権力の分散

2012年4月15日

 今日はこちらのニュースです。
 

 大阪維新の教育条例案「法に抵触」…文科省見解
 
 地域政党・大阪維新の会が大阪府議会に提案している教育基本条例案で、「知事が教育目標を設定する」とした根幹部分について、文部科学省が、教育委員会の職務権限を侵す目標設定は、地方教育行政法に抵触する、との見解をまとめたことがわかった。
 府教委は7日、維新側に同省の見解を提示し、条例案の再考を求める方針。国が法違反の可能性を指摘したもので、条例案は大幅な修正を迫られる見通しが出てきた。
 維新が府議会に議員提案した9月、府教委幹部が「条例案の適法性に疑問がある」として文科省に見解を求め、同省が内閣法制局とも協議し、5日、府教委に回答した。
 同省は見解の中で、教育委員会と首長の職務権限を規定した地方教育行政法の趣旨に触れ、「教育に中立性、安定性が求められることから、首長から独立した合議制の機関である教育委員会が教育事務の大部分を担うこととしたもの」と強調。その上で、教育委員会が所管する学校の教育目標設定については「法に定めた首長の職務権限に属さず、法の規定範囲を超えて知事が規則制定することはできない」とした。

 
 最近大阪維新の会の話題をよく目にするところですが、この辺も橋下さんが上手なんでしょうね、まぁそれはともかく、記事を読んでいただければ分かりますように、大阪維新の会が目指していた教育基本条例案に文部科学省がストップをかけたという記事です。
 で、今日は大阪維新の会とか橋下市長とかは関係なくですね、注目して欲しいのが文部科学省のストップをかけた理由です。
 
 「教育に中立性、安定性が求められることから、首長から独立した合議制の機関である教育委員会が教育事務の大部分を担うこととしたもの」
 
 この趣旨は、つまり権力の分散にあります。
 民主主義の基本ですね。
 つまり、三権分立に象徴されるように、いくら選挙で支持を得たとしても全ての権力が1人の人間や1つの場所に集まるのではなく、出来るだけ分散させて権力の集中を避けてるという思想です。
 これは、権力が1つのところに集まっていると、その人間や場所が悪政を布いてしまえば取り返しのつかないコトになってしまう、あまりにもその人間の資質に頼りすぎの政治になってしまうので、これを防ぐために、できるだけ多くの人間が国家機構に関わるコトによって、お互いに監視し合って、最悪の事態を防ごうという知恵です。
 例えば独裁者と言えばヒトラーですが、ヒトラーは経済政策などは大変に上手かったと言える政治家でしたが、一方でホロコーストという人類最悪の行為をしてしまいました。
 権力を集中させると物事がスピーディーにドラスティックに改革されるために良い方法と思われる場合もありますが、しかし権力が集中すると、同じ人間であっても良い面と悪い面と両極端に出てしまうという、そして悪い面を止めるコトが誰にも出来なくなってしまうという、ヒトラーはそういう最も分かりやすい例と言えるでしょう。
 独裁は良い面と悪い面が両極端に出てしまう制度であり、民主主義はその良い面も悪い面もある程度抑制するコトによって、中間地点でほどほどを得るという制度です。
 そのために、民主主義の国においては憲法や法律によって、様々な手段で権力の分散が行われているワケなのです。
 
 今回のこの案件も、その最たるモノの1つと言えるしょう。
 いくら知事とはいえ選挙で当選した人とはええ、公的な仕事の全てを知事ひとりが掌握できるというコトではないのです。
 ポイントポイントで知事とはまた違う人や組織によって、その権限や裁量権が与えられているのですね。
 「首長から独立した合議制の機関である教育委員会」という部分が、それをよく表していると言えるでしょう。
 首長はひとりで権限も大きいので直接住民から選挙によって選ぶ政治家がなるコトになっていて、一方教育委員会は選挙で選ばない変わりに、その権限は教育の分野に限られ、さらに複数人で決定を経なければならない合議制の会議という形をとっているところも、権力分散の原理思想を踏襲しているといえるかと思います。
 国政の方でも、公正取引委員会など大臣クラスの地位で政治家が就かない役職は、だいたいこの「合議制の会議」という形をとっています。
 そもそも内閣自体がこれですしね。
 
 ですからこの案件というのは、橋下市長がとか選挙がとかではなく、その以前の問題として民主主義思想の根幹たる権力を分散させるという思想のもとの制度だというコトを確認しておく必要があるでしょう。
 多分この件に関しては、様々な立場から色々な意見が言われると思いますが、しかしここの部分を無視した議論というのは、ハッキリ言ってしまえば無意味です。
 例えば「大阪維新の会が公約として掲げて戦って勝ったのだから、これは民意で、反対するのは民主主義反する」なんていう意見が出てきそうではありますが、それは視点が違うと言うしかありません。
 これば「権限」の時にもお話ししましたように、権力が集中しないように権限を分散させた結果のお話であって、選挙に勝てば権限の壁を越えてもいいというコトではないというコトは、キチンとわきまえておくべき事柄なのです。