一律給付金騒動の真実を探る-後編-
というワケで、今回がシリーズ最終回となります「一律給付金騒動の真実を探る-後編-」です。
今回は主に与党側の自民党岸田政調会長と、公明党石田政調会長の動きを中心にまとめたいと思います。
右も左もイッてよし!
バーチャルネット思想アイドルのやえです。
さて。
この問題、与野党限らずポイントになるのは、3/22のNHK日曜討論でしょう。
当時はそのコトに誰も気づいていなかったとは思いますが、今こうやっておさらいしてみると、時期的にも内容的にも3/22が分水嶺になっていると言えます。
その時の発言をおさらいすると、以下のようになります。
自民「現金給付をはじめ、思い切った対策」 公明「一律にお渡しするのが良い」 国民「給付か減税かは両方が必要」 立憲「広く給付することには否定的な声が多い」 維新「困っている人たちに直ちに現金が回る仕組み」 共産「現金給付は有効ではなかった」
3/22日曜討論
まず野党をおさらいしてみると、 この日は各党の政調会長クラスが出演していましたので、玉木代表の個人としての発言は断定できませんが、しかしこの段階においては少なくとも“立憲民主党という党としては”一律給付を否定しているコトが分かります。
また同時に、維新の会も一律を否定し、共産党などは現金自体を否定しています。
いま野党はこぞって3月の早い段階から現金一律を主張していたかのように言っていますが、それらは少なくとも、党としては全てウソだというコトがこれで分かるワケです。
一方与党の両政調会長は、現金と一律を主張しています。
3/22におけるNHKの日曜討論という極めて公共性の高い場でのこの発言は、給付金問題のひとつ大きなポイントだと言うべきでしょう。
それではこれを踏まえて、それぞれお二人の動きを調べてみます。
まず公明党石田政調会長ですが、公明党のサイトを調べても、この日より以前に「一律」と明言している記録はありませんでした。
また、この日曜討論のつい先日の3/19に開かれた会合の記事がありましたが
子育て家庭に給付金を 国内農産品 需要喚起へクーポン発行も 党合同会議、各種団体から声聞く
https://www.komei.or.jp/komeinews/p59230/
タイトル通り、各種団体から支援策の要望を聞いているワケで、逆に言えばこの段階ではまだ給付については党として決定していなかったコトが分かります。
さらにここでは給付金の要望の他、タイトルにもありますようにクーポン券の要望も聞いていますから、3/19までの段階では現金っていうコトすら決まっていなかったと考えられます。
ただし、この日のさらに前日の3/18の石田政調会長の記者会見では
ばらまきといわれようと、明るい希望が持てる政策は必要だ。思い切ってやる必要がある
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200319/mca2003190558008-n1.htm
と発言されており、この段階では現金給付、そして「ばらまき」という単語から一律が念頭に大きくあったのではないかと推察はできます。
おそらく石田政調会長の頭の中には一律現金給付がありつつも、様々なところから意見を聞いた上で、自民党への動きも注視していたというところでしょう。
それが3月中旬の公明党と石田政調会長の動きだと思われます。
続きまして、自民党岸田政調会長です。
NHKのまとめ記事を引用します。
世帯を絞った30万円の給付を発表した岸田自身も、そもそもはNHKの番組で、「国民生活を守るため、1人ひとりにしっかりと届く、手元に残る対策を講じなければいけない」と述べるなど、現金の一律給付を主張していた。 岸田や自民党が何よりも重視していたのは給付のスピード感だった。 限定給付を行うには所得制限などが必要で、線引きなど制度設計に時間がかかるため、一律で一気に配る方が早く家計を支援できるという考えだった。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/34154.html
分水嶺となっている3/22の日曜討論では「国民生活を守るため、1人ひとりにしっかりと届く、手元に残る対策を講じなければいけない」と発言していたコトが分かります。
この発言かなり重要で、「1人ひとり」とは一律を指し示す言葉と捉えるべきですし、「手元に残る対策」とは現金を指し示す言葉と捉えられるでしょう。
例えば玉木代表の初期の発言はあくまで「ひとり10万円」という発言で、決して「1人ひとり」ではなく、これは以前にも指摘しましたように、「ひとり10万円」では一律でなく限定の意味だとしても、額だけを指し示す言葉として「ひとり10万円(ただし低所得者に限る)」という表現が可能ですから、やはり「ひとり10万円」と「1人ひとり」では大きく内容が異なります。
また「手元に残る対策」も、これは岸田政調会長の自論の「手元流動性」からきている発言だと思われ、「現金一律」への強い意志を感じられます。
こちらの記事をご覧ください。
岸田政調会長は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、現金給付のような思い切った対策も考えなければならないと発言。その上で、「手元の流動性を残すという観点から、税や社会保険料の納付などについても様々な取り組みを考えなければならない」と指摘した。 思い切った対策必要、来週月曜にも取りまとめ=岸田自民政調会長
https://jp.reuters.com/article/japan-kishida-idJPKBN21A162
日曜討論翌日の3/23の記事です。
手元流動性を簡単に言えば、すぐ自分の意志で何にでも使えるお金のコトhttps://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12265.htmlを言います。
つまり岸田政調会長はこの段階の支援策としては始めから景気刺激策を考えているのではなく、まずは生活支援を考えていたコトが分かり、そしてそれは極めて何にでも使えるよう、例えとしても税や社会保険料を出しているように、これは確実に現金を念頭に置いていたのであろうコトが分かるワケです。
また岸田政調会長が現金一律を示唆している発言は他にもあります。
3/16の岸田政調会長の記者会見を伝える記事です。
岸田氏はこれに先立つ16日の記者会見で、政府が昨年末に決めた事業規模約26兆円の経済対策に比べ「はるかに超える規模が求められている」と強調した。「支援が直接、国民の手に届く施策が求められている」とも語り、全ての国民への直接の支援策として現金給付を示唆した。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200319/mca2003190558008-n1.htm
この記事が出されたのが「2020.3.19 05:58」となっており、3月半ばに出された、当時の雰囲気をまだかなり残している記事と言えるワケですが、当時出された記事として「全ての国民への直接の支援策として現金給付を示唆した」と記されているんですね。
前後の文章も読みたくて記者会見録を探したのですが岸田政調会長の記者会見録が見つけられませんでしたので、全体としてどのような言い方をされたのかは分かりませんでしたが、少なくとも3/16の段階で「現金一律」とマスコミには伝わるように岸田政調会長は会見において発言をされているワケです。
かなり早いですよね。
そして、さらに早い発言も記録されています。
以前に何度か紹介しました、東洋経済の記事です(無料の会員登録すれば全文読めます)。
リーマンショック後に組んだ補正と同じ発想で、個人に直接お金を投入するというようなことも考えなければならないと思っている。 ただ、時代は随分変化した。仮にクーポン券や商品券となると、準備に時間がかかったり、莫大な予算がかかったりしてしまう。 商品券をこれから印刷したとしても、4月、5月までに間に合うか?ということもあり、そういったことも考えないといけない。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23210
「リーマンショック後に組んだ補正」とは麻生総理の時に行われた現金給付のコトですが、この時には一律現金で行われました。
よって「同じ発想で」とは、それを想定した発言だと思われます。
さらに被せるように商品券では時間がかかるというコトもおっしゃっており、この記事のインタビュー日は3/12、やはり相当早い段階で岸田政調会長の念頭には「一律現金」があったのだと思われます。
以上のコトから、岸田政調会長と石田政調会長の動きを合わせて見てみると、両政調会長が連携もしくは連動していたのではないかと見るコトができます。
特に麻生財務大臣と二階幹事長が揃って現金一律に反対の立場をとっていましたので、岸田政調会長としては公明党と連携して現金一律の方向を固めようとしてた、もしくは現金一律にしたかった公明党としては同じ考えの岸田政調会長と共鳴するコトでそれを達成しようとしたのではないかと考えられるワケです。
時系列に並べるとこうなります。
◆3/12
岸田政調会長が東洋経済インタビューで「一律現金」を示唆(ただし掲載はもう少し後日と思われる)。
◆3/16
岸田政調会長が記者会見で「一律現金」を示唆。
◆3/18
呼応するかのように石田政調会長が会見で「ばらまきといわれようと」発言。
岸田政調会長からのパスを受け取ったと見るべきか。
◆3/22
日曜討論で岸田・石田政調会長が揃って一律を明言&示唆。
18~22日の間で政調会長間の調整があった可能性。
◆17・18・26日
安倍総理と岸田政調会長が断続的に会談。
以上のコトから「政府と与党政調会長ライン」で調整で行われていた可能性。
そしてこの後は広く報道されているところですね。
◆4/3
安部・岸田間で30万限定案が合意。
これについては当初は公明党も容認で、自公間の正式な会議の場で合意がなされた上で
◆4/7
政府が予算案閣議決定。
◆4/14
二階幹事長の突然の一律10万発言。
◆4/16
山口代表が安倍総理に詰め寄り、予算案の組換えが決定。
流れは以上となります。
まとめに入りますが、与野党それぞれの立場で考えますと、まず野党は政策決定に関与していないコトが明白です。
その上で政府与党内では、現金反対派の麻生財務大臣と二階幹事長、現金派の岸田・石田政調会長という対立軸があったワケで、その中で政調会長ライン主導でこの問題が動いていたコトが分かります。
これは今までの安倍政権下ではあまり見られない現象だと言えるでしょう。
今まであれば、財務大臣と幹事長が揃って現金に反対していたら、普通ならそれが通りそうなモノですよね。
その中で岸田政調会長が主導していたというのは、例え結果がひっくり返されたとは言えども、これまでは誰も麻生・二階には逆らえなかったコトを考えれば、大きな変化だったと言えるでしょう。
むしろこれは、現金給付という政策は岸田政調会長がいなければ実現しなかった可能性もあったと言えるハズです。
もし岸田政調会長が存在しなかったら、いまごろ「商品券はいつ配布されるのか」みたいな話題に世間はなっていたかもしれません。
繰り返しますが、安倍政権下で麻生財務大臣と二階幹事長を向こうに回して別の政策を決定させたというのは、今まで聞いたコトがありません。
逆に言えば安倍総理としては、麻生財務大臣と二階幹事長からある程度距離を取っている岸田政調会長を使い、現金給付を実現しようとしたのかもしれません。
同時に公明党にしても、最後10万円にひっくり返しはしましたが、これも現金というのが決まっていたから出来ていたコトであり、もし自民党案の初手が商品券であったのであれば、さすがに「一律10万円」は不可能だったコトでしょう。
最後のまとめです。
幹部クラスの政治家の発言をまとめますと
・商品券を否定し現金のみを最初に主張したのは岸田政調会長
・「一律」という言葉を最初に使ったのは石田政調会長
・「一律現金」構想を最初に示唆したのは岸田政調会長
・「一律現金」という言葉を最初に使ったのは玉木代表
というコトになろうかと思います。
以上で、給付金に関する様々な動きについての考察となります。
かなり丁寧に調べたつもりですし、全てソース付ですから間違いはないと思いますが、もし別の事実があったなどありましたら、ぜひ教えてください。
では次の機会に、この給付金そのものに対するやえの評価について書いていければなと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
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