☆性犯罪前科者にGPSを義務化させるという問題☆

 問題だらけの性犯罪者にGPS義務化 / 問題だらけの性犯罪者にGPS義務化 (下) / 比べるなら条件を公平に
 性犯罪は再犯率が高いとデマを作り出そうとしている犯罪白書 / 性犯罪前歴者にGPS 「義務付け賛成」90% に対する反論


平成23年1月25日

 問題だらけの性犯罪者にGPS義務化

 最初に問題点を書き出します。
 この問題は以下の3点において、非常に問題であると考えます。
 
1.刑期を終えた元服役囚は、公的・法的には一般人と変わらない。それを公的機関が強制力を持ってプライバシーを侵害する行為を正当化させる根拠・理由は無い。
2.性犯罪だけを対象にする合理的理由が見あたらない。なぜ他の犯罪には適用しないのか。
3.罪と罰の今までの法体系のバランスを、法の下位の存在でしかない条例が崩す行為である。

 
 性犯罪前歴者にGPSの携帯義務付け 宮城県が条例検討
 
 宮城県は、県内に住む性犯罪の前歴者らを警察が日常監視できるよう、全地球測位システム(GPS)端末の携帯を義務づける条例の検討を始めた。携帯していない場合には罰金を科す。必要に応じてDNAの提出も求める。
 監視対象に検討しているのは、女性や13歳未満の子どもに対する強姦(ごうかん)や強制わいせつといった罪で懲役や禁錮刑になった県内在住者。
 ドメスティックバイオレンス(DV)防止法で裁判所から保護命令を受けた加害者にもGPSの携帯を義務づける。
 
 まず1ですが、私人が個人的に元犯罪者をどう見るかという部分については触れません。
 そんな内心のことまで言い出したらきりがないですからね。
 しかし少なくとも公的機関は、刑罰、懲役刑や罰金刑を終えればその罪は償ったとするモノであるワケなのですが、それなのにこの条例はそれを越えてさらに刑罰的な制限を加えようとしているのです。
 これは公的機関の矛盾と言ってもいいでしょう
 これではそもそも何のために刑罰があるのか、公的機関まで元犯罪者を犯罪者として扱うのであれば、「罪を償う」という概念そのものを公的機関が自ら破棄する行為としか言いようがありません。
 
 GPSの所持義務化、そしてそれを警察がいつでも監視できるという状態に強制的にするコトは、それは「罰」です。
 だって、このような措置は誰も基本的には望まないからです。
 よく「犯罪が減るならいいじゃないか」なんてコトを言う人がいますが、であるなら、国民全員がこのような措置を受ければいいんじゃないでしょうか。
 全ての国民がGPS所持を義務化し、警察はどんな人間でもいつどこで何をしているのか把握するようにすればいいのです。
 そうすれば犯罪は確かに減るでしょう。
 もし「犯罪が減るならいいじゃないか」と言うのであれば、法律で全国民に義務化させればいいでしょう。
 でもそんなコトは許されません。
 なぜなら、これを許容する人なんてごくわずかで、基本的には、こんな措置は誰も望んでいません。
 誰だってこんなコトはされたくないのです。
 だからこそ、この措置は「罰」なのです。
 罰とは、普通の人であれば嫌がるコトをするからこそ、罰は罰として機能するのです。
 ですから、GPS義務化は罰なのです。
 
 よって、刑期を終えた、犯罪者ではない普通の人間に、公的機関が権力と実力をもって強制的にGPSを付けさせるという「罰を与えるという行為」は、とてもじゃないですけど、これを正当化させる理由が見つからないのです。
 刑期を終えた普通の人は、普通の人として生活する権利を憲法によって与えられているのです。
 少なくとも刑法を改正せずして、それを犯す行為を、法律の下の存在である条例が越えていいという理由は、どこにもありません。
 
 2つ目です。
 なぜ対象が性犯罪だけなのでしょうか。
 DVについては多少事情が違います。
 これはおそらく裁判所による「被害者に対して半径○m以内に近づいてはいけない」というような決定を補強する目的なのでしょうから、意味合いが違います。
 よって、1つ目で言いましたように、刑法の罰金や刑期を終えた後に、つまり法律を越えてのさらなる罰を与えるという行為を、さらになぜ性犯罪だけを対象にするのかという部分に、合理的な理由が見あたらないのです。
 
 よく言われているところで、性犯罪は再犯率が高いというモノがありますが、これは完全に誤解です。
 というか、デマです。
 そのようなデータはありません。
 むしろ、最新の犯罪白書(注PDFファイル)によると、
 
 前科(罰金以上のものに限り,自動車運転過失致死傷・業過及び交通法令違反のみの犯行によるものを除く。)の有無等を見ると,有前科者率(調査対象者に占める前科を有する者の比率)は,殺人46.6%,傷害致死44.7%,強盗45.7%,強姦39.3%,放火49.3%であり
 
 と、性犯罪である強姦はむしろ再犯率が低い傾向にあると言っていいでしょう。
 念のためにこのデータは、以前になんらかの犯罪を犯した人が、次のこの犯罪を犯した場合の数字です。
 つまり、以前強盗した人が殺人を犯した場合と、以前強姦した人が殺人を犯した場合と、同じくくりで計算されています。
 つまり、強姦を犯す人は、他の重大犯罪と比べれば前科を持っていない確立が高いというコトでもあります。
 
 さらに次の行には、同種重大事犯のデータが載っています。
 同種重大事犯とは、簡単に言えば同じ犯罪です。
 ここのデータを参照すれば
 
 同種重大事犯による前科に限ると,有前科者率は高くはないものの,殺人で6.3%,傷害致死で6.6%,強盗で7.7%,放火で11.2%の者が同種重大事犯による前科を有していた。強姦でも,同種重大事犯(強姦)による前科の有前科者率は11.1%であり,強制わいせつを含めた性犯による前科の有前科者率は,13.1%であった。
 
 となっています。
 ここでは強姦は多少数字としては高くなっていますが、しかしこれはほぼ誤差程度と言っていい数字でしょう。
 0.1ポイントですが、放火の方が再犯率は高いワケですし。
 また、殺人の場合は死刑や無期刑があり、物理的または年齢的に再度殺人を起こしにくいという事情も考慮しなければなりません。
 このように、犯罪の性質として強姦のみが再犯率が高いとは言いにくいのが、データから見て取れます。
 
 またこの資料では「強制わいせつを含めた性犯による前科の有前科者率」というモノを出していますが、これは、他のデータと比べるという意味においてフェアではありません。
 なぜなら、対象の犯罪の範囲を広げれば、それは数字が高くなるのは当然だからです。
 簡単な話です。
 上の「以前になんらかの犯罪を犯した人が、次のこの犯罪を犯した場合の数字」がなぜ50%近い高い数字になっているのかと言えば、「以前になんらかの犯罪を犯した人」というかなり広い範囲の数字を使っているからです。
 それに対し「同種重大事犯による前科」は、その範囲を1つに絞っているのですから、範囲が広いデータよりは当然数字は少なくなります。
 しかしそれなのに「強制わいせつを含めた性犯による前科の有前科者率」は、ここに範囲を少し広げているのですから、範囲が1つしか無いモノより数字が大きくなるのは当然でしょう。
 例えば「強盗」の再犯率を調べる場合に、他人のモノを盗むという同種だからという理由で「窃盗(万引き)」までをもこの範囲に加えれば、当然7.7%より大きな数字となるでしょう。
 これらを比べるのは、とてもじゃないですけど公平とは呼べません。
 これは数字のマジック、数学のマジックなのです。
 
 事実、資料をよく読めば、数字のマジックは簡単に解けます。
 
 重大事犯以外の罪種による前科を見ると,粗暴犯*1及び財産犯*2による前科を有する者が多く,殺人及び傷害致死では,粗暴犯による前科の有前科者率が,それぞれ,27.3%(殺人・傷害致死による前科を含むと29.0%),28.9%(同32.9%)であり,強盗では,財産犯による前科の有前科者率が33.1%(強盗による前科を含むと34.2%),放火でも,財産犯による前科の有前科者率が27.6%(同28.4%)であった。
 
 粗暴犯とは「傷害(傷害致死を除く。),暴行,脅迫,凶器準備集合及び暴力行為等処罰法違反」ですので、つまりこれらの暴力的犯罪者が傷害致死罪を犯す再犯率は28.9%ですし、財産犯とは「窃盗,詐欺,恐喝,横領(遺失物等横領を含む。)及び盗品等に関する罪」ですから、他人のモノを盗み奪い取るという犯罪者が強盗を犯す再犯率は33.1%であり、つまり似たような犯罪の再犯率を比べれば、むしろ性犯罪の方が全然低いと言えるのです。
 もう一度簡単に言いますよ。
 
 暴力犯罪者が傷害致死を犯す再犯率は28.9%(殺人・傷害致死による前科を含むと32.9%)
 物品目的犯罪者が強盗を犯す再犯率は33.1%(強盗も含むと34.2%)
 強制わいせつを含めた性犯罪者が強姦を犯す再犯率は13.1%です。

 
 これのどこを見れば「性犯罪は再犯率が高い」と言えるのでしょうか。
 むしろ性犯罪の方が一般凶悪犯罪よりも再犯率は低いと言った方が自然でしょう。
 暴力犯や財産犯を監視した方がよっぽど被害者は少なくなると言えるハズです。
 
 長くなりましたが、とにもかくにも、性犯罪は飛び抜けて再犯率が高いという科学的根拠はどこにもありません。
 むしろこれらの資料を見るに、性犯罪の方が暴力犯や財産犯よりも再犯率が低いとすら言えるでしょう。
 よって、「犯罪を防ぐ」という目的である中で、なぜ性犯罪だけを特化させるのかという部分については、まったく根拠がないのです。
 他の犯罪だって同じように再犯が起こる可能性があるのに、なぜ性犯罪だけなのでしょうか。
 どうせやるなら全ての元犯罪者に行うべきで、それこそ法の下の平等なのではないでしょうか。
 
 
 (つづく)
 



平成23年1月26日

 問題だらけの性犯罪者にGPS義務化 (下)

(つづき)
 
 3つ目は、特定の犯罪だけ条例によって罰を重くするコトになるワケですから、場合によっては今までは重かったモノよりも条例によって合計でそれを越える罰になる可能性があり、それは法律を条令が覆すという行為に他ならず、そんなコトは許されないというモノです。
 例えば、現在での刑法では強盗罪は5年以上の懲役刑となっている一方、強姦罪は3年以上の懲役刑と、強姦の方が罪としては軽いとされていますが、今回のこの条例が適用されてしまえば、場合によっては強盗よりも重い罰を強姦に科すコトになる可能性が出てしまいます。
 刑法を改正してならまだしも、法律の下位の存在である条例が、上位である法律を越えるコトは、本来許されない行為です。
 
 これは思想的には、議論の1つとしてはあり得ます。
 強盗よりも強姦の方が心身的に被害が大きいからより重い罰を科するべきだ、という議論は成り立ちます。
 しかしここで問題なのは、法律で体系付けられているこの順序を、法律より下位である存在でしかない条例が覆してしまうコトにあります。
 これは法律的にあってはならないコトです。
 もしこれを行うのであれば、法律を改正するという行為のみで変えなければなりません。
 強姦は強盗よりも罪が重いんだという主張であれば、これは刑法を変えろという主張にしなければならないでしょう。
 それを一足飛んで条例で行ってしまうのは、大変に問題のある行為だと言わざるを得ません。 
 
 以上の理由から、この条例は大問題だと、欠陥条例案だと言わざるを得ません。
 もしこのような規則を新たに設けるのであれば、刑法の抜本的な改正が必要です。
 すなわち、前提として犯罪者は刑期を終えても犯罪者は死ぬまで犯罪者であると再定義し、一度犯罪を犯せば生涯どのような罰を与えられても仕方ないとして、一律でGPSの義務づけを法律に明記します。
 例えば「懲役3年以上の罪においては、釈放後5年以上のGPS所持を義務づける」という感じです。
 こういう法改正をするのであれば、整合性は取れるでしょう。
 またその上で、例えば現行法では強制わいせつ罪は6月以上10年以下の懲役刑になっていますが、これにどうしてもGPSを義務づけたいのであれば、こちらの強制わいせつ罪を改正し、その罰を3年以上の懲役とするのが、法体系としては自然です。
 
 ただその場合、他の刑法とのからみを考えなければなりません。
 今まで強制わいせつよりも厳しいとされていた罪が、この改正が成れば、強制わいせつよりも軽いとされるようになるワケですから、ここの整合性は考えなければなりません。
 必要であれば、他の法律も改正する必要があるでしょう。
 
 人にGPSを常に付けさせ24時間監視下に置くコトそのものの是非の問題を今のところ考えないとすれば、このような法改正をするのであれば、一応の整合性はとれます。
 しかし、これはどうやっても条例でやるコトは不可能です。
 必ず法改正が必要です。
 下手すれば、刑法の考え方を根本から変える必要がありますから、もしかしたら憲法改正すらする必要がある可能性も考えられます。
 実はこの問題というのは、ここまで大きな問題なのです。
 
 近年性犯罪、というか、性に関する事柄については、ある意味過剰とも言えるぐらいの偏見が満ちあふれています。
 この辺は都条例とも関わってくるのでしょうけど、とりあえず性に関するモノについては、どのように扱ってもいいと、むしろ撲滅させてもいいと思っているフシが世間にはあります。
 こういう考え方が、今回のような問題に繋がるのです。
 なぜ他の犯罪にはGPSの義務化が言われないのでしょうか。
 それは、性犯罪だけが、というか性だけがおぞましい凶悪で病的で見たくも無いモノだという空気があるからです。
 性に対してだけは何を言っても、何もしても構わないと思われているからです。
 この風潮は絶対間違っています。
 そもそも「性犯罪は再犯率が高い」というデマがはびこっているコトがそもそも性に対する差別なのです。
 都条例などで問題提起している人は、こここそが根本的な問題なのですから、こういう問題には率先して声を上げるべきでしょう。
 何が問題なのかを考えてもらいたいです。
 
 繰り返しになりますが、基本的にこの手の「性犯罪者だけに過度な措置を施そう」という主張は、正しい事実とは違う捏造されたデータを元にした、デマを論拠とした主張です。
 性犯罪だけが飛び抜けて再犯率が高い事実など存在しません。
 である以上、様々な観点から性犯罪だけをターゲットにしたら新たな罰を設けるコトに正当性はありません。
 また同時に、刑期を終えた元犯罪者を公的機関が率先して差別してよいコトにもなりません。
 ここは感情論ではなく、キチンと理性的に合理的に考えなければならないでしょう。
 
 この性犯罪に対するある種の自由の制限という問題は時々話題になる話ですが、ついに条例にという話にまでなってしまいました。
 しかしこれ、いつも話題になるだけで、キチンとまともに議論は行われていないですし、整理もされていません。
 果たして条例案提出者も議会も、この問題はどこが問題で何が問題なのかを正しく理解しているのか、甚だ問題です。
 ただの感情論になってしまっているのではないでしょうか。
 法的な観点からも、犯罪被害や性の問題という観点からも、感情論ではなく冷静に論理的に考えてもらいたい問題です。
 



平成23年1月27日

 比べるなら条件を公平に

 web拍手でこのようなメッセージというか、疑問を頂きました。
 
 性犯罪全体ではなく、対幼児性犯罪は再犯率が高かったと思うのですけれど、そこはどうでしょうか。
 
 これもたまに聞く話ですよね。
 つまり、未成年や小学生以下ぐらいの子供に手を出す犯罪者は、また同じように低年齢の子供に手を出してしまうという再犯率が高いという話です。
 そしてこれには、そういう犯罪者は病的、というか病気そのものであり、隔離されて当然だと、そういう結論が付いてまわるワケです。
 
 まず、根本的な問題なのですが、この話の根拠をやえは見たコトがありません。
 客観的・科学的なデータの裏付けですね。
 「幼年者を対象とした性犯罪は再犯率が高い」というこのデータを、やえは見たコトが無いのです。
 先日の更新で用いました法務省が出している犯罪白書には、強姦や強制わいせつの再犯率は出していましたが、しかしその中でさらに未成年者や幼年者だけを対象にしたデータというのは載っていません。
 確かに「幼年者に対する性犯罪者の再犯率は高い」という話はたまに聞く話ですが、しかしこのように言うのであれば、当然として科学的な裏付けのあるデータが必要です。
 そもそも性犯罪の再犯率が高いというのも、数年前にマスコミが一斉に流したデマが未だに生きているモノであるワケで、前回話しましたように、学的には全く裏付けがされていないモノですからね。
 もちろんやえがたまたま知らないだけかもしれませんので、もしあれば教えてほしいと思いますが、データがない以上はこれはデマだと言わざるを得ません。
 
 その上でさらに考えなければならないコトがあります。
 再犯率という言葉にとらわれすぎてはいけません。
 結局この数字は何のために出すのか、その目的をハッキリと意識しておかなければなりません。
 
 例えば強姦の認知件数は犯罪白書による(PDFファイル)と、21年は1402件です。
 この数字は強盗よりもかなり少なく(強盗は4512件)、放火と同数程度(1306件)、殺人と傷害致死を併せたモノよりも多少多い(1222件)という数字です。
 よって特別多くもなく少なくもないという数字(強盗が飛び抜けて高いですね)ですが、しかしさらにここに、「幼年者を対象としたモノのみ」という縛りをかけた場合、当然それはもっと小さな数字となるでしょう。
 仮に全強姦件数の半分が幼年者というコトにしても700件、1/3にすると450件程度です。
 多分これでも十分多すぎる数な気もするのですが、さらにこれは発生件数(正確には警察の認知件数です)ですから、再犯率を出すならここからさらに、「幼年者を対象とした強姦発生件数÷幼年者を対象とした強姦を再び犯した件数」という数字を出さなければならなくなり、実数はますます小さいモノとなります。
 仮に母数を全強姦発生件数の1/3が幼年者を対象としたモノと仮定した450件という数字を用い、そして再犯率が3割と仮定すると、その実数は135です。
 つまり、幼年者を対象とした強姦犯罪者が再び幼年者を対象とした強姦を犯す可能性がある人数というのは、多く見積もっても135人程度なのです。
 全ての刑法犯の認知件数は239万9702件(交通違反は除く)もの中の、たった135人の話なのです。
 仮定の話ではありますが、たった135人のコトを刑法の大問題だと言って議論するというのは、ちょっといびつな構図と言わざるを得ないのではないでしょうか。
 それなら凶悪犯罪で飛び抜けて高い強盗の問題や再犯を考えた方が、よっぽど社会に対しては有益だと思われます。
 
 さらに、このような比較をした上で結論を得るという場合には、前提条件を公平にして考える必要があります。
 当然ですよね、結局「幼年者の再犯率が高いから特別な措置を執ろう」と言っているのですから、これは「他と比べてダントツに高い」という前提が無ければ成り立たない論であり、つまりこの論は必ず「他と比べている」という前提があるワケですから、よって比較するなら公平にというのは当然すぎる前提です。
 これはなんにでも、比較を用いる場合はそうです。
 例えばあまおちさんが某所で議論した時に、例の尖閣諸問題で議論相手が「中国はレアアースで世界各国に対してケンカを売って自爆したから、これは日本の国益であり、民主党政権の功績だ。自民党が政権だった場合は中国の自爆は無かったかもしれないが、プラスになるようなコトも出来ないだろう。だから民主も自民もどっちもどっちだ」なんて言ってたようですが、これ両党を比較しているのにも関わらず、前提が違うというのがお分かりでしょうか。
 中国の自爆というのは別にこれ民主党が仕掛けたモノではなく、自爆と民主党との間には因果関係が無いワケですから、これを民主党の功績と呼ぶには無理があります。
 しかしこの人は、民主党にはラッキーの部分を功績に加え、しかし自民党だった場合にはラッキーなどの運的要素を加えないという形をなぜかとっているワケで、こんなの全然比較の上ではフェアではないんですね。
 比較せずに民主党政権だけを評価するならまだしも、民主党と自民党の両者を比較するのであれば、前提条件はフェアにしなければなりません。
 でなければ、「比べる」という意味がありませんし、むしろ比較しながら前提がフェアでないというのは、公平を装っての片方への肩入れ行為であるワケです。
 この場合は、本来は民主党の大失態であるハズなのに、このように肩入れてして、民主党の失態を隠そうとしている意図があるのでしょう。
 
 ちょっと話がそれましたが、では「幼年者が対象」の場合はどうでしょうか。
 結局これは、対象を「同一事犯よりもさらに絞る」という行為をしています。
 もっと言えば、「対象をさらに絞った場合に、常習性の傾向が高まるのかどうか」という分析であるワケですね。
 ですから、対象を絞ったデータを取るという行為はいいのですが、そのデータを単純に、「対象が同一事犯のみの場合の再犯率」と比べるのは適切ではないのです。
 もしかすれば対象を絞れば常習性が高いコトが見えるようになるのかもしれませんが、しかしその「高い」という印象は、対象を絞っていない場合と比較しては、これは正しい分析にはならないというコトです。
 比較するなら、同じように対象を絞った場合のみでしょう。
 
 例えば、常習性が高いと考えられている犯罪の1つに、万引きがあります。
 これは窃盗罪での中も特にスーパーやコンビニに陳列されている商品を盗むという行為であり、この場合だけを仮に集計していたとすれば、もしかすればこれは常習性がとても高いというデータが出てくる可能性はありますよね。
 事実、平成21年度版の犯罪白書には次の一文があります
 
 万引きの再犯者は,万引きを繰り返す傾向が高く,その意味で,高い再犯性を有する者が見られる犯罪類型であるといえる。こうしたことを踏まえると,万引きの再犯防止は,重要な課題であり,その検討に際しては,ウ及びカでも述べるとおり,万引きの再犯者には,資質的な再犯要因を有する者が少なくないと考えられることも十分考慮する必要があろう。
 
 さらに万引きの場合は、お店の判断で警察に通報しない場合も多々あり、通報されても裁判までは至らないケースもありますので、これまで扱ってきた「再犯率」等の数字は基本的に裁判で有罪が確定した者の数字ですから、裁判までいらない万引き犯の場合というのはここに含まれていません。
 しかし「犯罪の常習化」という意味を考えるための再犯率を考えるのであれば、「以前は注意で終わっていたが、また万引きをして2度目だから裁判までいった“初犯”の者」も、再犯者と見るべきではないでしょうか。
 また未成年の時に万引きで補導されていたとしても、それは裁判沙汰ではありませんから、やはり再犯にはカウントされません。
 よって万引きの再犯率というのは、データ以上に潜在的数字が大きなモノである可能性が高いワケです。
 ただでさえ犯罪白書に「万引きの再犯者は,万引きを繰り返す傾向が高く」と書かれているのですから、こういう潜在的な再犯者のコトも考えれば、万引きの再犯率というのは、かなり高いモノではないかと想像されると言えるでしょう。
 
 幼年者への性犯罪者に対する特別措置というモノは、その背景に「常習性が病的であり、異常に高い数字をだしているから」という思いこみがあるワケですが、しかし果たして本当にそうなのかは分かりません。
 むしろ万引きの方が、「常習性が病的である」可能性は高いワケです。
 であるなら、性犯罪のみに特別措置を執るという理由が無くなってしまうんですね。
 特にGPS義務化というのは再犯を防ぐ目的そのものであるのですから、であるなら、まずは飛び抜けて再犯率が高いモノがあればそれを先にするか、もしくは全て犯罪に適応させるというのが、公的社会論としては正しいやり方のハズなのです。
 であればやはり、ここに性犯罪だけや、幼年者に対する性犯罪だけを対象にするというのは、正当性のない行為であると言わざるを得ないのです。
 
 再犯を防ぐ目的であるGPS義務化の問題は、データをいろいろと考えてみるべき事柄です。
 他にも例えば、これは身体的に常習性があるので他の犯罪とは単純比較できませんが、覚せい剤犯が再び覚せい剤違反を犯す再犯率は、なんと20年は56.1%という、とてつもない高い数字が出ています
 またそもそも、全体の数字である、「ある犯罪を犯した者が、また何らかの犯罪を犯す」という犯罪者としての再犯率と言うべきモノも、実はなんと41.5%もあるワケで、つまり日々裁判で有罪が確定した犯罪者の4割以上は再犯者なのです。
 正直、この数字を見れば、よく性犯罪の再犯率は3割なんて言われますが、しかし実は3割の再犯率というのは高いように見えて、しかし犯罪者が犯罪者になってしまう割合よりは低いのです。
 ですから性犯罪だけを特別に高いと言えるのかどうか、やえにはちょっと「特別に、病的に高い」とは言えないと思います。
 「人間上ある一定のエラーがでるのは仕方なく、その人間性の平均的な再犯率は4割であるが、○○という犯罪はこれを大きく上回り、これは異常な状態と呼ぶしかないので特別措置を執る」というのでしたら説得力はありますが、少なくとも性犯罪はそうでないのが現状なのです。
 
 今日色々と出しましたデータを見ても、やはり「全犯罪を対象にしたGPS義務化」の方が、パーセンテージで見ても再犯を防ぐ効果が高いというのが明らかになったと言えるでしょう。
 当然ですが総数は桁違いに、比べるほうが間違いなぐらい、全対象の方が多いワケです。
 ですから例えば、「幼年者を対象とした性犯罪の再犯率」が、全体の4割を大きく越え、6割7割にもなるというのでしたら、それはなんらかの措置は考えていいかと思います。
 正直それは覚醒剤よりも再犯率が高いのですから、医学的見地に立った方がいいでしょう。
 しかしそうでないのであれば、おそらくさすがに覚醒剤よりは多いとは思えません、そうでないのであれば、ここは冷静に考えるべきところだと思います。
 
 この問題に限らず、そのデータは確かなモノなのか、比較する際には前提が公平になっているのか、く全ての問題において冷静に見るべきところでしょう。
 



平成23年1月28日

 性犯罪は再犯率が高いとデマを作り出そうとしている犯罪白書

 今日もweb拍手でいただいたコメントからの話題です。
 
 犯罪白書では前科と再犯と両方ありましたが、どう違うんでしょうか?
 
 この前から資料として使っている「平成22年度犯罪白書」ですが、その「<第2部> 特集「重大事犯者の実態と処遇」(7編)」においては、再犯率と考えられる概念が2つ出てきます。
 1つは、43ページにある「前科」。
 もう1つは、44ページにある「重大事犯者の再犯の状況」です。
 どちらも、犯罪を犯した人間がその後犯罪を犯したという統計をとっていますから、どちらも「再犯率」というデータとして使用できるモノと思われます。
 
 で、やえもあの更新の後もう一回よく読み返してみたのですが、それでもよく分かりませんでした。
 なにがって、この両者の違いです。
 もちろん違いがあるのは分かります。
 おそらく調査の仕方が違うのでしょう。
 前科は文字通り現在有罪が確定した犯罪者の過去を洗った結果、前科がある者が何人いるっていう統計で、方や再犯の状況というのは、刑務所等から釈放された後に調査を開始して、その後犯罪を犯すかどうかを調査したというモノだと思われます。
 時間軸が違うワケですね。
 ただ、そういう調査の仕方が違うと言っても、実体としては何ら変わりません。
 調査開始の時間を固定して、その前か後かの違いがあったとしても、それは多少時代背景が違うだけであって、人間的な性質としての再犯率を調べるという意味においては、何ら違いはないでしょう。
 一体この両者何が違うのでしょうか。
 
 と、いくら考えても分かりませんでした。
 ので、ここは一発、法務省に聞いてみるコトにしました。
 法務省に問い合わせをするのは、人権擁護法案の時以来ですねぇ。
 
 で、その結果なんですが、なんと、やえが思っていた通りでした。
 単に調査方法が違うってだけだったんですね。
 よって、同じ犯罪を犯したという同一再犯率は、強姦の前科だと11.1%、再犯の状況だと9.4%ですが、これは「誤差」と言って差し支えないでしょう。
 さらに言いますと、これは問い合わせた結果なのですが、後者の場合は調査を1000人に絞ってのモノなんだそうですから、ではどちらが信憑性が高いかと言われれば、やはり全犯罪者を対象としている「前科」の方ではないかと、やえは判断します。
 というか、なぜわざわざこのような調査を取ったのか、22年版だけの特別調査らしいのですが、ちょっと意図が分かりません。
 
 ただし、穿った見方をすれば、次のコトを強調するため、いえ、数字のマジックを披露するために行ったのではないかと思わざるを得ません。
 
 犯罪白書44ページに「7‐2‐3‐1‐1図再犯状況(罪名別)」というグラフがあります。
 再犯を犯した者が、次にどのような犯罪を犯したのかを表しているグラフです。
 例えば強姦の欄の先頭の赤い部分は「同種重大再犯」ですから、ここの9.4%は「強姦を犯して罪を償って釈放された者が、その後また強姦を犯してしまった割合」となるワケですね。
 で、後ろのベージュ以外の部分を全部足し併せると、何らかの犯罪を犯すという再犯率なワケです。
 ですので、やはり強盗を犯した者が、一番再び何らかの犯罪を犯してしまう率が高いようです。
 
 その上で問題なのが、強姦の中にある緑の部分です。
 白書の説明書きにもありますが、ここは「類似再犯(性犯)」という部分です。
 さらにこの「類似再犯(性犯)」の詳しい説明を引用しておきましょう。
 
 5 「類似再犯(性犯)」は,調査対象者が犯した重大事犯の罪名が強姦である場合に,強制わいせつを含む犯行による再犯(同種重大再犯を除く。)をいうが,異種重大再犯に該当する再犯を除く。
 
 なんか難しく書いてますが、簡単に言えば「強姦を犯した者が、釈放された後に強制わいせつを犯した者の割合」です。
 ですから、もしこのグラフを見れば、「強姦と強制わいせつを併せた性犯罪者はやっぱり再犯率が高いんだ」と読み取ってしまう可能性があるでしょう。
 確かに同一再犯とこの部分を足し併せれば14.7%になりますから、強姦の8.3%に比べてかなり高いじゃないかと言えてしまうかもしれません。
 おそらく今回の調査結果は、これを狙ったモノと思われます。
 
 しかしよく考えてください。
 この「類似再犯(性犯)」つまり強制わいせつは、これは犯罪分類的に「重大犯罪」にはカテゴリーされていませんので、本来ここの前から2番目という位置には来ないハズのモノなんですね。
 分類的には本来、「その他再犯」の中に入っているモノです。
 しかもこの「類似再犯(性犯)」は、その名の通り性犯罪のみに付されている分類ですから、強盗とかには絶対に「類似再犯」は付かないワケです。
 例えば、強盗と万引の違いというのは、その手口が違う、前者は暴力的行為をもってしますが、後者は他人を傷つけるコトなくこっそりとするモノですが、しかし結果は他人の金品を奪うという意味で同じです。
 だけど強盗は重大犯罪で、万引きは重大犯罪には含まれていません。
 つまりですね、「(性犯)」というくくりを付けなければ、万引きも強盗の「類似再犯」と呼べなくもないワケです。
 そもそも類似再犯というカテゴリー自体が、別に法的に定められている用語ではありませんから、ここはもう付けたモン勝ちなところがあり、犯罪白書を作成した人の意図のままです。
 ですから、万引きを「強盗の類似再犯」と呼んでも問題はないでしょう。
 よって万引きを強盗の「類似再犯」と定義づけた場合、強盗の「その他の再犯」から万引きの人数が差し引かれ、その分、緑が新規に追加されるという形になるワケですね。
 再犯の総数は変わりませんが、青い部分がちょっと減って、緑の部分が新たに加わるという形です。
 
 さてこの場合、果たして強姦の性犯罪の再犯率が“他と比べて”高いと言えるでしょうか。
 
 これは、「問題だらけの性犯罪者にGPS義務化」でもお話ししたコトです。
 
 しかしそれなのに「強制わいせつを含めた性犯による前科の有前科者率」は、ここに範囲を少し広げているのですから、範囲が1つしか無いモノより数字が大きくなるのは当然でしょう。
 例えば「強盗」の再犯率を調べる場合に、他人のモノを盗むという同種だからという理由で「窃盗(万引き)」までをもこの範囲に加えれば、当然7.7%より大きな数字となるでしょう。
 これらを比べるのは、とてもじゃないですけど公平とは呼べません。
 これは数字のマジック、数学のマジックなのです。
 
 この辺です。
 結局こういう数字のマジックを、グラフという見た目で分かりやすいモノで「目くらまし」させようとしたのが、今回の特別調査だったと言えるではないかと思われます。
 しかし結果的には、やっぱり性犯罪だけが特別再犯率が高いという結果は出ていません。
 むしろ、性犯罪よりも再犯率が高い犯罪、暴力犯罪や金品目的犯罪などの方が再犯率が高いと言えるでしょう。
 それを裏付けしているのが、今回の犯罪白書なのです。
 目くらましで騙そうとしていますが、データを冷静に分析すれば、性犯罪の再犯率が高いというコトを証明している数字はどこにもないのです。
 
 この辺はもう一度後日、結果が分かりやすくなるような形でキチンとまとめるコトにします。
 
 このように、世間だけでなく、役所の方も、何が何でも性犯罪は再犯率が高いというコトにしたいようです。
 しかし、実際にそうであるなら別にそれでいいのですが、しかしデータの読み方を誤魔化して事実から遠ざけ、半ばデマを作るかのようなこのような方法は絶対に許されません。
 これは当サイトのいつも通りのスタンスですね。
 事実から目を背けても何もなりません。
 事実は事実として受け止めた上で、その事実をどう解決していくかを考えるのが、正しいあり方なのです。
 
 まぁそもそも結局こっちの「再犯の状況」のデータは1000人を対象にしたモノでしかなく、前科の全犯罪者対象とは比べモノにならない、というか実施する必要性が本来はないモノのハズです。
 結局はじめから、こういうイメージ操作をしようとしたのでしょう。
 今回のこの調査は、そんな悪意のあるモノでしかないのです。
 



平成23年2月25日

 性犯罪前歴者にGPS 「義務付け賛成」90% に対する反論

 今日は、この前新設しました「やえの気になるにゅーす」で投稿していただいた記事を取り上げたいと思います。
 性犯罪者に対するGPSを付けろという記事です。
 これについて賛成か反対かアンケートをとったようで、それを記事にしているんですね。
 でも中身を見ればつっこみどころ満載ですから、ちょっとつっこんでおこうと思います。
 
 なお、気になるにゅーすではhttpが重複してしまっているためにリンクが正しく機能していません。
 正しいアドレスはこちらです。
 
 性犯罪前歴者にGPS 「義務付け賛成」90%
 
 「性犯罪前歴者にGPS(衛星利用測位システム)」について、15日までに2824人(男性2316人、女性508人)から回答がありました。
 「GPS装着の義務付けに賛成か」については「賛成」が90%に達し、「義務付けは性犯罪抑制に効果があるか」にも88%が「ある」と回答しました。また、「国も同様の施策を行うべきか」には、89%が「そう思う」と答えました。
(1)GPS装着の義務付けに賛成か
90%←YES NO→10%
(2)義務付けは性犯罪抑制に効果があるか
88%←YES NO→12%
(3)国も同様の施策を行うべきか
89%←YES NO→11%
 
 このアンケート、どのような方法でどんな年齢層にどんな時間帯でとったのか分かりませんが、かなりGPS義務化には賛成者が多いという結果が出ています。
 しかしこの手の問題は、刑法や人権や様々な問題が絡み合いますので、単なるアンケートだけで決めてしまえる問題ではありませんし、それはアンケートに付されているコメントからもうかがい知れます。
 1つ1つ、つっこんでみましょう。
 
 東京・女性自営業(29)「性犯罪は再犯率が高い。これまでの矯正・更生中心のやり方では十分でないことは明白であり、監視という新たな手法を取り入れざるを得ない」
 
 まぁよく言われる一般的な論ですね。
 「性犯罪は再犯率が高い」です。
 しかしこの記事からして、ここはいきなり矛盾を生じています。
 さっきのリンクを開いて元記事を見てみてください。
 「(3)国も同様の施策を行うべきか 89%←YES NO→11%」と「やむを得ない処置」の間に、別記事へのリンクが貼られています。
 「【平成22年犯罪白書】強盗・強姦は4割が10年以内に再犯」というタイトルで、飛んでみれば、読んで字の如く、犯罪白書に対する記事です。
 やえもこの平成22年犯罪白書はよく引用しているところですね。
 で、もう一度白書の記事のタイトルを読んで欲しいのですが、「強盗・強姦は4割が10年以内に再犯」となっています。
 ここを強姦だけしか書いておらず、強盗もキチンと含めているところは、他の恣意的な記事とは違うと評価したいところですが、そうですね、何度も言ってますように、強姦だけが飛び抜けて再犯が高いというワケではないコトが、実は記事自体が認めてしまっているところなのです。
 よって「性犯罪は再犯率が高い」というのは、間違った認識です。
 少なくとも「性犯罪だけが高い」とは全く言えません。
 「これまでの矯正・更生中心のやり方では十分でないことは明白であり、監視という新たな手法を取り入れざるを得ない」というのはその通りなのかもしれませんが、しかしそれは決して性犯罪だけではなく、(殺人を除く)重犯罪全てに言えるコトで、GPS義務化するのであれば性犯罪だけでなく、重犯罪全ての前科者に科さなければ矛盾するワケです。
 
 鹿児島・男性自営業(75)「さまざまな犯罪の中で、性犯罪は再犯の頻度が多く、特に被害者は低年齢化の傾向にある。性犯罪を撲滅するためにはやむを得ない処置だろう」
 
 「再犯の頻度が多く」というのはさっきの通りです。
 本当にここまでデマが一般的に広まってしまったのは、一般的にかなり希有な例かもしれません。
 ところで「被害者は低年齢化の傾向にある」というのは、ちょっとやえは聞いたコトがありません。
 これ本当なのでしょうか?
 もし本当であれば、そのデータを教えてください。
 
 でもう1点気になるのが、「性犯罪を撲滅するためにはやむを得ない処置だろう」という発言です。
 つまりそれはなんでしょうか、性犯罪以外の犯罪は撲滅しなくてもいいというコトなのでしょうか?
 この人が言っている意味がよく分かりません。
 なぜ性犯罪だけに力を入れて、それ以外の犯罪には力を入れなくていいというコトになるのでしょうか。
 どっちとも、というかそんなカテゴライズせず、全て犯罪を撲滅するよう努力していくというのが、当然の姿勢のハズです。
 なぜこの人は性犯罪だけに力を入れるべきだと言っているのか、その合理的根拠を教えてほしいです。
 逆に言えば、性犯罪以外には力を抜いてもいいという合理的根拠を教えてほしいです。
 
 東京・主婦(45)「人権うんぬんを主張する人もいるが、加害者の人権ばかりが守られ、被害者の人権が軽視されている。警察のみならず、学校や幼稚園などもGPSの情報を有効に利用できるよう、システムを構築してもらいたい」
 
 大きな勘違いをしている論です。
 しばしば「被害者の人権が軽視されている」と言われているところで、やえもそれには反論するところはありませんが、しかし「被害者の人権が軽視されている」から「加害者の人権を軽視しても良い」というコトにはなりません。
 人権は比較論で考えるべきモノではありません。
 「被害者の人権が軽視されている」のであれば、「被害者の人権を重視する」コトを考えなければなりません。
 決して「被害者の人権が軽視されている」から「加害者の人権も軽視しよう」としてはなりません。
 ここは冷静に考えるべきでしょう。
 
 東京・男性会社員(33)「GPSをつけていることは周囲にはわからないわけだから前歴者のプライバシー保護の面もクリアしている。警察が前歴者を監視するのは、善良な市民を守るために必要なこと」
 
 なら、全国民にGPSを義務化しましょう。
 プライバシー保護の面もクリアしていると言うのであれば、アナタ自身にも付けるコトには問題ないですよね?
 全国民にGPSを義務化して警察が監視すれば、犯罪は減ると思いますよ。
 また犯罪が起きたとしても、早期解決が大幅に期待できるでしょう。
 少なくとも指名手配犯は、まず逃亡生活が出来ないようになります。
 メリットだらけだと思いますが、なぜそのように主張しないのでしょうか。
 
 以上が主なGPS義務化賛成論に対する反論です。
 どれも正直理論的な理屈ではない感情論にしかなってないとしか言わざるを得ません。
 少なくとも、全ての人に対して「性犯罪は特段再犯率は高くない」と言ってしまえば、次の句が出てこなくなるコトでしょう。
 
 この記事は次のページに反対論が載っていますが、こちらはつっこむところがありません。
 敢えて言うなら、
 
 広島・男性自営業(28)「刑期を終えた以上、その人は心情的にはともかく、罪をつぐなった一般人であり、前科を理由に自由を制限するのは人権問題だ。抑止効果にも疑問があり、このような管理・監視は国民統制の足がかりになりかねない」
 
 とか
 
 千葉・男性大学院生(22)「公害問題などと違い、地方自治体の条例で決めるべき事柄ではなく、憲法で認められた条例制定権の限界を超えている可能性が高い。無責任な正義感は有害無益だということを強く認識すべきだ」
 
 とか
 
 岡山・女性会社員(32)「殺人や強盗など、性犯罪よりも重い罪もあるし、覚せい剤取締法違反など、性犯罪よりも再犯率が高い罪もある。GPSを性犯罪者にだけ装着するのはナンセンス」
 
 とか、当サイトをご覧になりましたか?って聞きたくなります(笑)
 
 どちらにしても、この問題は単なるアンケートで決めていい問題ではありません。
 合理的な理屈でもって正当性を考えなければなりません。
 少なくとも、「なぜ性犯罪だけがターゲットなのか」という問題はクリアする必要があります。
 また、「GPS義務化は二重罰ではないのか」という問題もクリアにされていません。
 性犯罪前科者にGPSをどうしてもつけるべきだと主張するなら、アンケートや数の力に頼るのではなく、理論的にその正当性を説明すべきでしょう。
 
 残念ながらやえは、まだそのような論を見たコトがないのです。
 



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