憲法と憲法解釈と立法行為 (3)

2014年4月10日

 (つづき)
 
 ただここで間違えてはいけないのが、政府にはあくまで変更する「権利」があるってだけであり、「国家としての最終決定権を持っている」という意味ではないというコトです。
 「最終決定」は、そうですね、裁判所にその責任がありますから、日本国家として本当にその閣議決定が憲法内なのかどうか、というのは、裁判所の決定を見るまでは誰にも確定的なコトは言えません。
 ただその判決が出るまでは、裁判所が決定を下すまでは、法律が存在しない以上、いままで閣議決定で線引きがされていた以上、新たな閣議決定で新しい運営が出来るというのは確かなのです。
 
 しかしここでひとつ勘違いしてはいけないポイントがあります。
 言うまでもありませんが、集団的自衛権の問題がいくら今まで法律によるフタがされておらず閣議決定というモノで線引きされていたとしても、さらなる閣議決定で、憲法までを超えられるというワケではありません。
 閣議決定はあくまで閣議決定でしかなく、憲法より下なのはもちろんのコト、法律よりも縛りは低いモノでしかありません。
 ですから、安倍さんは決して行政の権限=閣議決定によって「憲法を超えよう」としているワケではないんですね。
 安倍さんの考えはあくまで「原稿憲法下でも集団的自衛権は許される」という考えなんです。
 つまりこれをもっと言えば、「憲法解釈によって集団的自衛権を行使出来るようにした後に、仮に裁判が起こされたとしても、裁判には勝てる自信がある」と言い換えるコトが出来るでしょう。
 ちょっとややこしいんですが、「憲法解釈」とは「憲法を変える」のではなく、あくまで「この考え方は憲法の範囲内だ」と考えるコト解釈するコトを指し示す言葉なのです。
 ここを間違えてはいけません。
 安倍さんの考えを図にすればこうなります。
 
 集団的自衛権の図03
 
 なんかこう、毎回申し訳ない気持ちになるんですが(笑)、それはともかく、「赤線はあくまで閣議決定だから、そのラインを閣議決定で変えるコトは可能だ。よってそのラインを新しく紫線に引き直す」というのが安倍さんのスタンスなんです。
 決して憲法よりも外に出ようとしているワケでも、憲法の枠を書き換えようとしているワケでもないんですね。
 
 ですから、もし異論があるとすれば(閣議決定の方法論については別として)、「あくまで集団的自衛権の紫ラインが憲法の範囲内だと言うのは安倍さんの見解でしなく、しかし本当は集団的自衛権の行使のラインは憲法より外に飛び出しているんだ」という主張でしょう。
 図にするとこうです。
 
 集団的自衛権の図04
 
 この主張は、閣議決定を問題にしているのではなく、集団的自衛権そのものを問題にしているんですね。
 では果たしてどちらの主張が正しいのでしょうか。
 その答えは、唯一司法府しか判断を下すコトはできません。
 三権分立とはそういうモノだからです。
 ですから、人それぞれ持論があって、安倍さんにしても他の人にしても意見はあろうかと思いますが、それはあくまで一意見にしかならず、それを決定出来るのは唯一裁判所しかないのです。
 
 自衛隊は行政機関ですし、そもそも法律の代わりにフタをしていたモノは閣議決定ですので、「それを覆す行為」自体は閣議決定で行う権利を有しています。
 ですから、もしこれが集団的自衛権のお話ではなく、万民と裁判所も納得する憲法の範囲内の、フタとして法律ではなく閣議決定で成されているというような案件であれば、それは閣議決定だけで枠組みを変えるコトはできるんですね。
 しかしその枠組のお話、線引きのお話とは別として、中身である「そもそも集団的自衛権の行使は合憲か否か」という問題については、これは司法府にしか判断は下せないのです。
 そしてここが多少ややこしいのですが、日本の司法府は「誰かから訴えがなければ、自ら動けない」という性格を有していますから、閣議決定がされた直後からは便宜的に閣議決定のフタの枠組で運用するコトが出来るのです。
 「誰かが訴えて裁判所が判決を下すまでは運用してはならない」とは決してなりません。
 「訴えが出るまでは合憲/合法扱いにする」というのが日本の司法制度であり、逆にそうしなければ全ての法律・全ての案件が司法府の判断を待たなければ実行出来ないというコトになってしまいますからね。
 例えば消費税法案だって、成立して施行されれば、裁判があろうがなかろうが現実的に法律は動いていますよね。
 日本国家はこういう仕組みなんです。
 
 もし集団的自衛権がどうしてもダメだって言う人は、それを止めるためには2つの方法があると言えます。
 ひとつは、裁判を訴えて「憲法の範囲外だ」と主張する。
 もうひとつは、「日本は集団的自衛権を破棄する」と宣言する法律を作る。
 確実なのは後者です。
 前者では、その判断を司法府に委ねるワケであり、ある意味ですね、この結果はもうすでに決まっているワケですよ、憲法は訴える前も後も変わらないのですから。
 まぁ現実問題としては弁護士によって結果が左右されるとは言え、例えるなら今はもうテストに記入した後でありその答え合わせをしていない段階でしかない、のです。
 しかし後者は絶対の効力を持ちます。
 これが成立すれば絶対に日本の政府は集団的自衛権を行使出来なくなるのです。
 どうしても日本国家として集団的自衛権を行使させなくしたいのであれば、法律によってフタをするのが一番効果的でしょう。
 
 今回のお話、自分で書いててもちょっとややこしくてうまく説明できているのか自信が無かったりするのですが、この問題はむしろ三権分立の問題そのものだとすら言えます。
 ですから逆に言えば、三権分立を理解していれば、いま何が起こっているのか、どこの機関がどう動いているのかが分かってくると思います。
 
 おそらくこれからの政治の話題はこれが中心になってくると思いますので、また機会がありました取り上げていきたいと思います。