現実的な核兵器運用 (上)

2014年4月24日

 日本は核兵器を持つべきだ、と言う人は、だいたい次の2点を理由に挙げるように思います。
 
・核兵器を撃ち込まれた場合に、キチンとその報復が出来ると見せつけ、撃たせないようにする(核抑止力論)
・アメリカが本当に日本に変わって核を撃つかどうか分からないから(核の傘論)

 
 でもですね、やえはこの2つの点に関しても、理論ではなく極めて現実的に考えれば、日本が核を持たなくても心配する必要はないのではないかと思うのです。
 
 まずですね、極めて現実的に考えた場合、まずはそもそも「抑止力」とは何かという部分を考える必要が出てきます。
 特に核抑止力の場合「撃たれたら撃ち返す」なんてハムラビ法典ような、ごくごく単純な一言で済まされてしまうコトがほとんどなのですが、しかしこれはもうちょっと現実的に考える必要があるんですね。
 というのも、前回までの更新で「核兵器は単なる規模の大きな爆弾ではない」というコトを書きましたが、しかしこと戦争の戦術的な面だけで言えば、実は核兵器は単なる規模の大きな爆弾でしかないからです。
 あくまで核兵器の戦術的な意味は、一発で広範囲に致命的な打撃を与えられるという、いわば「お手軽さ」がウリなのであって、決して非戦闘員を戦争終了後まで苦しめるのが目的なワケではありません。
 放射能はあくまで副作用なんですね。
 もちろんその副作用があるから心理的な圧迫感はプラスされているとは言えますが、しかし例えば放射能のない単なる大規模な原爆並みの爆発力のある爆弾と、通常の核兵器とを対比されたら、これは十分にお互いの抑止力となるでしょう。
 あくまで「一発だけで都市が壊滅する」という面こそが戦争の中の戦術における核兵器の核兵器たる所以であり、もっと言い換えれば「一発でもあたれば敵政府や司令部を終わらせるコトが出来る」という面こそに核兵器の「価値」があるのです。
 「一発あたってしまえば戦争に勝てる可能性が高い」からこそ核兵器は最終兵器として認知されているのです。
 決して、放射能を出すから核兵器に価値がある、ワケではないのです。
 
 それを踏まえた上で考えるべきコトは、「戦争とはあくまで政府や軍司令部が行っている」という面なんですね。
 ここ重要です。
 というのも、核兵器が撃ち込まれたら必ず核兵器で報復しなければならないと思っている人が多いのですが、実はこの「戦争とは政府が行っているモノ」という現実的大前提をキチンと見据えれば、必ずしも核攻撃に対する報復は核兵器でなくても良いコトが分かります。
 
 例えば、北朝鮮にとって最もおそれるべき事柄とはいったいどういう状況だと思いますか?
 戦争で負けるコト?
 国民が放射能で苦しむコト?
 どちらも違います。
 正解は、「キム・ジョンウン体制が崩壊するコト」です。
 むしろいまの北朝鮮はそのために全てをかけている、いえ、そのためだけに存在しているとすら言えるでしょう。
 つまり北朝鮮にとって、「結果としての金王朝の崩壊」は全てに優先されるゲームオーバーであり、いまの北朝鮮にとっては金王朝滅亡後の国家や国民なんてどうでもいいのです。
 そんな北朝鮮が核を他国に撃つときはどういう意図でなのかは分かりませんが、しかしその結果、少なくともキム・ジョンウン体制、もっと言えば「金王朝」が崩壊すれば、さしあたり核兵器攻撃はやみますし、戦争状態もとりあえずは終わりでしょう。
 金王朝が崩壊して次の体制がどうなるかによって今後の緊張関係は変わってきますが、少なくとも、いまの北朝鮮で最もおそれるべきコトは金王朝の崩壊ですし、戦争や核攻撃になったとしても金王朝本体が崩れればそれで終わりなのです。
 
 と考えた場合、果たしてその方法とは本当に核兵器だけしかないのでしょうか、という疑問が持ち上がります。
 そしてその答えとは、そんなコトはありません、という答えでしょう。
 金王朝を崩壊させるには、おそらくアメリカぐらいであれば通常兵器で十分のハズです。
 現在の日本には空爆能力など敵本土を叩く能力がないので難しいと思いますが、仮に憲法九条が改正されて他国並みになれば、日本だけでも十分金王朝を崩壊させるだけの武力は持っている状態になろうかと思います。
 もちろん核の方が楽です。
 何を持って楽と言うのかという問題もありますが、一発撃てば終わりという意味では楽でしょう。
 しかし、そうしなくても十分金王朝を崩壊させる力はあるし、一度本土空爆が始まれば北が核兵器を撃つヒマも与えられない、今でも発射の兆候が丸わかりなのですから撃つ前に発射台を破壊されるのがオチでしょうし、むしろ前回にも言いましたように、その後の北朝鮮のコトを考えれば、放射能に汚染されたピョンヤンではなく、焼け野原かもしれないけどすぐに再スタート出来るピョンヤンと国民の方が、日本にとってもアメリカにとっても新しい北朝鮮国家を作り直る上では利益になるのは考えるまでもないコトのハズですよね。
 よくよく考えてみてください。
 北朝鮮こそが顕著な例で、決して戦争したいのは北朝鮮国民なのではなく、金体制の維持こそが目的の人間だけがそれを望んでいるのです。
 つまりもし仮に北朝鮮と戦争になっても、その目的・目標はあくまで「金王朝・政府」であって、北朝鮮国民ではありません。
 ここの現実的な問題を考えてもらいたいです。
 
 抑止力とは何か、という部分を考えた場合、「すぐにでも現体制を崩壊させられる力があるんだぞ」という可能性を見せつけるコトこそが抑止力なのです。
 ですから変なお話、通常兵器が貧弱な北朝鮮にとっては核兵器を持つ意味は大変に大きいのです。
 核兵器一発持つだけでアメリカと、対等とまでは全く言えませんが、ハワイなどの都市をひとつ壊滅させられる力を持つという意味の武力である核兵器を持つコトは、アメリカにとっては脅威となるのですから、ここに抑止力が発生します。
 北朝鮮は通常兵器だけではハワイひとつ落とせないでしょうけど、核兵器だけでそれを可能とするのですから、かなり大きいコトです。
 北朝鮮から見た対米核脅威というのはとても大きいと言えるでしょうし、だからこそ核兵器の価値というモノもあるワケです。
 しかしアメリカ側としては、そこまでではありません。
 少なくとも北朝鮮程度なら普通に通常兵器で金体制ぐらい崩壊させられるのですから、アメリカが通常兵器を持っているだけで北朝鮮に対しては十分抑止力になっているんですね。
 むしろ北朝鮮目線からしたら、核兵器を持っていなくても通常兵器だけで北朝鮮を滅ぼせるぐらいの力を持っているからこそ、北朝鮮は無理してでも核兵器を持とうとしている、それによって少しでもアメリカと肩を並べようとしていると言えるでしょう。
 北朝鮮にとってはアメリカの軍事力=脅威は最初からMAXであり、それ以上を持ってもMAXはMAXのままなんですね。
 「核には核を」というのは、必ずしも正しい理屈ではないのです。
 軍事力での等式は「相手政府を崩壊させられる武力が均衡した時」こそ成り立つのであり、その武力の中身は特に問わないのです。
 
 もっと単純に言えば、キム・ジョンウンの目的は金王朝の存続なワケであり、日本への攻撃や日本の崩壊ではなく、そして当然「日本に核を撃つコト」も目的ではないのであって、よって仮に北朝鮮が核兵器を日本に撃つコトによって、金王朝が崩壊すれば、それは今の北朝鮮が望む結果ではありません。
 ここに「金王朝が崩壊する手段の種類」は全く問いません。
 すなわち、仮に日本に核兵器が着弾したとしても、その結果、金王朝が崩壊すれば北朝鮮の失敗でアリ、この際その崩壊の方法が核兵器によるモノだろうが通常兵器によるモノだろうが関係がないんですね。
 抑止力とは相手が最も避けるべき事態を想定させられるモノであり、それは多くの場合政府の崩壊であり、北朝鮮という国家はそれが一番顕著な国であって、よって「北朝鮮に対する抑止力」で最も大きいモノは「金王朝の崩壊を想定される事態」なんです。
 それは核に限りません。
 核もその一つであるコトは確かですが、通常兵器でもその「価値」は全く等しいのです。
 核にこだわる必要性はひとつもないんですね。
 むしろさっき言いましたように、「その後」のコトを考えれば、核兵器は使わない方がいいでしょう。
 
 これらを考えれば、日本が核兵器を持つ意味はかなり薄いと言えます。
 現実的に考えた場合、日本が核兵器を持とうと思えば、それは確実に自衛権を大きく超えるのですから、憲法九条の改正は絶対条件です。
 だって通常の空爆すら不可能なんですよ、憲法のせいでいまは。
 ですから核保有のためには憲法改正が必要不可欠です。
 しかし憲法九条を変えたら、それは空爆などが出来る状態に日本がなるってコトですから、もうこの段階で北朝鮮に対する抑止力は成立しているんですね。
 そして他国に対しては、これも以前言いましたように、むしろ核兵器廃絶を唱える方が相対的に日本は軍事的優位に立つコトが出来るのですから、その方を採った方がいいでしょう。
 核がなくなれば通常兵器だけの比較になり、それは経済力と技術力に比例するコトになり、完全に日本の得意分野での勝負となるからです。
 これを逆に言えば、核を認めるような世の中にしてしまえば、日本よりはるかに経済力も技術力も低い国でも核兵器一つ持たれるだけで対等に近い軍事的緊張感を強いられるハメになるのですから、日本にとっては不利にしかならないとすら言えるでしょう。
 核兵器がない世の中の方が日本は有利に立てるのです。
 
 では、対大国の場合どうなんだというお話と、核の傘論に対するお話なのですが、ごめんなさい、ちょっと長くなりましたので、次回に続きます。
 
 
(つづく)