日本は大国であるという事実を自覚すべき

 いま日本を取り巻く外交問題を考えた時、日本外交で一番問題なのは、日本人自身が日本の立場をよく理解していないコトなのではないかと思うのです。
 
 日本は大国です。
 経済は、中国の発表を信じれば世界三位になってしまってはいますが、それでも三位、まだまだヨーロッパ一国よりも上位であり、そもそも世界195カ国で考えれば三位なんてとんでもなくトップレベルだと言うしかありません。
 また軍事力にしても、確かに憲法のからみでかなり行動を縛られてはいますが、それでも装備の質や軍事費の絶対金額は世界トップレベルであり、相手に与える脅威度は低いと言えど、決してそれが大国と呼んではならないというマイナスにはなりはしないでしょう。
 日本人はどうしても他人も自分と同じ暮らしをしているかのように錯覚してしまいがちですが、しかし世界の上位であるG20であったとしても、韓国のようにしょっちゅうビルが崩壊する国、ブラジルのように普通に観光するだけでも犯罪に相当神経を尖らせる必要がある国など、G20ですら日本に比べればその平均生活水準は何段階ものレベルの違いが存在します。
 そういう「世界の実情」を見れば、いまはロシアが放逐されてG7に戻りましたが、G7は紛れもなく先進国であり「大国」であるのです。
 
 別にそれを他人に誇ったり、驕ったりする必要はありません。
 ただ、事実は事実として認めなければ、それは外交政策において失敗する最も大きな原因になっちゃいますよっていうお話なんですね。
 特に今は一国だけで外交、それは経済であったり防衛だったり環境問題だったり、それらはもう一国だけでどうにかできる時代ではなくなったのであり、冷戦が終わってこれだけの年月が経った今、外交という分野は本当に国を左右する重要な課題であるワケです。
 その中で、自分たちの「立ち位置」を正しく見なければ、その国としての政策を正しく判断するコトなどできはないでしょう。
 
 そしてその「日本の立ち位置」を正しく見れば、実は日本はたいへん難しい場所に立っているコトが見えてきます。
 G7の国を挙げますと、アメリカ・カナダ・フランス・イギリス・ドイツ・イタリアと日本、の7カ国ですが、これらの国々を地理で考えてみて下さい。
 アメリカ・カナダはアメリカ大陸、フランス・イギリス・ドイツ・イタリアはヨーロッパですが、日本だけが一国でアジアなんですね。
 つまり、自称世界の警察のアメリカはともかくとしても、南アメリカ辺りの問題はアメリカとカナダで協力して当たるコトができますし、アフリカや中東はヨーロッパ諸国で協力して問題に当たるコトができますが、極東アジアや中央アジア辺りの問題っていうのは、G7の中では日本だけが一国で当事者となってしまうのです。
 
 飛行機やインターネットが発達した現在でも、やはり地理的な要素はまだまだ大きいです。
 だって日本人だって、イスラエルやパレスチナの問題は対岸の火事ですよね。
 でもヨーロッパ諸国はそうはいきません。
 自分たちの問題、当事者としての問題そのものです。
 アフリカもそうです。
 一年前アルジェリアの人質事件がありましたが、あの時は日本人が犠牲となったので日本にとっては大きな事件ではありましたが、しかしあの事件の根本は元々の宗主国であるフランスやヨーロッパ諸国が原因の一端を占めている問題であって、ヨーロッパは日本以上に当事者なんですね。
 ですから、逆に北朝鮮の問題はヨーロッパにとっては対岸の火事であり、いくらG7としての共有の問題として取り上げたところで、この辺はどうしても温度差は出てしまうのです。
 
 日本はこういう中に放り込まれているんですね。
 周りを見れば、まぁ韓国はスルーするとしても、覇権主義を未だ捨てられない中国がおり、歴史的に常に大国であったロシアがいて、潜在力では世界一のインドもいますし、ASEANはいまメキメキと頭角を現し始めています。
 そんな地域の中にあって、日本はG7の中では一国だけで(+アメリカはあるワケですが)これに対峙していかなければならないのです。
 
 これは難しいですよ。
 事実、G7においても日本だけがロシア政策にそれなりの温度差を見せましたが、これは当たり前でしょう。
 アメリカやヨーロッパはまだいいですよ、ロシアと一国だけで対峙する必要はないんですからね。
 しかし日本はそうはいきません。
 さらに日本の場合、ロシアとの関係を悪くすると、下手すればロシアと中国が手を組んで、ますます状況が悪化してしまう可能性だって小さくありません。
 他の地域はG7並みのロシアとは多数国で対峙できるのに、日本は逆にG7並みのロシアと中国の2カ国と日本一国だけで対峙しなければならなくなってしまうのです。
 まして韓国と北朝鮮という不安定要素が存在するっていう中において、とてもとても日本はヨーロッパと全く同じ歩調で行動を共にするなんてコトは無茶すぎるお話なんですね。
 でもそれでもある程度はG7という枠組みは維持しなければならないワケで、それは日本が国連の常任理事国ではないという事実がさらにG7の枠組みの重要度を高めてしまっているワケですから、日本はここは離れてはならない一線です。
 日本の外交とは、こういうかなり不利な状況で綱渡りを強いられているんですね。
 いまの日本の外交とは、冷戦崩壊後もっとも難しい状況にあると言っても過言ではないのです。
 
 これも日本が大国だからです。
 大国だからこそ世界のパワーバランスに気を遣い、そして自らもその世界のパワーバランスを牽引する役目を負っているのです。
 東西冷戦体制のように、アメリカかソ連かどちらかの陣営に属していればそれで済んでいた時代はもう終わりました。
 いまはそれぞれの国がそれぞれの責任と力によって世界秩序を決める時代になり、そしてその中でも日本は世界トップレベルの大国として、それに見合う力と責任があるのです。
 今後日本はどういう外交政策をとっていくべきなのか、それは色々と議論があるところだとは思いますが、まずは日本人自身が「日本は大国である」という事実を自覚するコトが第一歩であり、大前提になるんだと思います。