同調圧力に屈せず冷静に科学的な議論を (下)

2012年4月15日

 (つづき)
 
 もう1つ例を挙げます。
 先程日本の自然放射線量と世界平均の自然放射線量は違うというお話をしました。
 日本では1.48ミリシーベルトですが、世界平均は2.4ミリというほぼ倍の数値です。
 つまり自然放射線量は地域によって違うというコトになるワケですが、となれば平均値よりも高い地域も当然あるというコトになりますよね。
 でなければ「平均」という言葉は出てきませんし、日本と世界の差も生まれません。
 
 こちらをご覧下さい
 これちょっと注意なんですが、この表の単位は「(mGy/年)」となっていまして、シーベルトではないので数値の比較はちょっと出来ないのですけど、この表の中だけは単位は揃っていますから、その差だけを考えてみてください。
 イランのラムサールという地域の自然放射線量は、世界平均のなんと20倍です。
 すごいですね。
 しかし、となれば日本を基準にすればもっと高くなるワケで、ますますこれはすごいですよね。
 ブラジルのガラパリでさえ10倍ですし、日本平均から見ると、香港を比べても5~6割増しぐらいなワケです。
 シーベルトで換算して考えみれば、日本の平均は1.48ミリシーベルト/年でしたから、その5割増だとしても、香港ですら2.22ミリシーベルト/年です。
 香港に行けば、それだけで日本よりもこんなにも高い放射線を浴びてしまうコトになるワケなんですね。
 
 こちらの公益財団法人体質研究会っていうサイトには次のような記述があります。
 

 3. 高自然放射線地域における疫学研究 
 放射線の影響はわずかな量であっても悪いと信じる人の数は多いのですが、このような高自然放射線地域には多くの人びとが何世代にもわたって暮らしています。放射線は微量でも健康に影響があるのなら、このようなところに住んでいる人の健康に異常は生じていないのでしょうか?高自然放射線地域の人々にがんを発症あるいは死亡する割合が高く現れているのだろうか。その疑問に答えるため、このような地域の自然放射線の量と健康状態を調べる大規模な調査研究が行われています。
 中国衛生部工業衛生実験所(現 National Institute for Radiological Protection)のWei Luxin博士を中心とした中国の研究グループは1972年以降、放射線レベルの測定のみならず、住民への健康影響も調査し、その結果をまとめ1980年にサイエンス誌に発表し、世界的の注目を受けるところとなりました。彼等の調査によると、がん死亡は増加しておらず、むしろ対照地域に比べ少し低いということです。遺伝病の増加は見られませんでしたが、ダウン症は例外で、高自然放射線地域で高値でした。しかし、高自然放射線地域と対照地域で母親の出産時年齢に違いがあるなどの方法論的な問題点が指摘され、その後の調査ではこれらの問題点を考慮した検討が行われましたが、ダウン症の増加は確認されませんでした。1980年代には米国がん研究所との中・米共同研究が行われ、女性の甲状腺結節の有病率などが検討されましたが、増加は認められませんでした(Wangら JNCI 1990年)。

 
 いろいろ書いてますが、健康被害は疫学上見あたりませんでしたという内容です。
 まぁ常識的に考えれば、その地域の人たちだけ異様に平均寿命が短かったり、遺伝的な疾患が特に多く見られたりしていれば、原発事故以前からもっとそのコトは広く知られていたコトでしょう。
 そもそも広島原爆にしても、被爆者の子供であるいわゆる被爆二世に対してでも今のところ一切の特別な影響は出ていないと日米共同機関放射線影響研究所研究結果が出ています(PDFファイル)(記事ベース)から、高自然放射線地域でも納得できる結果なのではないでしょうか。
 
 さてこれをどう考えるべきなのでしょうか。
 繰り返しますが、やえは専門家でも科学者でも学者でもないですから、断言は出来ません。
 しません。
 ただ、ちょっとネットを調べるだけでこれだけの事実が出てくるワケですから、そんなやえでも問題提起は出来るワケです。
 
 ちょっと考えてみてください。
 本来は、学者や行政がですね、こういうコトも調べた上でキチッと説明をすべきなのではないでしょうか。
 特にですね、「万が一事故が起きた時に処理しきれない」というコトを考えるのであれば、まずは科学的検証がなければ、処理できるのか、それとも処理しきれなくなってしまうのかというのは分からないハズなのですから、まずは科学的検証が必要ですよね。
 だからこの問題はもっとキチンと考えるべきのハズです。
 世界にはもっともっと高放射線を日常的に浴びている人がいて、その人達の健康には全く影響が出ていないという事実があるのですから、ここをキチッと精査して、この非常事態の線引きの基準を考えなければならないのではないでしょうか。
 感情論はともかくとしても、ここの科学的な線引きを考えておくというのは大切なコトだと思います。
 
 いま一番の問題はですね、こういうコトが堂々と言えない空気に日本がなってしまっているコトです。
 放射能問題で今回やえが言ったようなコトを言うと、すぐに「御用学者だ」とか「太鼓持ちだ」とか「可能性はゼロと言いきれるのか」とか「子持ちのお母さんの気持ちを考えたコトがあるのか」とか、そういうレッテルとか感情論だけの、論拠のない言葉だけで意見が封じ込まれてしまいます。
 特に選挙のある政治家なんて、感情論と言えども一票は一票ですから、ますます「感情論の数」に負けてしまいます。
 学者も、「ママの感情論」なんていう、もしかしたらこの世の中で一番怖いモノには、やっぱり触れないでおこうとか思ってしまうのでしょう。
 好き好んでやぶに手を突っ込もうという人もいないでしょう。
 これこそ「同調圧力」ですよね。
 いま何を言っても、仮に科学的見地に冷静に立っての意見だったとしても、それはあっさりと叩きつぶされてしまい、下手をすれば自分の立場まで危うく成りかねないという雰囲気を醸し出しているのがいまの日本ですよね。
 まさに同調圧力です。
 こんなの、このまま許してもいいのでしょうか。
 
 今回やえの文章を読んでいただいた方に聞きたいですが、これを読めば、科学的な検証は必要だと思いませんか?
 感情論ではなく、キチッとした科学的根拠に基づく線引きが必要だと思いませんか?
 今回のやえが出したデータが全て正しいとは断言しません。
 何度も言いますように、やえにはそんなコトを断言する資格はないからです。
 でも1つだけ言わせて貰いますと、おそらく日本国内の年間自然放射線量は正しいデータだと思いますから、それと比べてより少ない数字を持ち出して土の入れ替え作業をしなければならないとするのは、ちょっと考え直すべきモノではないかと思います。
 さらに言えば、放射性物質は時間と共に飛んでいったり拡散して時間と共に減っていきますからね、現状で影響がなければ、あとはほっとけば自然と以前の状態に戻るだけのお話です。
 広島もいまはもう放射線量は他の地域と変わらないレベルに戻っています。
 ですからそういう事実、まぁこれもやえは科学者でないですから断言はできないのですが、事実としてある以上は、それを検証して科学的に分析した上で結論を出せば、果たしていま急いでお金をかけてまで土の入れ替え作業をするのが妥当かどうかが見えてくるのではないでしょうか。
 
 いま一番の問題は同調圧力です。
 いまはこういうコトを言うだけで、論拠のない誹謗が投げかけられてしまいます。
 それは本来許してはならないハズです。
 本来は科学的見地で検証した上で、政治的な判断や結論を出すべきです。
 政治判断に感情論は一切含めるなとは言いませんが、その前に科学的な検証は絶対に必要なハズです。
 科学者には、感情論など一切関係なく科学的に検証して意見を言う権利がある、いえ義務があると言えるでしょう。
 いまそれが正しく行われているかどうかという点で、やえは非常に疑問に思わざるを得ないのです。
 
 積み重ねなんですよ。
 「万が一事故が起きた時に処理しきれないから原発反対」とひとこと言っても、どの程度の規模なら処理しきれなくなるのか、そういう検証は必要ですよね。
 「事故が起きました、即処理しきれなくなります」、とはならないです。
 事故の規模にもよりますし、これは何度も言ってますが、今回の東日本大震災でも福島原発以上に揺れたと言われる女川原発は無事だったワケですから、やりようはあったハズです。
 もちろん今後あの時以上の地震が起こる可能性はありますから、さらなる対策とか、それによって女川原発だって事故してしまう事態に陥るコトも想定していかなければならない、それを否定するつもりは全くないワケです。
 むしろそれも含めて1つ1つの具体的な検証が必要なのです。
 事故が起きた大変だわーだけだと、むしろなにもならないじゃないですか。
 「地震が起きました→事故が起きました→北斗の拳の世界になりました」では、あまりにもお粗末だと思いませんか。
 今回のコトだって、こうやって1つ1つ具体的に考えて積み上げていくコトこそが、次に繋がる結果になるハズなのです。
 
 まずは立ち止まって、冷静に考えてみてください。
 世の中には1つの視点だけではなく、様々な視点で見るべき問題はたくさんあるのですから。