どんな報道でもまず一歩立ち止まって疑ってかかろう

 マスコミは信用ならないっていう考え方がだいぶ浸透してきた昨今ですが、果たしてそれは実践が伴っている言葉なのでしょうか。
 
 今回すごく違和感を覚えたのが、日韓外相会談に対する反応です。
 最近はどうも「韓国と関わるだけで悪」かのような単純なコトを言う人も少なくないようですが、さらに日韓外相会談の記事を見て「日本はいつまでヘコヘコしてるんだ」って言っている人がそれなりにいるんですね。
 例えばこんな記事です。
 

 韓国・尹外相「舛添都知事の話はわかった。誠意を見せろ」
 
 日韓外相会談、韓国外相「日本は歴史問題で誠意見せよ」
 
 中国メディア・中国新聞網は10日、韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相がミャンマーの首都ネピドーで日本の岸田文雄外相と会談し、日韓関係や歴史問題について意見交換したとする韓国メディア・聯合ニュースの報道を伝えた。
 
 会談の中で尹外相は、首脳の靖国神社参拝、歴史問題上の誤った態度、教科書検定基準の改定、河野談話に関する調査、係争のある島の領有権主張といった日本側の措置や、日本国内の過激な反韓デモなどによって「両国関係が大きく損なわれた」と発言。
 
 このような状況下で、日韓国交正常化50周年に関する話題を持ち出すことは困難だとの認識を示すとともに、「一進一退の悪循環を防ぎ、日韓関係の安定的発展を目指してきた韓国政府の努力が、いまだ成果を得られていない」とした。
 さらに、日本の首脳が知恵とリーダーシップを発揮して、日韓関係の突破口を見つけるよう求め、日本側に歴史問題で誠意ある態度をとるよう促した。
 
 これに対し岸田外相は、両国間には解決が困難な問題が確かに存在すると認める一方、「良好な日韓関係は双方にとってメリットがあるばかりではなくアセアン地域の平和や安定にも不可欠」と述べた。
 さらに、日韓関係の発展のために双方が率直な対話を行うべきだという考えを示した。
 
 岸田外相はまた、安倍晋三首相が先月に韓国のメディア関係者と会見したこと、舛添要一都知事が朴槿恵(パク・クネ)大統領と会談したことに言及。両国が多方面で意思疎通を図っていることを歓迎した。
 
 http://www.xinhua.jp/socioeconomy/photonews/391723/

 
 今回敢えてまとめの方にリンクしましたが、まず基本的なコトとして、この記事の引用されている親記事はどこの国から配信されている記事なのか確認してみてください。
 ここです。
 これだけではこの記事を載せているサイトがどこ資本のモノなのかいまいちハッキリしないのですが、少なくともこの記事の最後には「(編集翻訳 城山俊樹)」とありますから、つまりこの記事は翻訳されたモノであり、日本の新聞や通信社から配信されたモノではないというコトが分かります。
 ここでもう疑うべきなんですよね。
 マスコミを疑えという意味は、マスコミは事実を自分達の都合の良いように解釈して受け手にその都合の方向に無意識に誘導させるような記事を書くので、それに騙されないようにしましょうという意味です。
 それなのにこの「翻訳記事」をそのまま真に受けるのであれば、あまりにも受け手として愚かだと言わざるを得ないのではないのでしょうか。
 
 まして、よく外相会談というモノを現実的に考えてもらいたいです。
 まさか外相会談の中身が、この記事にある内容だけしか言葉を交わさなかったなんてあり得ません。
 日本の岸田文雄外相にしても、韓国の尹炳世外相にしても、記者がその場から退出した後にこれ以外の言葉をお互いに発して、意見の交換をしているコトでしょう。
 確かにその中においては記事にあるような言葉をそれぞれの外相が発していたのかもしれません。
 しかしそれなりの時間をかけて行われた外相会談の内容を、ただこれだけ切り取って貼り付けて、これだけが全てだと言うのは不自然にも程があります。
 それはちょっと考えれば分かりますよね。
 この記事がさも日本の外相がへりくだっているかのような印象を受ける書き方をしている可能性は否定できません。
 しかし繰り返しますが、少なくとも岸田外相がたったこれだけしか物を言わなかったというのはあり得ないワケです。
 
 この記事を掲載しているサイトをよくよく探してみると、こういう一文を発見できました。
 

 ニュースリクエストとは
 
 新華社新華網のデータベースには、3000名以上の記者ネットワークから生まれる4000件/日以上の新着取材記事がリアルタイムでストックされていきます。そんな膨大なデータベースから、当社が日々ご提供できる情報はごく一部であり、カバーしきれない個別のご要望に対応するのがニュースリクエストです。

 
 つまりこのサイトは、中国の新華社配信の記事を翻訳して載せているサイトなんですね。
 そりゃ日本を良いようには書きませんよ。
 正直、直接関係の無い中国資本の通信社が、日韓外相会談の内容をどこまで正確に掴んでいるのかさえ疑問に思わざるを得ません。
 もしかしたら、又聞きしたお話を日本の悪印象になるように書いて載せているだけ、という可能性だって否定できないでしょう。
 
 ちょっと探せばこういう記事も出てくるワケです。
 

 岸田氏「日韓関係に影響」=産経支局長への出頭要請-外相会談
 
 岸田文雄外相が9日に行われた尹炳世韓国外相との会談で、韓国の検察当局が産経新聞ソウル支局長に出頭要請したことを取り上げ、「日韓関係に影響が出る」と抑制的な対応を求めたことが分かった。岸田外相同行筋が明らかにした。

 
 こちらは日本の時事通信配信記事ですが、このようにキチンと岸田外相も必要なコトは言っているんですよね。
 この問題、産経新聞が韓国の大統領に不利な記事を書いたところ、韓国政府から告訴されるとかなんとかという、とても三権分立・法治国家・民主主義国とは思えないデタラメな対応をしているという問題なんですが、岸田外相はキッパリと「そんなデタラメをするならゆゆしき事態になる」と言ってるんですね。
 これのどこがヘコヘコしているのでしょうか。
 この記事もソース元はあくまで「同行筋」なので、実際の会談でどのような言い方をして韓国に注意をしたのか分かりませんが、しかし「同行筋ソース」でさえ「日韓関係に影響が出る」という結構強いトーンですから、こういうコトを考えたら、とてもじゃないですけど今回の日韓外相会談は日本はヘコヘコしているなんて言えるハズがないでしょう。
 
 同じ内容の記事でも、様々な社の記事を読めば、それなりに真実は見えてきます。
 こちらの産経新聞の記事では、岸田外相がニコニコしながら韓国の尹炳世外相と握手をしている写真を載せて、また記事も、
 

 岸田氏は会談で、「両国の間には困難な問題が存在しているが、良好な日韓関係は相互の利益だ」と述べ、関係改善に意欲を示した。これに対し、尹氏は安倍首相の靖国神社参拝などに触れ、「両国関係は大きく損傷された」と応じ、現状のままでは困難との認識を示した。

 
 とだけ載せて、やもすれば日本だけが言われっぱなしだけかのような印象を受けてしまいがちですが(もちろんキチンと中身を咀嚼して理解すればそんなコトはないのですが)、こちらの朝日新聞の記事ではもっと詳しい現場の状況を伝えていたりします。
 

 岸田氏は「日韓関係の進展に向けて率直な意見交換を」と前向きな姿勢を強調したが、直後にあいさつした尹氏は歴史認識の問題などで「両国関係は大きく損傷された」などと発言。岸田氏は険しい表情になった。

 
 「岸田氏は険しい表情になった」
 現場ではどんな雰囲気だったのでしょうか。
 また、この先も岸田外相が何か言っている可能性も否定できません。
 会談の最後まで記者はいれらるワケではありませんので、実際どういうやりとりがあったのかは分かりませんが、少なくとも言われっ放しで終わっただけでは済まないような緊迫した雰囲気があったというコトは、この記事で分かろうというモノではないでしょうか。
 たまに韓国の高官は、記者がいなくなったオフレコの場面になると急にすり寄ってくるなんてお話もチラホラ聞くところですから、もしかしたらこのあと「ごめんごめん言い過ぎちゃった」なんてやりとりがあった可能性だって否定できないんですね。
 まぁそれはさすがに想像だけのコトになってしまいますが、ただ岸田外相の「険しい表情」から、その後何が起こったのかという部分については、ある程度確証の持てる想像ができるのではなのかと思うのです。
 
 でもこれ、産経だけの記事を読んでいれば、これが分からなかったワケですよ。
 今回産経と朝日とどうも立ち位置が逆な感じがしないコトもありませんが、ただ確実に言えるコトは、「ひとつの記事だけをもって全てを決めつけるかのような言い方はできない」と言えるでしょう。
 この辺はキチンと考えてもらいたいところです。
 
 もともと安倍内閣における日本政府の立場というのは、「常に対話のドアはオープンにしている」です。
 また岸田外相も「問題があるからこそ対話を行うべきだ」と常々おっしゃられています。
 それに対し、韓国も中国も、対話するためにはまずこれらの条件を飲めと対話抜きで一方的に譲歩を迫っているワケですが、そんなのあまりにも高圧的すぎて何様ですかというお話ですよね。
 そしてそのヤクザのような言い分は、世界的にトンデモ話として広まってきつつあります。
 今回の日中日韓外相会談だって、アメリカからの要請があったからこそという部分もあり、結局「事前前提無し」の会談が実現したのであって、であるなら日本はそれを受けて当然です。
 裏読みすれば、日本の言い分の方が正しいと証明されたとすら言えるでしょう。
 そしてだからこそ岸田外相の「日韓関係の進展に向けて率直な意見交換を」ですよね。
 「問題があるからこそ、率直な意見交換を」なのです。
 これのどこがヘコヘコしているのでしょうか。
 やえには1ミクロンとも感じません。
 
 結局様々な記事、今回引用した以外の記事も合わせて日韓外相会談をまとめると、結局日本側も韓国側も、「自分たちの主張を言い合っただけで終わった」と表現するのが適当な会談だったのではないのでしょうか。
 しかも韓国側はイヤイヤ出てきた、出てこざるを得なくなって出てきたっていうところです。
 韓国が難癖のようなコトを言ってくるのはいつものコトです。
 しかしそれに対して日本側は今回一切妥協するコトなく譲歩するコトなく、今後とも対話をしましょうと言ったのです。
 そして日本側から韓国に対して何か提供しましょうなんて話は、さすがの内外の反日記事ですら今回は出てこなかったのですから、つまりはそういうコトだったんですね。
 日本の主張通りに始まった日韓外相会談は、日本の主張通り問題があるからこそ対話をしましょうというコトからはじまり、対話をしましょうというコトで終わったのです。
 韓国がデタラメを言うのはいつものコトですが、それに対して日本が譲歩したりヘコヘコした形跡がどこにあるのでしょうか?
 「会うコトがヘコヘコするコトだ」なんて思っている人は、ちょっと頭を冷やした方がいいでしょう。
 
 また日本側からも産経新聞問題なども韓国側に懸念を伝えているワケです。 
 そして記事になっていない、本当のクローズドな意見交換もおそらく色々とされているコトでしょう。
 むしろそっちの方が量としては多いハズですよね。
 全てがオープンにできる議論なワケはなく、非公開だからこそできる議論もあるっていうのは、外交だけでなく、例えば民間の企業同士の話し合いだってあるのですから、そういう常識なども照らし合わせて、こういうモノは見ていかなければならないのはないのでしょうか。
 
 結局、ひとつの記事だけをもって誰が悪いこいつがダメだとか言ってしまうのは、マスコミの誘導に見事にひっかかっているコトにしかなりません。
 その本人は日本のためにとか思ってわーわー言っているつもりなのかもしれませんが、しかしその行動こそが日本を貶めるための先兵にしかなっていないのです。
 マスコミを疑ってかかれとは果たしてどういうコトなのか、一歩立ち止まって考えてみてほしいです。