現実的な核兵器運用 (下)

 前回は、北朝鮮などの経済的格下国に対しては核兵器を持つまでもなく抑止力になり、むしろ核兵器がない世の中の方が日本にとっては有利だ、というお話をしました。
 では、相手が大国の場合はどう考えるべきなのか、そして現在の核の傘論について考えてみたいと思います。
 
 北朝鮮程度の国であれば通常兵器だけで十分抑止力になります。
 相手が核兵器を持っていても同じです。
 通常兵器だけで十分金体制を崩壊させられるのであり、金王国たる北朝鮮にとってはそれこそが一番の恐怖ですから、これで抑止力になっているのです。
 金王国に乗っかっている人間達は、普段の施政から見ても国民のコトなんて全く考えておらず、ただ自らの立場さえ守られれば後はどうでもいいというコトがハッキリしていて、これを裏返せば、自らの立場が崩壊するのであればその後の北朝鮮の国や国民なんてどうでもいいのであって、そこに放射能汚染なんて関係ないのです。
 「金王国の崩壊=0」であって、マイナスの世界なんて一切頭にないのが金王国なのです。
 そんな金王国の面々に対して「オーバーキルするぞ」と脅しても全く無意味です。
 「ゼロちょうどのキル」だけで金王国の面々には十分な恐怖、つまり抑止力になるのですからね。
 オーバーがあろうがなかろうが「金王国が崩壊する恐怖」はマックスなのです。
 
 では、格下国ならそれでいいとしても、対大国への核兵器の対応はどうなんだ、という点を考えます。
 と考えると書いておいてアレなんですが、これ、考えるだけ無駄じゃないですかとやえは思っていたりします。
 
 例えばアメリカとロシアが本気で核戦争するっていう状況を、本当にリアルに現実的に想定出来ますか?
 ただの戦争状態、いや戦争時様態もあり得ませんね、小競り合いの「局地的戦闘状態」だけならまだあり得るかもしれません。
 そしてそれもやっぱりかなり非現実的で、それはいまが一番リアルに想像出来ますよね、いくら譲れない案件が出てきたとしても、お互いに正面衝突だけは避けようとギリギリのところでつばぜり合いしていますよね。
 核兵器を使わなくても大国同士の戦争なんて、もはや現代では全ての国にとって百害あって利益なしでしかないのですから、それはアメリカ・ロシア当事国も全面戦争ほど無駄に国力を削るだけの徒労に終わるのは分かっているんですから、絶対に避けようとしますよ。
 そんな中、核兵器にまで発展するなんて、ちょっと考えられません。
 前からずっと言ってますように、戦争とはあくまで外交における手段のひとつでしかないのであり、その手段において核兵器なんてカードを使ってしまえば、それは外交そのもの、すなわち「自国が求める利益」そのものを吹っ飛ばすコトになるのですから、大国同士の核なんて存在からして全くの無意味なのです。
 核保有国で大国と言えば、アメリカ・ロシア・イギリス・フランスそして中国が挙げられますが、核兵器抜きにしてもこれらの国が全面戦争するのは考えられません。
 利益が全く無いからです。
 
 で、ここからは「核の傘論」にかぶってくるお話なのですが、結局これは、核を持っていない大国に対しても同じなんですよ。
 もし核を持つ中国が核を持たない日本に対して核兵器を撃ったとして、その後中国は「核を撃つ前の状態」から比べて「利益が増えている状態」になるでしょうか。
 断言します、絶対になりません。
 もし同盟国たるアメリカなどが中国に対して核による報復攻撃をしなかったとしても、しかし中国は滅亡に突き進む道しか歩めなくなるでしょう。
 それは通常兵器による戦争行為でも起こりえるでしょうし、さらに経済という武力よりも強い力によって最も効果的に成し得るのです。
 アメリカも日本も中国も、もはや自国だけのブロック経済だけで成り立つような経済形態にはなっていません。
 全ての国からそっぽを向かれたとしたらどうなるか、まして「あの日本に核を撃った」という事実から同情すら受けられない、むしろ憎しみしか向けられないような国がどういう道をたどるのか、ちょっと想像力を働かせれば簡単に分かるコトでしょう。
 それとも北朝鮮のような反米国の盟主として開き直りますか?
 おそらくそういう行動の方が自らのクビを早く締める行為にしかならないでしょう。
 
 国家を滅ぼすには核兵器など使わなくても可能です。
 そしてそれは、核の傘にすら入る必要もないでしょう。
 核兵器を持っている国と同盟関係を結んでいないという理由だけで核兵器を撃ち込まれるコトを容認されるような国家なんて、もはや現在国際社会では存在しないのです。
 つまりこれは、特に民主主義経済大国であるG7の軍事力と経済力の存在そのものが、世界に対する「平和の傘」になっていると言えるでしょう。
 
 ですからこれは、対大国だけに限ったお話でもなくなるんですね。
 仮にどこかの途上国が、アメリカやイギリス・フランスなどの核保有国と軍事同盟を結んでいない国に対しても核攻撃をした場合どうなるか、アメリカなどが「自分たちとは同盟を結んでいないから知らない」なんて言うと思いますか?
 例えば東南アジアのASEAN諸国に核兵器が撃つ込まれたら、日本はもちろんのコト、アメリカやEUも激おこでしょう。
 そしてやえは高確率でアメリカは報復攻撃、それは核発射国の政権を崩壊される攻撃を行うのは必至だと思っています。
 いくら「軍事同盟を結んでいない」と言っても、だからといって戦争を仕掛けてはならない理由にはなりませんからね。
 国連などを通じて確実になんらかの攻撃が加えられるコトでしょう。
  
 現在の国際社会ってここまでになっているんですよ。
 だって仮に日本が事前予告もなく、今現在核兵器をいきなり北朝鮮に発射したとしたら、まぁ少なくとも中国は軍を動かすでしょうし、アメリカも日本を守ってくれるかどうかというのはかなり厳しいでしょう。
 下手すれば、アメリカ軍だって日本を攻撃する可能性もあろうかと思います。
 いまの国際社会で核兵器を使うっていうコトはそういうコトなんですよ。
 その一発だけで世界中を敵に回す行為なのです。
 中国だって、日本といま最悪の外交関係になっていてそれが世界中に周知されていたとしても、先に核兵器を飛ばしてしまえば、理屈抜きに世界の悪者になって報復対象となるでしょう。
 もはや核兵器という武器は、軍事同盟云々っていうレベルを超えている存在なのです。
 
 日本が核攻撃をされた時、アメリカは自国の危険を承知で本当に報復攻撃をしてくれるか、と心配する人もいるようですが、ハッキリ言えばそれは杞憂にもほどがある心配です。
 むしろ軍事同盟がなくてもアメリカはなんらかの報復攻撃はするでしょう。
 日米の経済的繋がりは、もはや条約や同盟を超えるほどの力となってしまっています。
 まして軍事同盟があり、民主主義国家であり、法治国家であり、世界を牽引する経済大国同士であれば、むしろ合衆国がというよりもアメリカ人の矜持として日本を見過ごすコトは許されないでしょう。
 細かい部分では日本の九条に縛られた軍事力では心許ないので日米同盟はまだまだ必要ですが、核兵器という部分に関しては、むしろ軍事同盟など関係なく、アメリカという国は、最低限民主主義国家であれば同盟がなくても動く国なのです。
 それをプライドにしていままでやってきた国民達なんですからね。
 
 では最後に、日本が大国を相手にしたときはどうするのか、という問題を考えます。
 この相手が中国の場合は、あまり考える必要はありません。
 そんな状況になる場合というのは、「日・米・英・仏vs中国」という構図になるからです。
 つまり日本が中国を相手にする場合には、必ず見方に核保有国が付きますので、この場合考える必要はないでしょう。
 
 難しいのが、日本が米英仏を相手にするような事態に陥った時です。
 これは大変です。
 核武装も必要になってくるかもしれません。
 しかし、それはその時考えればいいでしょう。
 少なくとも、いまのそんな状況を想定する必要性は全くありません。
 そういう可能性はゼロとは言いませんが、少なくとも1年後にそうなるかと言えば、これはもうゼロと言ってもいいでしょう。
 というか、関係が悪くなるのは必ず兆候があり、戦争状態になるまでにはもっと時間がかかるのですから、それから考えるのでも十分でしょう。
 まして核保有国は他にもあるのですから、戦略的にそれらの国とどう関係を結ぶのか、という点も考えればいいのです。
 むしろそういう国と手を結ぶことができないのであれば、それはイコール孤立状態なのですから、日本が核兵器を持っていようが持っていまいが負け決定です。
 「日本が大国相手に戦争をする」という想定においては、核武装というのはむしろ優先順位としてはかなり低いのです。
 
 ですから日本が米英仏と戦争する状況を考えるよりも、世界から核兵器を廃絶させる方法を考える方がよっぽど現実的ですし、なによりその方が日本にとって利益が大きいのです。
 核兵器がない世界であれば、日本の(九条改正後の)軍事力はとてつもなく大きなモノになりますからね。
 ですから少なくともアメリカと軍事同盟を結んでいる間は、核廃絶の方向を叫んでいた方が日本には利益になるのです。
 日米安保があるので正面切っては難しい面もあるでしょうけど、これをいかに世界的な声にするかですよ。
 いまだってNPDIとかで日本は核廃絶を訴えるコトはしているのですから、アメリカだってこれに正面から反対するコトなんでできないですからね。
 現実的に日本の戦略としても戦術としても考えた時には、核廃絶の方が日本は利益は大きいのです。
 
 やはりどこまでも極めて現実的に考えた時、日本が核兵器を持つメリットというモノはかなり小さい、もしかしたらマイナスしかないのではないかと言わざるを得ません。
 まして長距離弾道ミサイルによる核攻撃も、現在は発射する数日前からその兆候をキャッチできてしまうのですから、着弾する前の発射するだけでかなりの高リスクを負うコトになります。
 発射はしたけどミサイル防衛システムで打ち落とされました、さらにその前の段階の発射する前に基地を攻撃して撃てませんでした、ってなったとしても、その後はもちろん厳しい報復が待っているコトでしょう。
 少なくとも北朝鮮がそんなコトしたら、金王国は崩壊決定ですね。
 いまの技術力では核兵器を相手の目をそらして発射するだけでも一苦労なのに、その上発射しようとしたという事実は残ってしまうワケで、相手に対する打撃はゼロな上に自国への打撃はとてつもなく大きくなる可能性を秘める核攻撃を、そこまでしてしなければならない理由はないでしょう。
 この辺からも核攻撃に対する報復は必ずしも核兵器である必要性はあまりないワケで、こういう現実を前にして、無理して日本が核武装する必要性が本当にあるのかどうか、ひとつ冷静に考える必要があるのではないのでしょうか。
 
 やえは広島生まれというコトもあって核兵器に根源的な忌避感がありそれを否定はしませんが、しかしそれを極力考えずに取り除いた上で、冷静に核戦略のコトを考えたら、やはり持たないという選択肢の方が日本のメリットになると、そう考えているのです。
 持たない方が、核兵器を廃絶させた方が、現実的に利益は上でしょう。
 
 
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