第二次安倍改造内閣の顔ぶれ (1)

2014年9月12日

 第二次安倍改造内閣が組閣されました。
 改造を明言してから実際の改造までかなり時間があいていたというコトもあって、様々な人事の噂が飛び交っていましたが、それも今日で一段落ですね。
 というワケで、今日は新内閣と自民党の新4役のみなさんを紹介したいと思います。
 ただちょっと人数が多いですから、今回は留任の方は省略させていただきます。
 まずは役職と名前を載せておきましょう。
 
◆政府
総理大臣 安倍晋三(留任)
副総理兼財務大臣 麻生太郎(留任)
総務大臣 高市早苗
法務大臣 松島みどり
外務大臣 岸田文雄(留任)
文部科学大臣 下村博文(留任)
厚生労働大臣 塩崎恭久
農林水産大臣 西川公也
経済産業大臣 小渕優子
国土交通大臣 太田昭宏(留任)
環境大臣 望月義夫
防衛大臣・安保法制担当大臣 江渡聡徳
内閣官房長官 菅義偉(留任)
復興大臣 竹下亘
国家公安委員長・拉致担当 山谷えり子
沖縄及び北方担当大臣 山口俊一
女性活躍担当・行政改革担当大臣 有村治子
経済財政改革担当大臣 甘利明(留任)
地方創生担当大臣 石破茂
 
◆自民党
副総裁 高村正彦(留任)
幹事長 谷垣禎一
総務会長 二階俊博
政調会長 稲田朋美
選対委員長 茂木俊充
 
 
 さて、本来なら政府の方から紹介すべきところなのでしょうけど、一番注目されたのが自民党の幹事長であり、そして幹事長にはかなり予想外の人事となりましたので、まずは自民党4役からの紹介をしたいと思います。
 
●幹事長 谷垣禎一(有隣会(谷垣グループ))
 自民党幹事長に谷垣禎一さんです。
 びっくりしました。
 だってこれまでの噂に1度として出てきませんでしたからね。
 また、総裁経験者が総裁より下の幹事長に就任するというのも自民党史上初めてですので、ここの部分も合わせて、やえもまったく予想できませんでした。
 と言っても、これはかなり練られた、すごい人事だと思います。
 こう考えればなるほど納得という感じです。
 
 というのも、これまで何人か幹事長として予想が出てきましたが、中にはかなり様々な意味で疑問視される人の名前も挙がってきました。
 その筆頭が小渕優子さんで、小渕さんの手腕がダメと言うつもりはないんですが、当選5回という少なさはともかくとしても、さすがに40歳という政治家としては相当若い年齢での幹事長という部分については、色々な人から危惧の声が上がっていました。
 自民党幹事長というのは与党の場合実質的な自民党のトップであり、党内の議員全てに目を光らせる存在でありますから、逆に言えば幹事長の「抑え」が効かなくなれば党はガタガタになってしまいますので、豪腕としてのパワーと、バランスとしてのパワーと、どちらも兼ね備えた人でなければ難しい役職です。
 そのためにはやはりそれなりに年齢を重ねて経験を積んで、酸いも甘いも様々な経験をしなければ難しいという面はどうしてもあるんですね。
 そういう面で小渕さんは果たして大丈夫なのか、逆に幹事長という重みに耐えきれずに小渕さんの方がつぶれてしまうのではないか、そういう危惧が上がっていました。
 
 こういう面で、経験では誰も文句の付けられない、野党の総裁というポスト(つまり与党総裁よりも野党総裁の方が実質党のトップというコトです)を経験した谷垣さんであれば、この辺の面は完全にクリアされているので適任だというコトが言えるワケなのです。
 プレッシャーという面では、今の自民党の中では最もプレッシャーに強い人と言えるのではないでしょうか。
 
 政局的な面を見ても、なかなか安倍さんも練りましたねと唸るところです。
 谷垣さんと言えばやはり総裁経験者という面がクローズアップされるところですが、つまり今までの永田町的な感覚で言えば、総裁経験者はもう「終わり」と見られる面が非常に強かったワケで、そんな人がまたもや権力の中枢である自民党幹事長に就いたという点で注目されるワケです。
 まぁ安倍さん自体が戦後初の期間を空けての2回目の総理総裁なのですが、しかし谷垣さんも総裁が終わった後という、与党の戻ってからは一時期、衆議院議長となって「いっちょあがり」かと思われていたモノで、そこからのこの復活劇は素直にすごいですね。
 ただこれは谷垣さんとしてもある程度はそう望んでいたフシはありました。
 自民党が与党に復帰したとき、安倍さんも実際に谷垣さんに議長を打診したのですが、当の谷垣さんはそれを拒否。
 結局谷垣さんの要望通り法務大臣に就任したワケで、これは谷垣さん自身が「まだまだ自分は“終わり”ではない」というコトを内外に示したという意味がありました。
 つまり谷垣さん自身も、まだやれる=総理総裁をあきらめていないという野望を持っているコトに他ならないのです。
 その上で最も総理総裁に近い幹事長という座を射止めたのですから、よしもう一度という機運が谷垣さんにはますますこれで再燃しているのではないでしょうか。
 
 総裁候補が増えるというコトは、安倍さんにとっては自分の地位を安定化させるコトに繋がります。
 もしライバルが1人だけなら一騎打ちになってしまい、党も二分されるワケですから、可能性としては最も危険な状態と言えます。
 しかしライバルが複数人いるのであれば、それを支持する人も分断され、結果的に現職総理である安倍さん自身が一番有利になれるという形なんですね。
 また谷垣さんとしても自分を「いっちょあがり」から救ってくれ、さらに幹事長にまでしてくれた安倍さんに対抗するコトはこれでないでしょうし、それは谷垣さん自身がやられた経験もありますしね、ですから安倍さんとしても自分以外の総裁ライバルにしかならないというコトで、その地位の安泰という意味では尚更なワケです。
 
 そしてこれは「ポスト安倍」を狙う人達にとっても、やられたと思っているだろう人事ですよね。
 ライバルが増えるコトを望む人なんていません。
 まして、もう終わったモノと思われていた谷垣さんがここにきてこれですから、石破さんなんかは、かなり様々な意味でびっくりしたのではないかと思われます。
 党内的にも「タカ派安倍」を敬遠して石破さんを支持していたという面々も少なくなく、しかしそういう視点で見るなら石破さんよりも谷垣さんの方が支持しやすい人もいるでしょうから、ますますライバルの多様化は石破さんにとっては不利になってしまうのです。
 また同じくポスト安倍として名前が最近よく挙がる当初幹事長かと言われていた岸田さんにとっても、谷垣グループとは元々同じ宏池会だったコトもあり、確執があった上の世代が落ち着けば再々合流も視野に入れていたと思われるだけに、この谷垣さんの「復活」はその障害にしかならず、つまり安倍さんのかなり強い牽制球が投げらけたと見るコトができます。
 なかなか安倍さんにとって練られた人事だと言えるのです。
 
 さてでは谷垣さんはどうなのかを考えてみます。
 谷垣さんは頭がいいというのは周知の事実で、経済財政通としては永田町随一というのも誰も否定しない事実でしょう。
 ただやえは、党内をまとめる手腕としてはどうなのでしょうかと、多少疑問符をつけさせていただきたいのです。
 結局ですね、野党総裁の時は総裁として3年間やってこられたのは事実なのですが、それはあくまで野党だからっていう部分は否めないんですね。
 野党だと他の議員も、不満はあるけど野党なのに内紛しても誰も得しないという意識があったので少々のコトなら我慢せざるを得ず、そういう意味で谷垣さんでもまとめられたという見方が出来ます。
 逆に言えば、もし党内で「谷垣さんだからこそ与党に戻れた」と多くの議員が納得していたのであれば、前の総裁選であんなコトにはならなかったでしょう。
 いまネットやマスコミ上ではあれを石原さんのせいにしている雰囲気になっていますが、しかし別に総裁と幹事長はどちらかしか総裁選に出られないなんて規定はないワケで、もし自民党内が谷垣支持で広がっていれば、石原さんが出ようが出まいが谷垣さんが総裁選挙で勝っていたコトでしょう。
 つまり安倍さんや石破さんも含め、「野党だから我慢していたけど、党の総裁としては谷垣さんではダメだった」というのが、党内での一定の評価だったと見るのが適当ではないかと思われるワケです。
 こういう中での幹事長ですから、果たして谷垣さんはどうなのか、頭はいいのは誰しもが認めるところですが、根回しや睨みという点で党内をまとめきれるのか、ここが今後注目となっていくでしょう。
 
 
●総務会長 二階俊博(志帥会(二階派))
 次に総務会長の二階さんですが、自民党に数少なくってきた「昔の政治家像の政治家」さんです。
 久しぶりに自民党の総務会長らしい総務会長とも言えるでしょう。
 
 自民党の総務会長とは、党の最高意思決定機関である「総務会」の会長であり、その場を取り仕切る役目です。
 しかし総務会まで上がってくる案件は、すでに下部セクションで議論され尽くしてきた案件であるために、総務会だけで何かが変わってしまうコトはほぼなく、よって総務会長もお飾り的な面が否めない役職でもあります。
 その中においての二階さんです。
 二階さんは一時期新進党に所属し、また自ら保守党を率いたコトもある、経験という面では今の永田町随一ですから、その老獪な手腕で実権を握っていく可能性はあります。
 逆に言えば、その権限を使えば総務会長というのはそれができる役職でもあるワケですからね。
 
 また二階さんと言えば、自民党内の選挙関連に強い影響力を持っている人でもあります。
 これまでの選挙対策委員長であった河村さんとも同じ派閥というコトもあり連絡を密に取っていた、むしろ影の委員長とすら噂されていた人ですから、総務会長になってますますこの面に関する影響力は増すのではないでしょうか。
 この辺も含めて、ちょっといままでの名誉職的な意味合いの強かった最近の総務会長と違い、今後どう二階総務会長が影響力を発揮していくのか注目でしょう。
 
 
●政調会長 稲田朋美(清和会(町村派))
 政調会長に稲田朋美さんです。
 当選3期で政調会長に抜擢なのはかなり異例となります。
 政調会長って実はけっこう実権があって、政党の最も重要な政策の意思決定機関の長ですから、極端なコト言えば、政調会長が気に入らない政策であればそれを握りつぶす権力を政調会長は持っていると言えるのです。
 そういう中において、まだまだ政治経験が十分とは言えない稲田さんで大丈夫なのでしょうかと、多少心配な面は否めません。
 
 これを逆に言えば、安倍さんにとって党の方の政策を自分がコントロールするっていう意思表示なのかもしれません。
 またもともと安倍さんと稲田さんは近しい間柄と言われているコトもありますから、その面でもそういう狙いがあるのかもしれません。
 もし政調会長に安倍さんと違う考え方の人がなってしまうと、いくら総裁と言えども政調会長の権限に手を出すのは憚れるワケで、安倍さんも苦労する面が出てくる可能性はあります。
 そういう中で安倍さんが、政策面では最もポイントとなる政調会長に、経験不足という面も含めてコントロールしやすい稲田さんを据えたのではないかと思われます。
 
 
●選挙対策委員長 茂木敏充(平成研究会(額賀派))
 最後に選挙対策委員長に茂木敏充さんです。
 やえ的にはちょっとびっくりです。
 というのも、選挙というのは裏表色々あるモノであり、そのためにはそれこそ経験がモノを言う分野ですから、もっと「寝技」が出来る長老系の人が就く、もしくは河村さん留任かと思っていました。
 そこに、安倍さん世代の茂木さんが据えられたというのは、かなり意外だったのです。
 
 ちょっと安倍さんの意図がやえには読み切れません。
 二階さんのところで言いましたように、自民党の選挙関係には二階さんが深く食い込んでおり、総務会長という肩書きも得たコトから、茂木さんとしても二階さんを無視して選挙対策を進めるコトは難しいと思われます。
 また前の委員長の河村さんも、確か自民党が野党になった直後から選対委員長の前身である選挙対策局長をずっとつとめており、河村さんの影響力も大きいと思われるコトから、茂木さんとしては一人だけで何でも決められる状況ではないのではないでしょうか。
 
 もしかしてこれ安倍さんの茂木さんに対する「修行しろ」という愛の鞭なのでしょうか。
 多少茂木さんは人使いが荒いと言われている面もありますので、その辺も含めて老練な二階・河村さんのもとで、しっかりと下積みをしろというコトなのかもしれません。
 また政党にとっての選挙とは最重要課題であるのは間違いなく、ここを仕切るコトは後々の自分のためにもなりますから、そういう意味も含めての試練なのかもしれません。
 この辺谷垣さんのところで言ったように、ポスト安倍は多ければ多いほど安倍さんにとっては有利ですから、茂木さんにもその部分で担ってもらおうという安倍さんの意図ですね。
 そしてそれは、選挙の部分をいつまでも上の世代に握らせておくものかという世代交代論的な側面もあるのかもしれません。
 
 
 長くなりましたが、今日のところは党役員の紹介で終わりたいと思います。
 次回何回かに分けて新閣僚の紹介をしますね。
 
 
 (つづく)