TPP:反対論を考えてみる 3

3.国民皆保険が破綻する
 
 これちょっと論拠がよく分からないのですが、おそらくTPPに参加すると「混合診療が解禁になる」コトによる国民皆保険の破綻という考え方なのだろうと思われます。
 混合診療の問題は過去やえも取り上げたコトがあるのですが、これはまぁ色々と考えさせられる問題です。
 というのも、メリット・デメリット両方ある問題だからです。
 
 当然国民皆保険は全ての国民が誰でもどこでも低負担で同じ質の医療を受けられるようにするための制度ですから、その意義はとても大きいモノがあります。
 長寿国日本を下支えしている制度であり、また社会で助け合う日本の伝統的な考え方に合致した、世界に誇る日本の素晴らしい制度だと言えます。
 ただ、この制度のために「認可された薬」しか同時に使えないという副作用ももたらしています。
 医療や薬とはそれ1つだけを用いるのではなく様々な手法を総合して患者に施すワケですが、まだ厚労省から認可を受けていない最先端医療を受けようとする場合、その総合的な治療の中で1つでも無認可のモノを使うと、認可されているモノすら「保険適用外」になってしまうのです。
 無認可新薬と許可薬と2つ同時に飲まなければならない場合、許可薬も全額負担になるのが今の制度です。
 これは「公平」という観点からの措置です。
 無認可はあくまで無認可ですから、これを安易に使うコトは「お金があれば有利」という考え方になりかねず、よってこれを使うなら国民皆保険の全てから外れて医療を受けて下さい、という考え方です。
 もし無認可の部分だけを全額負担にして他を国民皆保険で低負担とすれば、なんのための「誰でもどこでも全ての国民が低負担で同じ質の医療を受けられる」という制度なのかと、その否定になりかねないからです。
 
 混合診療とはまさにこのコトです。
 無認可の医療をその部分は全額負担だとしても、その他の同時に受けている皆保険の範囲内の医療は皆保険で賄われるようにしようというのが混合診療の考え方です。
 無認可新薬と許可薬と2つ同時に飲まなければならない場合、無認可薬は全額だとしても許可薬は3割負担で済むってコトです。
 ですからこれは考え方の問題とも言えるワケです。
 おそらく現時点での想像では混合診療でもいいじゃないかと多くの人が思うかもしれませんが、これ実際に運用していくと、いつか結局「金持ち優遇医療」にだんだんと年月が流れるごとになっていくるのではないでしょうか。
 実際にそれが優遇かどうかはともかく、少なくともそういう意識にはなっていくでしょう。
 特に日本人は格差に敏感な国民性を持ってますから、いつか今現在の混合診療の議論のコトなんて忘れて、「金持ちばかりが最先端医療を受けられるのは格差問題だ」と言われるようになるのではないかと想像します。
 過去の議論を忘れて制度の責任に転嫁するというのは、この問題に限らずよくあるコトですからね。
 ですからそういう問題も含めて、この問題はシッカリと考えていかなければなりません。
 
 まぁ別のやえは混合診療絶対反対というワケではないのですし、ちょっとお話がそれてしまいましたが、よってこれは貿易問題であるTPPとが結びつく方がちょっと不自然な気がしてなりません。
 例えば米国の製薬会社が新薬を日本に売り込みたいと思った時に、それが完全ゼロの完全自由経済でないからという理由によるTPPを活用して状況を打破しようとしているのだと米国などが考えている、という批判なのかもしれませんが、しかしよくよく考えれば国民皆保険が自由経済を阻害しているとは言えないでしょう。
 売り込むコトは国民皆保険があっても出来ますし、外国の新薬は一律で保険適用外とされているワケでもないからです。
 ただ単に、日本の政府が安全性を適切に検査するってだけなんですからね。
 検査に適合すれば、どの国の新薬だって医療だって、現在薬に関税がかかっているのかどうかは知りませんが、売るコトは日本国内で今でも出来ているのですから。
 そしてもちろん、もし関税がかかっていた場合、それをゼロにするコトと皆保険制度が破壊されるコトは、全く別の概念です。
 
 これは別に医療分野に限ったお話ではありません。
 ある程度安全性を担保しなければならない物品に関しては、全て日本の法令に則って検査されます。
 例えば自動車だって、エアバックが付いているとかシートベルトが付いているとか、そういう一定の日本国内での基準をクリアしていないと販売できない、というかそれらの基準をクリアしていないと公道は走れませんね。
 セグウェイなんかが分かりやすいですよね。
 あれって日本の国内法令には合致しないので、いまでも日本の公道では走れないコトになっています。
 このように自由貿易の中においても、一定の国内規制があって当然なワケです。
 
 TPPによってセグウェイが公道で走れるようになる=日本の道路交通法がアメリカの言いなりになる、なんて議論は一切聞きませんよね。
 だってこれ極論すれば、「TPP参加によって日本の自動車が右側通行になる」というコトになりかねませんから。
 そんなのあるハズがありません。
 ですから、TPPによって他国がここまで干渉してくるコトなんてあり得ない、というか要望するのは自由ですが、TPPというモノが強制権を持って国内法を変える根拠とはなり得ないというコトなのです。
 
 ちょっと調べましたら、アメリカ大使館もこんなコトを載せていました
 

•TPPは日本、またはその他のいかなる国についても、医療保険制度を民営化するよう強要するものではありません。
 
•TPPはいわゆる「混合」診療を含め、公的医療保険制度外の診療を認めるよう求めるものではありません。

 
 まぁそりゃそうですよね、という内容です。
 そもそも「医療保険制度」を「民営化」っていう言い方もなんだかなぁという気もしますが。
 郵政と違って医療制度は大部分が税金で賄われているんですからね。
 
 というワケで、TPPに関する国民皆保険のお話は、これはあり得ないお話だと今のところは思っています。
 
 
(つづく)