総理大臣評価論5-福田康夫-

 では福田総理の評価について書いていきましょう。
 
 まずやえの印象を言いますと、政策能力はあり、実は外交が得意で、当選回数のわりには年齢を経ているので経験は豊富な上に、元来の性格からか冷静沈着(であろうとしているのかもしれませんが)なので、総理大臣という職に耐えうる能力は持っている人ですが、残念ながら本来であれば総理になるべき人じゃなかったのになってしまったのが不幸だったと言える人です。
 まぁ逆に言えば、総理大臣になるような人じゃなかったのに総理になるコトができたのは、政治家としては幸運だったと言えるかもしれませんけどね。
 ただやはり、1年で政権を終わらせてしまったのは、かなりマイナス評価にせざるを得ません。
 それがどんな理由があってもです。
 
 もう少し詳しく分析していきましょう。
 「総理になるべき人じゃなかった」というのは、偏に永田町のパワーバランスの中心にいるような人ではなかった、という意味です。
 例えば派閥の会長やそれに近い人とか、時の総理総裁にすごく近い人とか、派閥ではないにせよ幅広いグループを率いている人とか、そういう人ならば総理の座に近しいと目されるワケですが、しかし福田総理はそういうタイプではありませんでした。
 まして所属している派閥は清和政策研究会(当時は森派)というタカ派の派閥ですが、福田総理本人はそのような雰囲気は全く感じない、むしろ宏池会的な雰囲気すら持っている人です。
 おそらくお父さんの福田赳夫総理が清和会の創立者みたいな立場ですから、その流れで清和会に入っていたのでしょうけど、やっぱり福田康夫総理からは安倍さんや森さんのようなタカ派的な雰囲気は感じないですよね。
 そして当時は当選6回目でしたから、派閥の中心という立場でもないワケです。
 閣僚経験は安倍さんよりはありましたが、それでも昔で言う「財務大臣か外務大臣、それと党三役の両方を務めるのが総理の資格」に比べれば全然経験不足です。
 どれもこれも、福田総理は総理になれる環境にはなかった人なんですね。
 つまり結局福田総理も、小泉総理がぶっ壊した「清和会一強の自民党」と、これまた小泉総理が作ったと言える「麻垣康三」という後継者候補という、外的要因によって総理大臣になってしまった、なれてしまった人だと評するのが適切なのではないかと思っています。
 また、「自民党末期」という雰囲気も後押ししたと言えるかもしれません。
 
 果たしてそれは、結局政権が1年しか持たなかったという結果で証明されてしまいました。
 第一次の安倍総理と同じく、「政治家としての総合人間力」不足によって、政権を投げ出さざるを得なくなったのです。
 まして安倍総理は参議院選挙(の敗北)という辞任理由に足る理由があった(安倍さんはそれを理由にしませんでしたが)一方、福田総理は国政選挙をしないままでの辞任です。
 ねじれ国会において国政機能がストップするよりは自分が身を引いた方がいいという理由は、国益に適うかどうかは判断の迷うところですが、ただ結局「毎年1年ごとに総理が替わる」コトがどれだけ国益を損ねてきたのかを考えれば、せめて選挙で国民の信を問うまでは続けるべきだったと言うべきところだと思っています。
 
 念のために言っておきますが、福田総理の辞任の本等の理由はアメリカからなんとかかんとかっていう話があるようですが、やえはこれに与しません。
 そもそもそれが本当だったとしても、いやしくも経済大国日本のトップのクビと引き換えにしなければ止められなかったなんて前例を作ってしまうコトが日本を軽くしてしまう行為だと断じざるを得ませんし、それこそ「自分が総理として正式に断る」コトこそが日本国総理大臣としての責任だったと言えるでしょう。
 まぁこのお話が本当だったとしてもウソだったとしても、当時の自民党と福田総理に対する世間のプレッシャーはすごかったですから、そこから解放されたいと思ってしまったのは人としては理解できます。
 が、やはり政治家としては、そこは低い評価を出すしかないワケなんですね。
 
 小泉政権時に長らく官房長官を務め、一時は「影の外務大臣、影の防衛庁長官」とまで言われた人ですから、政策能力や調整能力はかなり高い人です。
 特に中東関係へのパイプは、議員になる前の前職の関係からも強いモノを持っていて、日本の政治家としては強い武器となっていました。
 ですから、「落ち行く自民党時代」ではない、平時の自民党政権下であれば、それなりに有能な総理になっていたのではないでしょうか。
 こう言ってはなんですが、第一の安倍さんはどのタイミングでもあの結果になっていたと思います(そもそも小泉後はそんなに悪いタイミングではなかった)が、平時の福田総理であれば着実に実績を遺していたのではないのでしょうか。
 
 福田総理で1つ功績を挙げるとすると、やはり消費者庁の創設でしょうか。
 消費者問題って本来自民党のフィールドではないハズなんですが、これを福田総理が手を付けたというのは、かなり画期的だと言えます。
 と同時に、やはり清和会的じゃない人だなという印象をさらに強めているんですけどね。
 ちなみにその時の担当大臣に指名したのが、いまの外務大臣の岸田文雄さんです。
 消費者庁を作るっていう作業は、本来その役所が持っていた権限を引き剥がす作業になりますので、役所としては最も抵抗する作業になるのですが、岸田さんはあっさりとこれを達成してしまいました。
 もしかしたらあまりこの件については印象が薄い人の方が多いかもしれませんが、しかしそれは福田総理と岸田大臣の手腕が高かった証左とも言えます。
 なぜならマスコミが騒ぐ場合は、対立を面白おかしく煽る時ですから、それがなかったというのはかなり巧く消費者庁創設を実行したと言えるワケです。
 
 この辺のコトからも、平時であれば質の高い政治が福田総理の下ならできたのではないかと残念に思います。
 
 では次は、麻生太郎総理です。
 この人の場合、状況が状況だったので、評価はだいぶ難しいんですけどね。