完全自殺マニュアル

 『完全自殺マニュアル』
 オレも持っている。
 発売されたときに、すぐに買ったものだ。
 もちろん自殺するためではない。
 東京都が「都青少年の健全な育成に関する条例」によりこの本を18歳未満には売らないようにするらしい。
 理由は、著しく自殺や犯罪を誘発する恐れがある図書ということで、不健全図書の対象となる、らしい。
 バカらしい。
 石原慎太郎という作家の知事がやることとは思えない。
 もちろん、言論の自由だとかそのようなことを言うつもりは毛頭ないのだが、しかしこれは「『自殺マニュアル』のせいで自殺が増えている」と責任転嫁しているに過ぎない。
 別に東京都のせいで自殺者が出ているわけもないが、さらにこの本のせいのはずがない。
 本当に東京都青少年問題協議会とやらは、この本をちゃんと読んだのだろうか。
 石原都知事も読んだのだろうか。

 この本の内容は、自殺のやり方というものを客観的に捉えて解説しているだけなのである。
 自殺した場所にこの本があったということをテレビなんかは、「『自殺マニュアル』による自殺」などという、全く持って責任転嫁も甚だしい、自殺した理由も自殺者の尊厳さえも失するような報道をしている。
 自殺した理由を『自殺マニュアル』のせいにし、なぜ自殺者は自殺したのかを考えようとせず、自殺したという自殺者の意志をも踏みにじる、愚かな報道だ。
 悩みも何もない人間が、『自殺マニュアル』を読んだから死のう、なんて思う人間がいるはずがないではないか。
 この本を読んで死んだ人間は、元々自殺する理由があっただけである。
 もしこの本を読んだという理由だけで自殺した人間がいるとしたら、そいつは非常に危ない。
 なぜなら、『ドラえもん』を読んだら頭に竹とんぼを付けて飛ぼうとするだろうし、『キテレツ大百科』を読んだらボールやなんやらでロボットを作ろうとするだろうし、『ドラゴンクエスト』をやったら竜王を倒すために旅に出て魔法なんかを覚えようとするだろう。
 こんな危険なヤツは早く保護してやれ。
 現実的に考え、それが自分にとってどうなのかを考えてから人間は行動する。
 だから、お料理マニュアルを読んで創作料理を始めた人間は、元々料理が好きか興味を持っていた人間であり、『巨人の星』を読んで野球を始めた人間は、元々スポーツをするのが好きか、したいと思っていただけなのである。
 自分にとってどうなのか、これこそが本当の動機であり、元々料理が嫌いな人間はいくらマニュアルを読んだところで料理はしないし、スポーツをするのが嫌いな人間は『巨人の星』を読んだところで野球はしない。
 だから、自殺したくない人間がいくら『自殺マニュアル』を読んだところで自殺はしないし、する人間は元々別の理由があるからこそ自殺したのだ。
 東京都もマスコミも、人間の意志というものを全く無視しているし、何より人間の命を軽く見過ぎている。
 本を読んだぐらいで捨てる命なのか。
 「いじめと自殺」でも書いたが、“他人の命”は軽くなる一方だが、それに反比例するかのごとく“自分の命”だけは重くなってきている。
 命を軽くしているのはお前らではないか!!東京都やマスコミ!!

 確かにこの本、ちょっと肩を押すぐらいの効果はあるかもしれない。
 しかしだからといってこの処置はやはり責任転嫁でしかない。
 『自殺マニュアル』のせいで自殺が増えると都やマスコミははっきりと言っている。
 なんだそれわ。
 そんなバカげたことする前に、本当の自殺者の動機を考えろ。
 何も考えのないケツが青いガキが「一番悪いのは社会のせいだぁぁぁ。オトナが汚いんだぁぁぁ」と言ってるのと同じだ。
 それとも、本の三次的影響まで責任を取れというのか。
 だったら、
 賭け麻雀するマンガはいいのか?
 ヤクザ映画はいいのか?
 暴走族マンガはいいのか?
 読者がどのように受け止めるかは読者の責任であり、それまで作者の責任にしていたらキリが無い。
 オレは、安直に不良や暴走族をカッコイイなどと描写するマンガの方を取り締まって欲しいよ。
 作家である石原慎太郎氏がこれを分からないとは思えないのだが。

 暴走族なんかは、それを肯定するかのような空気によってやっているという部分が多いだけに取り締まった方がいいと思うのだが、『自殺マニュアル』なんか、自殺がカッコイイなんて空気を作っている本ではない。
 自殺を否定せず肯定している部分も確かにあるが、しかし大体、空気なんかで自殺が出来るか。
 問題の根本的な原因を考えろ。
 それをせず、安易に敵を作りだしそれに全ての責任を擦り付けたところで問題が解決するはずがない。
 それはサヨクが旧日本軍を完全悪に仕立てたのと全く同じではないか。
 なぜ愛国者である石原氏がそれを分からない。
 しっかりと問題を本質から見つめて正面から捉え、それを根本から正そうとしろ!!

補足1
 この文章が載った時点ではまだ有害図書に決まったわけではないので、もし石原氏の英断により撤回された場合は、それを付け加え、石原氏に対する文章はもちろん削除します。
 しかし少なくとも東京都青少年問題協議会やマスコミなんかは有害図書と認定しているのでこの原稿全てを削除することはありません。

補足2
 「善悪の判断が付かない子供に対しては規制すべき」という反論が来そうなので先に言っておく。
 そんな子供は『自殺マニュアル』は読めない。
 漢字や言い回しや単語等が難しいからだ。
 こんな事言い出したらキリない。子供が読んだら危ないだろうとかエロいだろうとか、そういう本はいくらでもあるし、そういうのは難しいからある程度大人になるまで読めない。
 大体、問題の根本は「善悪の判断が付いていない」せいであって、小学生の高学年にでもあれば善悪の判断ぐらい付く。
 幼稚園児なんかに『自殺マニュアル』が読めるわけないだろ。
 なんでもかんでも形に現れる規制ばかりで社会が成り立っているわけではない。
 そんなことも分からないヤツが少年法などという犯罪推奨法を作るんだ。
2000/11/15

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