過去の苦労にただ乗りするだけでなく批判までしてしまう愚

 連休を思う存分満喫中なのであるが、金曜日にやえが橋下大阪市長の件で言及していた件について、その引用先の記事が気になったので、たまにはオレもしゃべってみたいと思う。
 

 小林よしのり氏 河村市長的な南京否定発言したら昔は袋叩き
 
小林:彼らの主張は、憲法9条改正や国旗国歌の問題、靖国参拝など、わしが過去に取り組んできたテーマばかり。で、すでに自虐史観を相対化するところまでは成功したわけ。だから、保守と称する連中がいまだにその話をしていると「まだそれが好きなのか」とウンザリするんだ。
 
中野:今はそれを、リスクなしで主張できるんですよ。敵が強大だった時には戦わず、先駆者が切り開いた道を勝ち馬に乗って進んでいる。
 
小林:昔は、河村たかしみたいな南京虐殺否定発言をしたら、袋叩きだったよ。絶対に辞任しなきゃいけなかった。「愛国心を持っている」と言うだけでも叩かれたんだから。ところが今は、愛国心を強調するほうがポピュリズムになっている。だから構造改革を進める時に小泉が保守を取り込むために取った戦法も、靖国神社参拝だった。

 
 小林さんは小泉内閣時代にあまりにアメリカ憎しに偏ってしまって、アメリカや政治が絡むと滅茶苦茶な論になってしまうのだが、ただ小林さんがやってきた道っていうのは、やっぱり大きな功績があると思うのよ。
 いまでは考えられんかもしれんが、十数年前まではサヨク的な考えが正義で、例えば日本が核武装の検討をすべきだって政治家が発言するだけで辞任騒ぎになるほどの、そんな硬直した空気が日本を覆っていた。
 いまでこそ先の大戦について評価すべきだという論調も普通に見えるようになってきたが、その前までは大東亜戦争という言葉を使うだけで右翼とレッテルを貼られ、議論にすらならない空気だったんだよ。
 これは小林さんひとりの功績と言うつもりはないが、しかしこの硬直した空気を打破したきっかけになったひとりとしては、やはり小林さんの力は大きかったとオレは見ている。
 
 手前味噌だが、オレだって当時はいろいろと苦労した。
 そんな時代からネットで思想サイトをやっていたし、スタンスはいまでもそう変わってないから、いろいろな誹謗中傷を受けたよ。
 当時は朝鮮半島に対しては言及することすらタブーな空気があったんだが、それでもオレは「韓国は日本に対して敵対心を持っている」と主張した。
 いまではこれだけでは生ぬるいと言われる程度だが、しかし当時はこれだけで右翼だ売国奴だと言われたもんだ。
 北朝鮮による拉致事件も、オレは小泉さんが総理になる前から特設ページを作って論陣を張っていたが、当時はほとんど誰にも相手にされなかった。
 ネットでの運動のあり方の意見相違で、右翼と名乗る団体と正面から議論したこともあった。
 
 他にも、これはやえが関わった話だが、千人祈っていうネット上の運動があった。
 今でもサイトが残っているようだが、これは当時「テキストサイト」と呼ばれていたサイト群やその読者が集まって、イラク戦争に反対するネットの声を一冊の本にまとめたという運動だった。
 当時はまだサイトの数が少なく、ブログなんて存在しない時代だったから、当時サイトを構えていた多くの人が関わったと言ってもいいものなのだが、オレはこれに正面から反対した。
 このサイトをちらっとでもいいから見て欲しいのだが、副題からして「NO WAR! ことばで綴る千羽鶴」だ。
 いまの感覚で言えば「サヨク臭い」と言えてしまうものだろう。
 実際の中身を見れば、それはさらにひどくなる
 

・平和を願う。だから、願いを言葉に。言葉を声に。声を行動に。
・手を繋ごう。僕らは同じ『人』であるが故に。
・破壊、殺戮、憎悪、悲哀、絶望。命と引き換えに生み出していいものじゃない。
・素直なコトバを発しても、行動を起こしても。 無気力な同意で終わってしまいそうだから。 だから僕はひたすら挑発を続けたい。 「ワカリアウマエニコロシアエ」と。 立ち止まり、考えてくれることを期待しながら。
・理をもって戦争を語るも、利をもって戦争を語るも、あなた方の自由です、星条旗の国の人。ただ、ちょっと冷静になりませんか? あなた方はあなた方が信じているほどに強くない。

 
 戦争は外交である。
 政治である。
 だから感情論だけで戦争を語ってもまったく意味は無い。
 だからやえはこのように当時批判した
 

 まぁそれでも運動自体はなんとか進んでいるようではあるんですが、なんて言えばいいんでしょうか、一昔前のちょっと勘違いした学生運動のノリでやるのは正直どうなのかなと思います。
 主催者の一人によればこの運動は「オフ会のノリでやればいい」とのことなんですが、反戦運動とかデモというものは立派な政治活動です。
 思想無き政治活動などあり得ません。
 もしガキの遊びのノリで政治活動をやっているのであったら今すぐ辞めて欲しいモノです。
 そしてもう二度と政治家批判などしてはいけません。
 もしそうでないなら、きちんとした思想を見せてもらいたいと思います。

 
 いまでなら、こんなバカバカしい運動は、まぁ実行する奴はネットに関わる絶対数が増えたのでやる奴はやるんだろうけど、でも現実を分かってる人間からすれば一笑に付す程度で終わるだろう。
 でも当時のネットは、これが主流だったのだ。
 これはネットだけではなく、現実世界の雰囲気も同じだった。
 こんな時代があったんだよ。
 
 でね、別にオレややえがいたからネットもここまで雰囲気が変わったと言うつもりはないが、それでも当時完全アウェイだったところでやってきたという歴史がオレやウチのサイトにはあるわけよ。
 どれぐらい意味があったのかはともかく、それが極僅かでも、それでもその時代の空気を打破したことに少しは影響を与えているのは確かだ…と思いたい。
 だから偉そうに言うのであれば、橋下市長とかにも、「今アンタはそんなに偉そうにものを言ってるけど、当時サヨク全盛期だった時にいま言っているようなことを堂々と言えたのか、言ってきたのか?」と言いたくなるわけなんだよね。
 「保守だ、国だと偉そうなフレーズは口に出すが、要は暇児なだけじゃねえか。」なんて言うなら、お前は昔何してたんだと、テレビっていう煽動媒体に出演して当時の大衆の空気に迎合して媚びを売って金をもらいつつ顔と名前を広めてもらってたんだろと、そう言いたくなる。
 口だけと言うならなおさらだ。
 お前は口だけすら当時の圧倒的な雰囲気に立ち向かうことすらしてねぇだろと。
 
 今の橋下市長の過激な発言は、当時の硬直した空気を打破したからこそ出来ることだ。
 今の雰囲気に乗っかっただけだろうと。
 一昔前なら、とっくに辞任騒ぎになっていたぞと。
 
 橋下は他人が均した道路に唾を吐きながら我が物顔で爆音立てて暴走しているのだ。
 
 別に昔から主張している人間が偉いとか言うつもりはないが、でもそういう歴史があったことは知るべきだろう。
 まして自分がいまの立場に立てている下地を作ってくれた人に唾を吐きかけるような行為は以ての外だ。
 そんなことされれば、昔苦労した身としては、お前ふざけんなと、そりゃ言いたくなる。
 
 公の場で自らの意見を言うのであれば、それは誰からでも批判される可能性があるし、その覚悟が無ければ公の場で主張なんてしてはいかん。
 公の場の意見に対して批判する権利は誰にでもあるし、その批判に対する批判も甘んじて受けなければならない。
 ましてそれが政治に対するものであれば、主権者である以上は批判する方もされる方も責任を持ってなされなければならない。
 それなのに橋下の「口だけ」とは何事だろうか。
 実行出来る人間だけが意見出来るなんて言い出したら、選挙も民主主義も成り立たなくなる。
 そんなことぐらい橋下市長なら分かりそうなもんだが、だからこう言うこというからこいつは権力だけが目的だと見えてしまうのだ。
 
 橋下市長は保守系の政治家と見られているようだが、本当に保守であれば、先人達の苦労を理解し敬意を持って、いまこうやって活動出来ていることに感謝するのが筋なんじゃないだろうか。
 自分だけが道を作っていると思っているのであれば、あまりにも傲慢すぎる。
 小林さんより傲慢だ。