全日と新日の住み分け

では、全日と新日のプロレスリングの違いを説明しよう。
まず、全日本プロレスから。

全日のプロレスを一言で表すと、
「リング上での試合を魅せるプロレス」
である。
まぁ、これだけ見ると普通のスポーツと同じような感じを受けるが、プロレスというものはそれだけではない。
詳しくは新日の説明の時に書くが、プロレスとは、
リング上での試合、会場でのマイクアピール、リング外での行動、マスコミへの対応、等
これら全てがプロレスリングなのである。
つまり、全日とはこの「リング上での試合」を最も重視した団体なのだ。
全日創立者であるあの馬場さんの理想であり、全日の合い言葉は
「激しく、楽しく、明るいプロレス」
であったが、まさに全日はこれを実践してきた。
基本を押さえたグラインド技、玄人好みの駆け引き、見る者全てを魅了する激しい大技の攻防、
まさに、
「マットの上での激しい技の応酬を、その試合しか見ていない人でも心に響くような試合をする」
であり、前社長であった三沢光晴とそのライバル小橋健太の試合を解説していた馬場さんがその試合に感動して涙を流した事もあった。
全日はレスリングを通じて感動をファンに与える。
これらのことが全日を「王道」と呼ばれる所以の一つなのだろう。

次に新日のプロレスを説明する。
新日を一言で言い表すと、
「レスラー個人個人のストーリーを魅せるプロレス」
である。
上での説明を用いると、
親日は「リング外での行動」を主に重視した団体なのである。
全日を感動させるプロレスとするならば
新日は「見る者をワクワクさせる面白いプロレス」なのである。
プロレスはレスラー対レスラーが対決するもので、そのレスラーとレスラーがなぜ、どのように戦うのかその間のストーリーを盛り上げ、その結果としてリング上での試合がある、というプロレスリングをするのが新日である。
それを簡単に説明してくれたのが、先日の十数年ぶりのゴールデン時間のプロレス中継であった、テレビ朝日の「橋本真也負けたら引退スペシャル」である。
今やテレビで露出しまくっている小川直也との対決の時、なぜ小川と戦うことになったのか、なぜ引退をかけなければならなかったのか、そういうストーリーを作り上げ、存分に盛り上げて、そして結果の試合が行われたのだ。
余談だが、この「プロレス」はまだ続いている。
試合に負けたために引退を表明した橋本の今後の動向は、まさにプロレスリングなのである。
ファンは、「このレスラーとレスラーが戦ったら面白いだろうなぁ」とか「このレスラーは次はどんな行動に出るんだろうか」というふうに、そのレスラーの行動や言葉を楽しみ、次の動向や試合に期待しワクワクするのである。

もちろん両者共にそれだけではなく、全日だってストーリーを作らないわけではないし、新日だってリング上での戦いが面白くないわけではない。
それぞれの特徴が良く出ているのだ。
そしてこの二団体は、大きく分けて2つの違うプロレス楽しみ方を分け合うことで共存し、住み分け、共にメジャー団体としてプロレス界を守り、リードしてきたのである。

これを理解すれば、いかに今回の全日分裂事件が大きな事か分かってもらえると思う。
もしかしたら「全日のプロレス」が消えてしまうかもしれないのだ。
中には全日と新日が合併して日本プロレス(*1)再来か、とか思う人もいるかもしれないが、しかしそれは「全日プロレス」と「新日プロレス」の融合ではなく、新日の吸収であって、「全日流プロレス」の消滅である。
全日本隊はもちろん「馬場イズム全日プロレス」を続けるのだろうが、オレは「三沢派」にも、時代に合わせて演出など派手になるのもいいし、どんどん三沢の理想に近づくために改革を行ってもいいけど、プロレスリングの基本には「全日流プロレス」を継承していってほしいと思っている。

(*1)馬場さんが作った全日本プロレスと猪木が作った新日本プロレスとに分かれる前に、力道山が主催(?)していた当時の日本唯一の団体
2000/06/24

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