Q.ささいなコトを言っても、それが人権侵害と訴えられて、何も言えなくなる社会になる。
A.法案が通っても人権侵害の概念は変わりません。今ダメなコトはダメですし、今許容されるモノなら人権委員会が人権侵害と認定するコトはないでしょう。
櫻井よしこさんがこのようなコトを講演で言われたそうです。
例えば侮辱や嫌がらせは人権侵害とされています。
どうでしょうか、ええと、私の年齢はバレてしまっていますので、もうここで今さら内緒にしようとは思いませんけど……。
(会場から笑い)
今笑った人たちに対し、「櫻井よしこの年を知ってて笑った」と私が感じたとしましょう
「侮辱したんだわ。人権擁護委員に言わなくちゃ。私はこんなに一所懸命お化粧して、シワを隠してきたのに、笑った。人権侵害だ」
これ、個人的な感情の問題ですね。嫌がらせ、どうでしょうね。ひとりの人に対しては褒め言葉であっても、他の人には嫌がらせととられることたくさんあります。その反対の事案もたくさんあります。
人の心の内面に立ち入って、これを法律で罰則を科すなんて、あってはならないことなんですね。
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平成17年11月26日にチャンネル桜にて放送された講演の一部で、ちょっと古いモノで申し訳ないのですが、しかし、この法案によって出来る人権委員会はあくまで行政の一員であり、裁判所の判断を越えられるモノではないというコトを、桜井先生は全く忘れてしまっているところに問題点があります。
人権委員会と同じ根拠法で作られている委員会、例えば公正取引委員会や公害等調査委員会、中央労働委員会など、これら全て同じように、行政権の範囲で認められている処分等を独自に出すコトができるのですが、しかし相手がそれに不服なら裁判所に訴えるコトはもちろん可能ですし、そしてもし行政と裁判所の判断が逆になったら、それは裁判所の判断が最終判断となります。
3条委員会とはそのようなモノであるというコトをまず知っておく必要があるでしょう。
その上で、もしこの程度の“ジョーク”を、今の社会でも許されないとされているのでしたら、人権擁護法案が施行されてもダメでしょう。
でも実際違いますよね。
この程度のコトを裁判所に訴えても、一笑に付されて終わりでしょう。
もちろん法的に言えば、これは「侮辱罪」に当てはまるかもしれない案件ですし、国民にはすべからく裁判を受ける権利がありますから、訴えるコトそれ自体は出来ます。
しかし、それでもって裁判で勝てるかどうかは全くの別問題ですよね。
仮に本当に訴えたとしても、やえの私感を言えば、こんなの訴えても勝つコトなど出来はないでしょう、そして多くの人はやえと同じ感想を持っていただけると思いますし、おそらく桜井先生もそのように思ってこのような発言をなされたんだと思います。
だからこそ、人権擁護法案が可決したところで、このような極端な例を出して「これも人権侵害とされるんだ」と風潮するのは、悪質なデマゴーグと言わざるを得ません。
可能性を言えば裁判はやってみないと分かりませんので可能性が0だと断言できませんし、断言出来る人はこの世にはいないワケですが、しかしこんな裁判で勝てないと多くの人が容易に想像できるモノまで、人権擁護法案だけを指して可能性があるなんて言って危険性を説くなんていうのは、とても悪質なデマだと言わざるを得ないのです。
この手の人権侵害問題は、現行法下では、さっき言いました「侮辱罪」や、また「名誉毀損罪」などが当てはまると思います。
これらは刑法ですが、民法の方にも「名誉毀損」という規定があります。
で、よく人権擁護法案に対して「人権侵害とは人権侵害だとしか書いてなくて定義が曖昧だ」と言っている人がいますが、しかし現行法である侮辱罪はこれだけの規定になっています。
刑法第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
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たったこれだけです。
ちなみに名誉毀損罪は
刑法第230条(名誉毀損)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀(き)損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
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こうです。
定義で言えば、「侮辱すれば侮辱罪」「公然と事実を摘示して名誉毀損すれば名誉毀損罪」としか書いてません。
そしてこれらはどちらも、解釈次第でどこまでも広範囲に広げるコトが出来ますし、また人の心に立ち入るような性質のモノです。
ですから、桜井先生のジョークも、文字だけを解釈してどこまでも当てはめようとすれば名誉毀損罪とかに当てはまらないコトもないのでしょう。
でも実際の実社会ではそのようなコトはしません。
それは、法律とは、決してそこに書いてあるだけではなく、憲法や他の法律、判例や慣習、そして常識など、これまで国家と国民が積み重ねてきた全てを加味して考えられるモノだからです。
決してひとのつ法律の文章だけをもって全てを判断するコトはできません。
法律とは常に曖昧さがあり、だからこそ裁判所という期間で人間たる裁判官が最終的な裁決を下すというコトになっているのです。
そもそもこの侮辱罪や名誉毀損罪に比べれば、人権擁護法案の氏名公開などの処分がある特別救済に関してはかなり細かい規定が定められていますから、「○○と言うだけで訴えられる」という主張はむしろ現行法の方がはるかの可能性としては高いと言えます。
この辺もキチンと整理して発言していただきたいところですね。
長くなりましたが、よく「○○という表現は、これから人権侵害だと言われるようになる」なんて記述を見ますが、本当にそうなるかどうかは、現行法下のもとでの“常識”で考えてみるのがいいでしょう。
いまでも許されないような言動は、人権擁護法案が施行されてもダメですし、許容されるモノでしたら大丈夫です。
もちろん、今の常識でも許されないけど、裁判までは敷居が高すぎて救済されていないような事案に対しては、それを救わなければならないのは当然の話で、よって「現在放置されいる問題」までを含むという意味ではありません。
あくまで今の常識の中で許される範囲かどうか、裁判を起こすかどうかは別にして、裁判をして裁判官がどのような判断を下すかを考えてみて欲しいと思います。