もうちょっと都構想について (下)

2012年4月15日

(つづき)
 
 でですね、区は政令指定都市よりは権限が小さいですから、では知事の視点から見れば、それはやっぱり政令指定都市の市長よりも区長の方が意見を言いやすいっていうのはあると思います。
 政令指定都市は「都道府県並み」の権限があるワケですが、これを逆にいえば、「市町村が持っていないけど政令指定都市にあるっていう権限は、都道府県が持っている」というコトになりますから、市町村の中では都道府県が振るえる権限はそれなりにあるというコトになるワケで、つまりこの部分において知事視点では、「政令市の市長よりも区長の方が汲みやすい」というのは事実だと思います。
 政令市よりも振るえる権限の余地が大きいと言えるワケですからね。
 
 以上のコトから、都構想とは果たして何かというところを考えてみましょう。
 
 現在の東京都を考えてみますと、都知事には東京都全域への様々な権限が与えられていて、また東京都内には政令指定都市が無く、市町村とさらにそれより多少権限が少ない特別区があって、よって都知事が振るえる権限は都内全域に広く及んでいるワケです。
 間違えてはならないのが、東京都内には市町村もあるというコトです。
 八王子市ですとか府中市とかですね。
 決して都知事は23区内のトップだというコトではなく、そこも含めた東京都内という広い地域のトップであって、都知事は文字通り都道府県並みに持っているワケです。
 つまり、東京都内には政令指定都市が無いですからね、あればその部分の都知事の権限が狭まりますが、東京都にはありませんから、知事としては100%の権限がふるえると言っても差し支えないでしょう。
 言い換えれば、政令指定都市のない知事と、権限の質は一緒なワケです。
 東京都は経済規模や人口が多いので、実行できる量が大きいですから巨大な権限を持っているかのように感じますが、法令上の権限は他の都道府県知事と変わりません。
 広島県知事も東京都知事も、権限の法的根拠は全く同じです。
 物凄い端的な例で言えば、県道を造るという権限はどこの知事も変わりませんが、予算が東京都は多いので、予算が小さい県よりも長く太い道路を造るコトができる、という感じです。
 
 実は違いはこれだけしかないんですね。
 確かに、その都道府県の中に政令指定都市があれば、その範囲だけは知事から見れば「目の上のたんこぶ」になります。
 その部分については市長の権限が強いので、知事としては手が出しにくいですからね。
 ただこれは地方分権という「住民に身近な行政サービス」という観点からは、やはり一番身近な地方自治体に強い権限がある方が住民も色々と便利だという点は当然としてあるワケですから、知事視点では「目の上のたんこぶ」ですが、地方分権としてはその方が望ましいとは言えます。
 まぁそれはともかく、知事視点で、橋下さん感覚と言ってもいいかもしれませんが、そう見れば政令指定都市は「邪魔」です。
 知事が知事の権限を100%発揮したいのであれば、政令指定都市は無い方がいいコトになるワケです。
 
 端的に言えば、東京都知事と大阪府知事には、その影響下に政令指定都市があるかどうかのみに違いがあると言えるでしょう。
 東京都知事は世界トップレベルの大都市23区内にも、他の市町村に知事が手が出せるぐらいの影響力を発揮できるけど、府知事は大阪市にはあまり手出しが出来ないと、この違いがあると言えます。
 おそらく橋下さんは、実際口に出して言わないので想像しか出来ませんが、ここが一番のネックだったんだろうと想像されます。
 
 さらにもうひとつ言えば、政令市ではない市町村よりも、さらに特別区の方が多少権限は小さいですから、その分も貪欲に権限を振るいたいと思うのであれば、特別区を作る意味も多少はあります。
 ウィキペディアを参照しますと、ちょっと引用が長くなりますが、
 

 特別区は、基本的には基礎的自治体である「市町村」に準ずるものとされ(地方自治法第281条の2第2項・第283条)、「市」の所掌する行政事務に準じた行政権限が付与されている(同法第281条第2項・第283条)。
 しかし特別区は、「法律または政令により都が所掌すべきと定めたれた事務」、および、「市町村が処理するものとされている事務のうち、人口が高度に集中する大都市地域における行政の一体性及び統一性の確保の観点から当該区域を通じて都が一体的に処理することが必要であると認められる事務」を処理することができない(同法第281条第2項・第281条の2第1項)。
 具体的には、特別区は「上下水道」・「消防」などの事務に関しては単独で行うことができず、特別区の連合体としての「都」が行っている(水道法第49条、下水道法第42条、消防組織法第26条ないし第28条)。東京都は、これらの規定に基づき、東京都水道局、東京都下水道局、東京消防庁などを設置している。また、都市計画や建築確認についても一定規模以上のものについては、法令により都に権限が留保され、都が直接事務を行っている。また、特別区の自治権拡大に関する地方自治法改正法の施行の前日2000年(平成12年)3月31日までは清掃事業も都の業務とされており、東京都区部においては同日まで東京都の行政機関である「東京都清掃局」がこの地域の清掃事務を統一的に行っていたが、同年4月1日に各特別区および東京23区清掃一部事務組合に移管された。
 さらに、旧警察法においては、都知事の所轄と特別区公安委員会の管理の下、特別区の存する区域を管轄とする自治体警察を設けることとなっており(旧警察法第51条ないし第53条)、東京都ではこれに基づき東京都知事の所轄と特別区公安委員会の管理の下、警視庁 (旧警察法)を設置していた。
 そのほか、他の大規模な政令指定都市が通常行っている事務・事業も、都の主要な業務となっている(東京都区部では、都営地下鉄及び都営バスの運営、東京メトロへの出資、都立病院の運営、公立大学の設置、公営住宅の設置、霊園・火葬場設置なども、東京都がそのほとんどを行っている。なお、東京都区部以外の区域においても、都立病院の運営など一部の業務を東京都が行っている)。

 
 
 この辺の部分を大きいと見るか小さいと見るかでしょう。
 例えば何度も言ってますように、東京都にはいま現在実際に区立の学校や図書館などありますし、教育委員会も区のモノがあって、教科書の採択権限などは区の教員委員会にあるなど、区は市町村に準ずる権限がありますので、「区にすれば大幅に権限が制限され、自動的に知事の権限が大きくなる」と簡単に言えるモノでもありません。
 厳密には大きくはなりますが、少なくとも知事が独断で何でも決められるようになるような制度になるワケではありません。
 東京都知事の23区内への関与は、ほぼイコールぐらいの形で、大阪府知事が政令指定都市ではない堺市に関与できるぐらいの影響力を発揮できるぐらいの力があると言えるでしょう。
 その下の地方自治体である区の区長や区議会の意向も、法的な権限や住民の意見という意味では決して小さくないモノがあるのですから、物事はそう簡単では無いのです。
 
 では、昨日のご質問の後半について回答していきたいと思います。
 

 この解釈で正しいとするならば、下位の市に「分権」されていたものが、上位の府に「集権」されるわけなので 「地方分権」と「都構想」はどうしたって矛盾しますよね。分権って主張しているにも関わらず集権しちゃってるわけですし。

 
 昨日の解釈は間違いと言わざるを得なかったのですが、先ほど言いましたように、政令指定都市にある権限が一部特別区に分散され、また都道府県並みにあった政令指定都市の権限は特別区には全ては委譲されませんので、相対的にはそれなりの部分の権限は都に「集権」される、という感覚は合っていると言えます。
 一番下に位置するからこそ意味のある政令市の大きな権限が、都にするコトによって「上」に委譲されるワケですから、形としては中央集権のベクトルに向かうと言えるでしょう。
 ですから確かに「地方分権」と「都構想」は矛盾しているとやえも言っているところです。
 
 ただこれは「地方分権」の言葉の定義にもよるかもしれません。
 やえは地方分権の地方とは「より細かい・地域住民に根ざした」という意味だと思っているのですが、これがもし仮に「都道府県単位を地方と呼ぶ」なんて定義されると、都道府県に権力を集中させるコトが地方分権だという方便が成り立ってしまうワケです。
 正直、橋下市長はこう言っているようにしか思えないんですね。
 でもこれは、おっしゃるとおりに本当に「地方分権」なのかと、やえもとっても疑問なのです。
 
 「より細かい・地域住民に根ざした」という意味では、特別区よりも政令指定都市の方が望ましいと言えるハズです。
 もっと言うなら、特別区に政令指定都市並みの権限を与えるのが一番の地方分権かもしれません。
 まぁここまですると地理的な面での不具合や齟齬がうまれてしまうかもしれないので、東京って狭いですからね、色々と弊害が出てきそうですが、しかし例えば都知事が強い権限を持つべきだと言わんばかりの論理ですと、それは都道府県単位での強い権限となりますから、ここまで地理的に広いところまでを一体として考える必要があるのかどうかは、やえには大変に疑問なのです。
 例えばやえの感覚でしたら例えば広島市と福山市を一体として行政区分するコトが地方分権とは思えません。
 あまりにも大雑把すぎます。
 大阪府だってそうではないのでしょうか。
 大阪市の行政と、泉南郡岬町との行政を一体として考える必要性がどこまであるのでしょうか。
 広島市と福山市は事情が全然違いますし、多分大阪市と岬町の事情だって全然違うと思います。
 だからこそ、それぞれの地区で独自の行政サービスをするコトこそが「地方分権」なのではないでしょうか。
 
 というワケで、この観点からもやえは、橋下さんの主張は矛盾していると感じています。
 この点からも、橋下さんは「地方分権」という言葉を武器に使いながら、実際にやりたいコトというのは「自分に権力を集めたい」というコトなのではないかと感じているのです。
 それが良いか悪いかはともかくですし、以前にも言いましたように橋下さんは権力を得てからその先のビジョンがあるのでしょうから、民主党のごとく権力の権化だと言うつもりは毛頭ありませんが、しかしそれはそれとしても、言っているコトとやっているコトは違う、つまり矛盾しているというコトは事実なのですから、それはそれとして指摘しているワケなんですね。
 理念があるから矛盾は許されるなんて言い出すのは、それはテロルの理論ですし。
 
 最後のご質問です。
 

 それとは別にもう一つ知りたいことがありまして。 「大阪市は現在人口多すぎて行政きついからもっと小さい区に分割したほうがいい」といった記事(橋下氏の主張?)も見かけるのですが、 この観点から見て都構想はどうなのか、やえちゃんの意見を聞いてみたいです。もしよければお願いします。

 
 都にするコトで地方自治体が区単位になりますから、行政単位を小さくするという意味においては、これは成功すると言ってもいいでしょう。
 ただし、権限は小さくなりますから、「政令指定年並みの権限で、もう少し狭い区分にする」という意味では、これは為し得ません。
 それならむしろ、堺市などの周辺も含めた上での、政令指定都市の再編をした方がいいんじゃないかと思います。
 政令指定都市であるところの、「北大阪市」と「南大阪市」のような感じですね。
 現在堺市は人口84万人程度ですから、これだけでも十分政令指定都市の要件を満たしています。
 ですから、現在の大阪市の南の部分を堺市に併合して、ここを南大阪市として政令指定都市化させるというのは、1つの大きな手ではないでしょうか。
 
 この観点で言えば、都構想はいいのかもしれません。
 政令指定都市が2つ並ぶのと、権限は小さくなるけどより小さな地方自治体が隣接する特別区になるのと、どちらが住民にとってのメリットが大きいかの、どちらがより地方分権になるのかというのは、一概には言えず、ここでパッとどっちがいいのかというのは言いにくいですが、少なくとも「人口に見合った地方自治体を作る」という点に関しては、都構想はダメだとは言えないと思います。
 大阪都にすれば、旧市内はかなり小さな地区での地方自治体がたくさんできるようになるワケですからね。
 それはそれでいいとは言えるでしょう。
 
 ただし、人口規模だけを基準にして考えるのであれば、例えば現在の大阪市の人口は約267万人に対して、横浜市はなんと369万人もいるワケで、やっぱりなかなか一概に大阪府を大阪都にという説得力には乏しいと言わざるを得ないかもしれません。
 むしろこれは、人口の多い都市における行政のあり方という観点で、全国的な問題として考えるべき問題と言えるでしょう。
 「都」という言葉に囚われるコトなく、別の解決方法も模索するべきではないでしょうか。
 この辺、地方自治体を作るというコトは、首長と議員を作るという意味になりますから、政治家が果たすべき役割という意味を民主主義制度の中で考えながら、果たしてどれぐらいの規模と権限が適切なのかを、よくよく考える必要があろうかと思います。
 どちらにしても、大阪府を大阪都にするにしても、法律の改正は必要のようですから、政令市や都だけではない、別の枠組みを作るという可能性も含めての議論が必要な案件だと思っています。
 
 政治は決して、権限があるからなんでもできるとか、権限がないから何もできないとか、そういう二元論的には考えられない面があります。
 沖縄部軍基地問題は、それが端的に表れた問題でしょう。
 政治は人のためにあり、人は感情を捨てるコトは出来ません。
 ですから、問題の全てをシステムに転嫁しても意味を成さないというコトは忘れてはいけません。
 もちろんシステムの問題は大切ですが、それだけでない面も政治にはあって、そこも大きなウエイトを占めているという自覚を持って政治には当たらなければならないでしょう。
 
 まだまだ地方分権については考えていきたいと思います。
 コメントありがとうございました。