一部では、「政府見解を遵守しないコトと、業務に従わなかったコトとは別だから問題ない」というロジックで田母神発言を擁護しようとしている言説が見受けられますので、それは違うコトを今日は説明しておきたいと思います。
中には、国歌斉唱の時に起立をしなかったり歌わなかったりする教師は、業務命令に従わなかったから問題なのであって、田母神氏の問題とは別問題だと擁護している人がけっこういたりするのですが、これは政府見解を遵守するというコトを業務だと思っていないコトから発生した勘違いと言えます。
政府見解を守るとは、これも公務員にとっては大切な業務であるというコトを認識しなければなりません。
政府見解とは一体どういうコトなのでしょうか。
それは「日本政府はこう考える」という、“ものの考え方”を公にするコトです。
日本政府としてはこの問題はこう解釈しあの問題はああ考えていると示すコトであり、つまり法律制定や条約締結のような何か形が残るようなモノを作ったり約束したりするモノではなく、これは最初から最後まで観念的な問題であるワケです。
ですから、ここでまず机上での仕事や、窓口業務や、また教師の仕事などといった、形として見える業務と、政府見解を遵守するというモノとは確かに違います。
しかしだからと言って、政府見解を遵守するという行為が公務員としての業務ではないとは言えません。
例えば、一般人や、外国人からでもいいでしょう、公務員が仕事中に電話か何かで「日本政府は先の戦争についてどう考えているのか」と聞かれた場合、どう答えるのが公務員としてのあり方でしょうか。
それはもちろん日本政府の公式的な見解を述べるのが当然の行為です。
もしいきなりここで、「日本の過去の戦争は正義の戦争だった」とその公務員の一個人の考え方を述べ始めるというのは、甚だ不適当です。
いくらその公務員個人がそのような考えを持っていたとしても、公務員として働いている間は、政府の見解を述べるのが当然です。
前にも言いましたように公務員はあくまで手足であって、独断で判断するコトは許されないのですから、公務中である以上は、ある意味、他の見解が存在するコト自体があり得ないと言えるワケです。
ですから、最低でも「政府見解の通りでございます」と言うぐらいは業務的義務として履行しなければなりません。
政府見解を遵守する。
これは公務員としての業務であり義務なのです。
一私企業だって、ものの考え方というモノが業務に直結するコトもあるでしょう。
例えば「○○社はチームマイナス6%に協力しています」と謳っている企業があるとしましょう。
しかしその社員が、その社員であるコトを明かして堂々と「こんな取り組みをしても無駄なだけだ」と言ったとしたら、それはその会社のイメージ戦略を損なう行為ですから、業務違反と言われても仕方ないでしょう。
もし主張がしたいのであれば、匿名でするか、それとも社内の会議の中で内部的なコンセンサスを得る方向で自分の意見を述べるべきです。
これが民間の話で、仮に結果的に会社の売り上げが上がったのであったら、笑い話で済むかもしれません。
しかし国家の仕事はそもそも物を売るのが仕事ではないですから、更に複雑です。
時に国家は、ものの考え方そのものが仕事になるコトも少なくないワケです。
例えば国境問題なんて、かなり観念的な問題と言えるでしょう。
日本政府としては、北方領土も竹島も「日本の領土だ」と言うのが公式的な見解です。
よって、政府の一員である公務員は皆等しく「北方領土や竹島は日本の領土」と、立場を背負っている場では主張する義務があるのです。
拉致問題もそうでしょう。
日本政府としては、横田めぐみさんや他の拉致被害者は生きているという前提のもとで、いま北朝鮮と対峙しています。
それなのに例えば外務省高級官僚が、「竹島は日本の領土じゃない」とか「北が死んでるって言うんだから死んでると認めた方が交渉しやすいのではないか」とかいう論文を公務員の肩書きで発表したら、どうなるでしょうか。
その官僚はアジア担当ではないし、普段の業務はキチッとやっているから問題はないと言えてしまうのでしょうか。
選挙を経ていない、国民の意思を経ていない人間が、自分一人の個人的感情で国家を背負ってはならないのです。
国家を背負って意見が言える人間は、選挙を経た議員という存在だけなのです。
政府の見解というのは、政府の考え方なのですから、政府の一員がそれを外に向かってその通りに発言するコトが業務です。
しかし田母神氏は、聞かれて答えたのではなく、さらに聞かれてもいないのに自分から進んで政府見解と違うコトを公務員として発しているワケで、これはもう業務命令違反というレベルを超え、背任行為とも言える行為だと言えてしまえるワケなのです。
何度も言ってますが、田母神氏がそう主張したいのであれば、完全に匿名で行うか、もしくは内部会議、もしくは大臣に直接進言して政府見解を変えるよう働きかけるかをすべきでした。
幕僚長という立場にあったのですから、大臣に進言する機会はあったでしょうし。
もしくは政治家になるか、ですね。
田母神氏は、政府見解を守るという公務員としての最低限の業務すら破ったからこそ、更迭されたのです。
そこを勘違いしてはいけません。