敷金を返せ!!〜敷金返還闘争記〜


序章第一章第二章第三章|第四章|第五章終章

第四章 第一次敷金返還闘争

 数日後、電話での回答があった。
 どうも電話は苦手なのでイヤなのだが、仕方ない。
 内容主文は、
1.清掃代は全額こちらが負担
2.クロス張替代は折半(半額負担)

 であった。
 金額的にはやっとこっちに3万5千ほど返ってくることになった。
 しかしFAXに書いた要求の3番については全く触れなかったので、少々問いつめてみることにした。



天堕「煙草のヤニについて、それは法にもガイドラインにも借り主の過失だとは書いていませんでしたけど、なぜそれを説明してくれなかったのですか
山田「私どもはセ○ワ不動産さんからご依頼を受けて、見積もりをさせて頂くだけなので、こちらとしましてはクリーニングではヤニは取れないと判断したのでそう答えたのです」
天堕「でもお宅は第三者の立場を取る、とおっしゃいましたよねぇ」
山田「ですから、クリーニングでは取れないと判断しました」
天堕「(ラチがあかんな)でも工事担当の人は、この壁を見て、次のお客さんがきれいと思うか、入りたいと思うかどうか、みたいなことをおっしゃいましたが」
山田「あれは天堕さんのおっしゃるとおり、ガイドラインから逸脱した発言だったと思います。しかしあれはクロスのことを言っていた時に発言したものではなく、トイレの時の発言でしたよね。もしクロスのことを言っているのであれば私はその人を止めましたよ。工事担当の人間なので発言すべき人間ではない者が発言してしまったということで」

 それではなにかい、解決した部分については違法的な発言をしてもいいというのだろうか。だいたい山田氏が発言しようと工事担当者が発言しようと、オレからしてみれば同じT◎HT◎不動産の人間の発言である。違いはない。
 どうも会話がかみ合わない。結局、クロスの煙草のヤニはクリーニングでは取れないということを主張するばかりだった。
 結局これ以上話し合っても、向こうは中間的な立場を武器にして悪かったと認めないだろうから、それについては退くことにした。

 しかし、というか、やはりというか、向こうは完全にこちらの言い分を飲むことはなかった。
 オレとしたらまだこれでは納得できないのだが、彼女君をはじめほとんどの人間は「はじめは2万も払わなければならなかったのが、3万も返ってくるんだから、これでいいじゃないか」と言ってくる。しかしオレは金よりも、煙草のヤニについての事をはっきりとさせたかったし、金の事以上に、不動産屋の方に金が行くのが腹立たしかったのでまだ続けることにした。そして、これは最悪裁判を覚悟するしかないかな、とも思い、もっと積極的に情報を集めることにした。
 はじめ、地元ではけっこうな地位にある父親に、弁護士の紹介などの協力を求めようとしたのだが、「それ以上ややこしいことするな。裁判したら金がかかるだろう」と言われ、少額訴訟のことを言っても全く取り合ってくれないので、父親からの協力は諦めざるを得なかった。
 頑固親父め
 とりあえず、オレ個人ではそのようなコネクションを持っていないので、インターネットで無料相談を受けてくれそうな専門家を捜すことにした。
 けっこう探すのに時間がかかったが、何とか見つけるのに成功。無料で相談に乗ってくれるとは親切な人がいるもんだ。
 その人の名前は、行政書士 中谷彰吾氏である。敷金返還以外にも様々な相談に乗ってくれるようなので、もしそのような機会に出会ってしまったら参考にするのもいいかもしれない。
 さて、煙草のヤニについて決定的な証拠が欲しかったので、この人に次のようなメールを出した。

 突然のメール大変失礼いたします。
 私、東京に住んでおります、天堕 輪という者です。


 今回メールいたしましたのも、相談に乗っていただきたいと思いましてメールいたしました。
 相談とは、敷金返還についてです。
 先月○月×日に1DKの八王子の部屋を退去いたしまして、その際の敷金について少々揉めております。
 明け渡し立ち会いの際、不動産側から提示された敷金と様々な工事費は、こちらが2万5千円程度支払うというものでした。
 内容は、(かっこ内は私側の負担割合%)


1.キッチン壁のクロス張替(100)
2.キッチン天井のクロス張替(100)
3.トイレ壁のクロス張替(10)
4.トイレ天井のクロス張替(10)
5.洋室壁のクロス張替(100)
6.洋室天井のクロス張替(100)
7.洋室のCF張替(20)
8.トイレのCF張替(20)
9.洋室・トイレの壁下側のクッション(20)
10.室内清掃(100)


 以上です。
 私は、この立ち会いの前から敷金返還についてHPなどで勉強しておりまして、フローリングのへこみとかはこちらが払う必要は全くないということを知っていましたので、7・8・9についてと、一般の汚れについても同様ですので3・4は払う必要がないと主張しました。


 立ち会いの(物件を管理している)不動産会社(以下A社)と、物件の所有者である不動産会社(以下B社)は別会社でして、その時の私の主張はA社はB社に伝えるだけ、ということでした。

 室内清掃代は、借りるときの契約書に明記してあったらしく(確認しました)それはその時は私は認めざるを得ませんでした。
 クロス張替について、A社の主張では、煙草のヤニがひどくて張替しかないから過失と見なして全額こちらが負担という話でした。
 私は、煙草のヤニについて勉強不足でして、その場では納得してしまい、
《項目1.2.5.6.10の負担につきましてはご了解を頂いたものとします。》
とA社の担当者が備考欄に書かれたものに、備考欄にサインしました。


 後日、「A社からフローリング等の負担は無しで、了承を得た額の負担のみで構わないと言う報告をB社から受けた。」というFAXが送られてきました。
 立ち会いの日から私はずっと煙草のヤニについて疑問を持っておりました。
 そしてHP等で調べたところ、煙草のヤニも通常使用ということが載っておりまして、またそのような判決も出ている、と知りました。
 ですので、A社からFAXを貰った二日後にこちらからこのようなFAXをA社に送りました。


煙草のヤニについては、弁護士や不動産屋のHPにもそれは通常の一般的使用方法であり借り主負担で内装等を修繕原状回復する義務はないとはっきりと明記してあります。また、「劣化する分の補修費用は既に支払われた家賃に含まれており、家主がこれから負担すべき」という判決理由で、はっきり家主負担と判決が出ています。
次に、借家法第16条には《借地権者に不利な特約は無効とする》という条文があります。
これによると、清掃料金をこちらが払うとされている契約書の内容は無効であると判断されるのではないでしょうか。
1.クロス張替代金はこちらが払う義務はないのでその代金の返還
2.室内清掃代金の返還
以上のことを要求いたします。


 これは抜粋です。
 そして先日このFAXについての回答を電話にて受けました。
 内容を簡潔に書きますと、

1.クロスの張替代は50%負担
2.清掃代はこちらの100%負担
 
です。


 一番始め、立ち会いの際に提示されたこちらが払う金額は2万5千円程度、その後紆余曲折あってこのクロス張替と清掃代でこちらに3万5千円程度返ってくることにはなっているのですが、敷金は2ヶ月分、約12万円です。
 実家の家族や知人等は、これで十分ではないか、と言いますが、私はどうしても納得できません。


 A社と電話で話し合った際に、《項目1.2.5.6.10の負担につきましてはご了解を頂いたものとします。》という書類にサインしたことを盾にしてどうだ、ということはしない、と明言しましたので、それはあまり気にはしていませんし、A社B社共に、かなりの規模の会社なのであまりな不当なことはしないとも思っています。
 しかし、私としましてはやはり「敷金は原則全額返ってくるものだ」と勉強をしている間思いましたし、特に敷金問題は部屋を借りるまではずっと付いてまわる問題ですので、特に煙草のヤニについてはハッキリさせたいと思っています。
 ですので、以下のことを中谷先生にお尋ねさせていただきます。
 そしてアドバイスなりを頂きたいと思います。


1.煙草のヤニは通常使用として判例を含む法で認められているのか
2.私の例で裁判(少額訴訟)をして勝てるか


 私は、一日に煙草を一箱吸うかどうかぐらいのごく一般的な吸い方しかしていません。
 またこの部屋に住んでいたのは4年間です。
 A社は、クリーニングをしても落ちないような煙草のヤニは過失である、と言っていますが、どうしてもこれには納得できません。
 現在住んでいるところもやはり賃貸ですので、また同様の問題が起きないとも限りませんので、これだけはハッキリと知っておきたいのです。


 清掃代については、契約書に明記してありますので、裁判を起こしても難しいと私は思っておりますので、そこまでは固持しようとは思っていません。
 ですので、清掃代だけこちらが負担と言うことなら全く納得するつもりです。


 突然のメールで大変失礼とは思いますが、よろしければ煙草のヤニについてと裁判で勝てるかどうか、また裁判をするぞ、というような内容のFAXを送っても大丈夫かどうか、アドバイスなりを頂きたいと思います。
 内容だけで大変申し訳ありませんが、何とぞどうぞよろしくお願いいたします。  

天堕 輪

 後日返事を頂いた。

質問にお答えいます。タバコのヤニについては、通常の喫煙であれば、こちらが負担する必要はありません。よほどのヘビースモーカーでない限り、通常の使用にもとづく減耗と考えられます。また、裁判に勝てるかですが、敷金返還に関する少額訴訟はかなり賃借人に有利な判決がでることが多いので、勝算はあります。特約などがあっても、賃借人に不利な特約は無効だという判決がよくだされますよ。私も何度も経験しています。
とにかく、がんばってみてください。ただし、交渉には落としどころも重要です。
あまり、無理強いをせずにこちらもある程度妥協をしないとおさまりませんよ。
がんばってください。
行政書士、中谷彰吾

 期待していたより淡泊な返事だったというのが正直な感想だが、しかし内容的には満足いく返答が得られた
 やはり煙草については全く問題ないはずだ。よほどのヘビースモーカー、例えば一日3箱ぐらい吸う人なら考え物だが、オレはそこまではいかない。
 そしてもう一つ、「特約などがあっても、賃借人に不利な特約は無効だという判決がよくだされますよ。私も何度も経験しています。」という部分には期待以上のものがあった。清掃代返還が十分カードに使えそうだ。
 ただ、やはりある程度妥協は必要であろう、という指摘も受けたので、もう一人相談に乗っていただくことにした。
 おなじみ、帶刀さんである(笑)

天堕「ちょいと相談事があるんですけど時間あります?」
帶刀「なんでしょう?」
天堕「というのもですね、例の敷金返還についてなんですよ。今争ってるのは煙草のヤニについてなんです。」
帶刀「株でもそうですけど、目標額を設定して、それに達するまでは絶対に退かない。ただし達したら欲をかかずに納得する、と。経年劣化による修繕費は、こちらで修復義務は無いんで。」
天堕「いやね、私の周りはこういう話すると必ず「もういいじゃないか」って言うんですよ。帶刀さんぐらいしか話聞いてくれなくて(^^;;;やっぱり日本人は裁判って聞くとひきますよねぇ」
帶刀「なんなら、略式裁判でもやったらいいですよ。良い経験になりますし。 費用は¥5000くらい。」
天堕「ええ。少額訴訟ですよね。やっぱり経験だと思いますよねぇ。私も思うんですけど周りがヤメロとうるさくて(笑)」
天堕「次のFAXで「裁判するなら全額返還を求めるけど、妥協するなら清掃代だけは出してやる」って感じにようかと思っているんです」
帶刀「うーむ、それは下手すると脅迫になる場合がありますから、威力的に裁判を臭わすのはやめたほうがいいです。」
天堕「でも交渉はけっこう今までやってきてて、そろそろその手を出さないと向こうも聞かないんじゃないかと思うんですよ。向こうの金額提示が今回で3回目ですからねぇ」
帶刀「いや、淡々と「これ以上長引くとお互い面倒ですから、返金されないようならこちらで略式起訴した方がいいですかね?」って感じで」
天堕「うはっ、そっちの方がなんかいやらしくジワジワ来ますね(笑)」
帶刀「えと、こちらの意にそぐわない場合は起訴する、というのは脅迫で交渉の早期解決を目的として訴訟する、というのであれば、脅迫にはならないです」
天堕「ああ、なるほど。そう言う意味があるのですね。戦い慣れてますね(笑)」
帶刀「とにかく「クールに」が鉄則です。戻ってきて当然のお金なんですから。」
天堕「まぁでも、こうして帶刀さんにご相談したのも私の中の10%ぐいは「もういいじゃないか」みたいなことを囁くヤツがいまして、帶刀さんのおかげで吹っ飛ばすことができましたよ。今日はありがとうございました。」
帶刀「結果報告、期待してます(笑)」

 これで次に行く決心が固まった。後はもう何も考えることはない。T◎HT◎不動産にFAXを送るだけである。
 今回のFAXのポイントは、「行政書士の方も認めている」「清掃代返還もカードとして有効に使う」「裁判という手段を使うことを明確に主張する」である。

平成13年○月×日
T◎HT◎不動産 山田様


 諸事情により返事が遅れましたことをお詫びいたします。
 八王子の○○に住んでおりました天堕 輪です。


 先日のそちらのご報告を受けまして、今までのこととこれからのことについて行政書士の先生にご相談を致しました
 行政書士の先生からは、


「タバコのヤニについては、通常の喫煙であれば、こちらが負担する必要はありません。よほどのヘビースモーカーでない限り、通常の使用にもとづく減耗と考えられます。」
「特約などがあっても、賃借人に不利な特約は無効だという判決がよくだされますよ。私も何度も経験しています。」


 というご返事を頂きました

 私は、一日一箱吸うかどうかという、ごく一般的な喫煙者です。
 判例から見ても、行政書士の先生の見解から見ても、やはり私が住んでおりました部屋の煙草のヤニはこちらの過失とは見なされないものと思います。
 よって、私からの敷金の全額返還という要望は前回と同じです。


 ただし、前回のお電話の時も立ち会いの時もそうだったのですが、そちらとの話し合いでは、言ってみれば口論まがいになってしまい、私としてもそういうのは不本意です。
 もちろんそちらもそうだと思います。
 そちらは中間の立場に立っておいでですので、なかなか話がスムーズに行かないことも仕方ないのですが、それでも私としましては精神的にも肉体的にも心労が溜まりますし、時間的にも割ける時間というものは限られています
 ですので、行政書士の先生と話し合い、そして私が考えた結果、裁判(少額訴訟)という解決方法をとりたいと思っております


 しかし、裁判というのもやはり時間がかかるものです。
 先ほども言いましたとおり、私と致しましてはなるべくこのことで時間的に拘束されたくはないのです。
 ですので、もし次のご連絡で解決できるのであれば、それは私としましても望むところであります。


 日本の民主主義の原則は多数決でありますが、裁判、特に民事裁判であれば和解という名の妥協案が用いられることが多々あります。
 全ての問題が話し合いだけの結果で終われるのであればそれは素晴らしいことでありましょうが、そうもいかないのが人間です。
 だから双方が歩み寄るという形で、和解というものが存在しているのでしょう。
 ですから私の和解案と致しましては、


1.室内清掃代はこちらが100%負担する
2.それ以外の工事費等は100%そちらが負担する


 という形での和解案を提案いたします
 つまり、室内清掃代3万円と消費税を合わせた31500円をこちらが負担すると言うことで、敷金と返却家賃分を合わせた12万円の中から室内清掃代31500円を差し引いた、8万8千円を私に返却していただくということになります。
 この和解案に同意していただければ、私と致しましてもこれで納得するつもりであります。


 最後にご無理を言って申し訳ないのですが、前回のようにお電話で回答していただくと、そちらにその気はないことは十分承知していますが、私の不徳の致すところで、やはり口論まがいになってしまう恐れが非常に高いと思われます。
 もちろんそれはそれで分かり合える部分もありますが、それでも言い忘れたこととか、言い足りなかったこととか出てきてしまっています。
 繰り返しになりますが、私と致しましてはそのようなことは出来るだけ避けたいと思いますし、もし主張が足りないようでしたら裁判で行った方が有意義だと判断いたします
 ですので、結果だけ書けとは申しませんので、次のご連絡は出来るだけFAXでお願いしたいと思います。
 もし法律等で、口頭での回答しか認められないのであれば、そのように明記していただけばこちらから折り返しお電話差し上げます。


 重ね重ねお手数とは思いますが、こちらからは以上のことでよろしくお願いしたいと思います。

天堕 輪

 オレはこの妥協案をそのまま飲んでくれることを期待していた。


敷金返還記のトップへ 次へ