日米関係と日中関係

 最近よく、日本のこれからの外交について、アメリカとの関係をどうするのか、それとも中国との関係をどうするのかという、対立論というか、極端なモノで言えば「アメリカと中国とどっちをとるのか」という二元論で外交を語る人がいます。
 特に集団的自衛権の問題に絡んで、「アメリカと共に戦争が出来るようにするというコトであり、中国とは完全に縁を切るコトだ」と言わんばかりの意見ってたまに目にします。
 しかし外交ってそんな単純なモノではありません。
 特に軍事と経済については、過去はともかく、現代社会においてはこの両者はかなり分離して考える必要が出てきている問題と言えます。
 
 例えば「アメリカ陣営と中国陣営とどっちだ」なんて言ったとしても、そもそも米中間の経済的結びつきの方こそが、もはや切っても切れない関係になっています。
 誰のせいとは言いませんが、ここのところ米中間の緊張関係はかなり高まってきていますが、だからといって今すぐ米中の経済関係がプツッと途切れるコトは考えられません。
 仮に強権を持って政治側から経済的関係をシャットアウトしたとしても、その瞬間に両国の経済はがた落ちになって、戦争する以上のダメージを国家規模で受けてしまうコトでしょう。
 政治や外交の問題は色々と主張があって、軍事的にも緊張関係が高まるコトはありますし、米中は国の成り立ちから政治から思考方法から政治姿勢から何から何まで真反対とすら言える国家同士ですから、理解し合う方が難しいのかもしれません。
 そういう面は否めないでしょう。
 しかしそれはそれとして経済はお金という共通言語が通じ合う分野であり、それを証明するかのように両国の経済は、世界規模で繋がっているという現実があるワケです。
 
 ですから日本は軍事同盟を結んでいるアメリカと集団的自衛権が行使出来るようにしようとしているワケですが、それだけをもって中国との経済がプツッと途切れなんてコトは考えられません。
 なぜなら、中国だって日本との経済的結びつきが切れると国家規模でのダメージを負うからです。
 もちろん日本も同様ですが。
 しかしそもそも日本が軍事的にはアメリカの庇護下にあるというのは、戦後からずっと一貫してきている事実であって、その枠組み自体は変わらないのですから、日中間の問題で言えば集団的自衛権の問題なんで今さら過ぎて問題にする方が間違いとすら言えてしまうでしょう。
 時に政治の事情で経済が部分的に引っ張られるコトはもちろんあって、いまベトナムと中国の衝突が問題になっているワケですが、しかしそれだけで経済の全てがシャットアウトされるコトはありません。
 そんなコトしても誰も得しませんからね。
 国の主張と経済の利益とのギリギリのバランスで国家間は成り立っていると言えるでしょう。
 
 中国はこの辺分かってやってるフシがあるんですよね。
 対米にしても対日にしても、かなり強い態度に出ても、どうせ経済的な理由で完全な縁切りなんてできないと分かっているので、そのラインのギリギリで自らの主張を通そうとしているワケです。
 この辺が日本の弱いところなんですよね。
 日本がと言うよりも、民主主義がと言った方がいいかもしれません。
 中国は政治と経済が一体となっていますが、民主主義の場合、政治と経済は別の主体であり、経済の方から譲歩するような声が上がると、民主主義においては政治もその声を聞かざるを得ないワケで、ここでのフットワークが民主主義ではどうしても悪くなってしまうからです。
 かくしてギリギリのラインを巧く使いこなす中国に対しては、なんとなく日本は一歩退いてしまう印象になってしまうのでしょう。
 ベトナムの例を見るまでもなく、今後中国の海洋進出はますます強固なモノとなってくるでしょうから、ここの部分を日本国民はもうちょっとシビアに考えていかなければならないのではないかと思います。
 
 ここでひとつ、TPPっていうモノについて関係してくる部分があると思うんですよ。
 TPPについてはかなり様々な面があって、ひとつのコトだけで全てを評価するコトは難しいのですが、こういう面もあるのではないかと思っています。 
 というのも、基本的にTPPというのは「自由貿易」を体現する枠組みであるワケですよね。
 しかし中国という国はその政治体制から、むしろ自由貿易とは真反対にあるような経済的存在だと言えます。
 そういう中で、自由貿易を旨とするTPPを、中国の目と鼻の先でその枠組みを作るっていうのは、この意味は決して小さくないと言えるのではないかと思うのです。
 
 中国という国は、その経済力は今はまだ「中国という絶対君主制に守られた上での成功」です。
 中国という国のシステムは、最悪、契約だって中国の法よりもさらに上位にある中国共産党の意向だけで簡単に破るコトができるシステムになっています。
 先日、日本の船が不当に接収された事件がありましたが、しかしあれも、中国国内法では合法なワケですよ。
 国際的にはメチャクチャですが、しかし中国国内においては、中国の国内法よりも中国共産党の意思の方が上だと中国憲法によって明記されている以上、共産党の思いつきかのような行動ですら「合法」なんですね。
 中国の経済は、こういうムチャクチャの上で成り立って成功しているモノなのです。
 
 こういう中国経済の目と鼻の先で、「自由と契約主義」に基づいたTPPという枠組みが成されようとしているというのは、対中国戦略にとってはかなり大きいワケです。
 経済的には日本もアメリカも中国とは簡単に縁切れ出来ない関係ではありますが、しかしこれが真に自由と契約主義に基づいたモノであればまだしも、そうでないのですからそこはやはり改善させていく必要があります。
 だって同じ土俵に立っていないのですから、その上で中国の経済力がここまで大きくなったのであれば、スタート地点からゴール地点まで中国に有利なままであり、このままでは日本もアメリカも国内企業が中国にやられていくのをただ指をくわえて待つだけになるからです。
 これをどうするのかと考えれば、つまりは中国に対抗するというコトは、「中国を同じ土俵に立たせる」という結論が一番適切ではないでしょうか。
 最終的に民主主義国家にでもさせればベストなワケです。
 ですから、中国経済とは切っても切れない関係ではありますが、しかしだからこそそういう中国経済を日本と同じ土俵に立たせるっていう圧力をかけ続けるというのは、これはある意味、軍事的に圧力をかけるよりもよっぽど効果がある「戦争」なのではないかと思うのです。
 
 どう対峙するのかっていうのは、難しいです。
 単に戦争すればいいってお話ではありませんし、単に国交を断絶すればいいってお話でもありません。
 付き合いたくないと思っても、表では友好しましょうと笑顔を向けるコトも必要です。
 だってこれは国家同士だけに限ったコトではなく、会社同士や個人同士だってそうじゃないですか。
 それが人間関係ってモノですから、本心だけで生きていけるワケじゃないのです。
 そういった中で、切っても切れない関係の中国と、しかし今では絶対に本心からは理解し合えない中国と、どう対峙していくのか、ここは極論や二元論ではない現実的な方法を模索していかなければならないでしょう。
 
 本来なら、もっと日本もひとりのプレイヤーにならないといけないんですけどね。
 しかし経済だけならまだしも、軍事に関しては半人前以下ですから、ここの現実論も考えていかなければならないと思います。