というワケで、今日は日本の防衛的先制攻撃について考察してみたいと思います。
まず日本で軍事について考える場合、どうしても憲法の縛りがありますので、憲法的に法律的にどうなのかを考える必要があります。
例えばいくら軍事的に優れた技術や兵器が開発されたとしても、憲法によってそれが持てないとされていたら、日本ではどうやっても持てません。
立憲君主制であり法治国家である以上、そして民主主義国家である以上、憲法と法律は絶対です。
政治家だって憲法と法律があるからこそ権力や権限があるワケで、憲法や法律を破ってまで権力を振るうコトはできません。
では、防衛的先制攻撃は日本は憲法的に考えて可能かどうかですが、これは結論から言うと、可能です。
やえの記憶が確かなら、かなり昔に日本は防衛的先制攻撃が出来ると時の政府が政府見解として出していますので、憲法的にはこの行為は「専守防衛」の範囲内だと認められていると正式に言えます。
本来ならなら、その具体的な文言も紹介したいのですが、これがですね、確か戦後間もないぐらいの昔の話でして、ごめんなさい、ちょっと見つかりませんでした。
よって、それだけではなんなので、もうひとつ根拠を示しておきたいと思います。
今は農水大臣なのに、防衛省管轄のコトについて口を出しまくっても誰にも文句言われないかなり大臣としては希有な存在の、というか、もはや防衛関係では誰も口出しできなくなってしまった石破さんの、『国防』という著書からです。
今のところ日本は、敵基地攻撃能力を保有する意志をもっていません。ただ、仮にこれから東京に向けてミサイルを撃つぞという宣言があり、ミサイルに燃料を注入し始めてたということであれば、それを我が国に対する急迫不正の侵害に着手したとみなして、敵地を叩くことが法理論的には可能です。それは憲法違反でもなんでもないと整理されています。(石破茂『国防』新潮社134頁)
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石破さんがこの著書を出版された時は閣僚ではありませんでしたから、これをもって日本の正式な見解とするコトは出来ませんが、おそらく戦後最強の防衛大臣と言っても過言ではない石破さんの言葉ですから、まぁまずこの問題について日本はこういう解釈を持っていると言っても間違いないでしょう。
そしてこれはおそらく、さっき言いました戦後間もないころに出した政府見解のコトを指して、石破さんはこのように言っておられるんだと思います。
石破さんも著書によって、「自分はこう考えている」という書き方ではなく、「整理されています」という書き方からも、それが分かると思います。
石破さん、その見解を引用してくださればよかったのですが、『国防』には書かれていませんでした。
さて、とりあえずこれにより、少なくとも「防衛的先制攻撃」は日本でも可能である、というコトが分かりました。
では次に、日本はこの能力をハード的に有しているかどうかです。
これについては、やえはあまり詳しくないので、またまた石破さんの『国防』から引用です。
しかし実際にはそうした戦力を持つことを自衛隊は禁じられてきました。「攻めてきた敵から身を守るための武力だけあればいいでしょう。でも向こうまで出かけていって攻撃しては駄目ですよ」ということになっていたからです。
ですから、第一章で述べたとおり、自衛隊の持つF−15戦闘機には敵地攻撃能力はありません。それを言うと、政治家のなかにすら「世界最高性能の戦闘機じゃなかったのか」と驚く人がいます。確かに最高性能を誇る戦闘機です。一機百億円もします。でも、あくまでも敵の戦闘機を攻撃する能力が最高の戦闘機なのです。
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この文章は、この前の引用した文章の続きですので、「そうした戦力」とは、ミサイルの敵地を叩く能力のコトを指しています。
つまりですね、今の日本には、敵基地を叩く能力はまるで持っていないというコトになります。
世界最高峰の戦闘機を持っていたとしても、それはあくまで対戦闘機に対する攻撃能力を持っているだけで、対地攻撃能力は外されている戦闘機しか日本は持っていない、というコトになります。
もひとつ面白い文章を見かけましたので、ご紹介したいと思います。
元自衛官の人が2chにスレを建てたモノの、まとめブログのレスです。
135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/28(土) 20:26:38.38 ID:SdMFLabZ0
こういうの見たらカッコ良くて強そうに見えるけど
実際は竹島奪還も微妙なレベルなのか
http://www.youtube.com/watch?v=ru8E1fLA4Ps
>>135
用途が違うんだよー
戦闘機で言うとF(ファイター)はいるけど
B(ボンバー)とA(アタッカー)がいないんだ
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なかなか今の日本の軍力を端的に表している言葉だと思います。
もちろんこの方が本当に元自衛官の方かどうかの確証はありませんので、これだけを根拠には出来ませんが、様々な情報からすれば、これは妥当な表し方だとやえは思っています。
このように、今の日本には、敵基地並びに敵地を攻撃する術を持っていないのです。
では持てばいいじゃないか、という議論になると思います。
特に憲法ではそこを制限されていないのだから、ただ政府見解によって持たないとしているだけなのだから、見解を変えて持てばいいじゃないか、という意見があろうかと思います。
この言い方はスジは通ります。
よく注意しなければならないのが、憲法上その権利を持っていると解釈していても、政府はそれを行使しないと決めているモノもよくあるというコトでして、例えば集団的自衛権が有名で、これも集団的自衛権の行使は憲法違反ではないとされていますので行使するコトはすぐに可能ですが、日本政府はこれを使わないと公言しているので今は使えないと認識されているというワケになるのです。
ですから、憲法的にはOKだけど、今のところ使うつもりはないと公言している防衛的先制攻撃も、これを行使するべきだと言うのは、論としては成り立っています。
その上で、やえも、可能ならば、少しでも日本の防衛力が上がるなら、そういう能力を自衛隊が持ってもいいとは思います。
自衛隊の戦闘力が上がるコトに反対はしません。
でも、持つ場合でひとつ考えなければならないのは、現実的にはかなり敵基地攻撃能力は法的な問題で大きな制限があるというコトです。
例えば、さっきの石破さんの文章を読み返してみてください。
仮にこれから東京に向けてミサイルを撃つぞという宣言があり、ミサイルに燃料を注入し始めてたということであれば、それを我が国に対する急迫不正の侵害に着手したとみなして、敵地を叩くことが法理論的には可能です。
これ実は、かなり敵地を叩く場合の前提がきびしいコトが分かるでしょう。
この例を逆に言いますと、「東京に向けてミサイルを撃つぞという宣言」と「ミサイルに燃料を注入し始めてた」という前提がなければ、敵地を日本が今の憲法下では攻撃するコトが出来ないと言えるワケです。
では例えば、この前の北朝鮮のミサイル実験はどうでしょうか。
この場合、北は飛翔体のコトを兵器であるミサイルとすら言っておらず、もちろん日本に向けて発射するとも言っていませんので、もし今現在自衛隊が北朝鮮にあるミサイル発射基地を攻撃できる能力を持っていたとしても、防衛的先制攻撃は出来なかったと言えるでしょう。
またもし、何らかの事情で日本のミサイルが落ちたような発射体だったとしても、もちろん日本のMDで迎撃は出来ますが、少なくとも発射前まではミサイルとは北は言っておらず、日本にも向けていなかったため、ましておそらくミサイル本体には兵器的な能力は積んでいなかったと思われますので(あくまで今回は発射実験でしょうから)、防衛的先制攻撃は不可能だったとやえは思います。
現実はこうです。
やえが解釈するに、あくまで日本の今の憲法では「攻撃を防ぐだけの能力」に限られていますので、よって仮に日本が先制攻撃をするにしても、当然ですがそれは相手の攻撃力に対してだけに限られますし、またその攻撃力が日本に対して向かっていると確証出来る場合のみに限られます。
これは相当きびしい制限です。
例えば北朝鮮がミサイルの燃料を注入しているのが確認され、また核弾頭が積んでいると確認されたとしても、それが日本に向かっていると確証が得られなければ、自衛隊が攻撃するコトは出来ないと言えます。
これが、アメリカに向かっていると確証が得られれば、集団的自衛権が認められていれば攻撃も出来るかもしれませんが、しかし現実的にはどうでしょうか。
日本に向けたとしてもアメリカに向けたとしても、いちいち第一発目をどこに撃つかなんて、昔の武士の一騎打ちじゃあるまいし、敵が宣言するでしょうか。
もし北が本気で日本に攻撃を加えたいと思うなら、いちいち宣戦布告をせずに、出来るだけ不意を突く形で攻撃をすると思います。
その場合、日本は果たしてどれぐらいの精度で日本に向けて発射すると確証が持てるでしょうか。
やえはかなり難しいんじゃないかと思います。
(つづく)