まず最初に言っておきます。
人権委員会という存在は政府系の公的機関であり、その行動には法律による制約が伴います。
それは公的機関・公務員全てに言えるワケで、例えば警察官は警察官だからこそ拳銃を合法的に持てるのではなく、警察官は拳銃を所持して良いと法律に書かれているからこそ持てるのです。
警官だからという理由ではないワケです。
法律に書いてあるからこそです。
これが「法的根拠」です。
そして公的機関である(と法案に規定されている)人権委員会も、出来るコトは法律に明記してあり、それ以外の行為は出来ません。
このように、公的機関のあり方というモノをまず理解してから、何ができる/できないを考えてもらいたいと思います。
では、具体的に、あるQ&Aに対して反論をしてみたいと思います。
これは、今回やえが4回にわたって人権法について書くきっかけとなったmixiでの騒動で、一番使われたのではないかと思われる文章です。
そしてどこで作られたモノかを調べると、「サルでも分かる?人権擁護法案」さんのところでした。
では中身を見ていきましょう。
※もし結果だけ知りたいという方は引用部分のQ&Aとやえが書いた
の部分だけ見てください。その上で理由が知りたい方はじっくりと中身を読んでください。
Q人権擁護法案って、どんなものですか?
A.人権委員会が、「これは差別だ!」と認めたものに罰則を課すことが出来るようになる法律です。 人権委員会が5名、人権擁護委員2万人によって作られ、被差別者、障害者などが優先して選ばれることになっています。
現在閲覧可能な情報によると、この委員会は法務省の外局として扱われ、地方ごとに構成員が配置されることになっています。
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まず、《「これは差別だ!」と認めたものに罰則を課すことが出来るようになる法律です》という言い方は適切ではありません。
人権擁護法案内で取り扱われる人権問題はキチンと定義されています。
特に「罰則」にかかるような人権問題は、人権擁護法案の中では「特別救済」にかかる問題になるワケですが、これはかなり厳密に定義されています。
詳しくはこちらに書いてありますが、とにかく、人権委員会は法律に則って行動を決めるワケであり、決して人権委員が全くの独断だけで「これは差別だ」と決定するワケではありません。
確かに最終的には人権委員会が「この案件は差別である」と認定するワケですが、しかし一番守るべきは法律であり、その辺は裁判所と考え方は同じであって、このQ&Aの言い方はかなり誤解を与える言い方でしょう。
次に《被差別者、障害者などが優先して選ばれることになっています》ですが、これは当サイトをよく読んでくださり、人権法はもうおなかいっぱいという方は、「またかよ」という文言ですね。
前回自民党で議論されていた中で提示された人権擁護法案には、いわゆる「団体条項」は削除されました。
よってすでにこの言い方は全く当てはまりません。
また、さらに言うのであれば、人権委員の方はこのような条項ははじめからありません。
この書き方では人権委員の方にも《被差別者、障害者などが優先して》がかかるような書き方と言え、たいへんに誤解を与えかねない文言と言えるでしょう。
次に、蛇足になりますが、人権委員会は厳密には確かに《外務省の外局》ではありますが、文化庁のような通常の外局とちがって、非常に高い独立性を有しています。
同じ権限で立てられている委員会に公正取引委員会がありますが、一応これも厳密には内閣府の外局です。
また同じように《構成員》も公取にも存在しますが、これはイメージ的には公務員・役人と捉えて問題ないでしょう。
実際公務員であるコトには変わりありませんし。
「公取委員」や「人権委員」は普通の役所では大臣などで、構成員は普通の役人だと当てはめて考えれば分かりやすいかと思います。
では、ここのQ&Aを正しく書き直します。
Q人権擁護法案って、どんなものですか?
A.人権委員会が人権擁護法に則って、人権に関する問題を行政の立場で取り扱い、時には行政処分も下せるようになる法律です。人権委員会は5名、人権擁護委員は現在活動していらっしゃる方を中心に2万人までで作られ、人権委員は総理大臣の任命など非常に民主的な選出方法が採られています。
現在閲覧可能な情報によると、この委員会は法務省の外局であり、公正取引委員会のように高い独立性を保ち、中央と地方ごとに公務員による構成員が配置されることになっています。
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Q.人権委員会が発足されるとどんな仕事をするんですか?
A.人権委員会は、人権侵害、そして「人権侵害を誘発・助長する恐れのある」発言や出版などに対し、調査を行う権限を持っています。もし人権侵害などが疑われた場合、委員会は関係者に出頭を求めたり、証拠品の提出、立ち入り検査を行うなどの措置を取ることができます。
また、委員会はこれらの措置に対し非協力的な者に対し、ある程度の罰則を課すことが出来る権限を持っています。
一番辛い罰則は「氏名等を含む個人名の公表」で、これが行われれば近所からの白眼視、職場や学校での寒い居心地などが待っているでしょう・・・。
差別と判断され冤罪(間違ってた)場合に、人権委員会がマスコミ等を通じて「間違ってました、ごめんなさい」という謝罪をする事は無いそうです
この委員会を抑止する為の機関・法律などが存在しないため、委員会による圧政が問題視されています。
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まず《人権委員会は、人権侵害、そして「人権侵害を誘発・助長する恐れのある」発言や出版などに対し、調査を行う権限を持っています。もし人権侵害などが疑われた場合、委員会は関係者に出頭を求めたり、証拠品の提出、立ち入り検査を行うなどの措置を取ることができます》ですが、この部分はかなり悪質に恣意的に文章を略していると言えます。
関係者の出頭や立ち入り検査を行う場合の人権問題はかなり厳密に定義されていまして、特に「人権侵害を誘発・助長する恐れのある」というような表現のある問題は、「部落名鑑」のようなモノに対する規制にかかる部分だけになります。
書き出すと長いので敬遠されがちなのですが、しかしこのように短く切りすぎて、どのような発言でも「誘発すれば立ち入り検査」と捉えかねない書き方は、たまにマスコミが使う卑怯なやり口と似ていてちょっと悪質なのではないでしょうか。
厳密には
人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為であり、これを放置すれば当該不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発するおそれがあることが明らかであるもの
となります。
おそらく多くの人が全部読んでも中々理解しがたいかと思いますが、ポイントは「当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報」です。
これでも難しいかもしれませんが、少なくとも、なんでもかんでも差別を誘発するような発言全てが立ち入り検査の対象ではない、というコトを理解していただければと思います。
なお、立ち入り検査についてはこちらで詳しく書いています。
次に《また、委員会はこれらの措置に対し非協力的な者に対し、ある程度の罰則を課すことが出来る権限を持っています。
一番辛い罰則は「氏名等を含む個人名の公表」で、これが行われれば近所からの白眼視、職場や学校での寒い居心地などが待っているでしょう・・・。》これですが、大きく誤解されている部分は、氏名の公開は、立ち入り調査等の措置に対して非協力的な者に課す過料ではありません。
ごっちゃになっているようなので、整理しますと
・立ち入り調査等に非協力的な者に対する過料は罰金などがあり、これは裁判所が課す
・氏名公開等は、人権侵害に対する行政処分
となります。
過料については、これはなにも人権擁護法案だけの特殊なモノではなく、いわゆる「間接強制」と言われる類の手法であり、公正取引委員会や国税局などにも与えられている権限です。
特に現行法下においては問題のない措置だとされています。
それから、氏名公開等の行政処分は、これは特別救済における措置なのですが、もちろんこれが発動するには法律に定められたいくつもの条件にひっかかる必要があります。
そして《これが行われれば近所からの白眼視、職場や学校での寒い居心地などが待っているでしょう・・・》とのコトですが、当然これぐらいの効果がなければ行政処分としての意味も抑止力もないでしょう。
この措置があるコト自体に問題があるとは到底言えません。
よって、この措置があるかどうかだけで法案の正否を問うコトなど出来はしないでしょう。
氏名公開等の措置についての詳しくはこちらをご覧下さい。
なお、自民党の議論の中で改正された法案では、氏名公開等をする際には、氏名等が公開される人の言い分もあわせて公開しなければならないコトになってします。
これは人権問題・言論の自由という観点から、かなり公平性を保っていると言えるでしょう。
むしろここまでくれば抑止力があまりないように思えるぐらいです。
次に《差別と判断され冤罪(間違ってた)場合に、人権委員会がマスコミ等を通じて「間違ってました、ごめんなさい」という謝罪をする事は無いそうです》これですが、これはまぁ確かに問題であると、やえも指摘しているところです。
ただ現実問題として、実際の裁判で冤罪が起きたとして、どこまで裁判所が裁判所として謝罪をしているのかというところはあると思います。
もしくは公取等の、同種の組織の場合とかですね。
その辺の、公的機関の今のあり方全体としての議論は必要だと思います。
ただし、人権委員会が間違いを起こして損害を被った場合には、国家賠償法による損害賠償請求は出来るコトを知っておく必要があるでしょう。
最後に《この委員会を抑止する為の機関・法律などが存在しないため、委員会による圧政が問題視されています》ですが、ちょっとこの文章の意図するところがわかりません。
当然すぎる話ですが、日本国憲法の支配下に置かれますし、他にも国家公務員法など、関連する法律には全て影響されます。
そして当然ですが、人権委員会は人権擁護法案を基準に行動がされます。
「圧政」とは何を指すのか分かりませんが、人権委員会は、他の類する委員会、例えば公取などと同じ存在であり、人権擁護法案を読む限り今ある組織となんら飛び抜けて権限が強い組織であるとは言えません。
ちょっと根拠のない、恣意的な文章ですね、ここは。
では、ここのQ&Aを正しく書き直します。
Q.人権委員会が発足されるとどんな仕事をするんですか?
A.人権委員会は、公務・職務上の差別的取扱いやその意思を表明する行為、特定個人への人種などを理由とする差別言動やセクハラ、部落名鑑のような文書の公開などに対して、氏名公開などの特別救済を行う権限を持っています。またその調査のために、委員会は関係者に出頭を求めたり、証拠品の提出、立ち入り検査を行うなどの措置を取ることができます。
またその調査に正当な理由無く拒否した場合、裁判所から過料を科すこともできます。
差別と判断され冤罪(間違ってた)場合に、人権委員会がマスコミ等を通じて「間違ってました、ごめんなさい」という謝罪をする事は無いそうですが、国家賠償法により賠償請求するコトは出来ます。
この委員会は、日本国憲法と法律により規定され、他の委員会と同じように行政の一員として組織されます。
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ごめんなさい、長くなったので一旦区切ります。
4回で収まり切りません、ごめんなさい(笑)
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(憧れの疑似トラックバック機能を期間限定お試しで付けてみました〜)
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