第二次岸田改造内閣

 まずは岸田文雄総理・自民党総裁以外の閣僚クラスの一覧を載せておきましょう。

◆自民党役員
副総裁 麻生太郎 麻生派
幹事長 茂木敏充 茂木派
総務会長 遠藤利明 谷垣G
政調会長 萩生田光一 安倍派
選対委員長 森山 裕 森山派
 
◆内閣
総務 寺田 稔 岸田派
法務 葉梨康弘 岸田派
外務 林 芳正 岸田派
財務 鈴木俊一 麻生派
文部科学 永岡桂子 麻生派
厚生労働 加藤勝信 茂木派
農林水産 野村哲郎 茂木派 参議院
経済産業 西村康稔 安倍派
国土交通 斉藤鉄夫 公明党
環境 西村明宏 安倍派
防衛 浜田靖一 無派閥
官房長官 松野博一 安倍派
デジタル 河野太郎 麻生派
復興 秋葉賢也 茂木派
国家公安 谷 公一 二階派 参議院
地方創生 岡田直樹 安倍派 参議院
少子化 小倉將信 二階派
経済再生 山際大志郎 麻生派
経済安保 高市早苗 無派閥

 全体的な印象は「重い」です。
 岸田総理としては衆議院選挙・参議院選挙と2つの国政選挙を勝利で収めて、ある種フリーハンドを得たと言えるのですが、それでもかなりのバランスを取ってきた布陣です。
 この辺、前々回の更新で「岸田総理はバランスの人なので、おそらくある程度のバランスは取ってくるのではないかと思います」と言った通りで、岸田総理の人柄が垣間見える人事だと言えるでしょう。

 しかし、これも前々回言いましたように「一方岸田総理は人事は相当に巧いので」、今回も色々なところに岸田総理の戦略が垣間見れます。
 今日はこの辺を解説してみたいと思います。

 まず、今回は「安倍晋三総理に配慮した」と言える人事だと思っています。
 ポイントは「清和政策研究会(安倍派)に配慮した」のではなく、「安倍さん個人に配慮した」と表現するところです。

 具体的には加藤勝信厚労大臣と高市経済安保大臣ですね。
 加藤大臣は茂木派ですが安倍総理との距離が近いコトで有名でしたし、今回茂木派からは加藤大臣の入閣希望は出してなかったようなのですし、そして高市大臣は無派閥です。
 よってこのお二方を登用については安倍派や茂木派への配慮にはなりませんから、その意図を想像すると、やはり岸田総理からの安倍晋三総理の配慮だったのではないかと思うワケです。

 なぜこのような配慮があったのか、様々な理由が考えられますし、岸田総理の安倍総理への思いが一番じゃないかとやえは思っているところですが、その一方、岸田総理の政治家らしい戦略も当然あると思われます。

 加藤大臣が所属する茂木派は、前回に比べ、閣僚数が減りました。
 改造前の岸田内閣では、茂木派は4人もの閣僚を輩出していましたが、今回の改造では、茂木派は3人と減っている上に、加藤大臣は実質的に一本釣りですから、実際派閥のインパクトとしては3人よりもっと少ないと見るべきでしょう。
 これは茂木派閥会長の指導力が低下したと言われかねない人事と言えます。

 茂木派というか平成研究会は今でも内部がゴタついています。
 茂木派の一番の問題は、会長の茂木敏充幹事長本人に人望が無いところにあります。
 茂木幹事長の性格があまりよろしくないコトはよく報道されている通りでして、今は幹事長という強権を揮えるポストに就いているのでなんとか内乱にまではなっていませんが、派内の大部分、さらに未だ強い影響力を持つ青木幹雄元官房長官は、いつ茂木さんを会長職から引きずり下ろすか虎視眈々と狙っています。
 茂木幹事長は一時期マイルドになったと言われていましたが、しかし残念ながら、幹事長になってからも悪評の方がよく聞こえてきていますし、党内での問題に対しても、調整をするのではなく強権によって一方的に決めてしまう手法についても、茂木幹事長の評判を落とす大きな一因になっていました。

 今回の人事を見た上でこれらのコトを考えてみると、岸田総理も今回の茂木幹事長の処遇は悩んだのではないかと思われます。
 つまり、茂木さん本人は幹事長に留任させる代わりに所属の大臣は減らす、という措置を執ったのではないかと思うのです。
 「選挙も勝ったし今回は留任させるが、これ以上やり過ぎると次は無いからな」という無言のプレッシャーです。

 さらにそれを補強するかのように、茂木平成研会長の次を狙う加藤勝信さんの大臣起用と小渕優子さんの運動組織本部長留任です。
 運動組織本部長は四役ではないにせよ、自民党の友好団体との窓口の総元締めという非常に「おいしい」ポジションでして、かなり人気のポストです。
 ここを留任というのは結構異例だと思われるのですが、つもり岸田総理としては茂木幹事長に「下からの突き上げ」をさらに明確に見せつけた形にしたワケです。
 派閥からの推薦を蹴って大臣数を減らし影響力を低下させ、さらに次の世代をの突き上げを明確に目の前の突き付けるコトによって、岸田総理から茂木幹事長にプレッシャーを与えたと言えるでしょう。

 これは岸田総理の、幹事長と言えども自分の支配下に置くというメッセージでもあります。
 安倍総理時代の二階幹事長は、ほぼ安倍総理の影響下から脱していました。
 その辺は改めて説明するまでもないですし、結局安倍総理も菅総理も二階幹事長を辞めさせるコトができず、その役目は岸田総理が負ったワケですが、このように人事については一歩も引かない岸田総理は茂木幹事長に対しても一切手を抜かずに目を光らせると、自分の影響下に置くと、今回の人事で明確にしたというコトなんだと思います。

 次に、岸田総理は人事を通じて、様々な議員を自らの影響下に置こうとしているのが窺えます。
 例えば先ほどの加藤勝信さんは何度も言ってますように安倍総理と近かったワケですが、しかし残念ながら安倍総理はこの世を去り、その結果、安倍派ではない加藤さんとしては大きな後ろ盾を失って、今後の政治人生の大きな岐路に立っていました。
 また加藤さんが所属する平成研究会はどちらかと言えば小渕さんを会長にという声の方が大きく、加藤さんはメインではありません。
 だからこそ安倍さんに寄っていった部分もあったでしょう、しかし安倍さんの逝去によって、加藤さんとしては今後の政治の歩み方の岐路に立っていたワケです。

 そこに岸田総理が手を差し伸べました。
 加藤さんとしては、自分の後ろ盾という意味でも、岸田さんに大きな恩が出来たワケです。
 今後この両者がどこまで接近するかは分かりませんが、両者ともにメリットのある接近であり、今後の政局に小さくない波紋を投じるコトになると思います。

 同じような人事は、政調会長に就任した萩生田さんでも見られました。
 安倍さんに近いと有名な萩生田さんですが、議員歴としては衆議院当選6回と、まだ派閥を代表する立ち位置にはありません。
 その中で党四役という大臣よりも重いポストに就かせる、しかも本人は大臣会見で堂々と「留任がいい」と異例の発言、というかこれはかなり総理大臣に対して失礼な発言だったのにも関わらず、岸田総理は一切引かずに首根っこを捕まえて萩生田さんを政調会長に就かせました。
 まして政調会長は岸田総理自身が歴代最長の在任期間を誇ったポストであり、その重要度を一番よく分かっているポストです。
 これにより、岸田総理としては萩生田さんも自分の影響力の下に付かせるコトができました。

 まして萩生田さんは総裁選に出た高市前政調会長とは違いまだ中堅議員ですから、政調会長としてうまく党内を調整させなければ将来のキャリアに関わります。
 ここは萩生田さんにとっては大きなチャンスであると共に、大きな正念場とも言えるワケで、これにより萩生田さんは岸田総理と連携しながら自民党政調をコントロールしなければならなくなったのです。
 「岸田内閣のために党内と安倍派内を見張れ」
 岸田総理が萩生田政調会長に課した指令は、加藤さんの場合と同様に、自分のためにも岸田総理のためにも全力でこなさなければならない、非常に計算された人事の妙の成せる技によって成り立っているのです。

 さて、他にも色々あるのですが、長くなってしまいますので、最後に森山選対委員長について触れておきます。
 一般的には二階元幹事長や菅前総理に近いと言われている森山選対委員長ですが、しかし森山さんは歴とした派閥の会長であり、て森山さんとして最も重視するのは自派閥であって、二階さんや菅さんのサポートではありません。
 これまではそれが森山派のためになっていたという判断だったのでしょうが、自派閥の利益になと判断すれば、当然としてこれまでの行動を変えていくコトでしょう。

 これを踏まえ、また森山さん自身の手腕を買い、岸田総理は森山さんの起用を決めたのだと思われます。
 今の森山派の中には森山会長を含めて岸田総理にとって自分を脅かす存在がいません。
 森山さん自身は総理大臣を狙うタイプではありませんし、その次の当選回数は7回の坂本哲志議員で、総理候補では全くありません。
 そうでなくても森山派は10人に満たない人数で、自力で総裁選推薦人20人を集められない勢力ですから、少なくとも岸田総理の時代に森山派が自らの脅威になるコトはないでしょう。
 であるなら、経験豊富な森山さん自身を取り込んでおいた方が、岸田総理にとっては有利に働く、少なくとも損はないという計算がはじき出されたのだと思われます。

 また菅さんとの分断も考えられます。
 正直、参院選挙後の菅さんの動きは、やりすぎです。
 表では「副総理を打診されても受けない」と言ってましたが、そもそも打診自体を岸田総理が言っていない時点で、発言自体が踏み込み過ぎです。
 前総理とは言え、現職総理への敬意が足りなさすぎると批判されても仕方ないでしょう。
 また、菅前総理の一連の記事は菅さんに近しい議員が書かせたという話もありまして、どちらにしても岸田総理にとって不愉快な動きでしかなかったハズです。

 菅前総理としては「復権」を目論んでの動きだったのでしょうけど、しかし実際問題、現在の権力者を正面から敵に回して復権できると思う方がそもそも間違いです。
 安倍総理や小泉総理が示しましたように、小選挙区制における選挙で勝てる総理の力は非常に大きく、むしろ菅前総理は官房長官時代にその力を存分に発揮していた側のハズなんですが、なぜそれが分からなかったのか疑問に思うレベルです。
 閣僚になって影響力をアップさせる、上手くいけば副総理としてキングメーカーレベルになろうとしたのかもしれませんが、菅前総理の野望は失敗に終わってしまいました。

 ただ岸田総理の巧いところは、見た目的にはここまで完全な菅潰しに見えないようにしている点です。
 それが森山選対委員長と河野太郎大臣です。
 前回の総裁選で河野支援に回った菅さんと森山さんですから、このふたりが党役員と閣僚に入ったコトで、菅さんとしてもギリギリのメンツは保った形になります。
 しかし同時に、正面切って反岸田に回るコトもできない、それは河野さんの将来を潰すコト、森山さんの仕事ぶりを否定するコトに直結しかねないですから、菅前総理としては結果的には非常に動きにくい立場に押し込まれたと見るコトができます。
 今後、菅前総理がどうされるかは分かりませんが、岸田総理としては森山選対委員長という妙手によって、党内の大きな不安要素を抑え込むコトに成功したと言えるでしょう。

 すみません、結局長くなっちゃいました、
 とりあえず以上が今回の人事についての、やえの分析です。
 岸田総理は本当に人事が巧いです。
 しかもかなり政治ウォッチをしていないと気付かない妙手が多く、理解しづらい玄人政治を行っているために、一般的な人気になりにくいのかもしれませんが、その巧者っぷりは相当だと断言できます。
 ぜひこれを読んでくださっている方にも、この面白さが伝えばなと思っているところです。
 もし疑問点などありましたら、コメントください。

 バーチャルネット思想アイドルやえ十四歳は、岸田内閣を応援しています。