11日に自民党で人権問題等調査会が開かれ、その様子をお伺いしたところ、やえの思い違いをしていた部分があったみたいですので、その訂正と、今までの太田私案に対する中間的まとめと言いましょうか、整理をしてみたいと思います。
右も左も逝ってよし!!
バーチャルネット思想アイドルのやえです。
おはろーございます。
やえがなにを勘違いしていたかと言いますと、以前の更新で「旧法案の一般救済手続きに係る部分について、太田私案ではさっぱり切り捨てられている」というようなコトを言っていた部分です。
実はこれ半分くらい違っていまして、というのもやえは、太田私案ではいわゆる「話し合い解決等」しか法律の範囲内に定めていないのかと思っていたところにそもそもの間違いがありまして、実際よく太田私案を見てみますと、話し合い解決等以外にも救済手続きがあるんじゃないかと思われる書き方がされているのです。
と、ここで「あるんじゃないかと思われる」なんてイヤに曖昧な書き方をしたのですが、それは、でも話し合い解決等以外ではどのような方法で救済をするかというコトが、太田私案ではハッキリと書かれていないコトに起因します。
太田私案では人権侵害の規定を、「話し合い解決等」の措置のある人権侵害問題と、それ以外の措置のある人権侵害問題との2つに分けています。
しかし、「話し合い解決等」以外の措置の範囲である人権侵害問題に対してはその措置を、「現在でも行っている援助などの任意の人権救済の対象を」とこの程度しか書いていないので、具体的にはどうするかがハッキリとは分からないんですね。
まぁこれでだいたいどんな措置を取るのか想像は出来ますが、ただそれも、この太田私案全体に言えるのですが、この法案は法律の体を成していないので曖昧な部分多いですから、その辺はこれから具体的に明らかになっていくのでしょう。
とりあえず今は、こういう曖昧な書き方から想像していくしかないんだと思います。
よって、「話し合い解決等」の対象以外の人権侵害問題はほったらかしになってしまうとやえは言ってしまいましたが、それはちょっと適切な表現とは言えず、それ以外のある程度広い範囲の人権侵害問題も、この法律で扱うようにはなっています。
ただし、それが具体的にどのような方法かは今のところ不明ですし、また旧法案で扱う範囲よりは確実に狭まっているのは確かです。
さらに旧法案では特別救済手続きの範囲に含まれていたモノが、太田私案では「話し合い解決等」に含まれなくなってしまったモノもあります。
正直、この辺の変わり具合がよくよくやえの中で整理できていなかったために、思い違いをしていまいました。
というワケで、以下に、太田私案を出来るだけ分かりやすく整理してみたいと思います。
1.太田私案がカバーする人権侵害問題の範囲
太田私案がカバーする人権侵害問題の範囲は、大きく2つのグループに分けるコトが出来ます。
1つは、この法案(太田私案)の主題である「話し合い解決等」によって救済措置が取られる人権問題。
もうひとつは、話し合い解決等以外の、もっとソフトな救済措置が取られるであろう人権問題です。
1−A.「話し合い解決等」以外の措置が取られる人権侵害問題の範囲
・憲法14条が定める差別
・障害疾病による差別
・職務上の地位を利用して行う性的な言動
・優越的な立場においてする虐待などの人権侵害
・名誉棄損・プライバシー侵害
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ちなみに憲法14条は、このように規定されています。
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
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旧法案での一般救済手続きに関しては特に具体的な人権侵害問題の規定はなく、「人権侵害による被害を受け、又は受けるおそれがあるときは」程度しか定められていませんでしたが、太田私案では簡素な救済措置であろうとも、かなり具体的な規定が定められるコトになると言えます。
また、太田私案の補足説明資料にも書いてあるのですが、「任意の救済の対象から、“近隣の紛争”のようにいずれか一方が優越的立場にあるとは言えない類型を除外した」と、基本的にこの法案は、上から下に対する人権侵害問題だけを扱う法律になるようです。
旧法案では一般救済手続きなら「騒音オバサンも範囲に含まれると考えられる」とやえは解説したコトがありましたが、この太田私案では含まれないとされるワケです。
1−B.話し合い解決等の措置が取られる人権侵害問題の範囲
・公務員及び事業者・雇用主が行う差別的取扱い
・公務員が行う虐待、児童虐待、施設内虐待他
・反復して行う差別的言動
・職務上の地位を利用して行う性的な言動のうち、被害者を畏怖困惑させるもの
・差別的取扱いを誘発する差別助長行為、及び差別的取扱いの意思表示
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なお、虐待と差別的取扱いの違いをどう規定しているかにもよるのですが、虐待については公務員だけが範囲になってしまっていると読み取れ、この辺が旧法案と違う部分と言えます。
2.人権侵害問題に対する措置
人権侵害問題が起き、この法律で定められるであろう手続きを踏んで、正式にそれが「人権侵害」であると認定されれば、人権救済のための措置がとられるコトになります。
この法案では、以下の2種類の方法による救済措置が定められています。
2−A.「1−A」に対する措置
太田私案ではこの部分を「現在でも行っている援助など任意の人権救済措置」としか書かれていません。
ですので具体的にはハッキリと分からないのですが、多分おそらく、現行制度下の「主として法務省人権擁護局が行っている活動」のコトを指すモノかと思われます。
この範囲で言えば、強制性のある活動は一切無いと言えますし、逆に現場の方達からは、もうちょっと権限さえあればもっと救済できた事例はけっこうあるという意見が出ています。
どちらにしても、特に問題である措置とは言えないでしょう。
問題があるのでしたら、今現在でも問題が発生し続けているコトになります。
2−B.「1−B」に対する措置
太田私案では、この部分に関する人権侵害問題に対しては「「話し合い解決」等の対象となる」と定めています。
そして「話し合い解決等」とは、以下のように定めています。
事実の確認(調査)に基づく調停の仲裁・勧告・訴訟援助等を言う
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具体的には「仲裁」と「勧告」と「訴訟援助」というコトになるのでしょうけど、それ以上の具体的な措置については不明です。
が、旧法案などから想像するに、
・仲裁は、当事者を呼び集めて第三者が間に立ち、両者が納得するように仲直りさせる。
・勧告は、行政機関が加害者に対してそれ以上人権侵害をしないよう、場合によっては氏名公開などの罰則のようなモノを用いて、やめさせる。
・訴訟援助は、様々な理由から訴訟しにくい人の援助をする
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というコトになろうかと思います。
もちろん太田私案に明記されていない以上、氏名公開等の措置があるかどうかはハッキリとは言えませんが、少なくとも現行法では対処しきれない、もっと強い権限があれば対処できるだろうと思われている事案に対するモノであり、いまよりも「強い」モノになるのは確かだと言えるでしょう。
ちなみに後述しますが、調査は太田私案でもあると断定できるぐらいのようですから、氏名公開などの処分もおそらくあるのではないかと思います。
むしろ、でないと、なんのための調査であり、なんのための勧告措置なのかよく分からないですからね。
※補足
2−A−イ.現在の制度における法的根拠
現行法においては、法務省設置法において、法務省が「つかさどる事務」として「26 人権侵犯事件に係る調査並びに被害の救済及び予防に関すること」と定められていることから、法務省が人権問題系の事務を所管しているコトになっています。
しかし現行法では、法務省が人権問題を所管するコトは定められていても、具体的にそのためにどういうコトをして、どのような権限を持っているか、という部分については明記されていません。
一応いまでも、「人権擁護施策推進法」という法律もあるのですが、ここにも結局具体的な方策は全然書かれていないんですね。
よって現在では、「大臣訓令」というモノを根拠として、人権擁護行政は行われています。
一応訓令も「法令」の一部であるという考え方が主ですので、完全に法制度下以外の存在ではないとは言えるのですが、しかしやっぱり極めて曖昧なモノであるというのは、その通りだと言えます。
訓令は法律を基にしているモノですが、法律ではないのですから。
この太田私案には、近年の行政改革の流れに則って、この辺の曖昧さを正して、キッチリと法制化しようという狙いもあります。
この辺が整理できていない人がたまにいるのですが、簡単に言えば、法律は国会を通さなければ成立しないモノであり、一方訓令は大臣が「そうする」と言ってしまえばそれで定められてしまうモノであり、ここに厳密な違いがあります。
現実問題としては、訓令はそんなに軽いモノではないので、そう簡単に変えられるモノではありませんが、それでも技術論で言えば、わりと簡単に変えるコトも可能であるのが訓令です。
大臣の胸先三寸ですからね。
しかし法律は、そうではありません。
国会で審議するという大変さと厳密さは、いまこの人権擁護法案ひとつ例に取ったとしても、ものすごく大変であるというコトは簡単に想像できるでしょう。
つまり、国民の意思決定機関であり、国権の最高機関である国会という場においてこそ定められた最も重い法律によって厳密にキチッと決めようと、人権行政を変えるにしても国民にオープンにされる国会の場において議論しなければ変えられない制度、すなわち法律化させようというのが、太田私案の狙いのひとつだと説明がなされているワケなのです。
2−B−イ.調査と罰則的措置
太田私案には調査の中で「過料」についての規定が特にないのにも関わらず、なぜか「差別的言動に対する調査については、過料の制裁を除く」という一言があります。
これは逆に読めば、「差別的言動以外に対する調査には、過料の制裁がある」と読まなければ自然とは言えません。
よって、旧法案にあったようなも調査に非協力的である場合に対する過料の制裁が太田私案でも踏襲されていると読むべきでしょう。
これは旧法案の時の説明から繰り返しになりますが、未だに誤解されているようなので、敢えてここでもう一度取り上げます。
1.過料は、人権侵害問題そのものに対する罰則ではありません。
過料は、調査を妨げる行為に対して出すモノであり、例えば結果的に訴えられた事案が人権侵害ではないと結論づけられても、その調査を妨害してしまえば過料を科されるコトもあり得ます。
人権侵害問題と過料は別物だと考える必要があります。
2.過料は裁判所が下すモノです。
人権委員会などの行政機関がその意志によって過料を下すなんてとんでもないとよく言われているところですが、実際過料を下すのは裁判所です。
人権委員会の独断とは決して言えません。
3.こういう手法は「間接強制」と言い、裁判でも認められた正当な手法です。
詳しくはこちらで説明していますが、いまでも同様の手法が日本の制度の中に存在している以上、これだけを否定するコトはできません。
未だに「過料は令状主義に反している」と言っている人がいますが、ならそれは、裁判で争うしかない事例です。
そしてその裁判によって間接強制が違憲であると認められるまでは、日本の法制下においては合法です。
まして一度裁判で争われて合憲だと認められている仕組みであり、それなのに「自分は違憲と考えるからダメだと言ってしまうのは、「自分は民主党支持者だから自民党のもとで法制化された法律には従う必要はない」と言っているようなモノで、そんなのはただの我が儘に過ぎません。
間接強制そのものの制度についての是非を議論するコトは誰にも止められませんが、しかし間接強制は、それが含まれているからその法案がダメだと言ってしまうような根拠には、全くなり得ないのです。
3.制度濫用を防止するための方策
太田私案には、悪意を持って他人を貶めるためにこの制度を悪用されるコトをできるだけ防ぐために、以下のような方策をとると定めています。
イ.申し立てられる側に不利益となる措置は、その対象を、合理的に正当化できない行為(不法行為)に限定
ロ.勧告に対しては不服申し立てができる
ハ.特定の歴史観に基づく被害申し立て等救済の対象から除外すべき類型を列挙する
ニ.申し立てられる側が、申し立て自体を不当として対抗措置をとれることとする制度を創設し、同一の救済手続きの中で処理するものとする
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3−イ
不法行為とは法律で定められている用語であり、これが成立する要件としては、「故意・過失」「権利侵害(違法性の存在)」「損害発生」「侵害行為と損害発生との間に因果関係があること」「責任能力」「違法性阻却事由(違法性が正当化される理由)がない」というモノがあります。
不法行為という概念はけっこう難しいモノらしくて、またこれ勉強するためにはとっても大変な労力を必要としそうでちょっと勇み足なんですが、とにかくこの法案内で考えるべき大切なコトというのは、すなわち“あまりにもバカバカしい訴えは、不法行為ではないという理由で退けられる”と考えるコトが出来るというコトでしょう。
不法行為という言葉や概念は曖昧ですが、曖昧だからこそ現実の問題に対応できる概念とも言えます。
例えば、よくこの法案の議論の引き合いに出される、銭湯などの入れ墨お断りの看板はどうなのかという問題ですが、どこまでも厳密に「取扱いを差別的にしてはならない」と言葉通りに取ってしまえば、入れ墨お断りも不当な取扱いと言えてしまう可能性も否定できません。
しかしここで「不法行為」という概念を入れるコトにより、銭湯における入れ墨を理由とする入湯拒否は不法行為でないと現行法下でされているのであれば、太田私案における人権侵害ではないと宣言できるワケですね。
やえは不法行為に関してはまだまだ勉強不足なので間違っていたら指摘していただきたいのですが、実際問題として「入れ墨お断り」がここまでおおっぴらにまかり通っている現状を見れば、今のところそれは「不法行為ではない」と言えるモノなんだと思っています。
もしそれが不服であるのであれば、裁判によって是非が争われるべき事柄でしょう。
そしてこの法案における人権委員会の段階では、その是非は争われずに、不法行為ではからこの法律では扱われないと判断されるんだと考えられます。
また、もし裁判によってそれが不法行為だと認定されれば、今度は次から人権委員会でもそのように判断されるようになるでしょう。
ちなみに、「外国人入湯お断り」は、裁判によって差別的取扱いと判決されています。
よってこれは不法行為と呼べるモノであり、人権委員会でもそのように取り扱われるモノかと思われます。
3−ロ
これは旧法案においても、同様な制度が盛り込まれていました。
太田私案においてもこれと全く同じかどうかというのはまだ分かりませんが、もし全く同じだとしたら、なかなか良くできている制度だとやえは評価しています。
詳しくは、こちらをご覧下さい。
3−ハ
別紙として類型が記されていますので、書き出します。
救済の対象から除外すべき類型
次のような場合には、人権侵害の申出があっても、救済の対象から除外する事を法律に定める。
@ 申出の内容に、次のような事情が認められるとき
A 学術上の議論、歴史上の事象又は宗教上の教義についての見解を根拠・前提として被害を受けたと主張するもの
B 法令が憲法に違反する旨の見解を根拠・前提として被害を受けたと主張するもの
C これらのほか、その性質上、人権救済機関の調査・措置に馴染まないもの
A 不正な利益を得る目的、他人の名誉を毀損する目的その他の不当な目的でされたと認められるとき
B 被害が発生しておらず、かつ、発生するおそれがないことが明かなとき
C 名誉棄損については、公共利害事実に係わり、かつ、公共目的であったと認められるとき
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@のABによって、よく危険だと言われている例示は、ほとんどここで当てはまらなくなると言えるでしょう。
例えば従軍慰安婦や南京大虐殺問題とか、君が代斉唱の問題とかですね。
3−ニ
ここは簡単に言えば、反訴できるというコトでしょう。
いまの裁判制度においても、訴えるコトそれ自体を目的としているんじゃないかと思ってしまうような訴訟も残念ながらあります。
そして、悪意ある訴えを完全に無くすコトはなかなか難しい、おそらく不可能ではないかと思われます。
ですから、「その訴え自体が不当である」と逆に訴えるコトも出来るコトにしているワケで、その制度をこの法案でも取り入れたという形なのでしょう。
旧法案にはありませんでしたが、やえ的にはこれはこれでいいんじゃないかと思います。
制度濫用を防止するための方策全てに言えるコトですが、これらを導入したからと言って、濫用が0になるコトはあり得ません。
しかし、0にならないからといって制度がダメだと言ってしまうのも、あまり適切とは言えないでしょう。
なぜなら、裁判制度だってそうですし、全ての制度においてそれは同様だからです。
裁判だって、不当な訴えはあるでしょうし、冤罪だって残念ながら起きてしまいます。
だけどだからといって、裁判制度そのものを廃止しようというコトにはなりませんよね。
ここの問題というのは、そういう現実的な部分を勘案して、どう現実に対応していくかを考えなければなりません。
理想論だけではなんともならないというコトは、常に頭の中に入れておかなければならないでしょう。
4.その他特記事項
その他の特記すべき事項として、以下の3つがあります。
イ.「話し合い解決」等は委員会の責任で行い、随時民間ADRを活用する
ロ.報道機関については特別な取扱いをせず法の下に平等な扱いとし、「話し合い解決」等の対象とするかについては、将来検討課題とする
ハ.人権擁護委員については現行制度を維持する
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4−イ
これについては、やえは反対です。
この手の問題について、その決定に関わる場において民間が絡むというのは不適切だと思うからです。
おそらく今の制度のままで民間ADRを活用するコトとなれば、大阪弁護士会が絡む可能性が非常に高く、しかし大阪弁護士会というのは人権という言葉をタテにしてトンデモナイ勧告を過去に出したコトのある曰く付きの団体でもあります。
今はまだ勝手に大阪弁護士会が私的に勧告を出しているだけに過ぎませんが、もしこの法案が法律化されたあかつきには、それが権力を持って施行されるコトになってしまいます。
詳しくはこちらを読んでいただくとして、よってやえは、ここに関しては大反対です。
4−ロ
ここも、旧法案から後退した部分と言えます。
旧法案では、いわゆるメディアスクラムも人権侵害だと規定されていたのですが、太田私案ではさっぱり削除されてしまいました。
旧法案でも17年当時では凍結という形を取っていたので、実質的にはあまり変わりませんが、しかし後退は後退です。
残念な部分です。
5−ニ
結局、現行制度の維持というコトになり、このため、外国人は人権擁護委員にはなれないコトになりました。
やえは別にどっちでもよかったので、これならこれでもいいと思います。
太田私案の、いまのところのまとめは以上です。
とりあえず今のところ法律としての形となっていませんので、法制化していく中で、また新たな議論しなければならない事項が出てくるかと思いますので、これだけで全体をどうこう言うコトは出来ないと思います。
まずはこれらを踏まえて、また17年当時の議論も参考にしながら、丁寧に中身を見ていくコトが大切でしょう。