選挙に当選するというコト

2012年4月15日

 選挙に当選するというコトは、どのような意味を持つコトなのでしょうか。
 
 たまに、「選挙に当選するということは、その人に白紙委任を渡したコトであり、当選した人は「政治」と呼ばれる事象の全てを司るコトが出来るようになる」と思っている人がいます。
 特にこれは首長選挙の際に多いと言えるでしょうか。
 極端な言い方をすれば、「知事選にはこの人が当選したのだから、その都道府県の中ではこの人の言うコトに全て従うコトが民意で正義だ」というような感じの考え方です。
 ここまで極端じゃなくても、似たような物言いはどこかで何度か見たコトがあるのではないでしょうか。
 
 しかしこれは、民主主義と法治国家いうルールをちょっと間違えて認識していると言わざるを得ないでしょう。
 選挙に当選すると言っても、その役職は様々です。
 それが地方議会の議員なのか、市町村長なのか、政令指定都市の市長なのか、また都道府県議会議員なのか知事なのか、そして国会議員なのか、いえ衆議院議員なのか参議院議員なのか、それぞれ全てにおいて意味合いが全く違います。
 そしてそれぞれの役職に与えられている権限が全く違うのです。
 
 物凄く簡単に言うと、例えば地方議員には衆議院を解散させる権限など有りはしませんから、いくら地方議員に当選し、それがその地域の絶大な支持を得ていたとしても、その議員の意思では衆議院を解散させるコトなど出来ません。
 同じように、いくらその地域の住民から選出されたとしても、国会議員として当選した人が、その自分の選挙区内の市長をリコールするような権限も持ってはいません。
 首長と議会の関係も同じです。
 厳密には違いますが、知事や市町村長と各議会の関係は行政府と立法府の違いとほぼ同じ意味合いの役割分担が成されていますから、いくら高得票率で当選した知事と言えども、その権限はあくまで法令で与えられている知事の権限の範囲内であって、議会や議会議員に与えられている権限までを知事がどうこうできるコトはありません。
 あくまで知事は知事、議会は議会です。
 そしてなによりですね、国民や住民が、こういうそれぞれの権限を超えるようなコトを望んでしまう言動というのは、結果的に民主主義や法治国家のルールを歪めるコトになってしまいまうというコトは知っておいて欲しいのです。
 
 「最近の選挙結果で、しかも大勝したのだから、その知事の主張に沿うよう議会議員も動くべきだ」
 
 こういう言い方、実はよく見るのではないでしょうか。
 しかし同じ住民とは言え、仮に投票時にそういう意識は無いにしても、厳密には議員選挙の際に投票する意味と、首長選挙の際に投票する意味は違うワケで、ここを混同してはなりません。
 首長に投票するという意味は、法令で定められた範囲内で知事に与えられた権限を行使する権利を選挙によってその人に与えるという意味であって、決してその人の全ての主張を行使する権限を与える行為ではないのです。
 予算が分かりやすいかもしれません。
 その知事が実行したい主張の中に予算が絡む部分があったとして、その知事が最近の選挙で大勝していたとしても、予算を提案する権限は知事にもありますが、しかし予算を決定する権限は議会にあるのですから、その議会の権限にまで知事の主張を丸のみしろと言ってしまうのは、民主主義的には間違いと言わざるを得ません。
 議会も、それは選挙の結果なのですからね。
 どちらも民意の結果であって、どっちが上位に来るべきとか、どっちが正しいかではないのです。
 あくまで選挙とは、その決められた権限を行為する権利をそれぞれが与えられているだけで、決して「政治」と呼ばれる物事の全てを行使する権限を与えているワケではないのです。
 
 民主主義とは、出来るだけ権力を集中させないというところに特徴があります。
 権力が集中すると、良い時はいいのですが、悪いときにはとことん悪くなってしまうので、それを防ぎ、最終的に国民全員で責任を分かち合えコトによって最悪の事態を防ごうというのが民主主義の趣旨だからです。
 ですから、「政治」についても、基本的には1人や1つの場所に権力や権限の全てが集中するのではなく、いかにそれらを分散させるかという視点でシステムが作り上げられています。
 知事には知事ができる範囲だけの、議会には議会ができる範囲だけの、国会議員には国会議員だけができる範囲だけの権限が与えられていて、それぞれそこからは逸脱できないのです。
 こうやって権力を分散させ、1つのところが最悪な行為をしたとしても、他まではその権限が及ばないので最悪の事態を防いでいるワケですね。
 
 こういうシステムですから、時に物事がスピーディーに進まなくてイライラして、独裁者的な人を望むような風潮になるのですが、しかしそれは民主主義の思想に真っ向から相対する考え方だというコトは自覚して欲しいと思います。
 最終的には国民が独裁を望むのであれば仕方ないとは思いますし、その場合はシステムを変えればいいとは思いますが、いま現在の日本のシステムは国民自身が望んで民主主義の制度を採用しているというコトは忘れて欲しくありません。
 そして、権限はむしろ分散させているのであって、スピーディーに動かない方がシステムとしては適切なあり方なのです。
 それを選挙とか民意とかだけでは超えるコトは出来ないのです。
 
 国会議員にしても知事など首長にしても、いくら圧倒的な勝利だったとしても、それは独裁を認めたというコトではないというコトは忘れてはいけないと思います。