総理がいわゆる「A級戦犯」を「犯罪人」として扱う行為は総理の職責としてあり得ない

2012年4月15日

 総理大臣って、その地位や権限ってどこにあるのでしょうか。
 簡単に言えば、なぜ総理大臣は総理大臣として様々な決定や命令が出来るのかというコトです。
 
 答えは簡単です。
 法律によってそう定められているからです。
 
 例えば総理大臣には衆議院を解散させる権限を有しており、他の大臣や野党の党首にはそのような権限は無いワケですが、それはなぜかと言いますと、法律というか、この場合は憲法ですね、憲法にそう書いてあるからです。
 総理大臣だから衆議院を解散させられるのではなく、憲法でそう定められているから、決定を下すコトができるのです。
 
 ですから、逆に言えば、参議院は解散させるコトは出来ません。
 法律に書いてないからです。
 
 総理大臣はなんでも出来るワケではありません。
 法律に書いてある権限を法律によって総理大臣に与えられているだけで、総理大臣は法律に縛られる存在なのです。
 
 総理大臣は日本の憲法や法律や政令などいわゆる法令、そして国会決議など、様々な「法的根拠」があって存在し得るモノであり、決してそれを逸脱するコトは出来ません。
 なぜ行政や総理大臣ではなく、国会が「国権の最高機関」と謳われているかと言えば、それは全てを縛るルールを作るコトができる唯一の機関だからです。
 現在総理大臣には任期というモノは定められておらず法的には任期は存在しませんが、これを国会の決定による法律によって任期を定めれば、いくら総理大臣と言えどもそれに逆らうコトは出来なくなります。
 総理大臣の決定と立法府である国会の決定とでは、必ず国会の決定が優先させられるのです。
 だからこそ国会こそが「国権の最高機関」なのです。
 
 これが日本の政治の大前提です。
 他国では別の場合がある、中国なんかは憲法よりも共産党の方が上にあると憲法に定められているのでまた違うのですが、日本では何より憲法が全ての上位であって、そのもとに法律があって、行政府も総理大臣もそれに必ず縛られるというのが政治の大原則なのです。
 
 しかし、それなのに総理の靖国神社参拝問題だけは、これを無視するという、本来あってはならないコトが起きています。
 現在、日本の法律下においてはいわゆる「戦争犯罪人」という人間は存在しません。
 これは生きているかどうかという問題ではなく、そのような存在自体が存在していないという意味です。
 よく聞くA級戦犯という言葉がありますが、これは東京裁判と呼ばれるモノによって生まれた概念ですけど、少なくとも日本国内の法律が及ぶ範囲においては、その裁判は認めていますが、その上で戦犯は戦犯でないという決定が国会によって決定されているのです。
 

 2 昭和二十七年五月一日、木村篤太郎法務総裁から戦犯の国内法上の解釈について変更が通達された。これによって戦犯拘禁中の死者はすべて「公務死」として、戦犯逮捕者は「抑留又は逮捕された者」として取り扱われることとなった。さらに「戦傷病者戦没者遺族等援護法」の一部が改正され、戦犯としての拘留逮捕者を「被拘禁者」として扱い、当該拘禁中に死亡した場合はその遺族に扶助料を支給することとなった。これら解釈の変更ならびに法律改正は、国内法上は「戦犯」は存在しないと政府も国会も認識したからであると解釈できるが、現在の政府の見解はどうか。

 
 これは、平成17年に、当時野党だった民主党の野田佳彦議員が提出した政府に対する質問主意書の一部です。
 現在の総理大臣ですね。
 現在の総理が、A級戦犯は「国内法上は「戦犯」は存在しないと政府も国会も認識したからであると解釈できる」と言っているのです。
 そして、この質問に対する当時の政府、平成17年ですから小泉純一郎内閣の時ですね、その回答はこうなっています
 

 一の2について
 平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関する法律(昭和二十七年法律第百三号)に基づき、平和条約第十一条による極東国際軍事裁判所及びその他の連合国戦争犯罪法廷が刑を科した者について、その刑の執行が巣鴨刑務所において行われるとともに、当該刑を科せられた者に対する赦免、刑の軽減及び仮出所が行われていた事実はあるが、その刑は、我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない。

 
 核心に触れる答弁にはなっていないのが残念なのですが、面白いのが、靖国神社に参拝している小泉総理があやふやな答弁をして、靖国神社に参拝しない野田総理が「国内法上は「戦犯」は存在しない」と言っているコトです。
 結局この小泉内閣の答弁というのは、東京裁判という存在に対する赦免や減刑について触れているだけで、それとはまた別の概念である国内法においてその効力が及ぶ範囲においては戦争犯罪人は存在しないコトにするという国会の決定について問いただした野田議員の質問には答えていないんですね。
 ちょっと両者質問と答弁の概念上のズレが出てしまっています。
 
 まぁそれはともかくとしましても、つまりですね、これは野田総理が言っていますように、国内法の効力が及ぶ範囲内においては、戦争犯罪人というモノは存在しないコトになっています。
 つまり、日本の法律に縛られない人からすれば、東京裁判によって認定された各戦犯は、戦犯という認識で間違いではありません。
 よって中国とかの公人が東京裁判を理由に戦犯が祭られている靖国神社の参拝を拒否するというのは理屈としては通っていると言えるのですが、しかし、日本の総理大臣は違います。
 最初に言いましたように、日本の総理大臣は日本の法律に縛られる存在です。
 総理大臣の個人的な考えや、仮に総理大臣としての決定だったとしても、立法府である国会の決定を超えるコトはあり得ません。
 あってはならないコトです。
 つまり、日本の総理大臣であれば、この法律に基づいて「A級戦犯は日本国内には存在しない」と言わなければならない、そう言う義務があると言えるハズなのです。
 なぜそう言わないのでしょうか。
 
 日本の総理大臣が「A級戦犯」という、日本の法律下においては存在しないコトになっているモノを根拠とする行為は、行ってはならないのです。
 それは「国権の最高機関」たる国会の決定を無視する、越権行為にもほどがある、違法行為とすら言ってもいい暴挙なのです。
 総理がいわゆる「A級戦犯」を「犯罪人」として扱う行為は総理の職責としてあり得ないのです。
 
 この問題が俎上に上がるたびに、総理大臣も各大臣も国会議員も、立法府である国会の決定を無視する人が続出するという異常事態が発生しています。
 国会議員も国民も、このあってはならない事態が起きているというコトをシッカリと認識してもらいたいと思います。
 これは戦争に対する評価云々とか歴史認識云々のお話ではないのです。
 極めて法的な問題、日本国のシステムの根幹に関わる問題なのです。