図での印象操作にご注意(上)

 さて、これから何回かにわけて放射能問題について取り上げていこうと思います。
 基本的には地震直後あたりに色々と勉強しながら書いたコトをベースとした内容になると思いますが、いまだに基本的な科学論拠もないままにデマをまき散らしている人も少なくない中で、いまだからこそもう一度シッカリと確認しておく必要があると思いますので、改めてキチンと書いておこうと思います。
 デマに惑わされないよう、やえは決して科学者ではありませんが、だからこそ一般人でも理解出来る程度の基本的な知識や考え方を提示するというのは一定の意味があると思いますしね。
 ですからもしやえの提示する情報や考え方が違うという場合は、どうぞご遠慮なく指摘していただければと思います。
 その方がより正しい知識を得るキッカケになると思いますので。
 
 右も左も逝ってよし!!
 バーチャルネット思想アイドルのやえです。
 おはろーございます。
 
 今日はまず、もっともよく使われる手法のひとつである、図によるファーストインパクトによる印象操作について見ていきたいと思います。
 まずはこちらのリンクを見て下さい
 あえてここには図を引用しません、なぜなら、これはここのページ全体としての罠(これれが悪意であれば罠と言わざるを得ません。意図してなければ致命的な欠陥)になっているからです。
 
 これ、当サイトのコメント欄に寄せられたリンクなのですが、まずこれをパッと見た時どう感じましたでしょうか。
 「うわあ、大変なコトになっちゃったなぁ」と、某グルメマンガのような感想を抱く人が少なくないんじゃないかと思います。
 つまりこのページと図を見た時に、『こんなにも福島を中心に「大量」の放射能が積もっていたのか』と、さらに「群馬大学の早川教授」という専門家っぽい名前、というか肩書きですね、を見て、ますますそう思ってしまうのではないでしょうか。
 
 まず一番最初に言っておきたいコトは、この手の「図」を見た時に、とにかく全てに対して「否定的な見方」をするべきだというコトです。
 この手の「図」を前にしたときの心構えです。
 まずは疑って下さい。
 それがどんな肩書きの人の名前が書いてあったとしても、まずは全てを疑って下さい。
 デマのために捏造された図かもしれないと、必ず頭で考えて下さい。
 それが正しい図であるかどうかというのは、疑って疑って検証してさら確認した後でも遅くはありません。
 実際デマのために作られた図は少なくありません。
 また、デマのために作られたモノでなくても、まったく根拠のないままに書かれたモノも残念ながら少なくありません。
 ですから、この手の「図」を見るときは、まずは必ず疑ってかかってください。
 
 では疑ってかかってこの図とページを見た場合どうなるのかと言えば、結論を先に言えば、残念ながらこのページは、何を伝えたいとしているのか全く根拠を見いだせないページになっていると、結論づけるしかないページとなっています。
 もっと端的に言えば、このページや図を作った人の意図は分かりませんが、しかしこのページを論拠に放射能問題を語るコトはデマの拡散に手を貸すコトになってしまう、とは言えてしまうページなのです。
 よって少なくともこのページは、デマ拡散を幇助するページとは言えてしまうでしょう。
 
 ではなにが「デマのもと」なのかを考えましょう。
 まずこの手の「図」を見るときは、どうしても「地図」とか「色」に目が行ってしまうのですけど、それは最初は全部無視して下さい。
 これは放射能関係の問題だけに関わらず、あらゆる図やグラフなどに言えるコトですが、その図というのはあくまでパッと見た時に比べやすくしているだけのモノであって、そもそも「その図が何を示しているのか」という最も基本的で重要なデータは、図ではなく文字を見なければ分からないのです。
 今回のリンク先の図も同様です。
 福島原発を中心に赤く塗られていたり、北の方に飛び地のように黄色い地域があったりと、「根拠を想像する」と大変こわい図のような思えるのですが、しかしその「根拠」は地図や色だけではどうやったって分からないのです。
 果たしてその「赤」は、具体的に「何がどうなっているから赤く塗られているのか」という部分が、図を見ただけでは絶対に分かりません。
 もし分かった気がしたのであれば、それは単に「想像」でしかないコトに注意して下さい。
 その「赤」が何を示しているのかというコトについては、これは想像だけで事実を確定できるほどの「図やグラフに対する一定的な一般論」は無いワケで、つまり「説明文を書かなくても全てが理解出来る図やグラス」なんて世の中には存在しないワケで、よってこれは想像ではなく、その図の中に示されているであろう「文字情報」を必ず読んで理解しなければ、その色の意味は絶対に事実として確定できないのです。
 ここを注意して下さい。
 図や絵やグラフだけを見て理解した気になっている人というのは、もう完全に「図の見方」からして間違えていると言わざるを得ません。
 
 では、この図には何が書かれているのか、この図は何を伝えるための図なのかというコトを考えてみましょう。
 そのためにはまずこの「赤」とか「黄色」は何を示しているのかというコトをハッキリさせなければなりません。
 そしてそれを理解するためには、図の中にある「文字情報」を参照しなければならなりません。
 ではそれがどこに示されているのかと図の全体を見れば、そうです、左上にそれがありますよね。
 引用してみましょう。
 

福島第一原発から漏れた放射能の広がり
 
 2011年3月に地表に落ちた放射性物質がそのままの状態で保存されている場所の放射線量で色分けしました。芝生など草地で現在計測される数値です。この数値は3年で半分になります。

 
 申し訳ないのですが、これ、つっこみどころ満載の文章と言わざるを得ません。
 普通に日本語の問題として、「地表に落ちた放射性物質がそのままの状態で保存されている場所の放射線量」ってどういう意味なのか分かります?
 具体的にこの文章が現実世界でどういう状況を言い表している文章なのか、その現場の様子がイメージできますでしょうか?
 文章を難解にしているのが「そのままの状態で保存されている」という部分です。
 「そのままの状態で保存されている」って、具体的にどういう意味なのでしょうか。
 ここでの主語は「放射性物質」ですが、放射性物質を「保存」している人なんているワケないでしょうから、ますます「そのままの状態で保存されている」っていう意味がわかりません。
 
 まぁなんとかこれを解釈するのであれば、多分ですが、「これまでの放射性物質が降り積もった累積値」ではないかという推測が出来ます。
 「そのままの状態で保存されている」とは、つまりその場に一度降ったら二度とその場から一切動かないという意味ではないかと想像できるワケです。
 
 しかしこの場合、3つの点において不適切なところがあります。
 まず1点目は、「そのままの状態で保存されている」とわざわざ書くというコトは、つまり現実的には「そのままの状態では保存されない」というコトを暗に認めているというコトです。
 放射性物質というのは、実際、風とかで簡単に拡散します。
 現実的には放射性物質は、最初に落ちた位置にずっと居続けるコトはあまりないんですね。
 ですから、このデータというのは、「記録」としてはあってもよいデータなのかもしれませんが、しかし現実的に実際の状況を指し示すデータとしては不適切だと言わざるを得ないのです。
 少なくとも「実際にこんなに積もっているんだ」とは絶対に言えないワケです。
 言ってみれば「机上の空論」なんですね。
 よって、記録としてはあってもいいかもしれませんが、少なくとも「いまこんなにひどい状況になっているんだ」という意味で使うデータとしては不適切な図であると言うしかないのです。
 
 もう1つは、これがその記録のデータであったとしても、その場合、単位が違うというところです。
 もしこれが「放射性物質が累積していた場合の記録」であれば、その数値の単位は当然として放射性物質で書き示す必要があるでしょう。
 しかしこの図の単位は、左上の文字情報のところを見れば書いてあるとおり「毎時シーベルト」なんですね。
 この「シーベルト」という単位は、放射線の強さを表す単位です。
 ちょっとここで齟齬が生まれていますよね。
 記録としての単位であれば、この場合ならシーベルトではなく「ベクレル」の方が適切でしょう。
 「ベクレル」は、厳密には「放射性物質が放射線を放出する強さの単位」であり、放射性物質の質量そのものを指し示す単位ではありませんが、しかし放射性物質を視点として記録を作るのであれば、やはり放射線よりも「放射性物質の力」という意味の単位である「ベクレル」を使った方が適切でしょう。
 まして1点目で言いましたように放射性物質は時間が経てば経つほど拡散するワケですから、記録だったとしても、図通りの「放射線」は実際には出ていない、出る“可能性すらない”のですから、ますます記録としてだとしても「シーベルト」は不適切なのです。
 
 そして3点目ですが、もし仮にこの図が本当に「累積値」であるのであれば、当然として「その期間」を書き示しておく必要があるワケですが、残念ながらこの図の中にはそれが一切記されていません。
 累積値なのですから普通なら「○月○日~○月○日までの記録」などの文章がなければなりません。
 図の中に「五訂(ちょっと図では文字が小さくて読めないのですかタイトルからしてこうでしょう)版2011年12月9日(初版4月21日)とありますので、もしかしたら「3月~12月9日」なのかなと予想はできますが、しかしこういう書き方では図の論拠にはならないのは言うまでもありませんよね。
 「五訂版2011年12月9日」という文字は、あくまで「五訂版」が出たのが2011年12月9日と記しているだけであって、それが図の論拠にはなりはしません。
 そんなコトは大学教授なら普通に分かるコトだとは思うのですが、なぜ期間が書いてないのかナゾです。
 まぁナゾなのは別にいいんですが、残念ながらナゾのままでは「記録図としては不適切」と言うしかないのです。
 
 そもそも逆に言えば、期間が書いてないからこの図が「累積値」を表すモノなのかどうかも疑問になっちゃうんですね。
 よって累積値でなければ、左上の説明である「011年3月に地表に落ちた放射性物質がそのままの状態で保存されている場所」という日本語が具体的に何を指し示すのか全く分からなくなってしまいます。
 そしてそれは、これだけでもあまりにも「何かを主張する論拠としてのデータにはなり得ない図」と言わざるを得ないのです。
 この図はこれだけでも不完全なんですね。
 
 
 さてなんだか長くなってしまったので、ここで一旦切ります。
 しかしこの図、というかページは、まだまだつっこみどころがありますので、もう一回かけてつっこんでおこうと思います。
 
 
 (つづく)