橋本、独立

 橋本真也、新日がクビに。
 確かに予想は出来たものの、しかしまさか本当にこのような事態になるとは思わなかった。
 あの柔道王・小川に敗れて以来、引退を表明し、テレビ朝日系の番組「スポコン」のコーナーによって涙の復帰を果たし、それから自分の道を模索していた橋本。
 その中で「ZERO」という道場を作り、三沢率いる「NOAH」にも参戦すると表明するなど、“新日離れ”の言動を繰り返していた。
 それを受けての新日からの解雇通告。
 多分、新日の社長である藤波は最後まで橋本をかばっていたのだと思うが、やはり社長という立場から、かばいきれなくなったのだろう。

 橋本真也はあの猪木の闘魂を最も色濃く引き継いだ男である。
 最強を目指し、「破壊王」と名乗り、異種格闘技戦も数多くこなしてきた。
 しかし逆に言うと“猪木離れ”が出来なかったのではないだろうか。
 確かにそんな簡単に離れられる存在ではない、アントニオ猪木という存在は。
 しかしプロレスラーなら自分の道は自分で切り開くしかない。
 それこそ「偉大なるレスラー」の道なのである。
 道場ZEROを設立したとき、猪木事務所所属の藤田がスパーリングの相手をしたり、猪木が年末に開催すると言われているイベントに出ないかと誘われていたり、あの小川からもUFO(*)に来ないかと誘われたりと、橋本はやはり猪木離れできていない。
 だから、橋本はプロレスラーとしてもっと開花するためにも是非NOAHに参戦して欲しい。
 確かに猪木プロデュースの試合に出てもいいのだが、猪木は不死身ではないし、もし猪木の跡を継ぐとしても、それは橋本には不可能だ。
 あの猪木の行動全ては、猪木でしか出来ないからだ。
 全ては猪木というオーラ、カリスマのみで為し得てきたことだからだ。
 そこに早く橋本は気づいて欲しい。
 橋本がどう頑張ったって、猪木になれるはずもないし、橋本は橋本でいいモノを持っているのだから、橋本カラーを早く全面に出して欲しい。
 日本では猪木が始めたと言っても過言ではない猪木純正異種格闘技に身を投ずるのか、馬場が作った純粋なレスリングスタイルを現在最も色濃く残しているNOAHに身を投ずるのか、両極端だが両極端だからこそ橋本が求める「何か」を見つけられるのかもしれない。

 しかし、新日としてはこれで本当にいいのだろうか。
 この解任劇は、はたしてプロレスと取っていいのか、それとも政治と取らなければならないのか、迷うところである。
 但し、橋本は元々独立しようという動きを自らとっていたためこれもプロレスと取って良いのかもしれない。
 しかし果たして本当にこれで良いのだろうか。
 今の新日のトップは三銃士世代である。
 だが、三銃士も現在新日のマットに上がっているのは蝶野だけである。
 橋本は解任され、武藤はアメリカに戦場を移している。
 武藤はいつか日本に帰ってくると思う。帰ってきて欲しい。
 それでも、三銃士は三人そろって三銃士だ。
 健介では荷が重い。
 今はまだT2000が引っ張っている。
 G−EGGSも確かに頑張っている。
 しかしこれはやはり第三世代と呼ばれるレスラーの戦いであり、蝶野が少々浮いてるとも言える。
 まだ長州がトップを張っていた時代の三銃士は輝いていた。
 はっきり言って、現在の第三世代なんか比べものにならないほど輝いていた。
 猪木の闘魂を最も引き継いでいる「破壊王」橋本真也、プロレスを最も愛し最も華やかだった「魅せる天才」武藤敬司、この二人に比べて見劣りしていたがそれでもMr.G1と呼ばれ夏男の異名を取った「悩める参謀」蝶野正洋。
 もちろん参謀役としてのクレバーさを発揮しヒールに転向してからの蝶野の活躍は言うまでもないだろう。
 この見事に色分けされた個性が見事にマッチした三銃士は本当に輝いていた。
 さらに、その下に位置していた馳浩と佐々木健介が微妙な味付けとしてさらに三銃士を引き立てていた。
 しかし今の状況を見てみれば、橋本はいない、武藤もいない、馳も新日から離れた。
 蝶野が頑張り、健介は無理をしている。
 健介は元々トップの位置には似合わないレスラーなのである。
 確かにT−2000を初めとした軍団抗争は面白い。
 しかしその中で世代闘争が無いと、下のレスラーは伸びないのである。
 今の新日にはその壁となるレスラーがいない。
 藤波をはじめとする昭和レスラーはすでにその力はなく、蝶野、健介だけでは軍団抗争を主としている現在の状況ではそんなことをやっている状況でないのだ。
 国会議員となった馳はともかく、三銃士+1がいてこそ、軍団抗争の中に世代抗争も同時に出来るのである。

 今新日では、三銃士世代を飛び越えて、第三世代をトップに出そうとしている。
 しかししかし、彼らでは新日を引っ張ることは出来ないし、まだまだ、輝きが足りない。
 レスラーには、上の世代を突き破っていく姿とその物語を背負わなければトップレスラーにはなれない。
 逆境を乗り越えてこそ人を感動させることが出来るからである。
 今のT−2000とG−EGGSは対等である。
 これでは、まだまだ彼らがトップを張るにはほど遠いだろう。
 今新日では、全日という大きなイベントが待ちかまえているので、それが終わるまでにはこの問題をどうにかしなければならない。

 オレには橋本と武藤の復帰がなければ新日は危ないと思う。
 もう一つ切り札があるにはあるが・・・。

(*)猪木が設立した総合格闘技団体。小川らが所属。
2000/11/14

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