侵されたり、拉致問題の阻害になるコトはありません
 多くのこのような主張は、条文から逸脱していたり、その人の思いこみだけで解釈がなされていたりするような、メチャクチャなモノです。
 
 ただし、「表現の自由」というモノの定義をどこに置くかという問題はありまして、例えば「天堕 輪は実はエタ非人であり生きている価値のないクズである」とか根も葉もない中傷目的の書き込みなどをも「表現の自由」と言ってしまうのでしたら、これは当然規制されますから、まぁ表現の自由が侵されると言えるでしょう。
 ただし、こんなのは本来規制されるべきモノであります。
 そして、現行法化でも裁判をすれば有罪となる可能性が高いモノであり、そして普通はここまでの権利を「表現の自由」は持っていないと解釈されています。
 
 
 さて、常識的な表現の自由の範疇における「人権法が自由を侵すのでは」と言われている条文なのですが、最も多く挙げられている条文として、第三条2項の「特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」を挙げるコトが出来ると思います。
 しかしこの部分も、よく文章として読んでいただければと思うのですが、この項に触れるためには、「特定の者に対し」てであり、「人種等の属性を理由とする」、「侮辱、嫌がらせ」等、が当てはまる必要があるコトになります。
 そしてひとつだけ当てはまればいいというモノではなく、全てが当てはまらないとこの条文に該当しないコトになりますので、これはけっこう厳しい条件と言えるでしょう。
 
 で、具体的な事例を見ていきたいのですが、例えば「北朝鮮人は拉致を行ったとんでもない奴らだ」という言葉は、主語が「北朝鮮人」という不特定多数を指す言葉になっていますので、「特定の者」という条件には当てはまりませんから、この法律には該当しないコトになります
 意外とこの「不特定多数」に対する言動までを含めてしまって誤訳している人が多いのですが、一般論的な言論は全てここの条件で弾かれますので、注意してくださいというか、安心してください。
 変な話、「中国人はキチガイだ」というちょっとアレなセリフも、一般的な問題としては微妙なところだと思いますが、少なしこの法律の該当事案ではないのです。
 
 また、「人種等の属性を理由とする」という条件も重要でして、仮にさっきの事例の主語が「ジョンイル」だったとしても、その後の「拉致を行ったとんでもない奴らだ」というのは、人種等の属性を理由とはしていませんから、やっぱり該当しないんですね。
 拉致という行動は、北朝鮮人特有の行動ではなく、人間であるならば誰でも行える行為ですから、この言葉は全く人権法とは関係ない話になるのです。
 もうちょっと簡単に言いましょう。
 例えば「お前はバカだ」と言うセリフは、これは「人種等の属性を理由」とはしていませんから、その言葉の是非や差別的かどうかという問題はさて置いたとしましても、少なくともこの法律の該当事案ではありません
 あくまで人種等(第二条5号により「人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向)に起因をした差別的な言動だけが、この法律に該当するワケで、「バカ」といった全く根拠レスの中傷と、具体的事例を示しての批判は当てはまらないコトになるのです。
 中途半端にレッテルを貼るような行為、例えば「中国人は出て行け」「女は家から出るな」「ハンセン病は浴場に来るな」と言ったような言動だけがこの法律の該当事案になるのです。
 ただし、今の事例は、不特定多数に向けたような言い方ですから、該当はしないんですけどね。
 
 議論板の方で「「韓国人はステイ先で勝手にキムチ漬けんな」というのも当てはまるのか」という質問がありましたので、これにもお答えしようと思うのですが、これも今まで言ってきたコトと一緒です。
 「キムチを漬けるな」という言葉は、なにも「韓国人だから」という理由では無いワケでして、別に日本人だってアメリカ人だってオーストラリア人だってキムチを漬けるコトは出来ますから、これは「人種等」に起因した言動ではないコトになります。
 そもそも「韓国人はステイ先で勝手にキムチ漬けんな」というセリフをもうちょっと丁寧に書きますと、「ステイ先では臭いが充満してしまうので勝手にキムチ漬けんな」という文章になるワケでして、「漬けるな」と言っている原因は「臭いから」という理由に起因しているワケですから、やっぱり「人種等の属性を理由」にはならないのです。
 
 それからこれも議論板で出されていた例示なのですが、「世界中(の外国人)に『日本に来るな』と言いたい」などと発言した東京都職員であり外国籍のままでは幹部試験が受けられないことに異議を申し立てて裁判を起こしたけど敗訴したという在日朝鮮人の女性に対し、「そんなに日本を嫌っているならまずお前が本国に帰りやがれ」と言うのはどうなのでしょうかというのがありましたが、これも先ほどの例示と同じように、「人種等の属性を理由」としていませんので、該当事案とはならないでしょう。
 その彼女が外国人に対して日本に来るなと言っている以上、それは日本国籍を持っていない自分にも当てはまるのは自然かつ当然の話でして、つまりそれに対する「だったらまず自分からそうすれば?」というツッコミは朝鮮籍が起因する理由ではないワケですから、これは「人種等」とは全く関係ない話となります。
 むしろこの女性のセリフの方が、人権的に言えばマズい気もします(おそらくこの法案の該当事案には当てはまらないと思いますが)
 
 多くの人が誤読しているのですが、「韓国人が言ったセリフ」と「韓国人を原因とするセリフ」は、全く別モノです。
 事実、この韓国人は行政でもダメと言われ、裁判でも負けているワケでして、よって社会通念上「韓国人が言ったセリフが100%通る」なんてコトは全く言えないワケです。
 これはもはや過剰反応というか、確信犯なんじゃないかと思ってしまうのですが、「韓国人が差別だと言えば全て差別になってしまうんだ」というようなコトを言っている人があまりにも多すぎます。
 しかしそうでないのは行政でも裁判でも前例判例から明らかなワケでして、行政の一部である人権法・人権委員会においても、当然それはそのような判断が下されることと思われます。
 ですから、あまりにも他人を煽るような「韓国人が差別と言えば全て差別と公的機関でも認定される」という手のセリフは、かなり悪質なデマゴーグと言わざるを得ないでしょう。
 
 一応念のために言っておきますが、「日本人はいいけど韓国人だけはキムチを漬けるな」とか、「お前は韓国人なんだから日本から出ていけ」とか言ってしまいますと、これはかなりこの法案に該当する事案の可能性が高くなります。
 なぜ韓国人だけがダメなのか、「人種等の属性を理由としている」という解釈しか出来ませんからね。
 しかしこのような発言は社会通念上やはり「差別」と言うべきものでしょう。
 よって規制されるのも妥当かと思います。
 ただし、キムチの例示の場合の「韓国人」は不特定多数になりますから、このセリフだけであるならば人権法案の該当事案にはなり得ませんけどね。
 
 
 さて、もう一つ議論板の方で例示が出ていまして、「極端な例として「支那は断固として支那である」という呉智英氏のエッセイは差別になる?」というモノがあるのですが、これは法文上だけの解釈では意見の分かれるところかと思います。
 と言いますのも、やえがいつも言っていますように、差別とはその場その時その場合によって定義が変わってくるモノですから、これもその状況によって解釈が変わってくると思うからです。
 ですから、この発言が差別かどうかを決めるためには、広く議論をする必要があると思います。
 
 今のところ、それを担保するために2つの事案が用意されています。
 
 1つ目は、特別救済措置の氏名公開までにいたるプロセスです。
 これはこちらをご覧になっていただければと思うのですが、簡単に言いますと、救済措置において、差別発言をしたとされた人(この場合は呉智英氏ですね)にも意見を言う機会が何度も用意されており、同時にその意見を公開されるようにもなっています
 よって、呉智英氏が絶対にこの意見は差別的意見ではないと主張を押し通すのであれば、人権法の権限では発言を削除させるコトも撤回させるコトも出来ないワケでして、最後は国民の判断にゆだねるコトが出来ます
 これでは、表現の自由が侵されるとは言い難いですね。
 またこの場合は、広く議論をする場を担保しているので、決して訴えた側の主張が一方的に押し通されるというコトはないかと思います。
 
 もう1つは、法務省が提示している「救済手続の不開始事由に関する規則のアウトライン」です。
 これも詳しくはこちらをご覧いただければと思いますが、この「アウトライン」の中には次のような項目があります。

 二 歴史的事実の真偽、学術上の論争の当否、宗教上の教義等に関する判断を行わなければ、人権侵害に該当するか否か判断できないものであるとき。

 現在、中国政府が存在するあの辺りを「支那」と呼ぶかどうかという問題は、きわめて地理学的な問題です。
 ですからこの問題は「学術上の論争の当否」に当たり、救済措置は開始されないコトになるかと思われます。
 言わば「学術上の問題なのだから学者同士が議論して結論を出しなさい」というコトですね。
 よって、少なくとも「アウトライン」により、呉智英氏が現在の段階において、人権法によるなんらかの処罰のようなモノは受けるコトは無いと言えるでしょう。
 
 ちなみに、もし「支那」という言葉が、地理学上適切ではないと結論づけられ、なおかつ「支那」という言葉が差別語であると社会通念上常識となったとしたら、この呉智英氏の「支那は断固として支那である」という主張は特別救済措置の対象になるでしょ・・・・・あれ
 
 当てはまりませんね・・・
 
 呉智英氏は公務員でもお店の人でも無いので、何かを取り扱う権限は持っていない人ですから、第三条一項一号には当てはまりませんし、特定の者に対する言動ではないですから、同二号にも当てはまりませんし、虐待でもないですから同三号にも当てはまりません。
 また「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報」つまり「ここに住んでいる人は支那人だ」と言っているのではないですから、第三条第二項第一号には当てはまりませんし、取扱いする立場でないので、同二号も当てはまりません。
 当てはまるかなと思っていた第四十三条も、一号では第三条第二項第一号に規定する行為が対象であるワケで、つまりこれも当てはまりませんし、二号も同じように当てはまらなかったりします。
 「支那でないものを差別語である支那と多くの人が認識してしまう」という理由から、第四十三条に当てはまるんじゃないかなと思っていたんですけど、一号の方は「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報」という厳しい条件に該当しなければならないワケですし、また二号の方は「差別的取扱いをする意思を表示した者が当該不当な差別的取扱いをする」ですから、取扱い権限が無いと当てはまらないワケです。
 
 えーと。
 最初に「解釈では意見の分かれるところかと思います」なんて書いちゃいましたが、撤回します。
 どうやっても呉智英氏のこの発言は特別救済措置には当てはまりません
 ですから、規制されるコトはないと言えるでしょう。
 よって、特定個人に対するかなり悪質な差別的言動をしない限り、言論の自由が阻害されるという表現の事態は起き得ないと言えるでしょう。
 
 けっこう何も出来ないんですね、この法案・・・。
 
 
 さて、気を取り直しましてですね。
 もう一点、言論の自由に対する批判の根拠となる箇所があります。
 それが第四十三条の差別助長行為の禁止です。
 さっきちょっと触れた部分ですね。

 第四十三条(差別助長行為等に対する救済措置)
 1 第三条第二項第一号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの


 第三条第二項第一号
 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為

 この第四十三条はちょっとわかりにくい文章になっていますから、わかりやすく細かく分けてみましょう。
 
 この条文は、「人種等の共通の属性を有する」「不特定多数の者に対して」「当該属性を理由として」「不当な差別的取扱いを」「助長し、誘発する目的で」「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書」を「頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為」を禁止しているワケです。
 
 例えば「外国人参政権付与反対」という主張がこの条文に該当するんじゃないかという批判をもらったコトもあるのですが、これは「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書」という条件には当てはまらないのです。
 この「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書」という条件をもっと分かりやすい言葉で言い換えますと、「○○町に住んでいる人たちは部落だ」というような感じの文章のコトを指しているワケです。
 「識別することを可能とする文書」ですからね。
 よって「当該属性を有することを容易に識別する情報」というモノは、つまり簡単にいえば「誰々は××である」というような文章のコトを指します。
 しかし「外国人参政権付与反対」は、もっとかみ砕いて言うならば「外国人に参政権を付与することに反対」と言っているワケで、これでは属性を公然と摘示する「誰々は××である」という文章にはなりません。
 「容易に識別することを可能とする情報」という言葉に当てはまるためには、ある程度範囲を指定しその範囲内の者に対して「属性を公然と摘示」しなければなりませんが、仮にその範囲を「外国人」としたとしても、「参政権を与えない」という主張は「属性の摘示」ではありませんから、やっぱりこの法案の該当事案にはなり得ないのです。
 
 よって、やっぱり「外国人参政権付与反対」という主張は、人権法にかすりもしないのです。
 
 ちなみに、繰り返しになりますが、呉智英氏の「支那は断固として支那である」という主張も、「識別を可能とする文書」ではないので、該当しません。
 
 第四十三条はかなり難解な文章になっているために、誤読する人が続出しているみたいなのですが、落ち着いてよく読んでみてほしいと思います。
 たくさん色々書いてあるというコトは、該当する条件が厳しいというコトであるワケで、ではなぜこんな厳しい条件の条文があるのかと言えば、この条はいわゆる「部落名鑑」を規制するために作られた条でして、同種の似たような文書を全て禁止させるために、このような難解な文章になってしまっているのです。
 例えば、法文にハッキリと「部落名鑑を禁止する」なんて書いてしまうと、じゃあ「同和名鑑」ならいいんだな、なんてコトになったりしますので、このようにいちいち難しいように書いて幅を持たせているワケなのです。
 
 そもそも基本的に法律というモノはこういうモノなのでして、名指しで法文化するとすぐに抜け道を開けられてしまうのでこのような書き方になり、結果的に、一般的には難解な文章になるのです。
 
 
 かなり長くなりましたが、以上のコトから結論を言いますと、人権擁護法によって言論の自由が阻害される可能性はまずないと言えるでしょう
 よほど確信犯的に差別を言おうとしない限り、まず言論の場においては、人権法にひっかかるコトはないかと思われます。
 そもそもこの法案の中においては、文書等を削除させたり、撤回させたりするような権限は全くないですから、基本的に「言論の自由が阻害される」というコトにはどうやってもなり得ないのです。
 まぁ何度も言ってますが、自分の発言に自信と責任が持てないのでしたら、はじめから公の場に文章を載せないコトです
 そして自信と責任が持てるのでしたら、この法案によってなんら制限を受けるモノではないというコトです。
 

平成17年7月3日

 人権擁護法案一問一答集 −擁護委員の国籍条項−

 
 Q.人権擁護委員には外国人がなれる。外国人が司法に介入できるのは問題だ。
   外国人もなれる人権擁護委員の権限が大きすぎる。日本が乗っ取られてしまう。
   
 A.人権擁護委員に外国人がなれるのは今のところその通りであり、これに対してはやえは問題であると主張しています。
 そもそもやえは、全ての公務員には日本人がなるべきだと思っていまして、よって、出来る限り擁護委員も日本人のみがなるべきだと思っています
 
 しかし、外国人が司法に介入できると表現するのは間違いです。
 最近勘違いしている方が多いようなのですが、国家公務員に外国人がなれるかどうかの基準は、「一般職」か「特別職」かの違いではありません
 「一般職」には外国人もなれて、「特別職」にはなれない、という分け方で考えている人が多いみたいですが、実際には「公務員に関する当然の法理」という内閣法制局の見解がありまして、「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍が必要」というモノなのですが、ここから、ある特定の職権以上の職には外国人は就けないコトになっているワケなのです。
 例えば中央省庁のキャリアは一般職の国家公務員なのですが、「国家意思の形成への参画に携わる公務員」に当てはまるので外国人はなれないのです。
 少し前にある外国人の東京都職員が、「都の上級職の試験には日本籍でないので受けられない」と言われたコトに対して不服だと裁判を起こして負けたという裁判がありましたけど、これもこの「当然の法理」に基づくモノです。
 つまり、都政の意思形成の参画に携わる階級職には外国人はなれないと、東京都も裁判所も認定したのです。
 
 その上で、なぜ人権委員会の委員には外国人がなれないかと言えば、それは人権委員が「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」だからです。
 人権委員会が他の中央省庁並みの独立性を持っているコトからも、先ほど言いましたように、中央省庁のキャリアには外国人はなれませんから、やはり人権委員会の意志決定員である人権委員には外国人はなれないのです
 
 一方、人権擁護委員には外国人がなれるコトになっていますが、これは逆に言えば、人権擁護委員は「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」では無い存在だというコトと言えるのだと思います。
 実際、擁護委員には意志決定権限はありません。
 それは法文をキチンと読めば明かなコトです
 その案件が人権委員会で取り扱うべきかどうかというコトは、全て人権委員会で決定されるワケで、擁護委員は相談に乗るか、上(人権委員会)にお伺いをたてるしか権限は無いのです。
 ですから「当然の法理」の言う、「国家意思の形成への参画」には携わらない公務員だという解釈がなされるのだと思われます。
 
 よって人権擁護委員が「司法に介入できる」という表現は間違いです。
 権限が大きいという言い方も間違いですね。
 むしろ権限などありはしません。
 これは「当然の法理」が存在する日本のシステムから言えば、逆に、外国人がなれるというコトからも証明されていると言えてしまうでしょう
 
 繰り返しますが、人権擁護委員の出来るコトというのは法文によって定められていて、それを読めば実際出来るコトは相当に限られているコトが明かなののですから、「外国人がなるとこのような最悪なコトが起きる」というようなよくあるデマ文に惑わされず、自分で実際法文を読んでから外国人がなれるのが問題なのかどうかを判断してください。 

平成19年10月1日

 人権擁護法案一問一答集 −魔女狩りが合法化される!?−

 人権擁護法案に反対するもっとも多い理由に、「魔女狩りが合法化される」という感じのモノがあります。
 例えばこのような書き込みです

 これは、ほんの一例ですが人権擁護委員とその関係者が自分たちに都合の悪い
 報道・世論に対して人権という言葉を付けて有形無形の圧力をかけてきます。
 要するに人権擁護委員という秘密警察を
 つくり、国民を「人権」という言葉をこじつけて監視・取締りします。
 これでは人権擁護委員による独裁!になります

 ちなみに漫画まで載せていらっしゃるのですが、もう何から何までデタラメです。
 この手の主張を堂々と書いてあるサイトやブログもけっこうあるのですが、どういう根拠でこのようになるのか是非教えていただきたいモノです。
 
 この手のコトを書いているサイトやブログは、こういう結果だけを書いて不安をあおっているワケですが、しかし法的にはどうのようなプロセスを経るのかというコトは全く書かれていません。
 公的機関が動くには根拠が必要です
 法的根拠です
 例えば警察には一般人にはない家宅捜索する権利や拳銃を持つ権限を持っていますが、これは決して「警察だから」という理由だけで権限があるのではありません。
 キチンと法律にそう明記されているから権限を持っているワケなのです。
 もっと分かりやすい例で言えば、他国の軍隊は集団的自衛権によって自国が攻撃されなくても同盟国が攻撃されれば反撃をするコトが出来ますが、日本の軍隊である自衛隊はそれが出来ません。
 もちろんそれは法律や憲法によってそう定められているからですね。
 つまり、軍隊だからという理由だけで様々な権限を持っているというワケではなく、それぞれの国でそれぞれの法律によって様々な権利や権限また規制などを受けて、法的根拠を持って、これらの公的組織は動いているワケです。
 全ての公的機関は法律によって規定されているのです。
 
 よって、人権擁護法案が成立し人権委員会が設立したら、それは人権擁護法に記載され規定されている法律によってその行動や権限が決まります
 逆に言えば、法律に明記されていないコトは出来ないワケです。
 すなわち人権擁護法案をよく読めば、人権委員会や人権擁護委員は何が出来るのかというコトが全て分かるワケですし、逆に「○○が規制される」という書き込みは本当に正しいかどうかも法文を読めば明らかなのです。
 
 
 では、具体的にさっきの漫画にツッコミを入れていきましょう。
 
 まず最初に、「人権委員から委託された人権団体です」「立ち入り調査です。協力お願いします」というセリフとともに、無理矢理家宅捜索するかのような描写が描かれていますが、これはまったくのデタラメです
 作者はいったい人権擁護法案のどの部分がこれに当たるのか、果たして法案文をちゃんと読んでいるのかすら疑問です。
 
 まず、「人権擁護委員から委託された人権団体」という文言がいきなり意味不明です。
 法案文の中に「委託」という文言はありません。
 また似たような言葉に「嘱託」というのがあるのですが、これができる権限を持っているのは人権委員会です。
 擁護委員にそのような権限は与えられておらず、「人権擁護委員から委託」はあり得ません
 この時点で作者は法案を読んでいない可能性が高いと言わざるを得ないぐらいのデタラメさです。
 
 また、仮に人権委員会から嘱託依頼があったとしても、それを受けられるのは「国の他の行政機関、地方公共団体、学校その他の団体又は学識経験を有する者」だけです。
 漫画にありますような「委託された“人権団体です”」という名乗り方では、明かな法律違反です。
 人権団体には調査を嘱託できません
 
 さらに、そもそも外部に嘱託できる調査は、「一般救済手続き」です(第四十条)
 一般救済には、立ち入り調査の処分は存在しません。
 よって、嘱託された人権委員以外の者が立ち入り調査するコトはあり得ません
 デタラメです。
 
 次に、この漫画では「人権侵害を犯すおそれがあると、委員会から通達があ」れば、即座に立ち入り調査ができるかのような描写になっていますが、これもデタラメです。
 立ち入り調査がされるような事案というのは第四十四条に定められていて、基本的には「第四十二条第一項第一号から第三号までに規定する人権侵害」と「前条(43条)に規定する行為」の場合に、「必要な調査をするため」に行えるコトになっています。
 では最初の「第四十二条第一項第一号から第三号までに規定する人権侵害」は具体的には何を指しているのかと言えば、特に簡単に言えば「公務員も民間も含めた公共的施設における差別的取り扱いの禁止」と「特定個人に対する酷い差別言動」そして「虐待」の3点です。
 また、「前条に規定する行為」は何かと言うと、簡単に言えば「部落名鑑のような物の存在と頒布」のコトを言っています。
 ちょっとだけ詳しく言うと、特に「前条」である43条に定められている具体的行為が記載されている「第三条第二項」をじっくり読むと、「前項第一号に規定する不当な差別的取扱いを」という文言があるのが分かると思いますが、「前項第一号」とは国や地方公共団体そしてお店の人間が消費者に対して不当なコトをしてはならないという条文ですので、「前条に規定する行為」にもどりまして、ここに該当するためには公的団体やお店の人が不当な取扱いが出来るようになるためのなんらかの言動が必要になるワケです。
 これはけっこう条件がきびしく、ここはほぼ「部落名鑑」の存在をねらい打ちしていると言ってもいいでしょう。
 ではなぜ「部落名鑑」と名指ししないのかと言う人もいるかもしれませんが、もしそれだと「同和地域地図」なんてコトにされると、法的にはすり抜けられてしまうからです。
 そして漫画では、立ち入り調査をされた理由として、「メールでのセクハラを誘う履歴」「歴史を検証するサイトアクセスの履歴」「外国人が主人公に勝負で負けるシーンのある漫画の所持」「現状への疑問が唄われているCDの所持」というモノを挙げていますが、「セクハラ」以外はかすりもしませんね
 そしてセクハラは普通に考えてダメだと思うんですが、しかし人権擁護法の特に特別救済が発動するセクハラでの規定は「特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動」となっており、つまり「職務上の権力を利用してのセクハラ」でないと立ち入り調査はできないコトになっています。
 もしこの漫画の主人公が部下に対して「このノルマが達成出来なかったら明日は裸で一日中仕事だ」なんて言っていたらおそらくアウトなのでしょうが、しかし仕事とは関係ない友達であれば、少々のセクハラまがいな内容であっても、少なくとも立ち入り調査という処分のある特別救済が発動するコトはないのです。
 ちょっと長くなってしまいましたが、さらに詳しい説明はこちらに法文を参照しながら詳しく書いてありますので、ぜひ一度読んでみてください。
 
 まして、この漫画の2ページ目では、一部の人権団体が行っているようないわゆる“糾弾会”のようなモノを、“委託された人権団体”が人権擁護法に則って行うかのように、つまり人権委員会が行うかのように描いているワケですが、これも全くのデタラメですね。
 人権委員会は独立性の高い三条委員会であり(これを持って「三権から独立した存在」などと書いてある記述もよくありますが、これも全くデタラメです)公的機関であるワケで、私団体が行う糾弾会と人権委員会と人権擁護法案は全く関係ありません
 むしろそのような過度な糾弾は人権侵害と当たるとも言え、それこそ人権委員会に訴えるべき事案なのではないかとやえは思います。
 
 さらに「また、人権擁護委員への参加に、大いなる意欲を見せています」と意味ありげに書いてありますが、こんなのは、だからなんですか?で終わります。
 ここもよく誤解されているところですが、人権擁護委員の権限はかなり限られています
 それが人権擁護法案の定める人権侵害に当たるかどうかを判断する権限も無ければ、特別救済手続きに関わるコトも出来ませんし、当然立ち入り調査なんて以ての外です(特別調査 第四十四条第二項「人権委員会は、委員又は事務局の職員に、前項の処分を行わせることができる」)
 キャプションにあるような「要するに人権擁護委員という秘密警察をつくり、国民を「人権」という言葉をこじつけて監視・取締りします。これでは人権擁護委員による独裁!になります」なんて、全く根拠のないデタラメもいいところな文章でしかありません
 
 この漫画にツッコみだしたらキリがないのでこの辺にしておきますが、まずしっかりと理解していただきたいのが、人権委員会が出来たとしても、委員会が出来る事は全て法律の中に記載されています。
 当然それは記載されていない事は出来ないというコトであります。
 よって、「この法律が成立したら○○されてしまう」という手の記述があったら、それは何条のどの部分に該当するのかを見てみてください
 もしその記述にその部分が乗っていなければ、それはまず疑いを持ってください。
 そして人権擁護法案に該当する部分があるかどうか自分で調べてください。
 
 この法案が成立したら、なんでもかんでも人権委員会と部落解放同盟のような人権団体の思うがままのような書き方をしているサイトやブログか非常に多いのですが、それは法案の具体的にどの部分をさして、どのような法的根拠を持ってそう言っているのか、そこを読むようにしてください。
 そうすると、実に多くのデマがこの法案に対しては飛び交っているかというコトが分かると思います。
 

平成19年10月13日

 人権擁護法案一問一答集 −立ち入り調査−

 Q6.結局立ち入り調査はどんな場面で使われるの?
 
 A.立ち入り調査が行われる場面は限られていて、どんな場面でも行われるワケではありません。
 人権擁護法案には、立ち入り調査を以下の場合において行えると規定されています。
 
 【虐待】
 【公務・業務上において職務における差別的な取扱い】
 【特定個人への属性を理由とする差別的言動があり、その相手が不快だと表明した場合】
 【特定個人への職務上の地位を利用したセクハラがあり、その相手が不快だと表明した場合】
 【部落名鑑やそれに類する文書の公開】
 【お店の人などが人種等の属性を理由として不当な取扱いをする意志を表示すること】
 
 
 では、具体的に詳しく法案を見ていきましょう。
 
 立ち入り調査が規定されている条文は第四十四条です。

 (特別調査)
 第四十四条
 人権委員会は、第四十二条第一項第一号から第三号までに規定する人権侵害(同項第一号中第三条第一項第一号ハに規定する不当な差別的取扱い及び第四十二条第一項第二号中労働者に対する職場における不当な差別的言動等を除く。)又は前条に規定する行為(以下この項において「当該人権侵害等」という。)に係る事件について必要な調査をするため、次に掲げる処分をすることができる。
 
 一 事件の関係者に出頭を求め、質問すること。
 二 当該人権侵害等に関係のある文書その他の物件の所持人に対し、その提出を求め、又は提出された文書その他の物件を留め置くこと。
 三 当該人権侵害等が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所に立ち入り、文書その他の物件を検査し、又は関係者に質問すること。
 
 2 人権委員会は、委員又は事務局の職員に、前項の処分を行わせることができる。
 3 前項の規定により人権委員会の委員又は事務局の職員に立入検査をさせる場合においては、当該委員又は職員に身分を示す証明書を携帯させ、関係者に提示させなければならない。
 4 第一項の規定による処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

 発動条件の部分だけを簡単に抜き出しますと「第四十二条第一項第一号から第三号までに規定する人権侵害、又は前条に規定する行為」となります。
 なお「前条」とは、43条のコトを指し示します。
 
 では次に「第四十二条第一項第一号から第三号」を見てみましょう。

 (不当な差別、虐待等に対する救済措置)
 第四十二条
 一 第三条第一項第一号に規定する不当な差別的取扱い
 
 二 次に掲げる不当な差別的言動等
  イ 第三条第一項第二号イに規定する不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの
  ロ 第三条第一項第二号ロに規定する性的な言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの
 
 三 次に掲げる虐待
  イ 国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる職員が、その職務を行うについてする次に掲げる虐待
   (1) 人の身体に外傷が生じ、又は生ずるおそれのある暴行を加えること。
   (2) 人にその意に反してわいせつな行為をすること又は人をしてその意に反してわいせつな行為をさせること。
   (3) 人の生命又は身体を保護する責任を負う場合において、その保護を著しく怠り、その生命又は身体の安全を害すること。
   (4) 人に著しい心理的外傷を与える言動をすること。
  ロ 社会福祉施設、医療施設その他これらに類する施設を管理する者又はその職員その他の従業者が、その施設に入所し、又は入院している者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待
  ハ 学校その他これに類する施設を管理する者又はその職員その他の従業者が、その学生、生徒、児童若しくは幼児又はその施設に通所し、若しくは入所している者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待
  ニ 児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)第二条に規定する児童虐待
  ホ 配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。次号において同じ。)の一方が、他方に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待
  ヘ 高齢者(六十五歳以上の者をいう。)若しくは障害を有する者(以下この号において「高齢者・障害者」という。)の同居者又は高齢者・障害者の扶養、介護その他の支援をすべき者が、当該高齢者・障害者に対してするイ(1)から(4)までに掲げる虐待

 とっても長くなりましたが、少しずつ順番に見ていきましょう。
 
 まず第一号(一の部分です)ですが、なんとここにきて、さらに「第三条第一項第一号」という引用が出てきてしまいます。
 この辺が法文の難しさなんですが、まずはここは後回しにしましょう。
 そして第二号も同様ですので後回しです。
 
 で、第三号なんですが、ここもいろいろと長ったらしいのですけど、一言で「虐待」と言っておけばいいと思います
 イロハニホヘでは、その具体的な加害者と対象を書いているワケですが、分かりやすいところを例えば、ハやニは教員による学生や児童に対する虐待ですし、ホは配偶者に対する虐待すなわちDVですね、ヘは介護虐待を示していますように、これら全てはいわゆる虐待ですので、そこまで条文を解読する必要はないでしょう。
 
 というワケで、まず立ち入り調査の発動の条件の1つに【虐待】があるとここに定められているコトになります。
 
 
 では戻りまして、第一号を見てみましょう。
 第一号には「第三条第一項第一号に規定する不当な差別的取扱い」とありますので、今度は第三条を見なくてはなりません。

 (人権侵害等の禁止)
 第三条
 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
 
 一  次に掲げる不当な差別的取扱い
  イ  国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い
  ロ  業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱い

 まず(イ)ですが、これは読めばすぐ分かりますように、公務員に対する規定です。
 公務員が公務中に公務上において差別的な取扱いをしてはならないという規定です。
 
 次に(ロ)ですが、今度は「お店の人」に対する規定です。
 つまり、仕事中に職務上において差別的な取扱いをしてはならないという規定です。
 簡単に言うと、「アナタは黒人ですのでこの商品はお売りできません」という類のコトはやってはならない、という内容です。
 
 以上、2つ目の立ち入り検査発動の条件としては、「第四十二条第一項第一号」である「第三条第一項第一号」の規定により、【公務・業務上において職務における差別的な取扱い】となります
 
 
 ではまた42条に戻りまして、最後に残りました第二号について見ていきましょう。
 42条の中ではここが一番複雑ですので、もう一度、第四十二条第一項第二号を書き出します。

 二 次に掲げる不当な差別的言動等
  イ 第三条第一項第二号イに規定する不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの
  ロ 第三条第一項第二号ロに規定する性的な言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

 この2号は、別の条を引用しつつさらに条件をつけているという文章になっているので、ちょっとややこしいコトになっているんですね。
 ですのて、さらに「第三条第一項第二号イ」を引用しなければなりません。

 イ 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動

 よって、第四十二条第一項第二号イとつなぎ合わせますと

 特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

 という文章になります。
 
 ポイントは「特定の者」と「人種等の属性を理由としてする不当な差別的言動」と「相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの」の3つです。
 まず「特定の者」ですが、これはつまり不特定多数への言動は当てはまらないコトになります。
 例えば「北朝鮮人は○○だ」というような言い方ではここには該当しません。
 
 次に「属性を理由としてする不当な差別的言動」ですが、これはつまり単に差別と言っても種類を限定しているコトになります。
 人権擁護法案における「人種等」というモノにはちゃんと規定がありまして、第二条第五項に当たります。

 5 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。

 そしてこれらを「理由としてする不当な差別的言動」ですので、その言動にはこれらの属性が発信源となるような物言いでなければなりません。
 例えば昨日紹介しましたブログにあった漫画のような「外国人が主人公に勝負で負けるシーンのある漫画の所持」というモノは全く関係がありません。
 仮に「外国人が主人公に勝負で負けるシーンのある漫画を“描いた”」であっても、勝負に負けるという行為は外国人という属性には関係ない話ですので、この条項には当てはまりません
 
 最後に「相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの」ですが、わざわざ第三条の法文だけでなくこれをつけたという意味というのは、おそらく「被害者が申告する必要がある」というコトを示したいのではないかと思われます。
 逆に言いますと、相手が不快と思わなければこの条文には当てはまらない、というコトになります。
 つまり、該当するためには相手がまず「不快である」と言わなければならない、というコトなんだろうと思います。
 よって、人権委員会が独自に判断して、例えば「あまおちはエタヒニンのろくでなしだ」という書き込みがあったとしても、それだけをもって人権委員会が立ち入り調査を始めるというコトはないというコトです。
 仮にあまおちさんが「( ´_ゝ`)フーン」と言ってしまえば、少なくともこの条文には当てはまらないコトになり、立ち入り調査を始める口実にはならないコトになりますからね。
 
 以上まとめますと、3つ目の立ち入り調査の発動条件としては【特定個人への属性を理由とする差別的言動があり、その相手が不快だと表明した場合】となります
 
 
 では次に(ロ)です。
 (イ)と同様に、他の条の条文とくっつけた形で引用します。

 特定の者に対し、職務上の地位を利用し、その者の意に反してする性的な言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

 ここのポイントは「職務上の地位を利用し」と「性的な言動」と「相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの」です。
 まず一番大切なのは、この(ロ)は「性的な差別」だけを取り扱っているという点です。
 つまり、(ロ)だけを見ても、「あまおちはエタヒニンのろくでなしだ」という言葉は該当しないコトになります。
 また、「職務上の地位を利用し」というのも大切です。
 ただの友達関係での性的な差別は、ここの対象外です。
 
 まとめますと、「職務上の地位を利用した性的な言動差別」ですから、これを簡単に言いますと、セクハラですよね。
 例えば、電車の中での痴漢行為は、この条項には当てはまらないコトになります。
 当然刑法の法には触れる犯罪ですが。
 そしてこちらの方にも「相手を不快にさせるもの」という条文が入っていますように、つまりはですね、セクハラ的な言動であっても相手が嫌がってなければ、少なくとも立ち入り調査は行われないコトになります。
 スカートめくりをしても、まいっちんぐマチコ先生のような人相手なら、この条項には該当しないのです。
 
 以上、立ち入り調査の発動条件としては【特定個人への職務上の地位を利用したセクハラがあり、その相手が不快だと表明した場合】となります
 
 
 だいぶ長くなりましたが、これでやっと第四十四条に定める発動の2つの項目のうち「第四十二条第一項第一号から第三号」の部分の説明が終わりました。
 頑張って次の「前条(43条)に規定する行為」について見ていきましょう。
 
 第四十三条は、あるひとつのモノをねらい打ちした条文です。
 まずは引用しましょう。

 一 第三条第二項第一号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの
 
 二 第三条第二項第二号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをする意思を表示した者が当該不当な差別的取扱いをするおそれがあることが明らかであるもの

 またまた該当部分の引用が必要になってしまいますね。
 第三条第二項の引用です。

 一 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為
 
 二 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

 ごめんなさい、さらに「前項第一号」という指定が入ってしまいました。
 前項第一号とは、第三条第一項第一号の部分であり、最初の方に引用しました「公務員とお店の人が業務上に差別的な取扱いをしてはならない」という条項です。
 第四十三条一項の部分をまとめますと

 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者、業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為を助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの

 というコトになります。
 ちょっと難しい文章になってしまいました。
 しかし、さっき言いましたように、この部分はある存在をねらい打ちにした条文です。
 それは「部落名鑑」などと呼ばれるモノです。
 ひとつひとつ分解して解説していきましょう。
 
 まず「人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として」ですが、ポイントは「共通の属性を有する不特定多数の者に対して」という部分です。
 これは「部落民だ」というような感じの言動を指します。
 ただ「バカ」とか「アホ」といったような言葉ではなく、共通の属性を有する理由ですから、このようなあるカテゴリーを理由とする必要があるワケで、ここだけでかなり範囲が狭められていると言えるでしょう。
 
 次に「国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する者、業として対価を得て物品、不動産、権利又は役務を提供する者としての立場において人種等を理由としてする不当な差別的取扱いをすることを助長し」ですが、これはもう説明しましたからいいですね。
 「公務員とお店の人が業務上に差別的な取扱いをしてはならない」という意味です。
 
 最後に「不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為を助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの」を見てみましょう。
 長いですが、よく読んでみてください。
 「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書」とありますように、この条項では「文書のようなモノ」で「公然と摘示する行為」が該当するコトになっています。
 では何を文章によって表明する行為がダメなのかと言えば、「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報」です。
 これは「あそこの地域は○○という差別されている属性をもっている人の集まりだ」という情報の公開であるワケです。
 むしろそれ以外にはほとんど当てはまらない条文ですよね。
 
 このようなコトから、この条項に当てはまる存在というのは、まず部落名鑑ぐらいしか当てはまらないと言えます。
 他には「朝鮮人地域名鑑」なんてモノも、場合によっては当てはまる可能性はあります。
 そのためには、「公務員とお店の人が業務上に差別的な取扱いをしてしまいかねない文章」という条件が必要になってくるワケで、差別が明らかに目的な場合、例えば「この名簿を参考にしてここに住んでいるヤツは商品の売買を禁止しよう」などとまですれば、ここに該当するかと思います。
 結局は「不当な取扱い」をするかどうか、助長するかどうか、がポイントです
 また、これら以外であり得るとしたら、人種等には性的指向も含まれますので、「痴漢ビデオ所持者指名住所顔写真一覧表」なんてものがあったらアウトかもしれません。
 少なくとも現行法では「痴漢ビデオ」の所持そのものは合法であるワケですから、そのような性的指向を持っているという理由だけで、もしこの一覧表を見てJRや私鉄に「乗車拒否」をされそうなコトが明らかであれば、この文書の存在はこの条文に該当するコトになります。
 
 なお、間違えてはいけないのが、「痴漢犯罪者一覧表」ではないコトです。
 犯罪者は、これは犯罪を犯した者というカテゴリーであって、すでに「性的指向」を越えてますので、ここには該当しないと考えられます。
 つまり、そのような一覧を作って配布しても、少なくともこの法案には当てはまらないのではないかと思います。
 ただし、やえの考えでは、いくら犯罪者と言えども、刑に服し刑期を終えた後であれば、もはや犯罪者ではないのですから、痴漢的な性的指向を持っていたとしてもそれはやはり性的指向でしかないワケで、前科者というだけで差別的な取扱いをしてはならないと考えます。
 おそらく世論はそう考えないかもしれませんが。
 
 ちょっと話がそれましたが、まとめますと、立ち入り調査の発動条件としては、【部落名鑑やそれに類する文書の公開】となります。
 
 
 ついに最後です。
 残りの第四十三条第一項第二号の

 二 第三条第二項第二号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをする意思を表示した者が当該不当な差別的取扱いをするおそれがあることが明らかであるもの

 です。
 では最初から、他の条を引用した形で引用します。

 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として公務員とお店の人が業務上において差別的な取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをする意思を表示した者が当該不当な差別的取扱いをするおそれがあることが明らかであるもの

 前号と似ている部分が多い文章ですが、違うところは「差別的取扱いをする意思を表示した者が当該不当な差別的取扱いをするおそれがあることが明らか」という、表示した人が実際に行動するという部分です。
 前号の場合は、「文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為」を禁止している、つまり部落名鑑を公開する行為を禁止しているワケですが、当号の場合は実際に「差別的取扱いをする意思を表示した者が差別的取扱いをするおそれがあることが明らかな場合」に該当するコトになります。
 簡単に言うと、「部落の人は入店お断り」という張り紙を貼り実際に入店させない、という場合が考えられるワケです。
 
 ここについて「では『朝鮮人お断り』はダメなのか」という意見がよくあるのですが、これはやえはダメだと思います。
 人権擁護法案の中でダメという意味ではなく、現在の憲法法律の中においてダメだと思います。
 つまりそれは差別だという意味です。
 と言うと「朝鮮人は部屋を滅茶苦茶にして貸し主が被害を被る」と実例を出したりする人がいるのですが、しかしそれは「朝鮮人がやった」のではなく「朝鮮籍を持っている、ある人間がやった」のです。
 悪いのはその個人です。
 ですので、当然その個人に対し損害賠償やもしくは刑事訴訟も視野に入れて対処すればいいと思いますが、しかしその例だけを持って朝鮮人全体に当てはめて不当な取扱いをしていいというコトにはなりません。
 また「キムチ臭い」という理由を挙げる人もいるようですが、ならば契約書に「キムチを漬けるコトの禁止」とでもつければいいでしょう。
 悪いのは朝鮮人ではなくキムチ臭なのですから。
 また、キムチには人権擁護法の定める「人種等」には該当しませんので、この法案だけを考えれば問題はないと言えます。
 
 まとめますと、立ち会い調査の発動条件としては、【お店の人などが人種等の属性を理由として不当な取扱いをする意志を表示すること】となります
 
 
 これで以上です。
 では最後に、もう一度条件をまとめましょう。
 立ち入り調査が発動するためには、以下のどれかに該当する必要があります。
 
 【虐待】
 【公務・業務上において職務における差別的な取扱い】
 【特定個人への属性を理由とする差別的言動があり、その相手が不快だと表明した場合】
 【特定個人への職務上の地位を利用したセクハラがあり、その相手が不快だと表明した場合】
 【部落名鑑やそれに類する文書の公開】
 【お店の人などが人種等の属性を理由として不当な取扱いをする意志を表示すること】
 
 よくこの法案の反対論として、「人権委員会が差別だと認定だけで立ち入り調査が行われる」という感じのコトを言っているところがありますが、これはかなり恣意的な書き方です。
 少なくとも立ち入り調査が行われる場合というのは、かなり“限定的な差別行為”だけを対象としています。
 そしてどれも、現行法下においてもかなり厳しい差別行為ですから、「この法案が通るととんでもない世の中になってしまう」と表現するのは、適切ではないと思います。
 

平成20年3月4日

 人権擁護法案一問一答集 −三権分立−

 Q.人権委員会は三権分立から逸脱している。どこにも属していない。
 
 A.人権委員会は行政府の一員です
 
 どこから出てきたお話なのかさっぱりわからない、最も低次元なデマのひとつとしか言いようがないこの話ですが、ごめんなさい、三権分立を理解しているのか疑問にならざるを得ません。
 たまに「人権委員会は法務省の外局で三条委員会となり三権分立から独立している」なんて書き込みを見かけるのですが、すでにここで矛盾しているのに気づかないのでしょうか。
 人権擁護法案第五条を見てください。

 第五条 国家行政組織法第三条第二項の規定に基づいて、第一条の目的を達成することを任務とする人権委員会を設置する。

 「国家行政組織法」です。
 行政です。
 三条委員会は、いわゆる中央省庁である国土交通省などの「省」、国税庁などの「庁」、国家公安委員会などの「委員会」の委員会に類する組織であり、これらは全て行政府です。
 人権擁護法が施行されるとこれがひとつ増えるだけの話であり、それをもって巨大な権力だとか、どこからも抑制や監視を受けない警察以上の特高のようなモノだとか言っても、それが本当にそうなら、すでに各省庁そして委員会は全てそうなってしまいます。
 とにかく、三権分立から逸脱しているなんて、全く理解できないデマです。

 

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平成20年3月4日

 人権擁護法案一問一答集 −特定の者−

 Q.「特定の者」は法人も含むのではないか
 
 A.非常に微妙な問題であり、これはもしかしたら最終的に裁判所の判例が必要になる事案かと思います。
 ただし、法人を含んだところで、それが問題になるとは考えられません。
 
 具体的に「特定の者」に法人が含むかどうかのお話は、こちらのブログさんをご覧になってください
 非常に勉強になります。
 
 では、ここでは、仮にもし特定の者に法人が含まれる場合を想定してみたいと思います。
 
 もし「特定の者」に法人が含まれたとしても、「特定」であるコトには変わりないコトに気をつけてください。
 法人という人格が完全に特定できる形での言動のみが「特定の者」となります。
 すなわち、例えば「朝鮮総連」は特定の者と成り得ますが、「北朝鮮人」は特定の者とは成り得ません。
 
 それを踏まえて。
 特定の者がかかる立ち入り調査などがある特別救済では、第四十二条第一項第二号のイの規定である

  第三条第一項第二号イ(特定の者に対し、その者の有する人種等の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動)に規定する不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの

 の部分が一番気になるところだと思いますが、ここを具体的な例で言うと
 
 『あまおちは北朝鮮人であり、下等民族で生きている価値はない』
 
 という類の言動があたるコトになります。
 で、もし「特定の者」が法人である場合は、「あまおち」が法人名になるワケで、例えば
 
 『朝鮮総連は北朝鮮人であり、下等民族で生きている価値はない』
 
 という具合になるでしょう。
 ちょっと意味不明な文章になってしまっていますが、しかしでもこれ、普通にダメな言動ですよね。
 
 議論がごっちゃになってしまいがちなこの議論ですが、「法人が含む含まない」の問題と、「特定団体に対する正当な批判ができなくなるのではないか」という問題とは、全く別の議論です。
 「特定団体に対する正当な批判ができなくなる」という問題でしたら、それは「法人が含まれるかどうか」の問題ではなく、「言論の自由が阻害される」という問題となるワケで、それについてはこちらでも読んでみていただきたいのですが、つまりもし法人も含んだとしても、正当な批判への担保は別の部分で担保されているワケで、もしその正当な批判を越える、いまの法律のもとでも許されないような言動であれば、それは法人を含んだとしても含まないとしても、どっちにしても許されないと解するのが適切でしょう。
 
 「特定の者」は、発動条件の大きな柱であるというコトをここで書いてきましたが、なぜこれが大きな条件となり得るのかと言うと、「特定」という部分があるからです。
 不特定ではないという意味が大きいワケです。
 簡単に言えば、名指ししているかどうかであり、過去のここの文章も、それが条件的にけっこうきびしいと書いてあるハズです。
 「特定の者」の重要なのは「特定」の部分であり、「者」はそんなに重要視する必要性はないと判断します。
 
 よって、この議論の結果によって、この法案全体の解釈的には、何ら影響を耐えるコトはないと言えるでしょう。
 

平成20年3月4日

 人権擁護法案一問一答集 −「おそれ」だけで立ち入り調査?−

 Q.「おそれ」だけで、立ち入り調査や過料が下されるなんてとんでもない。
 
 A.その手の処分が含まれている特別救済に定められている「おそれ」とは、ある行為として形に表した後の結果として助長するおそれが出てくる行為であると言っているだけであって、実際に規制しようとしている行為は、最初の「形に表したもの」そのものに対してです。
 決して可能性だけをもって未来に渡る予想だけでその人を取り締まろうというモノではありません
 
 特別救済にかかる「おそれ」は条文の一部であり、一部だけを切り取って拡大解釈せずに、キチンと前後の文章を読んでください。
 該当部分は第四十三条ですが、例としてとりあえず、一条一項を書き出します。

 一 第三条第二項第一号に規定する行為であって、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの

 当サイトでなんども出てきているここの条文ですが、詳しい解説はこちらを読んでいただくとして、簡単に説明すると、ここは「部落名鑑」のようなモノを規制する条文です。
 具体的に言えば、例えば部落名鑑や匿名掲示板などで「○○地域は部落だ」とかいう書き込みがあったとして、これを放置したらそれを見た人が差別心を持ってその地域にあたるかもしれない、つまり「差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれ」が発生するかもしれないので、その書き込みや名鑑を取り締まろう、という意味になるワケです。
 
 よく整理して読んでください。
 規制するのは、名鑑や書き込みの方です。
 それを見た人ではありません。

 それを見た人が、では差別的な取扱いを将来にわたって行う可能性があるから見た人を取り締まろう、というモノでは無いのです。
 あくまでここの条文の対象は、部落名鑑を作った人やその手の書き込みをした人です。
 
 もちろんですが、もしその書き込みなどを見て本当に差別的な取扱いをしたら、それはそれで当然特別救済の発動条件となり得ます。
 しかしそれは第四十三条ではなく、四十二条第一項第一号に該当する言動です。
 しかも当然ですが、規制される時は実際に「差別的な取扱い」を行動として起こした時だけです。
 よって「おそれ」や「可能性」とは全く関係のない話なのです。
 
 繰り返しになりますが、可能性だけをもって未来に渡る予想だけで立入調査などの処分が行われるコトはありません。
 

平成20年3月9日

 人権擁護法案一問一答集 −間接強制−

 Q9.令状なしの家宅捜索や罰金30万円は礼状主義に反し違憲だ。
 
 A.これらは「間接強制」と言って、今でも行政が行う行為のひとつとして普通に存在します。
 もちろん違憲ではありません。
 
 まず、警察が行う家宅捜索と、行政が行う立ち入り調査は全く別物だというコトは知っておかなければならないでしょう。
 そして行政の行う「立ち入り調査」は、なにも人権擁護法案によってはじめて出てくる新しい概念ではなく、今でも現在進行形で存在する普通の手法です。
 例えとして出すと、独占禁止法を根拠とした公正取引委員会、公害紛争処理法を根拠とした公害等調査委員会、行動組合法を根拠とした中央労働委員会、児童虐待防止法を根拠とした都道府県知事、高齢者虐待防止法を根拠とした市町村長、所得税法を根拠とした国税庁などがあります。
 それぞれ細かいところで人権擁護法案とは違う部分がありますが、だいたい全て、立ち入り調査や証拠品の留め置き、そしてそれらを正当な理由無く拒否すると過料が科されるという間接強制と呼ばれるという手法を有しています。
 ちなみに公取などによる正当な理由無き拒否については、なんと懲役刑まで存在する厳しいモノとなっていますが、もちろん今でも普通に現在進行形で運用しているシステムです。
 
 また、間接強制については過去最高裁まで争われたコトがあり、最高裁も違憲ではないと判決を出していますので、これは明確に合憲と言えます。
 昭和47年11月22日、川崎民商事件判決です。

 ◆最高裁の判決
 憲法35条・38条は行政手続きに一切適用されないと解すべきではないが、目的、必要性、強制の程度等を考慮すれば、質問等拒否罪は憲法違反ではない。
 
 ◆その理由
 1 質問検査は、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものではない。
 2 強制の態様は、刑罰を加えることによって、間接的心理的に質問検査の受忍を強制しようとするものであって、相手方の自由な意志を著しく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度まで達していない。
 3 徴税権の適切な運用を確保し、所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するため、実効性のある検査制度は必要。
 
 (平成20年2月13日の自民党人権問題等調査会で法務省が出した資料より)

 やえも以前、立ち入り調査は拒否すれば過料が科される可能性はありますがそれでも拒否すれば無理矢理検査が強制的に行われるワケではない、というような趣旨のコトを書いたコトがありますが、最高裁判決でも「相手方の自由な意志を著しく拘束して、実質上、直接的物理的な強制と同視すべき程度まで達していない」と言っていますね。
 そしてそれが、警察の令状を取っての家宅捜索と違う点だと言えるでしょう。
 間接強制は合法的な仕組みであると最高裁も認めているワケです
 
 この裁判は所得税法による間接強制の是非についての裁判ですが、他にも間接強制はいま実際に存在し運営させているワケですから、よって間接強制の有無だけで人権擁護法案がダメだという論拠には全くなりません。
 もし間接強制がダメだと言うなら、それは日本の法律全体に対して、「間接強制はあるべきではない」と国会に向かって政治運動する必要があるでしょう。
 この手の話をひとつの法律だけに絞って言うのは適切ではありません。
 そっちは良くて、こっちはなぜダメなのかという、法の公平性の観点から、全く正当な理由とは成り得ませんから。
 よって、間接強制は現行法下・現行憲法下においては合法の存在であり、人権擁護法案の反対の論拠とは成り得ないワケなのです。
 
 ちなみに、勘違いしている人が多いようなのでついでに言っておきますが、30万円の過料は「正当な理由無く調査を拒否した」という理由に対して下される過料であって、人権侵害事件そのものには全く関係ありません。
 よく「人権侵害だと言われたら30万円の罰則が下る」という趣旨の書き込みがあったりしますが、これはまったくのデタラメです。
 例えば、調査の結果人権侵害が無かったという場合でも、正当な理由無く調査を拒否したら30万円の過料が下されます。
 過料の有無と人権問題は無関係です。
 
 また、過料を下す主体は裁判所です。
 人権委員会ではありません。
 裁判所が30万円の過料を下すに相当すると判断すると下されるワケで、人権委員会が30万円の過料を下すか下さないかを決定するワケではありません。
 
 繰り返しになりますが、立ち入り検査等の間接強制は、違憲ではありません。
 最高裁の判決もありますし、また実際に運用されているシステムでもあります。
 また、過料を下すのは人権侵害問題とは関係なく、その主体は裁判所であるのです。
 

平成20年3月12日

 人権擁護法案一問一答集 −報道規制?−

 Q10.国民に秘密で可決なんてとんでもない。マスコミ規制してまで通そうとするとは何事だ。
 
 A.最近既存マスコミでも普通に取り上げられているのですが?
 
 そもそもこの手の言及にはかなり多くの事実誤認が含まれている場合がほとんどです。
 まず、マスコミと政府が結託して、もしくは政府が圧力をかけてマスコミを規制しているなんていう陰謀論があったりしますが、そんなこと政府が出来るなら、参議院選挙で自民党が負けたりしなかったでしょう
 公的機関がマスコミに対して規制を掛けるなんてあり得ない話です。
 むしろ一般企業に対して行う規制や指導に比べたら、とんでもなくマスコミに対して出来る政府の権限は小さいモノでしかありません。
 合理的理由による指導や規制等であっても、マスコミが自ら騒いで報道するという形で、それが国民世論と一致して無くてもさもそうであるかのように見せかけて政府に圧力をかけて、出来るだけ介入を防ごうとするからです。
 これはむしろマスコミの横暴だとも言えるでしょう。
 
 また、もし本当に政府がマスコミに圧力をかけ、もしくはなんらかの取引があって今まで人権擁護法案について報道しなかったのであれば、今だって報道されないコトでしょう。
 陰謀論の多くは「ネットを規制したいがために、思惑が一致した政府とマスコミが手を組んでる」なんて言っているようですが、であるなら、ネットで騒げば騒ぐほどマスコミは一切報道しないようにするのではないでしょうか
 しかし実際は、大手の新聞社などすでにいくつか報道がなされているところです。
 ネットで騒いでいるから既存マスコミが徐々に報道し始めるようになったというのは、それが良い悪いはともかく正しい認識だと思いますが、であるならばはじめから陰謀など存在しなかった証拠でもあるワケです。
 
 もし、自分が思っているより既存マスコミが報道しないと言うのでしたら、それはマスコミに言うべきコトでしょう。
 そしてそれは、この法案に関する議論とは全く別問題であり、まして報道しないから悪い法案なんて言うコトは全く言えないワケです。
 
 それから、これは別のところでも何度か言及していますが、今行われている議論というのは、あくまで一政党である自民党の中で行われている議論に過ぎず、それは公的な機関で行われているモノではありませんので、公開の義務などはありません。
 法案の審議は、これは当たり前すぎてわざわざ言うのもなんですが、国会での行われるモノであり、国会で審議されてから法案は法律として成立するワケです。
 国会を経ない法律などは存在しません(少なくとも戦後出来た法律は)
 ですから、当然この人権擁護法案だって、もし自民党議論で結論を得られれば国会にて審議されるコトになり、その時には国民に対してオープンにされるコトでしょう。
 決して国民に対して法律化されるまで秘密にされるなんてコトはあり得ません
 
 もうひとつついでに言及しておくのですが、たまに「今回の自民党での議論は記者を閉め出して秘密裏に行おうとした」とか、よく分からないようなコトを言っている人がいるようなのですが、しかしもともと自民党で行われる部会などの議論は記者は入れません。
 例外的に幹部が了承して記者もどうぞという会議はたまにあったりしますが、自民党内での会議においてどっちが主かと言えば、記者は入れない方が通例です。
 慣例的な自民党の部会などでのマスコミの対応というのは、冒頭の会長(法務部会長とかその辺)のあいさつまで記者やカメラが入っての取材を許可し(これを「あたまどり」と言います)、その後マスコミ関係者は外に出され、会議が終わった後にマスコミが希望し執行部が了承すれば会議のまとめなどを幹部が記者に説明する(これを記者レクとかブリーフとかと言います)という感じです。
 まぁそれでも、会議が行われている部屋の扉とかに耳を貼り付けたり、マイクをくっつけたりして、中の会話を聞き取ろうとしている記者なんかけっこういっぱいいたりするのですが、とにかく、記者が中に入れないのはいつも通りであり、さも今回だけ特別に秘密裏に行おうとしたなんて言い方して悪印象を与えようとするのはフェアではなく、ただのレッテル張りだとしか言いようがありません。
 ご注意下さい。
 

平成20年3月12日

 人権擁護法案一問一答集 −法案説明−

 Q11.政府や賛成者が積極的に説明をすべきで、それをしないのはこの法案議論を隠しているコトに他ならず、やましいコトがあるのではないか
 
 A.そもそも一回の国会で成立する法律は100本近くあり、国民はその全てを詳しく知っていると言えるのでしょうか?
 
 公開すべきだという意味は、決して大々的にマスコミを通じてテレビや新聞などで宣伝しまくるという意味ではありません。
 国会の委員会や本会議の議事録は誰でもネットで見るコトが出来ますし、そもそも審議模様もリアルタイムでネットを通じて見るコトが出来ます。
 国民に知らせるという意味は、これらのコトを指し示しているのであり、積極的にマスコミを通じて説明しないというコトが「隠している」とは全く言えません
 そんなコト言い出したら、日本は秘密法ばかりになってしまいます。
 情報は公開されているのですから、知りたければ自分で情報を得るよう行動し、そして自分で考えるべきです
 
 もちろん、事前に政治家の先生方や役所が法案について説明するというのは、国民にとっては喜ばしいコトでしょう。
 しかし、それは決して義務ではありません。
 説明するというコトは、数字で例えると100点満点中150点だと言えるような行為であり、積極的に説明しなくても100点ではあるのです。
 よって「理解を得たいなら説明すべき」と言うのはその通りだと思いますが、「説明しないから悪法だ」と言ってしまうのは全くのデタラメ論法です。
 
 そもそも公的サービスや各権利などは、寝てても自動的に得られる安楽装置ではありません。
 特に国民主権の民主主義国家であるなら、国民一人一人が不断の努力でそれに努力し維持する必要が、義務があるのではないでしょうか。
 

平成20年3月24日

 人権擁護法案一問一答集 −ジョークまで許されない社会になる−

 Q.ささいなコトを言っても、それが人権侵害と訴えられて、何も言えなくなる社会になる。
 
 A.法案が通っても人権侵害の概念は変わりません。今ダメなコトはダメですし、今許容されるモノなら人権委員会が人権侵害と認定するコトはないでしょう。
 
 櫻井よしこさんがこのようなコトを講演で言われたそうです。

 例えば侮辱や嫌がらせは人権侵害とされています。
 どうでしょうか、ええと、私の年齢はバレてしまっていますので、もうここで今さら内緒にしようとは思いませんけど……。
 (会場から笑い)
 今笑った人たちに対し、「櫻井よしこの年を知ってて笑った」と私が感じたとしましょう
 「侮辱したんだわ。人権擁護委員に言わなくちゃ。私はこんなに一所懸命お化粧して、シワを隠してきたのに、笑った。人権侵害だ」
 これ、個人的な感情の問題ですね。嫌がらせ、どうでしょうね。ひとりの人に対しては褒め言葉であっても、他の人には嫌がらせととられることたくさんあります。その反対の事案もたくさんあります。
 人の心の内面に立ち入って、これを法律で罰則を科すなんて、あってはならないことなんですね。

 平成17年11月26日にチャンネル桜にて放送された講演の一部で、ちょっと古いモノで申し訳ないのですが、この法案によって出来る人権委員会はあくまで行政の一員であり、裁判所の判断を越えられるモノではないというコトを、桜井先生は全く忘れてしまっているところに問題点があります。
 人権委員会と同じ根拠法で作られている委員会、例えば公正取引委員会や公害等調査委員会、中央労働委員会など、これら全て同じように、行政権の範囲で認められている処分等を独自に出すコトができるのですが、しかし相手がそれに不服なら裁判所に訴えるコトはもちろん可能ですし、そしてもし行政と裁判所の判断が逆になったら、それは裁判所の判断が最終判断となります。
 3条委員会とはそのようなモノであるというコトをまず知っておく必要があるでしょう。
 
 その上で、もしこの程度の“ジョーク”を、今の社会でも許されないとされているのでしたら、人権擁護法案が施行されてもダメでしょう。
 でも実際違いますよね。
 この程度のコトを裁判所に訴えても、一笑に付されて終わりでしょう。
 もちろん法的に言えば、これは「侮辱罪」に当てはまるかもしれない案件ですし、国民にはすべからく裁判を受ける権利がありますから、訴えるコトそれ自体は出来ます。
 しかし、それでもって裁判で勝てるかどうかは全くの別問題ですよね。
 仮に本当に訴えたとしても、やえの私感を言えば、こんなの訴えても勝つコトなど出来はないでしょう、そして多くの人はやえと同じ感想を持っていただけると思いますし、おそらく桜井先生もそのように思ってこのような発言をなされたんだと思います。
 だからこそ、人権擁護法案が可決したところで、このような極端な例を出して「これも人権侵害とされるんだ」と風潮するのは、悪質なデマゴーグと言わざるを得ません
 可能性を言えば裁判はやってみないと分かりませんので可能性が0だと断言できませんし、断言出来る人はこの世にはいないワケですが、しかしこんな裁判で勝てないと多くの人が容易に想像できるモノまで、人権擁護法案だけを指して可能性があるなんて言って危険性を説くなんていうのは、とても悪質なデマだと言わざるを得ないのです。
 
 この手の人権侵害問題は、現行法下では、さっき言いました「侮辱罪」や、また「名誉毀損罪」などが当てはまると思います。
 これらは刑法ですが、民法の方にも「名誉毀損」という規定があります。
 で、よく人権擁護法案に対して「人権侵害とは人権侵害だとしか書いてなくて定義が曖昧だ」と言っている人がいますが、しかし現行法である侮辱罪はこれだけの規定になっています。

 刑法第231条(侮辱)
 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 たったこれだけです。
 ちなみに名誉毀損罪は

 刑法第230条(名誉毀損)
 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀(き)損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

 こうです。
 定義で言えば、「侮辱すれば侮辱罪」「公然と事実を摘示して名誉毀損すれば名誉毀損罪」としか書いてません。
 そしてこれらはどちらも、解釈次第でどこまでも広範囲に広げるコトが出来ますし、また人の心に立ち入るような性質のモノです。
 ですから、桜井先生のジョークも、文字だけを解釈してどこまでも当てはめようとすれば名誉毀損罪とかに当てはまらないコトもないのでしょう。
 でも実際の実社会ではそのようなコトはしません。
 それは、法律とは、決してそこに書いてあるだけではなく、憲法や他の法律、判例や慣習、そして常識など、これまで国家と国民が積み重ねてきた全てを加味して考えられるモノだからです。
 決してひとのつ法律の文章だけをもって全てを判断するコトはできません。
 法律とは常に曖昧さがあり、だからこそ裁判所という期間で人間たる裁判官が最終的な裁決を下すというコトになっているのです。
 
 そもそもこの侮辱罪や名誉毀損罪に比べれば、人権擁護法案の氏名公開などの処分がある特別救済に関してはかなり細かい規定が定められていますから、「○○と言うだけで訴えられる」という主張はむしろ現行法の方がはるかの可能性としては高いと言えます。
 この辺もキチンと整理して発言していただきたいところですね。
 
 長くなりましたが、よく「○○という表現は、これから人権侵害だと言われるようになる」なんて記述を見ますが、本当にそうなるかどうかは、現行法下のもとでの“常識”で考えてみるのがいいでしょう。
 いまでも許されないような言動は、人権擁護法案が施行されてもダメですし、許容されるモノでしたら大丈夫です。
 もちろん、今の常識でも許されないけど、裁判までは敷居が高すぎて救済されていないような事案に対しては、それを救わなければならないのは当然の話で、よって「現在放置されいる問題」までを含むという意味ではありません。
 あくまで今の常識の中で許される範囲かどうか、裁判を起こすかどうかは別にして、裁判をして裁判官がどのような判断を下すかを考えてみて欲しいと思います。