現行の衆議院議員の定数は、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い。

2016年2月4日

 このタイトル、先日公表された「衆議院選挙制度に関する調査会」の答申の一節です。
 答申はこちらで全文公開されていますので、興味ある方はご覧ください。
 
 この調査会、メンバーは非議員の有識者です。
 会長役の座長に東京大学総長も務められた佐々木毅さんをはじめとして、けっこう有名な学者さんたちによる有識者会議です。
 つまりこの答申は、選挙で選ばれる自らの身分に関わるような議員の意志を反映しない形、もっと言えば、いちいち民意なんて気にしなくてもいいモノだというコトに注目してください。
 その答申で「現行の衆議院議員の定数は、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い」という一節が載せられているのです。
 
 原文そのままを引用するとこうです。
 

 現行の衆議院議員の定数は、国際比較や過去の経緯などからすると多いとは言えず、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い。

 
 この問題についてはやえはかなーり昔からずっと言い続けているコトなんですけど、いまの日本の現行制度を見ると、議員定数を減らす必要性が全くありません。
 特に、議員定数でよく言われる理由のひとつである「外国に比べて議員数が多い」については、これはまったくのデタラメだと言い続けてきました。
 例えばこちらの記事では、やえが自分で主要国の議員数と人口を調べ、議員ひとりあたりの人口数というモノを算出していますが、その結果は、アメリカは断トツに議員数が少ないのですが、日本はその次に議員数が少なく、イギリスに比べれば約1/2の議員数となっています。
 そしてそれは、この調査会の答申でも表付きで指摘されています。
 
 
 
 下院とは日本で言う衆議院に当たる、どの国でも直接選挙が行われる(上院は選挙でない国もある)議院ですが、そこだけで比べると、日本の世界比較はますます大きくなります。
 もちろん日本の議員数は格段に少ないワケです。
 G7中、日本の次に議員数が少ないドイツでさえ日本の倍の人数がいるんですね。
 これのどこが「外国に比べて日本の議員数は多い」のでしょうか。
 
 もうひとつよく言われるコトに「経費削減」という言葉が出てきますが、しかしそもそも議員数の問題というのは民主主義の根幹に関わる問題であり、単にお金の問題で考えられる問題ではありません。
 少なくとも、議員定数の問題はお金の問題よりも上位にある問題と言えるでしょう。
 なぜなら、そもそも民主主義という制度自体が手間もお金もかかる制度だからです。
 法律1つ作るにも、何百人もいる議員が長い時間を掛けて議論を行い、その上で賛否を聞いて過半数以上の賛成を得なければならないワケで、当たり前ですが決定権者が少ない方が時間も手間もお金もかかりませんが、それでも「民主主義という枠組み」を守るために、時間も手間もお金も度外視でこの制度を採用しているワケです。
 もともと経費がかかるコトを想定した制度が民主主義なのです。
 だからもし、民主主義の価値よりもお金を上位にして考えろというなら、いますぐ民主主義を辞めるべきなんですね。
 でももちろんそんなコトまで考えている人はいませんし、もし本気で民主主義をやめるべきだと言われれば、共産主義者など以外は否定するコトでしょう。
 であるなら、経費削減を理由にこの問題は考えられないハズです。
 
 その上でもし、国際比較として日本が抜群に議員数が多いなら、少しは考慮していいとは言えるかもしれません。
 それでも本来こういうのは比較して成否を決めるモノではありませんからそれも一要素でしかないと思いますが、しかしどちらにしても、日本は抜群に議員数が少ない方なのですから、結局経費削減という理由は議員定数が結論づけられる理由にはなりはしないのです。
 
 よってこの答申も「これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い」と結論づけたのでしょう。
 冷静に理知的に考えれば、日本はこれ以上議員数を減らして良いコトなどなにもないのです。
 ですから本来一票の格差を是正したいのであれば、議員数を増やすのが望ましいのです。
 
 でもこの答申も、その次に急に日和ってしまいます。
 

 (1)一方、衆議院議員の定数削減は多くの政党の選挙公約であり、主権者たる国民との約束である。
 (2)このことから、削減案を求められるとするならば、以下の案が考えられる。(以下略)

 
 政治課題としては、「国民との約束」は考慮する必要もあるでしょう。
 しかし、今回のこの調査会はそういう“議員個人の事情”を排除するために非議員のメンバーにしてあるハズです。
 それなのになぜ、こんな公約なんていう調査会には全く関係ない理由で「理論的根拠」を否定してしまっているのでしょうか。
 これがまだ、この調査会の答申を受けて、政治家サイドで選挙公約を勘案した結果として議員定数削減に踏み切るっていうのでしたら分かるんですよ。
 それなのに、非議員の調査会の段階で公約なんてモノを考慮してしまう、言わば日和ってしまっているコトに、やえは大変な違和感と失望感を感じてしまいます。
 
 ですから、議員でもなんでもないやえは言い切ります。
 仮に選挙公約であったとしても、それよりも民主主義の根幹に関わる議員定数の問題については、それを無視してでもこれ以上議員数を削減するコトはやめるべきです。
 そこにメリットはありません。
 これは、冷静に理性的に考えたら、普通に出てくるハズの答えなのですから。
 
 そしてこれをキチンと伝えないマスコミもマスコミです。
 この答申を報道する内容は、やっぱり議員定数削減の部分だけでした。
 でも「2.議員定数」のトップに来ているのは「現行の衆議院議員の定数は、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い」であり、非議員がメンバーの調査会の答申という性格を考えれば、この部分こそをもっと大きく報道するべきのハズなのです。
 
 調査会が辺に日和った点、そしてマスコミの相変わらずの態度のこの2点について、やえは声を大きくして指摘しておきたいと思います。