消費者保護政策をもっと鮮明に

 大阪の阪急阪神ホテルズがレストランなどのメニューを偽装していた事件について一言言っておこうと思います。
 よくもまぁあれだけ誰もがウソだとしか思えない言葉を羅列できるなぁと、日本中があきれ果てた例の問題です。
 消費者庁も強い関心を持っているようで。
 

 消費者庁が本格調査へ
 
 阪急阪神ホテルズ(大阪市)がメニュー表記と異なる食材を使っていた問題で、消費者庁が景品表示法違反(優良誤認)の疑いで、本格的に調査に乗り出したことが29日、消費者庁への取材で分かった。消費者庁は同社の担当者から事情を聴くなどして実態解明を進めており、今後、処分を検討する。
 消費者庁は7日に同社から問題の報告を受け、調査を始めた。担当者に事情聴取するとともに、実際に使われていたメニューを入手して表記内容を検証。同社の食材の仕入れ先も調べ、客に提供されていた食材の特定を急いでいる。
 消費者庁は調査の結果、同法に違反すると判断した場合、消費者の誤解を招くメニュー表記の差し止めや不当な表示をしていたことを周知する行政処分か、措置命令を出す。措置命令に従わない場合、法人で3億円以下の罰金、個人で2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される。
 消費者庁幹部は「消費者に大きな影響を与えた問題として認識しており、真相解明に向けて徹底的に調査していく」と話した。森雅子消費者担当相も29日の閣議後の記者会見で、「偽装であれ何であれ、消費者が誤認するような表示があれば法令に違反する」と指摘した。

 
 これって結構いろいろと考えさせられる問題をはらんでると思うんですね。
 まずこの問題、どのような法律に接触するのかを考えてみますと、それは記事にもありますように「景品表示法」に接触する可能性があるんだと思われます。
 特にここに関しては森雅子消費者担当大臣も「偽装であれ何であれ」と言っていますように、故意だろうが故意でなかろうが違反だと明言しているようですから、この法律に則った行政処分の可能性は十分にあり得るだろうと予想されるワケですね。
 
 しかしここでこの問題、というか、この手の問題全般に対して考える際の分岐点が1つあります。
 森大臣は「偽装であれ何であれ」と言ってますが、これ故意に偽装していたと証明されるのであれば、景表法ではなく詐欺罪が当てはまるようになるのではないかと思われる点なんですね。
 もちろん景表法違反でもあるのでしょうけど、故意ならばさらに詐欺罪にひっかかるワケです。
 だって故意であれば、「騙そうとして騙した」のですからね。
 これが詐欺じゃなくて何が詐欺なんだと言えてしまうぐらいの案件になるワケです。
 
 となれば、そもそも「偽装であれ何であれ」という言葉はおかしいんですね。
 だってこれ逆に言えば、「偽装でなければ景表法違反にはならないコトもある」という意味がバックボーンとしてなければこの言葉は出てこないからです。
 もし一般論として偽装が景表法の要件に一切入っていなければ、そもそも偽装かどうかなんてコトは問題にはならず、問答無用で「法令違反だ」と言うべきところなんですからね。
 
 そしてこれは、さっき言いました詐欺罪の問題に絡みます。
 すなわち景表法は、詐欺罪の絡みからも「故意かどうかを要件にしてはならない」のです。
 だってそれが要件なら「故意=詐欺罪も景表法も両方当てはまる」となり、同時に「故意でない=詐欺罪も景表法も当てはまらない」となりますから、これだと何のために景表法が存在しているのか分からなくなるからです。
 もっと言えば、もしこういう構図であれば景表法なんていりませんよ。
 存在理由がありません。
 詐欺罪の方が全然罪としては重いんですからね。
 ですから、そうならないためにも、もちろんそれが不注意での表示ミスだったとしても消費者としてはそんな事情なんて関係なく消費者としては「違うモノを見せられた」コトには変わりはないのですから、消費者庁においてはキチッとそこの整理をしてほしいと思います。
 事業者の自分勝手な都合ではなく、消費者保護の視点に立って考えて欲しいところです。
 
 もうひとつ、消費者保護強化の視点で考えておきたいコトがあります。
 それは景品表示法の中身についてです。
 もし今回の場合に景表法違反となった時に、ホテルにどのような罰があるのかと調べたところ、これは記事にも書いてあったのですが、実はあまり大したコトができないんですね。
 この法律で出来るコトというのは、記事を引用すると「消費者の誤解を招くメニュー表記の差し止めや不当な表示をしていたことを周知する行政処分か、措置命令を出す」というだけなのです。
 簡単に言えば、「メニューを正しく直せと指導する」のと「このホテルは不当表示をしていましたよと公開する」の2つだけです。
 たったこれだけなんですよ。
 記事にある「法人で3億円以下の罰金、個人で2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される」は、あくまで「措置命令に従わない場合」だけであって、これは「行政処分に従わないコトに対する罰」ですから、不当表示をしたコトに対する罰ではないんですね。
 ですからこの行政処分が下ってもホテルが素直に「分かりました。表記は直します」と認めれば、行政としてはそれ以上何も罰を下せなくなっちゃうんですね。
 正直これってどうなんでしょうか。
 
 だって今回のコトは阪急阪神ホテルズにしてみれば、当然として表記は直すワケですし、ここまで全国的に大問題になっているのですから、今さら行政からの公開なんて一切の意味をなしません。
 となければ、もちろん消費者庁が動くというコト自体にはある程度の意味はあるのですが、法的な実行力としてはもはや何の意味もなしていないとしか言いようがないのではないのでしょうか。
 ここは改善すべきところだと思うんですね。
 
 多分これは、市場原理基づいた上での「罰」なんだと思うんですよ。
 行政が「この企業は悪いコトをしていますよ」って公開すれば、市場原理によってその企業は淘汰される、少なくとも不利益は被るだろうからそれが罰になる、という考え方なんだと思われます。
 それはそれでひとつの考え方だと思いますし、原則論で言えば、それは間違いではないとは思います。
 ただそれは、やっぱり経営側の視点にしか立ってない物の見方なのではないのかと思うのです。
 例えば、全体として、時間にしても規模にしてもマクロの規模で見れば、結果的にその企業が倒産して罰を受けるってコトにはなるのかもしれませんが、しかしミクロで見れば「騙された人」っていうのは確実にいるワケで、そういう人達への保護政策には全然なっていないと言えるのではないかと思うのです。
 騙された人にとって、その企業が5年後に倒産したとしても、騙された人は騙されっぱなしで終わりじゃないですかと。
 またそれは、「抑止力として景表法が役立っていない」というコトも同時に言えるワケです。
 結局「バレなきゃいい」で終わってしまうんですよ。
 なぜなら、「バレたらどうせマスコミに書かれるので、行政の公表があってもなくても同じ」なのですから、マスコミの記事が抑止力になっているとは言えますが、それは同時に法律が抑止力になっていないとも言えるワケですよね。
 これではもはや法律の意味をなさないですし、消費者保護のためにもなりません。
 
 ですからせめて罰金、そして一定期間の営業停止措置などの制裁は必要だと思うのです。
 少なくとも「記者会見すればしのげる」とか「一定期間耐え抜けばなんとなかる」と企業側に思わせたらダメです。
 それでは、次を防ぐための抑止力にはなりません。
 その事件を起こした企業は次は同じコトをしようとはしないかもしれませんが、他の企業への抑止力には繋がりません。
 むしろ「こうすればなんとかなる」という犯罪教唆、とまではいいませんが、悪しき前例にはなってしまうでしょう。
 そもそもどう考えても今回の阪急阪神ホテルズの記者会見は、弁護士かなんかの入れ知恵で、「この場だけをなんとか防ぐための方便だった」としか思えないワケですから。
 抑止力とは全く逆の効果です。
 マスコミや行政による公開にある程度の意味があるとは言え、昔に比べていまはますます経済活動における刑事の意味合いのウエイトは増えてきているのですから、それに見合う規制と罰を用意しておくコトは、公平な経済活動の意味からも、消費者保護の観点からも重要なコトなのではなでしょうか。
 
 消費者庁が誕生してから民主党政権ではほとんど役立たずだったと言われても仕方ない消費者庁ですが、ここでそろそろ奮起してもらいたいと思います。
 
 
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